50 / 69
50
しおりを挟むシエルが疑問を口に出す前に、ポーケッタ侯爵が堂々と話し始めた。
「なぜ今日の夕方に行われる裁判までは牢屋に居るはずの彼女と、サバラン王子、貴方がこの場にいるのでしょうか。さてはて、殿下が今仰ったように空中で偶然出会ったとしましょう。牢屋から彼女が1人で脱出し、牢屋から何十キロも離れたここに辿り着けたと、そう主張なさるのですか。一体誰が殿下が手助けしていないと信じましょうか」
「そうだな、質問に答える前に1つ聞かせてもらおうか。なぜ其方らはここにいる?ドレーン伯爵は、妻の介護と事件のショックで療養、ビオレソリネス公爵は体の具合が芳しくない、そしてポーケッタ侯爵、貴方は、親族に不幸があったと聞いているが、見たところ3名とも健康そのものだが?父上の狩猟やパーティには参加したくなかったと見受けられるが・・・・・・」
無言で睨み合う2人。ポーケッタ侯爵は、色を無くしている。助け船を出したのは、ここに来てから一言も発していなかったお父様だった。
「殿下、我々3人は療養のために自然豊かなこの地を訪れたのでございます。勿論、狩猟会には欠席ですが、今日の陛下ご主催の昼のパーティには参加するつもりです」
「そうか、父上も喜ぶだろう」
お父様が頷いてポーケッタ侯爵に目配せをする。と、額の大粒の汗を拭いて、ポーケッタ侯爵が何か合図をした。
「で、殿下。恐れながら私は、申し上げたいことがあります。先程、空中で偶然出会い助けてなどいないと仰ったと思いますが、」
そこで言葉を区切った侯爵は、後ろを振り向いた。つられてそちらを見ると、縄で縛られた意地汚い目をした男を従者が連れてきていた。
「この男が、驚くべきことを申したのです」
近くで立ち止まった男からは、死臭を感じた。傷だらけの体に逞しい筋肉。そして、落くぼんだ目から異様なほど強く暗い光が放たれていた。目が合った瞬間、シエルはゾッとした。
ケタケタと人を馬鹿にしたような笑い声をあげていたが、ポーケッタ侯爵が証言するように何度か促すと、面白くなさそうにガラガラ声をだした。
「ふんっ、あぁ、俺はそいつに頼まれてドレーンの奥さんと使用人を襲ったぜ」
「これを聞いてもまだ言い逃れなさるおつもりですか?」
("そいつ"とは果たしてサバランのことだろつか。こんな曖昧な証言で王子を罪人扱いするなんて、度胸があるのか、バカなのかどちらなのかしら)
「ポーケッタ侯爵、あなたは今、王子を罪人呼ばわりした、そういうことですね?」
ジルバが進み出て非難した。普段の親しみのある声とは打って変わって、怒りの滲んだ圧倒される声だった。
「ポーケッタ侯爵、失礼ながら、"そいつ"だけでは、それがサバラン王子のことか、周囲の使用人のことか明らかではないでしょう」
「では、はっきり明言させましょう。私に以前言ったように説明しろ」
我が意を得たとばかりにポーケッタ侯爵が男を前に突き出す。男は黙っていたが、突然にやりと唇を歪めた。
「正直に全て話して俺の命は奪わないと保証してくれるのか?」
「無論、大事な証人であるからな」
深く息を吸う。この場にいる全員の意識が男に向けられ、緊迫感が漂った。男は一瞬、お父様と公爵を見た。
(え、まさかっ)
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる