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第二章

侵食される日常 15

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「可愛い声、聞かせてくださいよ」

 晃の顔が近づいてきて甲にキスをされると紗菜は押し当てる手により力を込める。晃はその手を無理矢理引き剥がそうとはしなかった。

「キス、もうダメなんですか?」

 乞うような眼差しに心がグラリと揺れそうになるのは元来の性格のせいだろう。ねだられれば、どんなことであっても断れなくなってしまう。
 それでも紗菜は心を鬼にするように奮い立たせ、こくりと頷いた。

「口寂しいんです。もっともっといっぱいキスしたいです」

 晃は唇を尖らせるが、紗菜にとってはもう十分すぎるほど貪られた気分だった。あと何回すれば満足するというのか。否、前回のこともある。どれほどしても彼が満足するとは限らないのだ。

「唇がダメなら、指舐めてもいいですか?」

 晃の視線は指先に注がれている。少し顔が近づいてくるのを感じただけで紗菜は体ごと後ろへ逃げようとしてしまった。
 唇に比べれば問題がなさそうでありながら躊躇ってしまったのは指を見つめる瞳の熱っぽさに怯んでしまったのかもしれない。
 そんな一瞬の沈黙を晃は答えとして受け取ったようだった。

「なら、別のところにします」

 あっさりと諦めた晃だが、今度は拒否権などないようだった。腰に腕を回された腕には力がこもり、何をされるのかと身構えながら紗菜は胸元に顔を埋められるのを止めることができなかった。

「やっ……!」

 薄い布地越しに乳首に唇の熱さを感じて紗菜は逃れようともがくが無駄だった。舌が先端を突っつき、唾液が染みてくるのがわかった。

「あはっ、先輩の可愛い乳首透けちゃいましたね。凄くエッチです」
「変なこと、しないで……」

 晃が顔を上げると紗菜はその様を見たくなくてギュッと目を閉じた。溢れた涙がぽろりと落ちて、宥めるように頭を撫でられる。その優しい手つきに少なからず期待を抱いて目を開けてしまうのは無理もなかっただろう。
 だが、彼は紗菜の期待を裏切る男であった。

「片方だけは可哀想ですよね」
「うぅっ……やだからぁっ……!」

 今度は反対側に顔が寄せられる。紗菜は思わず晃を引き剥がそうとするが、抵抗も虚しく同じように濡れていくのがわかった。

「うん、本当にエッチで可愛いですね」

 どうすれば良いのかわからない内に顔を上げた晃は満足げで、紗菜はさっと顔を背ける。誉め言葉としては受け取れない。ただただ恥ずかしい、その一心だった。

「紗菜先輩が恥ずかしがるから残してあげたエプロンですよ? 一番大事な部分は隠してあげてるんですし、せっかくだから楽しまないと」

 晃の言葉はどことなく恩着せがましいが、紗菜が頼んだわけでもない。隠した意味がなくなっているとは思わないのか。
 何より紗菜がこんなことを楽しめるはずもないのだ。

「早くして……!」
「紗菜先輩って案外せっかちですか?」
「恥ずかしくて嫌なの……!」

 こんなことはもう早く終わりにしたい。紗菜はその一心だった。何と言われようと恥ずかしくてたまらないのだ。

「お互いのことを知っていけばもっとセックス楽しめるかもしれないですよ? 俺は紗菜先輩のこと、もっと知りたいです」

 そんな言葉に惑わされてはいけないとわかっていても、晃の言葉は不思議な魅力を伴う。楽しみたくなどないというのに、晃にはまるで伝わらない。
 彼にとってはセックスが全てなのだろう。紗菜には全く理解できないことだった。

「先輩はどこをどうされるのが一番好きなのか、どの体位が良いのか、ずっと考えてるんです。俺、先輩のことで頭いっぱいみたいですね。他の子にはなかったことですよ?」
「そんなの、知らない……もう十分でしょ……?」

 自分だけが特別であるかのように言われても嬉しくもない。
 写真を消してもらうだけのはずがどうしてこんなことになってしまったのか。消さない方が良かったのか。あの時はまさかこんなことになるとは思わずに、あんな写真があることが不安で仕方なかった。
 きっと、彼の罠にハマってしまったのだ。

「前に言ったじゃないですか。いっぱい声出して何度もイッてくれないと満足できないって」

 変な声を出したくはなかったし、絶頂するのも紗菜には恐ろしい感覚だった。
 それなのに、逃げることはできない。彼が本当に満足するかもわからないのに、貪られるだけなのだ。

「おっぱいも嫌なら残るは……」
「ひゃうぅっ!」

 するりと降りた手がエプロンの下から秘部に触れ、紗菜の体はビクリと跳ねる。
 下着越しに触れられた時よりも強い刺激が体を駆け抜け、クチュと鳴る音が先ほどよりも濡れていることを物語る。
 その手を止めることもできないまま、晃が足の間へと移動すると紗菜は足を閉じることもできなくなってしまった。

「やっ! やぁっ!」
「こんなに濡れてるのに、こっちも嫌なんですか? この後俺のチンポで擦るのに? あっ、指が嫌なんですかね? 俺のチンポ、早くほしいんですもんね?」
「ちがっ……」

 矢継ぎ早に問われて紗菜は思わず否定していた。
 そもそも、こうして触れられることが本当は嫌だった。早く終わらせてほしいが、紗菜自身が彼を求めているわけではない。

「早く早くって急かしたんだから違わないでしょう?」
「ぁぅ……」

 強い言葉に紗菜は反論できなくなって視線をさまよわせる。そこに晃がいるせいで俯くこともできなくなってしまった。
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