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もう隠れられない2
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咲子はしっかりガードを固めていたようで、希彩はボディーガードに守られているような気分で不安も薄れていた。
自分の友達を紹介しながらも、興味本位で聞きたがる女子は追い払う。彼女もその友人も特に光希に興味があるわけでもないらしかった。
気付けば、彼女を中心に『希彩親衛隊』なるものが結成され、その大げささに希彩は苦笑するしかなかった。
彼女達の話では光希は今まで一人に執着するようなことはなかったと言う。
コロコロと彼女を変え、自分から積極的にアプローチすることもない。
それを害虫駆除の誘因剤のように言ったのは咲子だ。他の女子でさえも入れ食いなどと表現する始末だが、光希を弁護することなど希彩にできるはずもなかった。
なぜ、自分なのかわからないのだ。
咲子達は『可愛いからだよ』と言うが、それで納得できるはずもない。自分はそんなに可愛くないのだと言って、彼女達に怒られた意味も希彩にはわからない。
光希も珍しい物を見つけたから構っているだけで、すぐに飽きるはずなのだ。今を乗り切れば、また隠れて生きられるはずだと希彩は信じていた。
*
放課後、咲子達が部活に行き、希彩はすぐに帰るつもりだった。もう今日も終わりだと安心していたのに、なぜ、光希が目の前に立っているのか。
彼はさっさと教室を出て行ったし、途中まで咲子達が一緒にいたのだ。だから、平和に帰れると完全に油断して校門を通ったのだ。
「無視するの? 希彩ちゃん」
希彩は見なかったフリで素通りしようとしたものの、通用するはずもなかった。
「さ、さようなら?」
「ひどいなぁ。希彩ちゃんを待ってたのに」
なぜ、自分を待っていたのか。考えて希彩はあることに思い当たる。
「これ、返さないと……」
ピンを外そうとした手は掴まれてしまった。
「それは希彩ちゃんにあげたの、だから付けてて。明日も付けてきてくれると嬉しいけど」
もらう理由などないが、断ればまた何かをされるという思いが希彩から言葉を奪っていく。
「待ってたのは駅まで一緒に帰ろうと思って」
「一緒に……?」
口にして希彩は首を横に振る。絶対に困ることだ。ただでさえ、また見られているのだ。
「どうせ、行き先一緒なんだから、一緒に帰ってくれないと付き纏うけど?」
光希はクスクスと笑っているが、そんなことを言われたくはなかった。
「手繋ぐのは今度でいいから」
今度も何も手など繋ぎたくはないのだ。誰か助けてほしいと希彩は周囲を見てしまうが、味方などいないことは初めからわかっていたはずだった。。
「それとも、週末デートしてくれる?」
「何でそうなるの?」
光希が何をしたいのか、希彩にはわからない。理解したくもないのだが。
「一日とほんの十数分なら十数分で済ませたいでしょ?」
「それはそうだけど……」
一日、光希と一緒にいるなどとは希彩にとって苦痛以外の何物でもない。
「駅までなら……」
「うんうん、まずはそれくらいからだよね」
光希は嬉しそうにしているが、それは次があるということなのか。考えたくもないことだった。
「それにしても、まさか藤村が味方につくとはね」
歩きながら光希は笑う。希彩も驚いたことだが、彼はまるでその状況を楽しんでいるようだ。
「俺、藤村に何もしてないのになぁ……天敵だよ、あれ」
光希は咲子が苦手だということなのか。それならば希彩は絶対に咲子から離れないだけだ。
「一日にしてガードが……いや、でも、この難易度が上がった感じもなかなか」
「ゲームみたいに楽しんでるなら……」
やめてほしい、希彩はそう言いたかったのだが、言葉の続きを光希が制する。
「だから、なんでそういう話に……」
光希が少し困ったように頭を掻く。
「まあ、実際、藤村が守りに入ってると都合がいいところもあるけどさ」
光希の事情など希彩は知らない。わからないのだ。
「でも、あの保護者に俺が本気だってこと、わからせなきゃいけないんだろうな」
確かに咲子は姉か母かのように希彩の面倒を見てくれた。そもそも、噂を聞く限りでは光希が本気を出したなどとは誰も信じないだろう。
「どうせ、すぐ飽きるでしょ?」
拒否を続ければ、いつか諦めてくれるだろう。すぐにつまらなくなって自分の目の前からいなくなるだろう。
それでいいのだ。そうすれば、きっと自分の勝ちなのだと希彩は思う。
「何、俺がヤったらポイする男だと思ってる?」
そこには何か含みがある気がしたが、希彩は気付かなかったことにした。
「違うの?」
「いや、そもそも体だけっていう前提で……」
希彩は何も言えなくなった。
やはり最低だとしか言えない。体だけの関係など希彩には絶対に考えられないことだ。
「俺、希彩ちゃんとなら長く続く気がするんだよね」
「私は嫌」
はっきりと言えば光希は黙り込む。
どうしたのだろうか、怒ったのだろうか、と希彩は光希を見上げる。
「俺、女の子にフられたことないからショックだよ……やっと運命の人を見つけたかもしれないって思ったのに」
光希は涙を拭う仕草をするが、よくもそんなことが言えるものだ。ひどく白々しく感じられて希彩は呆れるしかない。
「絶対に私じゃないと思うけど」
「希彩ちゃんが隠れてたから、なかなか見つからなかったんだよ」
そんなこと言われても希彩は困るだけだ。見つからないままでいたかった。それなのに、なぜ、光希は見つけてしまったのか。
「ねぇ、希彩ちゃん。君は隠れて生きたいんだろうけど、俺は必ず見つけるよ」
放っておいてほしいのに、どうして、こんなことになるのだろう。本当に見つけてほしい人は別にいるはずなのに。
結局、駅に着いて、逆方向の電車に乗る光希は離れて行った。その去り際は拍子抜けするほどあっさりしていたが、彼はまた明日があると思っているのだ。
同学年だけでなく、先輩にも後輩にも有名な光希だ。希彩はずっと視線が気になって怖かった。そして、何よりも明日が怖くなった。
自分の友達を紹介しながらも、興味本位で聞きたがる女子は追い払う。彼女もその友人も特に光希に興味があるわけでもないらしかった。
気付けば、彼女を中心に『希彩親衛隊』なるものが結成され、その大げささに希彩は苦笑するしかなかった。
彼女達の話では光希は今まで一人に執着するようなことはなかったと言う。
コロコロと彼女を変え、自分から積極的にアプローチすることもない。
それを害虫駆除の誘因剤のように言ったのは咲子だ。他の女子でさえも入れ食いなどと表現する始末だが、光希を弁護することなど希彩にできるはずもなかった。
なぜ、自分なのかわからないのだ。
咲子達は『可愛いからだよ』と言うが、それで納得できるはずもない。自分はそんなに可愛くないのだと言って、彼女達に怒られた意味も希彩にはわからない。
光希も珍しい物を見つけたから構っているだけで、すぐに飽きるはずなのだ。今を乗り切れば、また隠れて生きられるはずだと希彩は信じていた。
*
放課後、咲子達が部活に行き、希彩はすぐに帰るつもりだった。もう今日も終わりだと安心していたのに、なぜ、光希が目の前に立っているのか。
彼はさっさと教室を出て行ったし、途中まで咲子達が一緒にいたのだ。だから、平和に帰れると完全に油断して校門を通ったのだ。
「無視するの? 希彩ちゃん」
希彩は見なかったフリで素通りしようとしたものの、通用するはずもなかった。
「さ、さようなら?」
「ひどいなぁ。希彩ちゃんを待ってたのに」
なぜ、自分を待っていたのか。考えて希彩はあることに思い当たる。
「これ、返さないと……」
ピンを外そうとした手は掴まれてしまった。
「それは希彩ちゃんにあげたの、だから付けてて。明日も付けてきてくれると嬉しいけど」
もらう理由などないが、断ればまた何かをされるという思いが希彩から言葉を奪っていく。
「待ってたのは駅まで一緒に帰ろうと思って」
「一緒に……?」
口にして希彩は首を横に振る。絶対に困ることだ。ただでさえ、また見られているのだ。
「どうせ、行き先一緒なんだから、一緒に帰ってくれないと付き纏うけど?」
光希はクスクスと笑っているが、そんなことを言われたくはなかった。
「手繋ぐのは今度でいいから」
今度も何も手など繋ぎたくはないのだ。誰か助けてほしいと希彩は周囲を見てしまうが、味方などいないことは初めからわかっていたはずだった。。
「それとも、週末デートしてくれる?」
「何でそうなるの?」
光希が何をしたいのか、希彩にはわからない。理解したくもないのだが。
「一日とほんの十数分なら十数分で済ませたいでしょ?」
「それはそうだけど……」
一日、光希と一緒にいるなどとは希彩にとって苦痛以外の何物でもない。
「駅までなら……」
「うんうん、まずはそれくらいからだよね」
光希は嬉しそうにしているが、それは次があるということなのか。考えたくもないことだった。
「それにしても、まさか藤村が味方につくとはね」
歩きながら光希は笑う。希彩も驚いたことだが、彼はまるでその状況を楽しんでいるようだ。
「俺、藤村に何もしてないのになぁ……天敵だよ、あれ」
光希は咲子が苦手だということなのか。それならば希彩は絶対に咲子から離れないだけだ。
「一日にしてガードが……いや、でも、この難易度が上がった感じもなかなか」
「ゲームみたいに楽しんでるなら……」
やめてほしい、希彩はそう言いたかったのだが、言葉の続きを光希が制する。
「だから、なんでそういう話に……」
光希が少し困ったように頭を掻く。
「まあ、実際、藤村が守りに入ってると都合がいいところもあるけどさ」
光希の事情など希彩は知らない。わからないのだ。
「でも、あの保護者に俺が本気だってこと、わからせなきゃいけないんだろうな」
確かに咲子は姉か母かのように希彩の面倒を見てくれた。そもそも、噂を聞く限りでは光希が本気を出したなどとは誰も信じないだろう。
「どうせ、すぐ飽きるでしょ?」
拒否を続ければ、いつか諦めてくれるだろう。すぐにつまらなくなって自分の目の前からいなくなるだろう。
それでいいのだ。そうすれば、きっと自分の勝ちなのだと希彩は思う。
「何、俺がヤったらポイする男だと思ってる?」
そこには何か含みがある気がしたが、希彩は気付かなかったことにした。
「違うの?」
「いや、そもそも体だけっていう前提で……」
希彩は何も言えなくなった。
やはり最低だとしか言えない。体だけの関係など希彩には絶対に考えられないことだ。
「俺、希彩ちゃんとなら長く続く気がするんだよね」
「私は嫌」
はっきりと言えば光希は黙り込む。
どうしたのだろうか、怒ったのだろうか、と希彩は光希を見上げる。
「俺、女の子にフられたことないからショックだよ……やっと運命の人を見つけたかもしれないって思ったのに」
光希は涙を拭う仕草をするが、よくもそんなことが言えるものだ。ひどく白々しく感じられて希彩は呆れるしかない。
「絶対に私じゃないと思うけど」
「希彩ちゃんが隠れてたから、なかなか見つからなかったんだよ」
そんなこと言われても希彩は困るだけだ。見つからないままでいたかった。それなのに、なぜ、光希は見つけてしまったのか。
「ねぇ、希彩ちゃん。君は隠れて生きたいんだろうけど、俺は必ず見つけるよ」
放っておいてほしいのに、どうして、こんなことになるのだろう。本当に見つけてほしい人は別にいるはずなのに。
結局、駅に着いて、逆方向の電車に乗る光希は離れて行った。その去り際は拍子抜けするほどあっさりしていたが、彼はまた明日があると思っているのだ。
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