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本編
キノコなんて生えるもんか
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「しぬ……しんじゃう……」
人は『死ぬ』って簡単に言い過ぎだと思ってたけど、これは死んじゃうかもって思っても絶対おかしくない。安易じゃない。
頭は割れそうなくらいに痛む時があるし、平衡感覚を失ってグラグラで気持ち悪い。何しろ四十度近い熱が出るのは私――若林莉緒が十六年生きてきた中で初めてのこと。ううん、初めてじゃない。初めてじゃないから余計に混乱してる。
もう何日こうして意識が朦朧としてるかわからなってきた。でも、重病ってわけじゃない。不治の病とかじゃない。
「姉ちゃん、人間は風邪じゃ死なねぇから」
「死ぬよ!」
冷静に雑な慰めを言ってくるのは弟の千晶。とは言っても親が再婚同士でお互い連れ子だから血の繋がりはゼロ。
しかも、学年は一つ違っても私が早生まれだから生まれた年は同じでそんなの誤差だと言わんばかりに生意気盛りな弟。年々口が悪くなって『お姉ちゃん』とか可愛らしく呼んでくれないし、何度チビって言われたかわからない。確かに身長は百四十センチ台から伸びないし、出るとこも全然出ないし、まだまだこれからって言うには希望も遂に薄れてきた気がするけど……!
千晶も男として大きい方じゃなくて、どっちかと言えば可愛い系だけど、一緒にいれば私の方が妹だと思われる確率百パーセント。仲が悪いわけじゃないんだけどお互い微妙なお年頃的な。
「ツッコミする元気があるなら直に治るだろ」
風邪を侮ることなかれ。たかが風邪と見くびって悪化すれば死に至る。
マジで死にそうな気分の姉に対して塩対応だと思ったけど、思い返せばこの数日千晶は信じられないくらい私に尽くしてくれてる。これでもかってくらい。私が回復した時、千晶が倒れないか心配なくらい。元気になったら千晶が好きな物をいっぱい作ってあげよう。
この悲劇が起きたのは私の誕生日だった。パパとママは海外で仕事してて二人暮らし状態。
何だかんだ言いながらわざわざささやかな誕生日祝いの用意をしてくれたのに(多分パパとママに言われたんだろうけど)私が蝋燭の火を吹き消した瞬間にぶっ倒れたせいで全部台無しで献身的な介護と家事全部をするはめになった弟は普通に災難で可哀想なのかもしれない。明日明後日の週末の予定も早々とキャンセルしたって言ってたっけ。
「治ってくれねぇとあの兄妹がうるせぇから」
辟易したように千晶が言う『あの兄妹』って言うのは私と同じクラスの逢坂紫愛ちゃんと一つ年上の碧流先輩のこと。学校一の美形兄妹と噂されてる。しかも、それが誇張じゃないレベルのマジ美貌の兄妹。
紫愛ちゃんはミルクティー色のウェーブヘアと紫の瞳が素敵なマジ美少女。すらっとしてるのに出るとこ出てる完璧なプロポーション。マジ天使。自慢の親友。
碧流先輩はサラッサラのハニーブロンドに青い目が綺麗な少女漫画に出てくるような典型的な長身痩躯の王子様系イケメン様。しかも、これまた典型的なことに文武両道の生徒会長様。
二人で並ぶと王子様とお姫様みたいな美男美女カップルにしか見えない。うちと一緒で実は血が繋がってなくて、そういう境遇だからか私と紫愛ちゃんが仲良くなるのに時間はかからなかった。
そうして紫愛ちゃんのお家に招かれたりしてると碧流先輩と関わるのは必然で、なぜか兄妹揃ってうちに遊びに来たがったりして、来年度から高等部に通う千晶まですっかり面識があるという状況。
中等部でも有名らしいマドンナ紫愛ちゃんと知り合いとか絶対同級生に羨ましがられるし、プリンス碧流先輩とだって仲良くしてて絶対に損はないはずなのに千晶は目立ちたくないのか、嫌がってる。なぜか、とっても。
「ごめん……」
「悪いと思ってんなら早く元気になれよ。調子狂うっての」
使い物にならなくなった姉の代わりに元気な千晶は普段は当番制にしている家事の全てをこなしてくれる。千晶に感染するようなものじゃなかったのは不幸中の幸い?
その上、千晶は毎日お見舞いに来たがる紫愛ちゃんと碧流先輩の対応もしてくれてる。千晶曰くこれが一番の重労働で精神的苦痛を伴う物らしい。メールを打つのもしんどい私の代わりに千晶は大して変わらない私の状況を頻繁に発信しなきゃいけなくて「俺はマネージャーでも広報でもねぇ」ってぼやいてたっけ。
逢坂家の人間が経営する病院に入院させるとか医者を送るとかお手伝いさんを付けるとか大事になりそうなのも丁重にお断りしてくれたらしい。もしかして、この数日の千晶のストレス値、かなりやばい?
本当は明日、私の誕生日パーティーをするって紫愛ちゃんが張り切ってたのが流れちゃうわけだけど、プレゼントとは別にお見舞いの品が二人からやたらと届く。生のフルーツと缶詰とかゼリーとかが多いとは言ってもセレブな逢坂家からでは格が違う。それは受け取らないと面倒だからって千晶がありがたくいただいて私に食べさせてくれる。多分、庶民には禁断の果実だと思う。
とにかく逢坂兄妹はなぜかやたらと私を可愛がってくれる。
あれ?おかしいな、何か違う気がするけど、考えると頭が痛くなる。だから、考えるのをやめる。こんな感じで私の頭は大混乱でグッチャグチャ。これが整理されないと熱は下がらないのかなって思う。
「ありがと、ちあき」
「ほんとそういうキノコ生えそうなのやめろ。さっさと寝ろ」
本当に感謝してるんだけど、千晶はぷいっと顔を背ける。キノコは生えないと思うけど、多分、照れ隠し。
こういう時、うちの弟は可愛いんだぞって思う。
そう、キノコなんて生えるはずがないと思ってた。この時までは――
人は『死ぬ』って簡単に言い過ぎだと思ってたけど、これは死んじゃうかもって思っても絶対おかしくない。安易じゃない。
頭は割れそうなくらいに痛む時があるし、平衡感覚を失ってグラグラで気持ち悪い。何しろ四十度近い熱が出るのは私――若林莉緒が十六年生きてきた中で初めてのこと。ううん、初めてじゃない。初めてじゃないから余計に混乱してる。
もう何日こうして意識が朦朧としてるかわからなってきた。でも、重病ってわけじゃない。不治の病とかじゃない。
「姉ちゃん、人間は風邪じゃ死なねぇから」
「死ぬよ!」
冷静に雑な慰めを言ってくるのは弟の千晶。とは言っても親が再婚同士でお互い連れ子だから血の繋がりはゼロ。
しかも、学年は一つ違っても私が早生まれだから生まれた年は同じでそんなの誤差だと言わんばかりに生意気盛りな弟。年々口が悪くなって『お姉ちゃん』とか可愛らしく呼んでくれないし、何度チビって言われたかわからない。確かに身長は百四十センチ台から伸びないし、出るとこも全然出ないし、まだまだこれからって言うには希望も遂に薄れてきた気がするけど……!
千晶も男として大きい方じゃなくて、どっちかと言えば可愛い系だけど、一緒にいれば私の方が妹だと思われる確率百パーセント。仲が悪いわけじゃないんだけどお互い微妙なお年頃的な。
「ツッコミする元気があるなら直に治るだろ」
風邪を侮ることなかれ。たかが風邪と見くびって悪化すれば死に至る。
マジで死にそうな気分の姉に対して塩対応だと思ったけど、思い返せばこの数日千晶は信じられないくらい私に尽くしてくれてる。これでもかってくらい。私が回復した時、千晶が倒れないか心配なくらい。元気になったら千晶が好きな物をいっぱい作ってあげよう。
この悲劇が起きたのは私の誕生日だった。パパとママは海外で仕事してて二人暮らし状態。
何だかんだ言いながらわざわざささやかな誕生日祝いの用意をしてくれたのに(多分パパとママに言われたんだろうけど)私が蝋燭の火を吹き消した瞬間にぶっ倒れたせいで全部台無しで献身的な介護と家事全部をするはめになった弟は普通に災難で可哀想なのかもしれない。明日明後日の週末の予定も早々とキャンセルしたって言ってたっけ。
「治ってくれねぇとあの兄妹がうるせぇから」
辟易したように千晶が言う『あの兄妹』って言うのは私と同じクラスの逢坂紫愛ちゃんと一つ年上の碧流先輩のこと。学校一の美形兄妹と噂されてる。しかも、それが誇張じゃないレベルのマジ美貌の兄妹。
紫愛ちゃんはミルクティー色のウェーブヘアと紫の瞳が素敵なマジ美少女。すらっとしてるのに出るとこ出てる完璧なプロポーション。マジ天使。自慢の親友。
碧流先輩はサラッサラのハニーブロンドに青い目が綺麗な少女漫画に出てくるような典型的な長身痩躯の王子様系イケメン様。しかも、これまた典型的なことに文武両道の生徒会長様。
二人で並ぶと王子様とお姫様みたいな美男美女カップルにしか見えない。うちと一緒で実は血が繋がってなくて、そういう境遇だからか私と紫愛ちゃんが仲良くなるのに時間はかからなかった。
そうして紫愛ちゃんのお家に招かれたりしてると碧流先輩と関わるのは必然で、なぜか兄妹揃ってうちに遊びに来たがったりして、来年度から高等部に通う千晶まですっかり面識があるという状況。
中等部でも有名らしいマドンナ紫愛ちゃんと知り合いとか絶対同級生に羨ましがられるし、プリンス碧流先輩とだって仲良くしてて絶対に損はないはずなのに千晶は目立ちたくないのか、嫌がってる。なぜか、とっても。
「ごめん……」
「悪いと思ってんなら早く元気になれよ。調子狂うっての」
使い物にならなくなった姉の代わりに元気な千晶は普段は当番制にしている家事の全てをこなしてくれる。千晶に感染するようなものじゃなかったのは不幸中の幸い?
その上、千晶は毎日お見舞いに来たがる紫愛ちゃんと碧流先輩の対応もしてくれてる。千晶曰くこれが一番の重労働で精神的苦痛を伴う物らしい。メールを打つのもしんどい私の代わりに千晶は大して変わらない私の状況を頻繁に発信しなきゃいけなくて「俺はマネージャーでも広報でもねぇ」ってぼやいてたっけ。
逢坂家の人間が経営する病院に入院させるとか医者を送るとかお手伝いさんを付けるとか大事になりそうなのも丁重にお断りしてくれたらしい。もしかして、この数日の千晶のストレス値、かなりやばい?
本当は明日、私の誕生日パーティーをするって紫愛ちゃんが張り切ってたのが流れちゃうわけだけど、プレゼントとは別にお見舞いの品が二人からやたらと届く。生のフルーツと缶詰とかゼリーとかが多いとは言ってもセレブな逢坂家からでは格が違う。それは受け取らないと面倒だからって千晶がありがたくいただいて私に食べさせてくれる。多分、庶民には禁断の果実だと思う。
とにかく逢坂兄妹はなぜかやたらと私を可愛がってくれる。
あれ?おかしいな、何か違う気がするけど、考えると頭が痛くなる。だから、考えるのをやめる。こんな感じで私の頭は大混乱でグッチャグチャ。これが整理されないと熱は下がらないのかなって思う。
「ありがと、ちあき」
「ほんとそういうキノコ生えそうなのやめろ。さっさと寝ろ」
本当に感謝してるんだけど、千晶はぷいっと顔を背ける。キノコは生えないと思うけど、多分、照れ隠し。
こういう時、うちの弟は可愛いんだぞって思う。
そう、キノコなんて生えるはずがないと思ってた。この時までは――
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