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変態のピンチ 解決編?

気まずいランチはもう結構です

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 ふみちゃんと萌花ちゃんの喧嘩を仲裁したからって全てが良くなるわけじゃない。
 これまでのことを謝って和解したわけじゃない。仲直りなんてしてない。元々、仲が良かったわけでもないし……萌花ちゃんが改心しない限り無理。
 ただクッキー事件で周りに迷惑をかけたことを渋々謝罪しただけ。
 竜也君のことだってなかったことにはならない。
 そんなことはわかってたけど、やっぱり孤立してる竜也君を見ると胸が痛むし、イライラする。

 それでも私達は教室で昼食をとれるくらいに落ち着いて、今日もふみちゃんを待ってるはずだった。

「離せ! 離せって!」

 そんな声がする方を見れば、いつの間にか教室から消えてた竜也君がなぜかふみちゃんに引っ張られてくるところだった。
 何でそんなことになってるのか全然わからない。お願い、説明プリーズ、ふみちゃん!

「だから、離せって!」

 竜也君はふみちゃんの手を振り解こうとしてたけど、多分本気は出せてない。女の子だから? 私の大事な友達だから?
 ふみちゃんは半ば引きずるみたいに竜也君を連行してくる。これには由真ちゃんも唖然。

「ふ、ふみちゃん……?」
「バレちゃったなら、一緒に食べようよ!」

 ぐいぐいと竜也君を無理矢理連れてきたふみちゃんは無邪気な笑顔。悪意ゼロ。
 でも、そういう問題じゃない。そう言えば、竜也君にメッセージを無視されてるって、ふみちゃんに言ってなかったかも……
 いやいや、ふみちゃんがこんな暴挙に出るなんて思わなかった。

「いや、意味わかんねぇから」

 それでも竜也君はキャラを作ってる。普段見慣れてた方のイケメンヤリチンチャラ男の竜也君。由真ちゃんに言わせれば、うぇーいだけで会話できる男。

「一緒にいない方が意味わかんないよ!」

 臆さないふみちゃんは将来大物になるかもしれない的な。強い……そして、怖い。
 部長も何するかわからなくて怖かったけど、ふみちゃんも怖い。ふみちゃんの行動力怖い。

「ふみはみんな幸せがいいの! 昨日、幸せにしてもらったから、今日はふみが凛鈴ちゃんを幸せにするの!」

 いや、ふみちゃん、お願いだから、一度でいいから由真ちゃんの顔を見て! 幸せな顔じゃないから! 由真ちゃんは竜也君がいると幸せ逃げちゃうから!
 そもそも私達、ふみちゃんが思うようなラブラブカップルじゃない……
 それに、ふみちゃん、いつまで経ってもお買い物に行けないのは竜也君のせいなんだよ?
 私は何も言えないし、竜也君は逃げられないし、ふみちゃんは譲らないしで、由真ちゃんが深い溜息を吐いた。マジで由真ちゃんの幸せ逃げちゃう……

「影本、とりあえず、座ってくれない? 凛鈴がご飯食べれなくなる前に」

 折れたのは由真ちゃんだった。
 由真ちゃんが声をかけて、そっちを見る竜也君。
 二人の間で密約が交わされていただけに微妙な空気。睨み合い?
 由真ちゃんが竜也君を追い払わないなんて意外だけど、この胃がギシギシする状況が続くとご飯食べられなくなるのは間違いない。

「そうなったら人の言うこと聞かないわよ、その子」

 由真ちゃんが示すのはふみちゃん。
 そうだった、ふみちゃんはこうと決めたら一直線なところがある。竜也君が折れない限りこの状況は続く。

「早く早く!」

 バンバン机を叩くふみちゃん。
 三人の中でリーダーは由真ちゃんのように思われがちで、実際一番姉御って感じだけど、ふみちゃんにたじたじってこともある。


 そうして始まった四人での昼食はあまりに気まずすぎた。
 最近何度か気まずい昼食会があったけど、一番じゃないかってくらい気まずい。だって、私の斜め前に座らせれた竜也君がこの期に及んで無視してくる。こっちを見ようともしない。
 むかむかむか……
 由真ちゃんはいないことにしようとしてるみたいだけど、ふみちゃんは一生懸命話を振って、会話が成立しなくなる。
 あくまで元カノの親友に無理矢理誘われて気まずい昼食会をしてる体?

 ……やっぱり納得できない。
 どうして、その可能性がわかっていたのに私には『心配も迷惑もいっぱいかけてごめん。でも、大丈夫だから。安心して』とか言ったの?
 今、物凄く心配だし、はっきり言って迷惑すぎるし、全然大丈夫じゃないし、安心できないのに。

「あっ、待って!」

 ふみちゃんの慌てた声にどこかに飛びかけてた意識を引き戻されれば、竜也君が席を立ったところだった。
 伸ばしたふみちゃんの手は竜也君には届かずに竜也君は背を向ける。
 どうやら竜也君はさっさと食べ終わってしまったらしい。そして、もう用は済んだと言わんばかりに立ち去る。
 こっちは竜也君が心配でご飯が喉に詰まりそうだし、考えすぎて箸をつけられないのに!
 ああ、もう我慢ならないっ!

「待ってって言って、わわっ!」

 気分は助走をつけてのドロップキックだったのに、現実は悲しいことに、まさかのドジっこ発動。躓いて転ぶ! そう思った瞬間だった。
 私を待ってたのは床の衝撃じゃなかった。

「あ、あれ……?」

 私、受け止められた? 誰に?
 いや、怖い。見るのが怖い。

「り、りりちゃんが俺の胸に飛び込んできてくれた……!」

 やっぱり竜也君だった!
 いや、お前の背中に跳び蹴りかましたい気分だったけどな!
 お前が勝手に受け止めたんだけどな!

「えへっ……事故だからいいよね」

 それは私がよく知ってる感じの竜也君でぎゅーっと抱き締められたかと思えば、クンクン、スーハースーハー……

「やっ、やめろぉぉぉぉぉっ!」

 じたばた暴れて足を踏み、頭突きして、どうにか距離をとって、見えちゃったのはへにゃあっと緩んだ竜也君の顔だった。
 クラスのみんなの前で匂い嗅がれるとか恥ずかしすぎて辛いのに、竜也君はヘラヘラしすぎ。ムカつく。

「竜也君のバカー! バカバカバカバカ! バーカッ!」

 小学生かよ、ってツッコミなんか聞こえない。
 バカって言った方がバカとか知らない。それこそ小学生が言うこと。
 だって、竜也君はバカ。大バカ。勉強はできるかもしれないけど、頭おかしい。思考回路が理解不能。

「はわわ、りりちゃん、落ち着いて! 可愛いけど、落ち着いて! でも、その前にムービーを、はわわぁっ!」
「お前が落ち着けー!」

 スマホを出した竜也君だけど、慌てたせいか落としそうになって更に大慌て。
 完全に家で見せる方の竜也君。変態でオタクな竜也君。
 いや、私だって現実で「はわわ」は言わない。絶対に。

「だって、りりちゃんが! りりちゃんが!」
「私のせいにするなー! 竜也君は勝手すぎなの! 無視したくせに! 無視したくせにー! どれだけ心配したと思ってるの!?」

 もう泣きたい。クラスメートの前だとかどうでもいいから泣きたい。思いっきり「うわぁぁぁん」って泣きたい。
 意味わかんなすぎる。だって、悪いのは全部竜也君なのに。

「りりちゃん……! ふぇぇぇぇん!」
「どさくさに紛れて抱きつくなー!」

 お前が泣くな!
 抱きつこうとしてくるのを腕を突っ張って阻止。
 そして、攻防の末に竜也君は諦めたみたいだった。

「えへへ、俺のこと心配してくれてありがとね」

 落ち着いたように見せかけて、照れ臭そうな竜也君。何かもうへにゃへにゃ。
 何で一人だけ幸せそうなんだろう?

「竜也君がキレて氷河期が来ないか超心配だったんだけど」
「えっ」
「竜也君は大丈夫って言ったけど、学級崩壊とかやだし」

 キレると怖すぎる竜也君。心配だったのは、どっちかと言えば被害が甚大になりそうだから。

「りりちゃんは俺よりクラスメートが心配なの?」

 やばい、ヤンデレモードくる……!
 竜也君一人をとるって言えるような愛情があるかと言えば微妙なわけで。
 何も知らないクラスメートまで恐怖のどん底に突き落とされるとか可哀想すぎる。
 でも、何も言えなくて、どうしようかと思った時だった。

「凛鈴、いい加減ご飯食べなさい!」

 由真ちゃん……!
 助かった。マジで助かった。
 ママ化しちゃってるけど、竜也君より怖くない。

「りりちゃん、あーんしてあげるね」

 ニコニコ笑顔の竜也君。ヤンデレモードは去った……?

「いらない!」
「じゃあ、俺のお膝に」
「乗らない!」

 思わず言っちゃったけど、竜也君はシュンとしただけだった。
 ここで私が引き金を引いて氷河期とかまずすぎる。ふみちゃんも巻き込んじゃう。
 いくら由真ちゃんがいるとは言っても発言に気を付けなきゃって思うのに、竜也君は一人で幸せそう。

「じゃあ、りりちゃんがモグモグしてるところ見てる」
「見るな!」
「ムービーに」
「撮るな!」

 調子よすぎじゃ、ボケぇぇぇぇぇっ!
 全力で叫びたい。みんなの迷惑とか省みずに叫びたい。

「あんたはハウス!」

 由真ちゃんは言ってくれたけど、竜也君は「りりちゃんの側が俺のハウス」と言ってきかなかった。辛い。
 結局、ご飯はどこに入ったかわからなかった。辛い。
 どうやらこの時から変態カップルとして認識されてしまったらしい。辛い。
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