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変態の家族も変態でした

私だって怒ります

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「一言で言うと、そうだな……りりちゃんしか知らない清い体とは言えないけど、噂ほどじゃないんだ……信じてほしい」

 懇願するように竜也君は言う。
 あくまで噂は噂ってこと?
 でも、竜也君はいつも女の子に言い寄られてるし、何を言ってるかしらないけど、キャーキャー聞こえる。女の子達喜んでる。そして、由真ちゃんの舌打ちが増える。
 何か訳がありそうだけど、その辺りはまだ言いたくないのかもしれない。
 あるいは長くなるのかもしれないし、生々しくなるのかもしれない。私だって、そこまで詳しく聞きたいわけじゃない。
 噂は竜也君にとっては不本意なものなのかもしれない。

「最近はりりちゃんでしか勃たないから、信じてほしい。他の女の子となんてしてないよ。浮気は絶対しないから」

 必死に訴えてくるけど、別に私は他の女の子との関係を疑ってるわけじゃない。
 できることなら他の女の子のところに行ってほしい気持ちもある。
 私でしか……って言われても困る。凄く、困る。
 好きな人に言われたら嬉しいのかもしれないけど、まだ私の気持ちは竜也君にいってない。だから、正直ちょっと気持ち悪い。

「性欲が強いのは否定できないんだけど、本当にりりちゃんでしか抜いてないから。りりちゃんにとって俺が最初で最後の彼氏だから、俺にとってもりりちゃんが最後の彼女だよ」

 凄く必死な様子で竜也君が早口に訴えてくる。
 私のことについては勝手に決めないでほしいけど、竜也君が泣きそうに見えたのと怖いのとで反論なんてできなかった。
 竜也君、情緒不安定なの忘れてた……昨日泣きつかれたんだった。あれは怖い。

「信じるから……」
「ありがとう」

 信じないなんて言えるはずもなく、上辺だけの言葉を吐いた私を竜也君はふわっと笑って抱き締めてきた。
 それから、おでこにキスされた。唇じゃないからいいような、良くないような……

「ごめんね、りりちゃん。ちょっとトイレ行ってくるね」

 それ以上は話したくないみたいに竜也君は私を下ろして、頭をぽんぽんしてベッドから降りた。
 さりげなくて、頭ぽんぽんに憧れてたわけじゃないけど、うっかりキュンとしかけた。やばい。

「りりちゃんが見てくれるなら、ここで抜くけど」

 ドアまで行ったところで竜也君は呆然とする私を振り返った。
 引き留めるのを期待してた?
 いや、言われなければ抜きに行くなんて思わなかったよ?

「見ないもん! 早く行って!」
「わかった。すぐ戻ってくる!」
「すぐじゃなくていい!」
「その辺の漫画とか勝手に見てていいから!」

 投げる物があったら投げたかった。戻ってこなくていいっていうか、帰りたい。
 でも、竜也君は笑って出て行った。



 しばらくして戻ってきた竜也君は何かすっきりしたような顔してる。
 何をしに行ったかはわかってるから絶対に触れるべきじゃない。
 無視が一番。絶対にじっと見ちゃいけない。

「せーし、いっぱい出たよ」
「いやーっ! 聞きたくなーいっ!!」

 慌てて耳を塞いでも遅いのはわかってたけど、そうせずにはいられなかった。
 語尾にハートマーク付きそうな勢いで報告しないでほしい。
 そんなこと知りたくない!
 この残念すぎるイケメンどうにかしてほしい。

「りりちゃん、寂しくなかった? 大丈夫だった?」

 急に心配そうな顔になって竜也君が聞いてくる。
 竜也君は私をウサギだと思ってるらしいけど、別に私はウサギ系女子じゃない。
 寂しくても死なないし、一人は全然平気。むしろ束の間の平穏を噛み締めた。

「大丈夫だよ……?」

 下手なことを言うとこのイケメン怖いから弱めに言ってみる。
 寂しかったって言ってほしいのかもしれないけど、嘘でも言えないから。

「漫画、りりちゃんが好きなのなかったかな?」
「そ、そんなことないよ! いっぱいあって悩んじゃうし……」

 何となくレオン様のフィギュア見たり、ちょっとスマホを見たりしてた。

「え、俺がりりちゃんのこと想ってた間、りりちゃんは他の男のこと考えてたの?」

 急に怖くなった! やっぱり回避できなかった!
 なぜ、バレた……?

「ちょっと見ただけだよ!」
「やっぱり、りりちゃんが来る時はしまっておこうかな……」

 あっ、レオン様が再びクローゼットに封印されちゃう……!
 自分の持ち物に嫉妬しないでほしい。イケメン面倒臭い。

「ちゃんと竜也君のことも考えてたよ!」
「本当?」

 じーっと竜也君が私を見る。その目は疑ってらっしゃる……?

「リュウ君からのリプ見てたから……」

 これも本当。改めて竜也君だと思って見ると違うのかなと思った。

「そっか、俺とのメモリーに浸っててくれたんだね。だから、寂しくなかったんだね」

 ふにゃっと顔が緩んで笑顔になった。良かった良かった。そういうところは単純だった。
 でも、私には待ってる間にこみ上げてきた怒りがあったんだった。全然良くない。

「ねぇ、竜也君」
「なぁに? りりちゃん」

 たった一言で上機嫌になった竜也君の言葉は何だか甘ったるかった。語尾にハートマークっていうか、周りにハートが乱舞してるんじゃないかってくらい。
 だから、私の声が低くなったことに気付いていないのかもしれない。

「竜也君がリュウ君ってことは知ってたよね?」
「りりちゃんのことなら色々知ってるけど……」
「私がストーリー読むの好きで乙女ゲームやってて、フルコンプするのに必死になってたことも!」

 ヤリチンモードでも竜也君は竜也君。ドS入っても鬼畜でも竜也君。言葉責めでオタクいじりしてきたのは竜也君。
 リュウ君の正体を知って、きっとそういうことだと思ってたけど、思うほどに怒りがふつふつと沸いてきて、これだけはぶつけておかなきゃいけない気がした。

「二次元が恋人じゃないことも! そこまでオタクじゃないことも! 全部!」

 私は怒り爆発なのに、さっと目を逸らされた。

「自分の方がよっぽど沼にどっぷりのオタクのくせに!」
「いや、俺、りりちゃんに突き落とされたようなものだし……」
「勝手に飛び込んだんでしょ!」

 軽率に手を出して乙女ゲーム沼に落ちたのが実は私をストーカーする課程でのことだったって知っても、それは私のせいじゃない。私は直接手を下していない。
 勝手に落ちて沼から出られなくなったのは私のせいじゃない。多分、影本家の血のせいなんだと思う。

「ごめん、りりちゃん……りりちゃんをいじめられる貴重なチャンスだと思って、悪ノリした……ほんとごめん」

 白状した!
 でも、竜也君は謝ってるのに、こっちを見ない。後ろめたいから?

「謝るなら、こっち見て! 変なこといっぱい言われて怖かったんだから!」

 もうやけくそだった。溜まりに溜まったものが爆発したみたい。
 ずっと怖くて言いたいことも言えなかったのに、一度溢れてしまえば止められない。

「りりちゃんの目が据わってる……でも、可愛い」
「私は怒ってるの!」
「怒ってくれるのが嬉しくて……ほんと可愛い」

 やっと見たと思ったら、また顔が緩んでる。私は怒ってるのにヘラヘラして許せない。
 確かに私が怒っても怖くないかもしれないけど!
 すぐ竜也君はそうやって可愛い可愛いって言う。
 でも、騙されない。イケメンの言葉に惑わされない。舞い上がらない。
 竜也君は一回眼科に行くべきだと思う。

「ごめんごめん、来週埋め合わせするから許して!」

 また来週餌付けするつもりなのかもしれない。
 けど、そうはいかない。

「もう私のこといじめない?」

 じっと見れば、竜也君は私を見たまま固まった。
 何も言ってくれない。

「何で黙るの!?」

 どうして、そこで「うん」って言ってくれないんだろう?
 もういじめないよ、って優しく言ってくれれば少しは気持ちもぐらついたかもしれないのに。

「ごめんごめん、ほんとごめん。りりちゃん可愛い大好き! 来週楽しみにしててね!」

 不意打ちでほっぺにキスされて、頭が真っ白になってごまかされた。
 そして、私には来週の約束が重くのしかかってくるのだった。全然楽しみじゃないなんて言えない……
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