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行き止まりかもしれない2
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咲子が不在の朝はすぐに来てしまった。
朝など来なければ良いと希彩は願っていた。学校を休みたいほどだ。全然大丈夫ではない。
遅めに行こうと思っても、人が多くて苦手だ。
希彩が教室に着けば光希は早速咲子の席に座っていた。本人が来ないとわかっているからこそ、堂々としている。
そして、今日も結局希彩の前髪にはピンが付けられてしまった。
「藤村がいないと心置きなくラブラブできるなぁ」
光希はひどく上機嫌だ。歌い出しそうなほどである。
「……守ってくれるんじゃなかったの?」
希彩としては彼に守ってほしいわけではないが、約束を破られるのは困るものだ。
「もちろん。俺達がイチャイチャしてたら、邪魔するような馬鹿はいないよ」
光希は自信たっぷりに笑う。どうして、そんなに自信を持てるのかわからないが、分けてほしいと思うわけでもない。
「うわー、希彩ちゃん、嫌そうな顔! ひどい、ひどいよー!」
「だって、嫌だもん……」
嫌なものなら嫌なのだから仕方ない。
それだけ顔に出ているのならば察してほしいものだが、光希は自分に都合が良いようにしか解釈しないのだろう。
「えー、いいじゃん。ちょっとぐらいいい思いさせてよ。役得ってやつ」
光希は口を尖らせるが、可愛いと思うわけでもない。
既に自分には手に負えないと希彩は悟って、気が重くなった。
*
休み時間はとにかく光希が近寄ってくる。咲子がいなければ友人達も彼を怖がっている部分があるのかもしれない。
それを光希もわかっていてやっているのだろう。
「お願いっ!」
昼休み、希彩と一緒に昼食を食べることになっていた二人に光希が拝んでいた。
「見逃してお願い! 何もしないからさ」
先程からこの調子である。つまり二人きりになりたいということらしいのだが、希彩の意思は完全に無視されていた。
拒否したのだが、一歩も引かない光希に友人二人は押され気味である。
「じゃあ、わかった。藤村が手出しできない放課後にデートしよう。ケーキおごるよ」
光希が、ただで引いてくれるはずもなく、希彩は当惑する。
放課後は困る。一緒に帰ることさえ受け入れ難いというのにデートなどしたくもない。ケーキの誘惑に心が動いたりもしない。
「さあ、どうする? 希彩ちゃん。君が折れないと引けない二人がご飯食べ損なうよ?」
光希が希彩の耳元で悪魔のように囁く。
このままだと二人に迷惑がかかるのは明白だ。咲子に頼まれている手前、彼女達も引くわけにはいかないらしい。そんな事情と希彩の性格を光希は既に把握しているのだろう。
これはもう自分が昼休みを犠牲にするしかないと覚悟した時だった。
「おい、光希」
その声は唐突に聞こえた。
男子は皆面白がって、誰も助け船を出してはくれないと思っていた。
否、希彩がよく知るその声は本当に助けなのかわからないものだ。
「嫌がってんだろ」
そう言って、光希の肩を掴んでいるのは遼で、希彩は信じられない気持ちでいっぱいだった。
助けてくれたと信じたいのは希彩の勝手だ。
「俺が誰を口説こうと遼には関係ないと思うけど?」
希彩からは見えないが、振り向いた光希は笑ったのだろう。
「関係ある」
もう関係ないと希彩は思っていた。少なくとも彼にとって自分は友人ですらなくなったと希彩は理解しているつもりだった。今更、昔のように何事もなかったように話しかけることなどできない。ただ同じ中学の出身だったというだけの他人だ。
「へぇ? お前にどんな理由があるって?」
光希がひどく挑発的なのは希彩から無理矢理聞き出して関係を知っているからだろう。その上で彼がその事を言わないとわかっているからか。
「中学の時、付き合ってたから」
遼がはっきりと言う。それは希彩にとって完全に想定外だった。
どうして、そんな風に言えるのか。もう終わったことだからか。否、終わったことならば、どうして今更助けるようなことをするのか。
わからずに希彩はただ呆然と二人を見ていた。
「もう別れたのに、今更自分の所有物だとでも?」
尚も光希が挑発を続ける。別れたとやたら強調して言ったのは気のせいか。
「別れたくて別れたわけじゃねぇ。俺は」
遼と目が合って、希彩は心臓が止まるような気がした。
彼とは完全に他人だと思っていた。言葉を交わすことさえないはずだった。
それなのに、自分を射抜くような視線が昔のままのような気がして、わからずに苦しくなって、希彩は咄嗟に逃げ出していた。
朝など来なければ良いと希彩は願っていた。学校を休みたいほどだ。全然大丈夫ではない。
遅めに行こうと思っても、人が多くて苦手だ。
希彩が教室に着けば光希は早速咲子の席に座っていた。本人が来ないとわかっているからこそ、堂々としている。
そして、今日も結局希彩の前髪にはピンが付けられてしまった。
「藤村がいないと心置きなくラブラブできるなぁ」
光希はひどく上機嫌だ。歌い出しそうなほどである。
「……守ってくれるんじゃなかったの?」
希彩としては彼に守ってほしいわけではないが、約束を破られるのは困るものだ。
「もちろん。俺達がイチャイチャしてたら、邪魔するような馬鹿はいないよ」
光希は自信たっぷりに笑う。どうして、そんなに自信を持てるのかわからないが、分けてほしいと思うわけでもない。
「うわー、希彩ちゃん、嫌そうな顔! ひどい、ひどいよー!」
「だって、嫌だもん……」
嫌なものなら嫌なのだから仕方ない。
それだけ顔に出ているのならば察してほしいものだが、光希は自分に都合が良いようにしか解釈しないのだろう。
「えー、いいじゃん。ちょっとぐらいいい思いさせてよ。役得ってやつ」
光希は口を尖らせるが、可愛いと思うわけでもない。
既に自分には手に負えないと希彩は悟って、気が重くなった。
*
休み時間はとにかく光希が近寄ってくる。咲子がいなければ友人達も彼を怖がっている部分があるのかもしれない。
それを光希もわかっていてやっているのだろう。
「お願いっ!」
昼休み、希彩と一緒に昼食を食べることになっていた二人に光希が拝んでいた。
「見逃してお願い! 何もしないからさ」
先程からこの調子である。つまり二人きりになりたいということらしいのだが、希彩の意思は完全に無視されていた。
拒否したのだが、一歩も引かない光希に友人二人は押され気味である。
「じゃあ、わかった。藤村が手出しできない放課後にデートしよう。ケーキおごるよ」
光希が、ただで引いてくれるはずもなく、希彩は当惑する。
放課後は困る。一緒に帰ることさえ受け入れ難いというのにデートなどしたくもない。ケーキの誘惑に心が動いたりもしない。
「さあ、どうする? 希彩ちゃん。君が折れないと引けない二人がご飯食べ損なうよ?」
光希が希彩の耳元で悪魔のように囁く。
このままだと二人に迷惑がかかるのは明白だ。咲子に頼まれている手前、彼女達も引くわけにはいかないらしい。そんな事情と希彩の性格を光希は既に把握しているのだろう。
これはもう自分が昼休みを犠牲にするしかないと覚悟した時だった。
「おい、光希」
その声は唐突に聞こえた。
男子は皆面白がって、誰も助け船を出してはくれないと思っていた。
否、希彩がよく知るその声は本当に助けなのかわからないものだ。
「嫌がってんだろ」
そう言って、光希の肩を掴んでいるのは遼で、希彩は信じられない気持ちでいっぱいだった。
助けてくれたと信じたいのは希彩の勝手だ。
「俺が誰を口説こうと遼には関係ないと思うけど?」
希彩からは見えないが、振り向いた光希は笑ったのだろう。
「関係ある」
もう関係ないと希彩は思っていた。少なくとも彼にとって自分は友人ですらなくなったと希彩は理解しているつもりだった。今更、昔のように何事もなかったように話しかけることなどできない。ただ同じ中学の出身だったというだけの他人だ。
「へぇ? お前にどんな理由があるって?」
光希がひどく挑発的なのは希彩から無理矢理聞き出して関係を知っているからだろう。その上で彼がその事を言わないとわかっているからか。
「中学の時、付き合ってたから」
遼がはっきりと言う。それは希彩にとって完全に想定外だった。
どうして、そんな風に言えるのか。もう終わったことだからか。否、終わったことならば、どうして今更助けるようなことをするのか。
わからずに希彩はただ呆然と二人を見ていた。
「もう別れたのに、今更自分の所有物だとでも?」
尚も光希が挑発を続ける。別れたとやたら強調して言ったのは気のせいか。
「別れたくて別れたわけじゃねぇ。俺は」
遼と目が合って、希彩は心臓が止まるような気がした。
彼とは完全に他人だと思っていた。言葉を交わすことさえないはずだった。
それなのに、自分を射抜くような視線が昔のままのような気がして、わからずに苦しくなって、希彩は咄嗟に逃げ出していた。
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