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第二章

侵食される日常 14

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「じゃあ、代わりに顔を舐め回しましょうか? 犬みたいにベロベロやってもいいですか?」
「やっ……!」

 いつか動物番組で観た光景が紗菜の脳裏を過ぎる。そうして晃に顔を舐められることが容易に想像できてしまった。
 晃も動物がすることだと認識しているのだ。人間の愛情表現としてはありえない。本気ではないと思いたいが、彼の考えることはわからないものだ。

「それとも……」

 一体何を言い出すのかと身構えた瞬間、晃の顔が近づいてきて紗菜はまたギュッと目を閉じてしまった。そうするべきではなかったのだろうが、思わずそうしていた。

「きゃっ……!」

 思いがけない感触に紗菜は信じられない気持ちで目を瞬かせる。
 ぱくりと頬を甘噛みされたのだと気付くのには時間を要した。まさかそんなことをされるとは完全に予想外だった。

「やっぱり紗菜先輩のほっぺ柔らかいです。もっとはむはむしてもいいですか?」

 紗菜がいやいやと首を横に振れば、さらりと髪を撫でられる。
 その意味がわからないまま紗菜は何も言うことができなかった。手つきは大事にされているのだと錯覚しそうになるほど優しいが、ここであっさりやめてくれるような男ではないのだ。

「残念ですけど……」

 そうは言うが、本当に残念がっているのか。
 案の定晃の口角がつり上がったのを見てしまった紗菜は過ぎる嫌な予感に逃げたい気持ちでいっぱいになる。
 食べられてしまうような恐怖を感じたのだが、逃亡を許さないように晃の腕がしっかりと回されている

「それなら、キスしていいですよね?」

 顔を舐められるのも頬を食まれるのも、キスと天秤にかければ、どちらが軽いかは明白のはずだった。
 それなのに、答えを出せない紗菜に対して後頭部に回された手は始めから答えを求めていなかったのかもしれない。

「んっ……」

 唇が重ねられて、それでも紗菜はこじ開けようとする舌を受け入れることができなかった。

「舌、出してくださいよ」
「ひゃっ」

 そんなキスをする必要があるのか。当惑している内にするりと耳を撫でられて紗菜は身を縮こまらせる。

「先輩、耳弱いですよね。可愛いお耳もはむはむしましょうか?」

 晃はまるでペットにでも触れているような手つきだが、紗菜としては弱点を攻められてどうすることもできない。これ以上のことをされたくはなかった。

「嫌ならお口開けてくださいね。あーん」

 まるで子供に言うことを聞かせようとするようだったが、紗菜はその手から逃れたい一心で小さく口を開く。追い詰められて正常な判断などできるはずもなかった。

「ん……ふぁっ……!」

 僅かな隙間から入り込んだ舌が口内を掻き回し、縮こまる舌を捉える。
 キスには上手い下手があると言うが、紗菜にはそれがわからない。呼吸のタイミングを与えてはくれるものの、上手くできるわけでもない。
 こんなキスを続けていたら頭がおかしくなってしまうのではないか。そんな恐怖さえ過ぎるが、背中をゾクゾクした感覚が駆け抜けるのは別の理由なのかもしれない。
 それでも紗菜に許されているのは甘受することだけだった。

「んっ……」

 紗菜が大人しくして受け入れているからか晃の手が不意に胸に触れる。薄い布地越しに大きな手の熱さを感じて引けた腰がまた引き寄せられて紗菜はどうすれば良いのかわからなくなってしまった。

「キスに集中してください」
「でも……んん!」

 ささやかな膨らみを優しく揉みしだかれて集中できるはずもないと言うのに、再び唇が塞がれては抗議などできるはずもなかった。
 ただ、されるがまま唇の端から垂れた唾液さえ舐め取られていく。

「んぁっ……! ふ、ぁっ!」

 指先がすっかり硬くなってしまった先端を掠め、下腹部に生まれる疼きに身を捩れば余計に面白がるように刺激が増える。
 そうして、とろりと奥から蜜が零れるような感覚にぶるりと震えた紗菜は気付かれないようにと祈っていた。早く終わらせてほしいと願いながらもキスと胸をいじられただけで濡れてしまっていることを知られたくなかったのかもしれない。

「本当にいい反応しますよね。可愛いですよ」
「ひぅっ……!」

 唇が離れて晃が笑えば、また先端に刺激が走る。何を言われているかを理解するよりも先に紗菜は思わず口を塞いでいた。これ以上は唇を守らなければならないような気がしたのだ。
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