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4、狙われたのは
Ⅱ
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「少佐!」
「こっちにもいる。ああくそ。盗賊どもは?」
「それが、散ってしまって……」
「……」
広場で一度合流した三人と口々に現状を報告し合ってレオンが目を細めた。
適当な盗賊をいたぶって目的を割ったという報告は、明らかにレオンの首を狙っているもので、それだけでレオンはこの襲撃が命令に背くレイスに見せしめをするための物であることを見抜いた。余計な犠牲者が増えたのだとなじるつもりだ。と彼らにつぶやくと、彼らは顔色を変えた。
「そんなことが許されると……っ」
「思わん。反吐が出るやり方だ。だから、我々は母につかなかったんだ」
わっと沸く部下たちを抑え込むように低い声音で言ったレオンは、あたりを見回して、救助が終わり後は見かけた盗賊を追い回しにかかっている村人の様子を見て静かにため息をついた。
「俺が狙いなら、俺が動き回ればいい。引きつけておくから、彼らの退避を最優先で」
「しかし」
「いいね」
押しを強くいったレオンに、うっと言葉に詰まった二人はうなずく。このまま村人の犠牲者を増やせば敬愛する上官の首を絞める結果が見えているからだ。命令より軍人としての果たすべき役割が重いと、彼らが判断した結果だった。満足げにレオンはうなずいて、うなずかなかったもう一人に目を向ける。
「俺はもうちょっとあんたのそばにいていい?」
「男に言われるのは少し気持ち悪い」
「少し?」
「かなりだな」
緊張感のないやり取りに二人があきれた顔をするのをみて、レオンは顔を見合わせて笑った。村人は、燃える家をよけて村中を走り回っている。煙もずいぶんと回って息苦しさを覚えるが死ぬことはないだろう。
「さあ。いけ! 建物の中にいる可能性もある。救助の軍人であることを明かして、二人じゃ手間だろうが、頼む」
「はっ」
敬礼を返して広場から一軒一軒の確認に移った二人の背中を見やって、レオンは深くため息をついた。
「俺が狙いって、本当に確信があるの?」
敬語も何もないレイスの部下の一人に、レオンは肩をすくめて潜んでいる影を見やる。
「まあな。一人、見知った顔がいる」
「……見知った?」
「ああ」
全員をおびき寄せるのにはどうしようかと頭を巡らせたレオンは、ふと思い当りにやりと笑った。
「お前、声でかいよな?」
「え? まーそりゃあ、こんなところにいるし?」
「じゃあ、さっき割ったらしい俺の首の値段いいながら村中をマラソンしてこい。居場所はあそこの袋小路だ」
「はあ? 首の値段?」
「俺が特大の餌になるんだよ。盗賊どもひとところにまとめておいたほうが取り締まりも楽だろ」
袋小路におびき寄せてやるよ。と笑うレオンに男はその袖を引いた。
「死ぬの?」
「いいや。そんな予定はない」
冗談めかして肩をすくめて見せると男は呆れたように顔をゆがませた。
「無茶だなあ。ほんと」
「無茶ぐらいがちょうどいいって聞いたことないか?」
「うちの上官もよく言うわー。ほんとやめてほしいよねえ」
「お袋の言葉だ。それで総帥まで」
「本当に女性の股から出てきたの? あんたら」
ひどい言い草にレオンはからからと笑ってあたりを見回した。
「いろいろ胎の中に忘れてきたのは自覚してるさ」
「ハッ。んで、なんだっけ? お買い得叫びながら俺はマラソン?」
「ああ。そのあと、ジルの誘導を助けてくれ。あいつ独りじゃ心もとない」
「あー、うん、そうだね。分かった……。死ぬなよ」
「ったりまえだ」
そう言って、村の外から金がほしい盗賊たちをおびき寄せるために、彼は一度村の外へと走り出した。
「こっちにもいる。ああくそ。盗賊どもは?」
「それが、散ってしまって……」
「……」
広場で一度合流した三人と口々に現状を報告し合ってレオンが目を細めた。
適当な盗賊をいたぶって目的を割ったという報告は、明らかにレオンの首を狙っているもので、それだけでレオンはこの襲撃が命令に背くレイスに見せしめをするための物であることを見抜いた。余計な犠牲者が増えたのだとなじるつもりだ。と彼らにつぶやくと、彼らは顔色を変えた。
「そんなことが許されると……っ」
「思わん。反吐が出るやり方だ。だから、我々は母につかなかったんだ」
わっと沸く部下たちを抑え込むように低い声音で言ったレオンは、あたりを見回して、救助が終わり後は見かけた盗賊を追い回しにかかっている村人の様子を見て静かにため息をついた。
「俺が狙いなら、俺が動き回ればいい。引きつけておくから、彼らの退避を最優先で」
「しかし」
「いいね」
押しを強くいったレオンに、うっと言葉に詰まった二人はうなずく。このまま村人の犠牲者を増やせば敬愛する上官の首を絞める結果が見えているからだ。命令より軍人としての果たすべき役割が重いと、彼らが判断した結果だった。満足げにレオンはうなずいて、うなずかなかったもう一人に目を向ける。
「俺はもうちょっとあんたのそばにいていい?」
「男に言われるのは少し気持ち悪い」
「少し?」
「かなりだな」
緊張感のないやり取りに二人があきれた顔をするのをみて、レオンは顔を見合わせて笑った。村人は、燃える家をよけて村中を走り回っている。煙もずいぶんと回って息苦しさを覚えるが死ぬことはないだろう。
「さあ。いけ! 建物の中にいる可能性もある。救助の軍人であることを明かして、二人じゃ手間だろうが、頼む」
「はっ」
敬礼を返して広場から一軒一軒の確認に移った二人の背中を見やって、レオンは深くため息をついた。
「俺が狙いって、本当に確信があるの?」
敬語も何もないレイスの部下の一人に、レオンは肩をすくめて潜んでいる影を見やる。
「まあな。一人、見知った顔がいる」
「……見知った?」
「ああ」
全員をおびき寄せるのにはどうしようかと頭を巡らせたレオンは、ふと思い当りにやりと笑った。
「お前、声でかいよな?」
「え? まーそりゃあ、こんなところにいるし?」
「じゃあ、さっき割ったらしい俺の首の値段いいながら村中をマラソンしてこい。居場所はあそこの袋小路だ」
「はあ? 首の値段?」
「俺が特大の餌になるんだよ。盗賊どもひとところにまとめておいたほうが取り締まりも楽だろ」
袋小路におびき寄せてやるよ。と笑うレオンに男はその袖を引いた。
「死ぬの?」
「いいや。そんな予定はない」
冗談めかして肩をすくめて見せると男は呆れたように顔をゆがませた。
「無茶だなあ。ほんと」
「無茶ぐらいがちょうどいいって聞いたことないか?」
「うちの上官もよく言うわー。ほんとやめてほしいよねえ」
「お袋の言葉だ。それで総帥まで」
「本当に女性の股から出てきたの? あんたら」
ひどい言い草にレオンはからからと笑ってあたりを見回した。
「いろいろ胎の中に忘れてきたのは自覚してるさ」
「ハッ。んで、なんだっけ? お買い得叫びながら俺はマラソン?」
「ああ。そのあと、ジルの誘導を助けてくれ。あいつ独りじゃ心もとない」
「あー、うん、そうだね。分かった……。死ぬなよ」
「ったりまえだ」
そう言って、村の外から金がほしい盗賊たちをおびき寄せるために、彼は一度村の外へと走り出した。
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