27 / 42
第二章
侵食される日常 10
しおりを挟む
「好きでもないのに……」
紗菜がぽつりと呟けば晃の手がぴたりと止まる。しかし、抜け出すことはできそうになかった。
「俺のこと好きになればいいじゃないですか」
「私のこと好きなわけじゃないくせに」
晃は簡単に言うが、紗菜にとっては簡単なことではない。何より彼自身が本気で自分を好きなわけではないと紗菜はわかっている。友人達に見せたのは演技でしかない。彼は病的に人を騙すのが上手いのだ。
「先輩が俺のこと好きになってくれたら俺も好きになるんじゃないですかね? 先輩可愛いし、料理上手だし、エッチの相性もいいし」
可愛い女の子は大好きです――そう言った彼の『可愛い』には大して意味がないことも紗菜は知っている。舞い上がりもしないし、最後は紗菜にとって喜べる理由ではない。
「あっ、もしかして、先輩じゃないと興奮しなくなったのって、先輩に一目惚れしちゃったってことですかね? もしかして、俺、先輩に夢中ですか?」
不意に気付いたように晃は言うが、紗菜に聞かれても困ることだった。彼にしかわからないことだ。
だが、晃は本当に不思議そうで、こればかりは冗談で言っているのではないのかもしれなかった。
「ちゃんと恋したことないの……?」
本当にわからないのかもしれない。そう思ったからこそ紗菜は恐る恐る問いかけてみる。
紗菜には恋愛がわからないが、晃は経験豊富なはずだった。あるに決まっている、そんな答えが返ってくるはずだった。
「あっ、俺のこと気になっちゃいました?」
真面目に聞いたつもりだったが、茶化すような声が紗菜にはショックだった。また演技に騙されてしまったのだろうか。同情を引く作戦にまんまとはまってしまったのかもしれない。
「俺を夢中にさせた責任とってくださいよ」
「……ひゃうっ!」
何も言えずに黙りこくった紗菜に焦れたのか、晃の手が再びいやらしく動き始める。不意を突かれてはどうすることもできない。その手をつねってみても無駄だった。
「これだけ敏感だったら乳首だけでイケるようになるんじゃないですか? 試させてくれません?」
「今日は絶対しないからぁっ……!」
晃が言うことを紗菜は全て理解できるわけではないが、簡単なことではないのだと察することはできた。
だから、今度こそ彼の言いなりにはならない。そんな意思を紗菜ははっきりと示したつもりだった。
「生理ですか? もしかして、おっぱい触ると痛いですか?」
不意に止まった手に紗菜は戸惑う。様子を窺うような声音に混乱する。本当に心配しているのだろうか。
「違う、けど……」
「ははっ、先輩は正直ですね。いい子です」
咄嗟に答えてしまった瞬間に笑われて紗菜ははっとする。正直者が馬鹿を見るのか。嘘でもそうだと言ってしまえば今日はもう触れられずに済んだのかもしれない。だが、その場しのぎは自分の首を絞めることになるだろう。
結局、彼の手に翻弄されることしかできないのか。
「大切な彼女の体のことはちゃんと知っておきたいですから」
「したいだけでしょ……?」
あまりの白々しさに紗菜は最早呆れることもできなかった。彼の気遣いは全てセックスをするためのものでしかないのだ。
「だって、しょうがないじゃないですか。エッチ大好きなんですから」
「ひぁっ!」
悪びれることなく言い放つ晃の指に胸の先端を擦られるだけで紗菜の体にはむず痒いような刺激が走る。不快だとも言い切れないが、こんなことを好きになれるとは思えない。紗菜にとっては後ろめたさを感じる行為を恥ずかしげもなく言い放つ晃はまるで宇宙人だった。自分の常識がまるで通用しないのだ。
「大好きな事を共有したいって思うのは先輩のことを好きな証じゃないですかね? 俺が大好きな事を先輩にも大好きになってほしいです。そうしたら凄く嬉しいです」
「なりたく、ないっ……!」
快楽を求めるだけのセックスを好きになることは紗菜には堕落にしか思えず、耐え難いことだった。彼に都合の良い解釈でしかなく、押しつけにすぎない。心の底からそうはなりたくないと思うからこそ必死に首を横に振ったが、晃に理解されるはずもなかった。
紗菜がぽつりと呟けば晃の手がぴたりと止まる。しかし、抜け出すことはできそうになかった。
「俺のこと好きになればいいじゃないですか」
「私のこと好きなわけじゃないくせに」
晃は簡単に言うが、紗菜にとっては簡単なことではない。何より彼自身が本気で自分を好きなわけではないと紗菜はわかっている。友人達に見せたのは演技でしかない。彼は病的に人を騙すのが上手いのだ。
「先輩が俺のこと好きになってくれたら俺も好きになるんじゃないですかね? 先輩可愛いし、料理上手だし、エッチの相性もいいし」
可愛い女の子は大好きです――そう言った彼の『可愛い』には大して意味がないことも紗菜は知っている。舞い上がりもしないし、最後は紗菜にとって喜べる理由ではない。
「あっ、もしかして、先輩じゃないと興奮しなくなったのって、先輩に一目惚れしちゃったってことですかね? もしかして、俺、先輩に夢中ですか?」
不意に気付いたように晃は言うが、紗菜に聞かれても困ることだった。彼にしかわからないことだ。
だが、晃は本当に不思議そうで、こればかりは冗談で言っているのではないのかもしれなかった。
「ちゃんと恋したことないの……?」
本当にわからないのかもしれない。そう思ったからこそ紗菜は恐る恐る問いかけてみる。
紗菜には恋愛がわからないが、晃は経験豊富なはずだった。あるに決まっている、そんな答えが返ってくるはずだった。
「あっ、俺のこと気になっちゃいました?」
真面目に聞いたつもりだったが、茶化すような声が紗菜にはショックだった。また演技に騙されてしまったのだろうか。同情を引く作戦にまんまとはまってしまったのかもしれない。
「俺を夢中にさせた責任とってくださいよ」
「……ひゃうっ!」
何も言えずに黙りこくった紗菜に焦れたのか、晃の手が再びいやらしく動き始める。不意を突かれてはどうすることもできない。その手をつねってみても無駄だった。
「これだけ敏感だったら乳首だけでイケるようになるんじゃないですか? 試させてくれません?」
「今日は絶対しないからぁっ……!」
晃が言うことを紗菜は全て理解できるわけではないが、簡単なことではないのだと察することはできた。
だから、今度こそ彼の言いなりにはならない。そんな意思を紗菜ははっきりと示したつもりだった。
「生理ですか? もしかして、おっぱい触ると痛いですか?」
不意に止まった手に紗菜は戸惑う。様子を窺うような声音に混乱する。本当に心配しているのだろうか。
「違う、けど……」
「ははっ、先輩は正直ですね。いい子です」
咄嗟に答えてしまった瞬間に笑われて紗菜ははっとする。正直者が馬鹿を見るのか。嘘でもそうだと言ってしまえば今日はもう触れられずに済んだのかもしれない。だが、その場しのぎは自分の首を絞めることになるだろう。
結局、彼の手に翻弄されることしかできないのか。
「大切な彼女の体のことはちゃんと知っておきたいですから」
「したいだけでしょ……?」
あまりの白々しさに紗菜は最早呆れることもできなかった。彼の気遣いは全てセックスをするためのものでしかないのだ。
「だって、しょうがないじゃないですか。エッチ大好きなんですから」
「ひぁっ!」
悪びれることなく言い放つ晃の指に胸の先端を擦られるだけで紗菜の体にはむず痒いような刺激が走る。不快だとも言い切れないが、こんなことを好きになれるとは思えない。紗菜にとっては後ろめたさを感じる行為を恥ずかしげもなく言い放つ晃はまるで宇宙人だった。自分の常識がまるで通用しないのだ。
「大好きな事を共有したいって思うのは先輩のことを好きな証じゃないですかね? 俺が大好きな事を先輩にも大好きになってほしいです。そうしたら凄く嬉しいです」
「なりたく、ないっ……!」
快楽を求めるだけのセックスを好きになることは紗菜には堕落にしか思えず、耐え難いことだった。彼に都合の良い解釈でしかなく、押しつけにすぎない。心の底からそうはなりたくないと思うからこそ必死に首を横に振ったが、晃に理解されるはずもなかった。
0
お気に入りに追加
156
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】Mにされた女はドS上司セックスに翻弄される
Lynx🐈⬛
恋愛
OLの小山内羽美は26歳の平凡な女だった。恋愛も多くはないが人並に経験を重ね、そろそろ落ち着きたいと思い始めた頃、支社から異動して来た森本律也と出会った。
律也は、支社での営業成績が良く、本社勤務に抜擢され係長として赴任して来た期待された逸材だった。そんな将来性のある律也を狙うOLは後を絶たない。羽美もその律也へ思いを寄せていたのだが………。
✱♡はHシーンです。
✱続編とは違いますが(主人公変わるので)、次回作にこの話のキャラ達を出す予定です。
✱これはシリーズ化してますが、他を読んでなくても分かる様には書いてあると思います。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
【R18】隣のデスクの歳下後輩君にオカズに使われているらしいので、望み通りにシてあげました。
雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向け33位、人気ランキング146位達成※隣のデスクに座る陰キャの歳下後輩君から、ある日私の卑猥なアイコラ画像を誤送信されてしまい!?彼にオカズに使われていると知り満更でもない私は彼を部屋に招き入れてお望み通りの行為をする事に…。強気な先輩ちゃん×弱気な後輩くん。でもエッチな下着を身に付けて恥ずかしくなった私は、彼に攻められてすっかり形成逆転されてしまう。
——全話ほぼ濡れ場で小難しいストーリーの設定などが無いのでストレス無く集中できます(はしがき・あとがきは含まない)
※完結直後のものです。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる