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もう隠れない3
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「じゃあ、何があったか自分の口で話せるわよね?」
にっこりと咲子は笑んでいるが、つられて笑えるほど希彩の気分は軽くはなかった。
「咲子にも何かが降りかかるかも」
「何か?」
「不幸とか……」
「降りかかる火の粉は自分で払うし、何が不幸かは私が決めるわ」
キリリとした咲子が希彩には格好良く、そして眩しかった。
「……柊原君に近付かないでって言われたの」
「あっちが勝手に近付いて来るのに?」
希彩は頷く。やはり咲子もそう言うのだ。希彩が自ら光希に近付いたことはない。
「でも、そうしないと私の周りにいる人がどうなるかわからないって……」
「軽く見られたものねぇ」
すっと咲子の目が細くなる。誰ともわからない人物に対して怒りを覚えているようだ。
「私、咲子の影に隠れてずるいって言われた。その通りだと思う」
「私が隠しておきたいのに、なんてこと!」
「私を許さないから私を甘やかす人間も許さないって」
「えー、あたしがべったべたに甘やかしたいのに-! 絶対に許さないわ!」
「さ、咲子……」
憤慨する咲子を希彩は宥めることもできず、おろおろするばかりだ。
「で、そんなこと、誰が言ったの?」
「い、言えない……」
問い詰められても、それは言ってはいけない気がして希彩は口を噤む。
「オーケーオーケー、クラスメートは売れないってことね」
「な、なんでクラスの子って……」
「咲子さんは何でもお見通しなのよ」
「凄い!」
「冗談冗談。そうだったら良かったんだけどね、まあ、誰がそんなこと言うかはわかってるつもりよ」
咲子は笑っているが、既に相手に察しはついているらしい。
「それで、円の方もなんか言われたんでしょ?」
「これ以上迷惑かけないでって……」
「あっちが未練たらたらで迷惑行為してくるだけなのにね」
「未練……」
そうなのだろうか、と希彩は首を傾げる。
しかし、遼に関しては迷惑行為でないと希彩は思う。光希に関してはそう言われても仕方がないのだろうが。
「で、これから、どうするの?」
問われて希彩は迷った。自分で決めなければならないとわかっているのに、すぐに答えは出せない。
「お邪魔な周りのことは考えないの。無視無視。排除して自分のことだけ考えるのよ」
咲子の言葉に促されて、希彩は素直に考えてみる。
自分がどうしたいか、自分がどうなりたいか。ただ純粋に自分だけを考える。
「時間はあるから、ゆっくり最初から考えてみなさいよ」
思考は光希との出会いまで遡る。
咲子にはこれからも言えそうもないが、良い出会い方でなかったのは確かだ。
保健室で気付いた時には襲われかけていた。詳細を思い出してしまえば顔が熱くなり、咲子に悟られないかと不安になるが、光希はとにかく強引だった。
翌日からはピンやリップクリームをくれたが、性的な接触はなかった。しかし、咲子がいなければ、どうにもならなかったかもしれない。
「……私ね、咲子と一緒にいるの、楽しいよ」
あんなことがなければ、咲子と友達になることもなかっただろう。
「そう言ってもらえると嬉しいわ。あたしも楽しいもの」
「でも、柊原君と咲子のやりとり見てるのも楽しかった」
何事もないように隠れるのと周りを怖れながらも隠れないのはどちらが良いのか。
咲子がいれば大丈夫だと希彩には安心できた。楽しいことだってあった。
「漫才みたいとか言い出さないでしょうね?」
希彩はギクリとした。図星だったのだ。言う気はなかったのだが。
「遼君が加わってからも咲子って凄いなぁと思ってた」
「男は最初の躾が肝心なのよ」
「しつけ……」
口に出して、希彩は自分にはできないことだと思った。やはり咲子は凄いのだと尊敬の念を抱くほどに。
「咲子、美人だしお似合いか……いひゃいいひゃい!」
頬を引っ張られ、希彩はそれ以上言うことができなかった。
悪気があったわけではない。本当に思ったことを口にしようとしただけだ。相手が咲子ならば市川の時とは違い、自然に納得できるはずだった。
「それ以上言ったら怒るわよ」
咲子はそう言うが、もう怒っていると希彩は感じていた。
「別にあんたに遠慮するとか、そんなの全然なくて、あたしの好みじゃないから。どっちもね」
念を押すように咲子は言う。思えば、この数日で彼女の恋愛の話が出たことはない。どういうのが好みであるのかは気になるところだが、またいずれ聞けば良いことだろう。
「友達にならなってあげてもいいかも程度。あたしもお目付ポジションは案外楽しかったわ」
「どこかでは友達になれるかなって思ってたから寂しいのかも」
「友達でいいの?」
じっと咲子に見詰められ、友達以外に何があるのかとは聞けなかった。
「遼君のことはね、昔は好きだったけど、今は昔みたいには思えないなぁ、って」
いつか怖くなくなって、また自然に話せるようになれればいいとは思う。けれども、その先が想像できない。それが、どうしてか希彩にもわからない。
本当に好きだった。それなのに、今は違う。嫌いではないのに、そういう好きでもない。
「人の心なんて変わるもの。誰にもそれは責められない。円が一番わかってるんじゃない?」
心変わりに希彩自身が戸惑っている。
遼を好きなままでいられたら、何も迷うことはなかったかもしれないのに――否、違うのだ。それは逃げでしかない。
にっこりと咲子は笑んでいるが、つられて笑えるほど希彩の気分は軽くはなかった。
「咲子にも何かが降りかかるかも」
「何か?」
「不幸とか……」
「降りかかる火の粉は自分で払うし、何が不幸かは私が決めるわ」
キリリとした咲子が希彩には格好良く、そして眩しかった。
「……柊原君に近付かないでって言われたの」
「あっちが勝手に近付いて来るのに?」
希彩は頷く。やはり咲子もそう言うのだ。希彩が自ら光希に近付いたことはない。
「でも、そうしないと私の周りにいる人がどうなるかわからないって……」
「軽く見られたものねぇ」
すっと咲子の目が細くなる。誰ともわからない人物に対して怒りを覚えているようだ。
「私、咲子の影に隠れてずるいって言われた。その通りだと思う」
「私が隠しておきたいのに、なんてこと!」
「私を許さないから私を甘やかす人間も許さないって」
「えー、あたしがべったべたに甘やかしたいのに-! 絶対に許さないわ!」
「さ、咲子……」
憤慨する咲子を希彩は宥めることもできず、おろおろするばかりだ。
「で、そんなこと、誰が言ったの?」
「い、言えない……」
問い詰められても、それは言ってはいけない気がして希彩は口を噤む。
「オーケーオーケー、クラスメートは売れないってことね」
「な、なんでクラスの子って……」
「咲子さんは何でもお見通しなのよ」
「凄い!」
「冗談冗談。そうだったら良かったんだけどね、まあ、誰がそんなこと言うかはわかってるつもりよ」
咲子は笑っているが、既に相手に察しはついているらしい。
「それで、円の方もなんか言われたんでしょ?」
「これ以上迷惑かけないでって……」
「あっちが未練たらたらで迷惑行為してくるだけなのにね」
「未練……」
そうなのだろうか、と希彩は首を傾げる。
しかし、遼に関しては迷惑行為でないと希彩は思う。光希に関してはそう言われても仕方がないのだろうが。
「で、これから、どうするの?」
問われて希彩は迷った。自分で決めなければならないとわかっているのに、すぐに答えは出せない。
「お邪魔な周りのことは考えないの。無視無視。排除して自分のことだけ考えるのよ」
咲子の言葉に促されて、希彩は素直に考えてみる。
自分がどうしたいか、自分がどうなりたいか。ただ純粋に自分だけを考える。
「時間はあるから、ゆっくり最初から考えてみなさいよ」
思考は光希との出会いまで遡る。
咲子にはこれからも言えそうもないが、良い出会い方でなかったのは確かだ。
保健室で気付いた時には襲われかけていた。詳細を思い出してしまえば顔が熱くなり、咲子に悟られないかと不安になるが、光希はとにかく強引だった。
翌日からはピンやリップクリームをくれたが、性的な接触はなかった。しかし、咲子がいなければ、どうにもならなかったかもしれない。
「……私ね、咲子と一緒にいるの、楽しいよ」
あんなことがなければ、咲子と友達になることもなかっただろう。
「そう言ってもらえると嬉しいわ。あたしも楽しいもの」
「でも、柊原君と咲子のやりとり見てるのも楽しかった」
何事もないように隠れるのと周りを怖れながらも隠れないのはどちらが良いのか。
咲子がいれば大丈夫だと希彩には安心できた。楽しいことだってあった。
「漫才みたいとか言い出さないでしょうね?」
希彩はギクリとした。図星だったのだ。言う気はなかったのだが。
「遼君が加わってからも咲子って凄いなぁと思ってた」
「男は最初の躾が肝心なのよ」
「しつけ……」
口に出して、希彩は自分にはできないことだと思った。やはり咲子は凄いのだと尊敬の念を抱くほどに。
「咲子、美人だしお似合いか……いひゃいいひゃい!」
頬を引っ張られ、希彩はそれ以上言うことができなかった。
悪気があったわけではない。本当に思ったことを口にしようとしただけだ。相手が咲子ならば市川の時とは違い、自然に納得できるはずだった。
「それ以上言ったら怒るわよ」
咲子はそう言うが、もう怒っていると希彩は感じていた。
「別にあんたに遠慮するとか、そんなの全然なくて、あたしの好みじゃないから。どっちもね」
念を押すように咲子は言う。思えば、この数日で彼女の恋愛の話が出たことはない。どういうのが好みであるのかは気になるところだが、またいずれ聞けば良いことだろう。
「友達にならなってあげてもいいかも程度。あたしもお目付ポジションは案外楽しかったわ」
「どこかでは友達になれるかなって思ってたから寂しいのかも」
「友達でいいの?」
じっと咲子に見詰められ、友達以外に何があるのかとは聞けなかった。
「遼君のことはね、昔は好きだったけど、今は昔みたいには思えないなぁ、って」
いつか怖くなくなって、また自然に話せるようになれればいいとは思う。けれども、その先が想像できない。それが、どうしてか希彩にもわからない。
本当に好きだった。それなのに、今は違う。嫌いではないのに、そういう好きでもない。
「人の心なんて変わるもの。誰にもそれは責められない。円が一番わかってるんじゃない?」
心変わりに希彩自身が戸惑っている。
遼を好きなままでいられたら、何も迷うことはなかったかもしれないのに――否、違うのだ。それは逃げでしかない。
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