【R18】Again and Again

Nuit Blanche

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答えは三人で

契約の証

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「じゃあ、契約の証として実結先輩からキスしてください」
「うん……」
 キスも慣れないが、仕方ない。
 しかし、いざしようとしても、じっと見詰められて躊躇うばかりだ。
「できませんか?」
「お願いだから、目閉じて……」
 そんなに見られては出来るものも出来ないのに、慶は実結を見て楽しんでいるようだ。
「可愛い実結先輩を見ていたいんですけど」
「恥ずかしいからやだ……」
「和真先輩にキスされても嫌ですし」
「俺だって男にキスしたくないけど」
 目を閉じても慶を欺くつもりは実結にはない。和真も困惑しているくらいだ。
「仕方ないですね……」
 そう言って、慶は実結の腰を引き寄せ、目を閉じる。
 そっと触れるだけのキスをその唇に落として離れれば慶が目を開け、妖艶に笑む。
「もっと。濃厚なのがいいです」
「だ、だめ……」
 不満を露わにされて腰を強く抱かれても実結には触れるだけのキスで精一杯だったが、やはり慶は面白がっているのだろう。
「エロいスイッチ入っちゃうから?」
「う……」
 抱き寄せられているだけで冷めたはずの熱がぶり返すのは否めない。卑猥なキスをされてしまえば、また火がついてしまうかもしれない。
「自分からするのが恥ずかしいなら、やっぱり俺からもらいます」
 顔が近付いてきて、まずいと思った時、実結の唇は大きな手で覆われ、舌打ちが聞こえた。
「和真先輩の手にキスするとか嫌なんですけど」
 後ろから回ってきた和真の手がキスを阻むようにしている。すんでのところで慶は止まっていた。
「あー、でも、切り落としたいと思う手にキスをする、って言いますよね?」
「面従腹背か?」
 ニヤリと慶は笑う。何か不穏な空気に挟まれながら、実結は和真の掌の裏で引き攣った笑みを浮かべる。円満に解決したとは言い難い。先送りにしただけで、問題はまだまだこれからなのだろう。

「補給についてはっきりさせておきましょう」
「ルールは必要だな。駄犬が守れるかは別として」
「そのための和真先輩なんでしょう?」
 挑発的な笑みを受けて、背後で和真が笑った気がした。
 実結としては和真がいなければ不利な条件をうっかり飲んでしまう可能性が大いにあった。
「生理以外でも、実結ちゃんが体調悪かったり、どうしても嫌な時は強要しないこと。実結ちゃんの気持ちが最優先だからな。あと、俺の都合が悪くても恨むなよ?」
「わかってます。でも、あんまりお預けされると、次にする時に倍率アップします」
「え……?」
 既に月に一回というのは決まっているが、倍率とは何だろうか。不安を抱きながら慶を見ればニコニコしている。しかし、貯まって嬉しいポイントの倍率が上がるわけでもあるまい。
「和真先輩に散々止められて、やっと二倍に落ち着くぐらいですかね」
「俺がしなくても、お前が二回するわけか?」
「本当は抜かずの三発くらいいきたいところを我慢して二回なので、一回目は早く終わっても次は長くなりますね。実質、三倍くらいかもしれないですね」
 もう意味がわからない。既に恐ろしい契約を結んでしまった気がしている。和真を振り返っても乾いた笑いを零している。
「はは、若いって怖いな……」
「ついていけないです……」
 同性の同級生にさえついていけないと感じる時があるのだから尚更なのかもしれない。
「飢えた獣はやばいんですよ。だから、噛み付かれたくなかったら、餌は適切に与えてください」
 つまり、下手に引き延ばそうとすると大変なことになると言っているのだろう。既に一度噛み付かれた恐怖が刻まれているだけに笑えない。
「まあ、二人っきりの時に少しサービスしてくれれば、その分倍率は下がるので飴と鞭は上手に使い分けてくださいね」
 器用なことが自分にできるはずもない。本当に大丈夫なのかと実結は益々不安になっていく。
「そうそう、俺、半年以上片想いして、その間、ずっと実結先輩をオカズにしてたんです」
「おかず……?」
「実結先輩とセックスするのを思い浮かべながら、自分で慰めるんです。これを」
 慶の手が股間を示したのを見て、実結の頭はフリーズした。男子達がグラビア雑誌を持ち込んで卑猥な話題で盛り上がり、女子達が嫌そうにしていたのを聞いたことはある。だが、まさか色気も何もない自分が知らないところでそういう対象にされていたとは衝撃的だった。
「またお前は実結ちゃんに変なことを……! 大体、お前 はそんなことしなくても食い放題だろ」
「また俺の印象操作が……実際、逆ナンされたり、逆レイプされそうになったこと結構ありますけど、健全な中学生だったんだから仕方ないじゃないですか」
「お前、過去に何があったんだ……」
 和真は呆然と呟く。実結も完全に言葉を失ってしまった。
「知りたかったら、実結先輩には話しますよ。二人っきりの時に」
 いくら慶でもそんな嘘を吐くとは思えない。彼が抱えているトラウマに関することなのだろうが、一人で聞くのは勇気がいることのように感じられた。
「まあ、女運が悪かった俺には実結先輩が天使に見えたんです」
「その天使で抜くって、お前、相当やばい変態に聞こえるぞ……実結ちゃんを見ろ。どん引きだ」
 実際は反応に困っていただけなのだが、訂正する余裕もなかった。慶が抱えている闇は想像以上に深いのかもしれない。
「実結先輩じゃないと勃たなくなったみたいで、俺、不能になったって、結構悩んだんですよ?」
「え……?」
 多感な時期だ。自分が知らないところで、そんな影響を与えているとは思いもしなかった。だからこそ、覚えていないことが申し訳なくなって言葉に困ってしまう。
「真に受けなくて良い。って言うか、もう慶の話を聞くのはやめよう」
「じゃあ、最後に一つ」
 和真の両手が実結の耳を塞ぐが、片手がそっと持ち上げられて耳元に唇が寄せられる。
「基本、他に愛情表現とかできないんで、覚悟してくださいね」
 耳を擽る吐息のせいか、その言葉に込められた意味のせいか、ぞくぞくしたものが実結の背を駆け上がった。
「あ、そうそう、俺も契約のキス、もらってなかった」
 慶から取り上げるように、振り向かされて一瞬見詰め合えば、それが確認だったようにキスが落ちてくる。
 和真も遠慮がなくなったような気もする。嬉しいような、不安になるような、やはり楽しみのような複雑な気持ちで実結はぼんやりとこれからのことを考えた。
 問題は未解決のまま山積みになっている。それでも今は何も考えずに流されていたかった。たとえ、先送りにしたツケが後々回ってきて苦しむことになるとしても。
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