運命のレヴル~友達増やして神様に喧嘩売りました~

黒雪ささめ

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どちらにしても後悔なら

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 リーシュの試合も終わり、全ての1回戦が終わった事になる。残るはベスト8。休憩などは特になく、そのまま準々決勝が始まるようだ。ロキ達はリーシュを労いに行ったが、俺は次の試合でリーシュと当たるのでやめておいた。まだ少し話しづらいというのもあるのだが。



「続きまして準々決勝を始めたいと思います。先程まで実況を担当していたヘルメスはしばし休憩に入るため、実況は今大会の障壁担当でもある私[ヘスティア]がやらせていただきます!」


 同じ十二神でもヘスティアはかなり人気があるのか観客の大歓声が響く。
 実況は十二神でなければダメなのだろうか?しかし、アテナが実況ができるようには思えない。そんな事を考えているとふいに後ろから呼び掛けられ振り向いた。


「…?アラクネさん?どうしたんですか?」


 声を掛けてきたのはアテナの侍女であるアラクネだった。


『1回戦突破、おめでとうございます。…実はアテナ様のお姿が見られないので、アテナ様がどちらにいらっしゃるかご存知ないかと思い、声を掛けさせていただきました。会場へ足を運ぶと仰っていたのですが、どうにもまだ来ていないようでございまして。一応採掘場も見ては来たのですが誰もおらず、ヘパイストス様の製錬所にも伺ったのですが今日はまだ来てないと。アテナ様ですので、心配など滅相もないのですが、ここまでどこにいるのかわからない状況も初めてですので…』


 滅相もないと言いながらもかなり心配そうな表情のアラクネを見つつ、昨日のアテナの言葉を思い出す。



「俺にも製錬所に寄ってから行くとしか言ってませんでしたね。でも、アテナさんですし」


 そう、アテナは強い。ゴーレムのコアを一瞬で抜き取るほどだし、俺の一撃を無傷で受けきる。とても心配が及ぶような人物ではないのだ。


『そう…ですか』


 アラクネはやっぱりという顔をして、違う場所を探そうと歩き出したのだが、その場に思わぬ人物が現れた事でその歩みを止める。


『…ヘルメス様?』



 いつの現れたのかヘルメスはアラクネの目の前に立っていた。


「やぁ、話は聞かせてもらったよ。アテナがいなくなったんだって?アテナは強いからね。心配はいらないのかもしれないけど、彼女も女の子だからなぁ」


 まるで何かを知っているように含みを持たせた言葉に少し不安になった。ヘルメスの何気ない言葉には何かしらの意味がある。ヘルメスと話す機会が多かった俺はそう感じている。

 なら、今の言葉も?


「何か知ってるのか?」


 少し目を細めたヘルメスはアラクネの横を通り過ぎ俺の耳元で囁いた。


「下界にはね、こうゆう話があるんだ。処女神であるアテナが唯一子を成したのはヘパイストスに襲われたからだ、とね」


 自分でもわかるほどに血の気がひく。ヘパイストスの口ぶり、明らかにアテナを性的対象として見ていたし、アテナは製錬所へ寄ると言っていなくなった。そして今の話。

 前にロキが言っていた。下界の神話はこちらの世界の予言のような側面を持っているのだと。

 辻褄が合いすぎている。今ここにヘルメスがいるという事に俺は最も危機感を抱いた。ヘルメスは本当にここぞという時に現れる。

 テーバイへ入る時、俺がどうしたらいいか分からなかった時、よく考えればこのトーナメントに出る切っ掛けもヘルメスだ。そしてアテナに引き合わせたのも、パルテノンで再会させたのも。

 それが偶然なのか、何か理由があってわざとなのかわからないが、ヘルメスの出現はそれだけで意味がある。
 さらにアラクネはなんと言った?製錬所へ行ったら「まだ来てない」と言われたと。

 何故今日アテナが製錬へ来るとわかった?

 俺と一緒に行った時も今日行くなどとは言っていなかったはずだ。



 もういい。理由が欲しければ後で考えろ。今俺がやるべきは考える事ではない。



「ヘルメス…リーシュ達にちょっと用事ができたと伝えておいてくれないか?」


 いつも通りの微笑みをヘルメスは浮かべる。



「いいとも。でも、いいのかい?もし試合に間に合わなかったら後悔するんじゃないかな?」



 俺がどうやっても行くとわかっているくせにわざわざ聞いてくるヘルメスは本当に意地が悪いと思う。



「…するさ。だけど、世話になったアテナさんに何かあれば同じくらい後悔しそうだから」



「そうか。なら説明は僕に任せてすぐに行きたまえ」


「頼んだっ!」


 俺は疾風迅雷と迅速果断を発動させ、魔丸を足場に観客席からコロッセオ上空へと一息で飛び出し、製錬所へ急いだ。



 急に飛び去って行ったユシルを見上げたアラクネがヘルメスへ詰め寄る。


『ヘルメス様!ユシル様はどちらへ!?まさかアテナ様にっん!!』


 唇に人差し指を押し付けアラクネの言葉を止めたヘルメスは微笑を崩す事なくユシルが去った空を見上げ続ける。


「大丈夫だよ。ユシル君が何とかしてくれる。そうゆう運命だからね」





 ーリーシュー



 1回戦が終わり、ローちゃん達が迎えに来てくれた。だけど、どこを見てもユシルの姿が見えない。そんなあたしの様子にローちゃんは気付いたようで


『多分あいつなら来ないわよ?次当たるでしょ?さすがに気まずいって』


『だよね…』


 少しがっかりした。でも、まぁしょうがない。お互い次が本番なんだから。そこでふと見覚えのある魔力を感じ空を見た。それはローちゃんも同じだったみたいで



『ん?何であいつあんな焦ってんの?大事な試合が控えてるってのに。…しかも飛んでるし』



 物凄い速度で空を駆け上がっていくユシルはあっという間に見えなくなった。



『心配ないよ。ユシルはユシルだもの』



 ユシルが後先考えずに突っ走る時は大体他人の為だ。さっきローちゃんからユシルにあった出来事を聞いた限り、ヘルメスさんが何か知ってそうだけど。

 ほら、やっぱり。

 遠くからこちらへ向かってくるヘルメスが見える。でも、そんな事よりあたしは嬉しかった。ユシルが空を飛べるようになっていることに。あたしと本気で戦うなら最低条件だもの。

 良かった。これで制限なく戦える。

 行っておいで。あたしはちゃんと待ってるから。



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