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番外編:過去の亡霊3
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「ごめん、ちょっといじめすぎた」
掴んでいた手が解放され、頭を撫でられて希彩は光希を見上げる。優しい目に戻っている。腕を回して抱き着けば抱き締め返してもらえる。それで安心するはずなのに、まだ足りない。
「不安にさせてごめん。でも、俺だって不安だって言ったでしょ? 俺よりも遼の方が希彩ちゃんのこと知ってるから」
遼とは中学の時からの付き合いで、それに比べれば光希とは知り合ってからそれほど経っていない。その遼ともそれほど長く交際を続けられたわけではない。市川のせいで破綻した。振り返ってみれば、光希とはあっという間に今の関係に至った気もする。それがまた一瞬で壊れてしまうことを恐れているのかもしれなかった。
「いつまで過去に縛られてるの? やっぱり俺じゃ消せない?」
過去は常に付き纏って、どうにもならない。希彩はずっと引きずって生きていかなければならないと諦めていたのに、光希はその重荷から解放しようとしてくれていたのかもしれない。
初めは自分勝手な男だと思っていたのに、今はこんなにも自分のことを思ってくれることが嬉しくて、同時に泣きたくなるのだ。
「ごめん、俺、未だに余裕がなくて格好悪い……」
「そんなことないよ。光希君は格好良いよ」
自分との時間を一秒でも無駄にしたくないと言って、市川の前から連れ去ってくれた彼を王子様のようにさえ感じた。否、本当はいつだって彼を格好良いと思っている。軽薄そうに見えるが、自信も余裕もある彼は希彩にとって憧れですらある。
ありがと、と言いながら光希の声は暗く聞こえた。
「嫉妬なのかな? あんな上辺だけの性悪女が希彩ちゃんの記憶に残ってるとか許せないんだけど」
嫉妬をしたのは希彩も同じだが、市川のことをそんな風に思っているとは意外だった。
だが、希彩が絶対に言えないことを彼が言ってくれるだけでも救われる。それなのに、これ以上を望んでしまっても良いのかわからなくなる。
「未だに希彩ちゃんの心を恐怖で支配できるなんて思わなかった。あの女に向き合えるくらいにならないと希彩ちゃんの隠れ癖は完治したって言えないね」
「無理だよ……」
違う高校に進んだ今でも市川は希彩にとって絶対的な恐怖の象徴だ。それはこれからも変わらないのだと希彩は思っていた。それでも、もう彼女とは滅多に会うこともないだろうと楽観視していた部分もある。
ようやく普通に生きられると思ったのに、彼女を前にしただけで震えが止まらなかった。
「トラウマとか全部消して俺でいっぱいにしたい。俺のことしか考えられないくらい夢中にさせたい」
気持ちは嬉しいのに、そう言われても……と思ってしまう。夢中になって、奪われたトラウマがまだ希彩を臆病にしている。いつかは忘れられるかもしれなかったのに、彼女の登場は早すぎた。
「また盗られるって思った?」
目を合わされて、希彩は正直に頷く。
市川に盗られたくないと思ってしまった。獲物を狙う目に見えたのだ。
「俺はあんな女に攻略できるような男じゃないよ。だって、今は希彩ちゃんにベタ惚れだもん。希彩ちゃんしか見えない。何言われても、希彩ちゃんの言葉しか信じない――大好きだよ」
こつっと額を合わされて、胸の高鳴りが止まらなくなる。いつでもドキドキしている。
盲目的にすら聞こえる真剣な告白に、このまま溶けてしまうのではないかと思うほど顔が、体が熱くなっていく。
「もう一人になるのは嫌。ずっと一緒にいて」
首に手を回して、キスを強請るように見詰めれば、望み通り優しいキスが落とされる。
以前なら、そんなことはできなかった。少しずつ変わっていけていると思っていた。それで良いはずだった。光希といれば強くなれる気がした。
けれど、彼女と対するにはまだ弱すぎる。光希がいるからこそ弱くなるのかもしれない。かつての遼にとっての弱点が希彩だったように、今の希彩にとっての弱点は間違いなく光希だ。
「一人にしない。俺を好きになってくれたこと、後悔させない。不安にさせるつもりもなかった」
そうして光希が見せる笑顔に不安が消えていく気がした。
「あの、光希君……ひゃあっ! なんで、触って……!」
自分の弱さのせいで予定が変わってしまったことを希彩は謝りたかった。それなのに、光希の手は下着の上から秘部に触れる。
「やっぱり湿ってる。中途半端にしちゃったら辛いでしょ? ちゃんとイかせてあげる」
「ちょっ、待って、あっ、だめ……!」
あっと言う間に下着を剥ぎ取られ、くぷっと指先が進入してくる。くちくちと小さな音を立てていたかと思えば、次第に指が増え、奥へと入り込み、希彩が弱い場所を的確に攻めてくる。同時に花芽を擦られれば音は大きくなる一方で、奥からとろりと更なる蜜が分泌された自覚もあった。
すっかり光希は希彩の体を知り尽くしたように、すぐに解され、蕩かされてしまう。
「あ、あ……だめ、イっちゃう……」
高みへと押し上げられて、もうすぐ飛び立てることを希彩は知っている。それがどれほど気持ち良いことかも。
あともう少し。そう思った瞬間、光希の指は止まり、ずるりと抜かれてしまった。
「ん……ぁ……」
イかせてくれるのではなかったのか。少し残念に思いながら見上げれば光希は意地悪く笑い、自らの股間を示す。その窮屈そうな膨らみに気付いて、希彩は目を逸らす。
「俺もこんなんなっちゃったから……出していい?」
希彩は迷わずに小さく頷いていた。指よりも大きな物を体は求めてしまっている。痛いだけだった行為が今はもう気持ちが良いだけの行為になっている。
張り詰めた光希の物が取り出されて避妊具が装着されていく。その様子をそっと窺いながら、希彩はまた期待で奥が疼くのを感じた。
掴んでいた手が解放され、頭を撫でられて希彩は光希を見上げる。優しい目に戻っている。腕を回して抱き着けば抱き締め返してもらえる。それで安心するはずなのに、まだ足りない。
「不安にさせてごめん。でも、俺だって不安だって言ったでしょ? 俺よりも遼の方が希彩ちゃんのこと知ってるから」
遼とは中学の時からの付き合いで、それに比べれば光希とは知り合ってからそれほど経っていない。その遼ともそれほど長く交際を続けられたわけではない。市川のせいで破綻した。振り返ってみれば、光希とはあっという間に今の関係に至った気もする。それがまた一瞬で壊れてしまうことを恐れているのかもしれなかった。
「いつまで過去に縛られてるの? やっぱり俺じゃ消せない?」
過去は常に付き纏って、どうにもならない。希彩はずっと引きずって生きていかなければならないと諦めていたのに、光希はその重荷から解放しようとしてくれていたのかもしれない。
初めは自分勝手な男だと思っていたのに、今はこんなにも自分のことを思ってくれることが嬉しくて、同時に泣きたくなるのだ。
「ごめん、俺、未だに余裕がなくて格好悪い……」
「そんなことないよ。光希君は格好良いよ」
自分との時間を一秒でも無駄にしたくないと言って、市川の前から連れ去ってくれた彼を王子様のようにさえ感じた。否、本当はいつだって彼を格好良いと思っている。軽薄そうに見えるが、自信も余裕もある彼は希彩にとって憧れですらある。
ありがと、と言いながら光希の声は暗く聞こえた。
「嫉妬なのかな? あんな上辺だけの性悪女が希彩ちゃんの記憶に残ってるとか許せないんだけど」
嫉妬をしたのは希彩も同じだが、市川のことをそんな風に思っているとは意外だった。
だが、希彩が絶対に言えないことを彼が言ってくれるだけでも救われる。それなのに、これ以上を望んでしまっても良いのかわからなくなる。
「未だに希彩ちゃんの心を恐怖で支配できるなんて思わなかった。あの女に向き合えるくらいにならないと希彩ちゃんの隠れ癖は完治したって言えないね」
「無理だよ……」
違う高校に進んだ今でも市川は希彩にとって絶対的な恐怖の象徴だ。それはこれからも変わらないのだと希彩は思っていた。それでも、もう彼女とは滅多に会うこともないだろうと楽観視していた部分もある。
ようやく普通に生きられると思ったのに、彼女を前にしただけで震えが止まらなかった。
「トラウマとか全部消して俺でいっぱいにしたい。俺のことしか考えられないくらい夢中にさせたい」
気持ちは嬉しいのに、そう言われても……と思ってしまう。夢中になって、奪われたトラウマがまだ希彩を臆病にしている。いつかは忘れられるかもしれなかったのに、彼女の登場は早すぎた。
「また盗られるって思った?」
目を合わされて、希彩は正直に頷く。
市川に盗られたくないと思ってしまった。獲物を狙う目に見えたのだ。
「俺はあんな女に攻略できるような男じゃないよ。だって、今は希彩ちゃんにベタ惚れだもん。希彩ちゃんしか見えない。何言われても、希彩ちゃんの言葉しか信じない――大好きだよ」
こつっと額を合わされて、胸の高鳴りが止まらなくなる。いつでもドキドキしている。
盲目的にすら聞こえる真剣な告白に、このまま溶けてしまうのではないかと思うほど顔が、体が熱くなっていく。
「もう一人になるのは嫌。ずっと一緒にいて」
首に手を回して、キスを強請るように見詰めれば、望み通り優しいキスが落とされる。
以前なら、そんなことはできなかった。少しずつ変わっていけていると思っていた。それで良いはずだった。光希といれば強くなれる気がした。
けれど、彼女と対するにはまだ弱すぎる。光希がいるからこそ弱くなるのかもしれない。かつての遼にとっての弱点が希彩だったように、今の希彩にとっての弱点は間違いなく光希だ。
「一人にしない。俺を好きになってくれたこと、後悔させない。不安にさせるつもりもなかった」
そうして光希が見せる笑顔に不安が消えていく気がした。
「あの、光希君……ひゃあっ! なんで、触って……!」
自分の弱さのせいで予定が変わってしまったことを希彩は謝りたかった。それなのに、光希の手は下着の上から秘部に触れる。
「やっぱり湿ってる。中途半端にしちゃったら辛いでしょ? ちゃんとイかせてあげる」
「ちょっ、待って、あっ、だめ……!」
あっと言う間に下着を剥ぎ取られ、くぷっと指先が進入してくる。くちくちと小さな音を立てていたかと思えば、次第に指が増え、奥へと入り込み、希彩が弱い場所を的確に攻めてくる。同時に花芽を擦られれば音は大きくなる一方で、奥からとろりと更なる蜜が分泌された自覚もあった。
すっかり光希は希彩の体を知り尽くしたように、すぐに解され、蕩かされてしまう。
「あ、あ……だめ、イっちゃう……」
高みへと押し上げられて、もうすぐ飛び立てることを希彩は知っている。それがどれほど気持ち良いことかも。
あともう少し。そう思った瞬間、光希の指は止まり、ずるりと抜かれてしまった。
「ん……ぁ……」
イかせてくれるのではなかったのか。少し残念に思いながら見上げれば光希は意地悪く笑い、自らの股間を示す。その窮屈そうな膨らみに気付いて、希彩は目を逸らす。
「俺もこんなんなっちゃったから……出していい?」
希彩は迷わずに小さく頷いていた。指よりも大きな物を体は求めてしまっている。痛いだけだった行為が今はもう気持ちが良いだけの行為になっている。
張り詰めた光希の物が取り出されて避妊具が装着されていく。その様子をそっと窺いながら、希彩はまた期待で奥が疼くのを感じた。
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