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カエルよりましだけど呪いが解けません-2

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(また、だめ……)

 唇を離して、変わらぬその顔を見て、今更落胆することもないと思っていたが、気持ちは隠せない。先に溜息を吐いたのはヒューゴの方だった。
 彼は何も言わないが、また無駄な時間を過ごしてしまったと思っているだろう。

「何がいけないんでしょうか……」

 やはり自分は聖女ではないのか。
 頭の中で誰かの『役立たず』という声が聞こえる気がした。
 ヒューゴには文句を言えるようにもなったが、それ以外には萎縮してしまう。周囲はアンに聖女の偶像を見ているのだ。

「予言には不確かなことも多い」

 それは彼なりの慰めのつもりなのか。
 アンが召喚されることになった原因の予言は神託だと言うが、疑問視する声も出始めている。別の解釈があるのではないかと言われている。彼が呪いを受けてからアンが召喚されるまでにも時間がかかった。だから、異能を持つ女を神の祝福を受けた聖女として集めたりもしたのだ。
 アンから見ればファンタジーの世界だが、この世界では魔法はほとんど存在しないらしい。稀に精霊に愛された者がいるくらいだと言う。
 剣が物を言い、ヒューゴもまた優れた剣の使い手だったと言う。しかし、片目では不自由するだろう。

「今はその時ではないのかもしれない」

 本当は彼も焦っているのかもしれない。タイムリミットは刻々と近づいている。第二王子が成人する前に呪いが解けなければ彼は王位を継げなくなる。呪いがある限り彼は死ぬ運命なのだから。
 それを聞いて救いたいとは思ったが、ままならないことはあるものだ。想いだけではどうにもならない。

「他の方法を試してみるか?」
「え……?」

 思わぬ提案にアンはパチパチと瞬きをする。
 そんなものがあるのだろうか。ずっとこれが唯一の方法だと信じてきたというのに。彼もあらゆる手段を講じて、どうにもならなかったというのに。

「お前の世界の話があっただろう? 姫が王子の口づけで目覚めるとかいう」

 初めの頃、ヒューゴと対面するとアンはひどく緊張していた。あまりに気まずくて紛らわそうと饒舌になって一方的に色々な話をした。ヒューゴはうるさそうな顔をしていたが、聞いていたのか。
 似たような話はこの世界にもあるらしかったが、ヒューゴは興味がないと言い切っていたはずだった。

「えっ……ん……!」

 頤が持ち上げられて唇が触れ合うまではあっという間だった。
 そうして離れていくのもまた一瞬だったのかもしれない。

「無駄だったか」

 そう言い放たれた瞬間アンの中で何かが切れる音がした。
 怒りなのか、悲しみなのかわからない感情が爆発して、パンッと乾いた音が響いた。

「ファーストキスだったのに……!」

 唇にする必要はないと言われていたのに、こんな風に簡単に奪われるとは思いもしていなかった。
 好意を抱かれているわけでもない。自分のことを呪いを解く道具としか思っていないような相手に。

「貴様……」

 低く唸るような声にビクリとして、アンは自分がしてしまったことに気付く。
 ヒューゴの頬が赤くなっている。とっさにビンタしてしまったのだ。事もあろうに、王子の頬に紅葉マークをつけてしまった。
 こうなってしまったら、やることは一つである。アンが知る最上級の謝罪スタイル――土下座である。

「も、申し訳ございません! こ、殺さないでくださいぃぃぃぃっ!」
「おい!」

 床に額をすり付け、それだけでは足りないかと打ち付けようとした時、肩が掴まれた。

「何の真似だ」
「我が国に伝わる一番の謝罪方法です。あっ……一番じゃないかも……切腹! ここはもう腹切りしか……!」

 処刑されるのかもしれない。結局、行き着くところはもう死だけなのかもしれない。
 あまりに短い生涯だった。死を直感した時にこの世界に召喚され、こうも早く二度目の死を迎えるとは思いもしなかった。

「こんなことしなくていい」
「ゆ、許してくださるのですか……?」

 これまで王子を王子と思わないような適当な態度をとっていたというのに、下手に出るのは滑稽なものだ。しかし、自分の命がかかっているのだから仕方がない。

「光栄だと思わないのか」

 普段から仏頂面をしているのだから怒っているのかどうかはわからないが、言い放たれた言葉にアンはもう一度自分の中で何かが切れる音を聞いた。

「……この、傲慢俺様ナルシストクソ王子!」

 今度は手を上げることなく、そう吐き捨てて、アンは部屋を飛び出した。
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