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3、迎えに来たのは
Ⅴ
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「君は、この信号を照明弾で打ってくれ。教会の俺の部屋だった場所を覚えているね?」
「え。ええ」
「武器がしまってある場所は?」
「……覚えています」
「武器が入っている箱をどけると地下室へと入る扉がある。はしごを降りて、地下室へ入り、道なりに進むと、信号を打ち出せる射出制御室がある。そこで、これを読みこませてくれ」
巻物には、ところどころ正方形や長方形の切りこみが入っている。それを手動で機械に読み込ませるとからくりで照明弾が打ち上げられる仕組みだ。と簡単に説明する。
クロエは知らないことだが、その巻物はレオンが教会の居室から持ち出したものに違いなかった。
戦中、使われていた照明弾を自動で打ち上げる機械に読み込ませる暗号が刻まれたものである。レオンが最後打ち出し損ねた、最上位の応援要請の暗号が刻まれている。戦争ではないものの平時にいきなりそんな信号がぶち上がれば蜂の巣をつっついたような騒ぎを起こしてここへ兵隊が来るだろう。そこまで説明して、クロエに視線を合わせるようにしゃがみこむ。
「読み込ませる場所、この巻物が置ける受け口のようなものがある。これを解いて紙の端が中に入るように置いて、ハンドルを巻くと動き出して、先端から中に紙が巻き込まれていく。動きださなければ、うまく射出ができていないなら、戻って、俺の部屋の武器から、信号弾のバズーカがある」
「……」
不安そうな顔をして見せるクロエの頬に手を置いてレオンはその目を覗き込んだ。榛色の瞳が潤んで揺れているのに、レオンは強く抱きしめた。うなじのあたりに鼻先をうずめるように頬を摺り寄せて目を閉じてぬくもりを包む。
「それを三発等間隔でぶちかませ。月の進む方向の反対側に」
「……そんな。わたし」
「打ち込まなければ、ここの連中は死ぬ」
「えっ」
びくりと体を震わせたクロエにレオンは体を離して、肩に手をかけて今にも泣き出しそうな榛色の瞳を覗き込む。
「結構規模のでかい襲撃だ。ここにいる軍人は俺につけられている大佐の部下四人と俺だけ。いくら何でも、応援が来る一刻を持たせるぐらいでギリギリだ。君にしかできない」
「できなかったら?」
「俺も死ぬし村人も死ぬ。……君が狙いなら君は生き残る。君の手でそれを打ち上げなければ、ここの人たちは、ここに住まう国民は死んでしまう」
簡単さ。とつぶやいたレオンは、ちらりと村を見やるように顔を背けて、肩の力を抜いた。
「死ぬ気はない。死にたくもないし、死ねないし。それは、君にしかできない。君にしか頼めない。……軍事機密の塊なんだ」
村人に渡すわけにもいかないんだ。と時雨れた涙の痕を拭うように頬を包み込んで顔を向かせたレオンは、最後に潤んだ目を見据えてうなずいた。その目はしっかりとした光を宿していることにふっと笑んで手を離した。
「いいね。君の手で、守るんだ。みんなを」
「……はいっ」
こくんとうなずいたクロエはすぐに表情を切り替えて、傘をしまって持ち出し袋を持って、その中に巻物を入れた。
そして暗い夜道、手をつないで家を出て走り出したクロエとレオンは、避難していた村人たちの緊張しきった表情に顔を見合わせて手を離して司祭に一言言いに行く。
「司祭様」
「わかった。行ってきなさい」
「御迷惑をおかけし申し訳ございません」
一度頭を下げて、司祭から軍帽をもらったレオンは目深に被ると、胸のホルスターに収めた銃を抜いて片手に持つ。
「ああ……。リカルドそっくりだ」
思わず漏れたような言葉にレオンは驚いて振り返る。
「司祭様?」
「ああなるんじゃないぞ。レオン」
笑う司祭にぽん、と肩を叩かれたレオンはそのしわくちゃな顔の柔和な細い目にある瞳が自分とよく似た色をしていることに驚いたように息を呑み、表情を切り替えるとこくりとうなずいて、パッと走り出した。
「れおんさ……っ」
「だめですよ」
それを追って走りだそうとするクロエを捕まえた司祭は持ち出し袋の中から巻物を引っ張り出して見せる。
「すべきことを成した後、命を守り、祈りましょう」
静かな言葉に、ざわついていた周囲の村人もひそまりかえった。
「まず、男たちは教会にある武器なんでもいいから持って出入り口固めろー。女ガキ爺婆は中はいれー」
「わしゃまだ戦えるわいっ」
「人を年寄扱いしよって」
「って昨日一昨日ぎっくり腰でひっくり返ってた爺どもはどこだ、こらあ!」
どこか締まりのない雰囲気にクロエがきょとんとすると、さあ、と道が空いた。
「さ、行きなさい。ここの人たちはもともと海賊などの襲撃になれた村人たちです。大丈夫」
振り返って司祭を見上げたクロエは、泣き出しそうな目をしながらこくんとうなずいて、作られた道をかけてレオンが元はいっていた部屋へと急ぐのだった。
「え。ええ」
「武器がしまってある場所は?」
「……覚えています」
「武器が入っている箱をどけると地下室へと入る扉がある。はしごを降りて、地下室へ入り、道なりに進むと、信号を打ち出せる射出制御室がある。そこで、これを読みこませてくれ」
巻物には、ところどころ正方形や長方形の切りこみが入っている。それを手動で機械に読み込ませるとからくりで照明弾が打ち上げられる仕組みだ。と簡単に説明する。
クロエは知らないことだが、その巻物はレオンが教会の居室から持ち出したものに違いなかった。
戦中、使われていた照明弾を自動で打ち上げる機械に読み込ませる暗号が刻まれたものである。レオンが最後打ち出し損ねた、最上位の応援要請の暗号が刻まれている。戦争ではないものの平時にいきなりそんな信号がぶち上がれば蜂の巣をつっついたような騒ぎを起こしてここへ兵隊が来るだろう。そこまで説明して、クロエに視線を合わせるようにしゃがみこむ。
「読み込ませる場所、この巻物が置ける受け口のようなものがある。これを解いて紙の端が中に入るように置いて、ハンドルを巻くと動き出して、先端から中に紙が巻き込まれていく。動きださなければ、うまく射出ができていないなら、戻って、俺の部屋の武器から、信号弾のバズーカがある」
「……」
不安そうな顔をして見せるクロエの頬に手を置いてレオンはその目を覗き込んだ。榛色の瞳が潤んで揺れているのに、レオンは強く抱きしめた。うなじのあたりに鼻先をうずめるように頬を摺り寄せて目を閉じてぬくもりを包む。
「それを三発等間隔でぶちかませ。月の進む方向の反対側に」
「……そんな。わたし」
「打ち込まなければ、ここの連中は死ぬ」
「えっ」
びくりと体を震わせたクロエにレオンは体を離して、肩に手をかけて今にも泣き出しそうな榛色の瞳を覗き込む。
「結構規模のでかい襲撃だ。ここにいる軍人は俺につけられている大佐の部下四人と俺だけ。いくら何でも、応援が来る一刻を持たせるぐらいでギリギリだ。君にしかできない」
「できなかったら?」
「俺も死ぬし村人も死ぬ。……君が狙いなら君は生き残る。君の手でそれを打ち上げなければ、ここの人たちは、ここに住まう国民は死んでしまう」
簡単さ。とつぶやいたレオンは、ちらりと村を見やるように顔を背けて、肩の力を抜いた。
「死ぬ気はない。死にたくもないし、死ねないし。それは、君にしかできない。君にしか頼めない。……軍事機密の塊なんだ」
村人に渡すわけにもいかないんだ。と時雨れた涙の痕を拭うように頬を包み込んで顔を向かせたレオンは、最後に潤んだ目を見据えてうなずいた。その目はしっかりとした光を宿していることにふっと笑んで手を離した。
「いいね。君の手で、守るんだ。みんなを」
「……はいっ」
こくんとうなずいたクロエはすぐに表情を切り替えて、傘をしまって持ち出し袋を持って、その中に巻物を入れた。
そして暗い夜道、手をつないで家を出て走り出したクロエとレオンは、避難していた村人たちの緊張しきった表情に顔を見合わせて手を離して司祭に一言言いに行く。
「司祭様」
「わかった。行ってきなさい」
「御迷惑をおかけし申し訳ございません」
一度頭を下げて、司祭から軍帽をもらったレオンは目深に被ると、胸のホルスターに収めた銃を抜いて片手に持つ。
「ああ……。リカルドそっくりだ」
思わず漏れたような言葉にレオンは驚いて振り返る。
「司祭様?」
「ああなるんじゃないぞ。レオン」
笑う司祭にぽん、と肩を叩かれたレオンはそのしわくちゃな顔の柔和な細い目にある瞳が自分とよく似た色をしていることに驚いたように息を呑み、表情を切り替えるとこくりとうなずいて、パッと走り出した。
「れおんさ……っ」
「だめですよ」
それを追って走りだそうとするクロエを捕まえた司祭は持ち出し袋の中から巻物を引っ張り出して見せる。
「すべきことを成した後、命を守り、祈りましょう」
静かな言葉に、ざわついていた周囲の村人もひそまりかえった。
「まず、男たちは教会にある武器なんでもいいから持って出入り口固めろー。女ガキ爺婆は中はいれー」
「わしゃまだ戦えるわいっ」
「人を年寄扱いしよって」
「って昨日一昨日ぎっくり腰でひっくり返ってた爺どもはどこだ、こらあ!」
どこか締まりのない雰囲気にクロエがきょとんとすると、さあ、と道が空いた。
「さ、行きなさい。ここの人たちはもともと海賊などの襲撃になれた村人たちです。大丈夫」
振り返って司祭を見上げたクロエは、泣き出しそうな目をしながらこくんとうなずいて、作られた道をかけてレオンが元はいっていた部屋へと急ぐのだった。
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