運命のレヴル~友達増やして神様に喧嘩売りました~

黒雪ささめ

文字の大きさ
上 下
93 / 96

新作エリクサー~下界の汚水味~

しおりを挟む
 
 医務室から出た俺はひと息つく。勝ったとはいえ無傷ではない。むしろ風爆を間近で食らったので、動けはするが満身創痍だ。とりあえず今は魔力で治癒力を上げてはいるが、リーシュとの試合に間に合うかどうかギリギリだ。そんな事を考え、壁に寄り掛かっていると目の前にうす緑色の液体が入った小瓶が差し出された。



『自爆してんじゃないわよ。ほら、新作エリクサーあげるわ』



「ロキ…ツグミも、ありがとうな」


 エリクサーは貴重だが、ここはありがたくいただく事にした。リーシュと戦うのは万全を期したい。たまには良いとこもあるなと飲んでみたのだが



「ぅえっ!にげぇ」



 なんだろう。もう匂いからしてドブのような、味もドブのような…。飲んだ事はないがとにかく苦い、体が飲み込むのを拒否している。毒を盛られたかと思ったが、気だるさがなくなっていくので一応は薬なのだろう。俺の様子を心底嬉しそうに眺めるロキと心配そうにオロオロするツグミは対照的で、明らかにロキに何かあるのはわかった。


『どう!?新作エリクサー、下界の汚水味!ねぇ、美味しい?ねぇねぇ』



 嬉しそうに下から俺の表情を覗き込むロキにイラっとしたが、傷が癒えていくので文句も言えず、ただ睨み付ける事しか出来なかった。


 俺のリアクションに満足したのか、いつも通りない胸を張り偉そうに見下ろす。


『仕方ないじゃない?急遽宿屋で作ったんだから。普通研究室くらいないとキツイんだからね?味の調整までは無理だったけど、効果があるだけ感謝なさい』



 よく考えれば俺の為に作ってくれたのかもしれない。エリクサー使いそうなのは俺くらいしか思い付かないからな。


「う…味はともかく、ありがとうよ。助かった」


 リーシュと全力でやれるなら毒だろうと飲んでやる。そう思っていたが、マジで毒レベルの薬を飲むことになるとは思わなかった。だが、自業自得なのだからしょうがない。ここは感謝するところであり、不味さに文句など俺につける権利はない。


『言い訳聞きに来たついでよ。さぁ、洗いざらい吐きなさい。ツグミだって心配してるんだから。あっ、ちょっとドブ臭いからあと3歩下がってしゃべって』


 そんなに匂うかと思ったが、レヴァとレヴが物凄く遠くの物陰から鼻を摘まんでこちらを見ているので相当なのだろう。


「色々あったんだよ…」


 それから俺はビアーと戦っている最中のユグドラシルの事、ここ数日どこで何をしてたかなど今まで話したくても話せなかった事を話した。二人とも静かに聞いていたが、俺が話し終わると同時に別々の反応を見せた。

 ツグミはとにかく心配でしょうがなかったようで、俺にケガがないかなどひとしきり聞いた後はスキルについての疑問を口にする。


『スキルを合成して新しいスキルを作る…ですか。何かとんでもないスキルですね。しかも旦那様は仲良くなった方からスキルを借りれますから本当にとんでもないです。
 オーディン様の[精神一到]やナータ様の[時雨之化]についてはよくわかりませんが、アブソリュートスキルという単語は姉様から聞いた事があります。確か…本気で使えば国が傾くと』


 ロキはどこか納得したような表情で考察を始める。


『やっぱり。予選の時におかしいと思ったのよ。あんたが急に傷を癒したり、周囲の音を切ったりしたから。それにしてもユグドラシルがね。本体ならまだしも、分体の状態であのビックリ魔力は厳しかったか。
 にしても、アブソリュートスキルか。伝承でしか知らないけど』


 ツグミの国が傾くというのはどこか理解出来る。立場ある者が使えば本当に傾くかもしれない。それにしても伝承?


「伝承って、どんな伝承だ?」


『あぁ、あんたは知らないか。各国に似たような昔話があるんだけどね。世界を作った7柱の神の話。この世界と私達を作っていなくなっちゃうってやつ』


 その話にはどこか聞き覚えがあった。だが、俺の知っている話とは少し異なる。


「それって8柱じゃないのか?人間と神を作って、最後に喧嘩して共倒れっていう」


 ヘルメスから聞いたのはそんな内容だったはずだ。ロキは小首を傾げながら頬に手を充てる。


『知ってたの?ていうか7柱よ。どこの国にも7柱で通ってるもの。しかも共倒れってそんな物騒な』


「そうなのか。まぁ、昔話だしな。で、それとアブソリュートスキルとどう関係があるんだよ」



『7柱はそれぞれ力を与えたって話もあるのよ。それがアブソリュートスキルだってなんかの本で読んだ記憶があるわ』


(あれ?それって…)


『とりあえず事情はわかったわ。あんたは本当に色々やらかすけど、毎度だからさすがに慣れてきたわね。そろそろリーシュの試合も始まるし、行きましょう』

 何か引っ掛かったのだが、ロキはスタスタと先へ行ってしまったので深く考える事はなかった。





 俺達が観客席へ出るとすでに試合は始まっていたようで…




 すでに終わっていた。



 闘技場の床から反り立つように生える2本の脚。すでに気絶しているでだろうダラリと力なく投げ出された両手。突き刺さっていて見る事のできない顔。



「一瞬の出来事だ!見えた方います?皆さんのためにリプレイ映像お願いします!」


 闘技場の巨大なディスプレイに大男が対峙していたリーシュに剣で斬りかかる場面が映る。
 リーシュはあっさりとそれを避け、大男の頭を掴み…


 ここでヘルメスの実況の声が入る。


「おっと戦姫がグラウコスの頭を掴み…あぁっと!!グラウコスが闘技場にメリ込んだー!!」


 メリ込むシーンを角度を変えて3回ほど


「メリ込んだー!!」


「メリ込んだー!!」


「メリ込んだー!!」



 ・・・


 あれだ、なんか見たことあるかと思ったら前世の人気番組SA〇UKEの転落シーンに酷似したアングルカットだったな。遊んでるな、ヘルメス。


『さすがリーシュね。あれは確かジャパニーズソウル[生け花]というスキルよ。見て、闘技場とグラウコスがまるで1枚の絵のように溶け合っているわ。調和という概念よね。和の心を感じるわ…』



 ・・・



「いや、一切感じねぇよ。溶け合ってない、深く突き刺さってるだけだ。調和じゃない、あれは直立という概念だ。それに何だよ、ジャパニーズソウル[生け花]って、思わず情報解析しちまったじゃねぇか。こうゆう時に迫真の演技見せんな」



 一切笑う素振りも見せないロキに騙されそうになったが、コイツは絶対笑っている。心の中で絶対に笑っている。お前まで遊ぶな。


『ねぇ、ユーちゃん、あれに乗ってみたい!』

『みたい』


 レヴァが突き刺さるグラウコスを指差して言う。どう説得しようか迷ったが、やはりレヴァとレヴの世話はツグミがするらしい。



「ダメですよ。闘技場は危ないんですからね?」


(そうゆう問題なのか?)



 首を傾げているとロキが急に肩を組んで来た。



『ヘイ、お兄さん。冗談はここまでにして、これでリーシュと当たるのが確定したわけだけど、覚悟はできてんでしょうね?』



 それで気付いた。今までのバカっぽいやり取りは全て俺の緊張を解すためにしてくれていたのだと。

 だからこそ、俺もしっかり答えなければならない。


「おかげさまで体力的にも精神的にも完璧だ。任せろ」




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

転生してテイマーになった僕の異世界冒険譚

ノデミチ
ファンタジー
田中六朗、18歳。 原因不明の発熱が続き、ほぼ寝たきりの生活。結果死亡。 気が付けば異世界。10歳の少年に! 女神が現れ話を聞くと、六朗は本来、この異世界ルーセリアに生まれるはずが、間違えて地球に生まれてしまったとの事。莫大な魔力を持ったが為に、地球では使う事が出来ず魔力過多で燃え尽きてしまったらしい。 お詫びの転生ということで、病気にならないチートな身体と莫大な魔力を授かり、「この世界では思う存分人生を楽しんでください」と。 寝たきりだった六朗は、ライトノベルやゲームが大好き。今、自分がその世界にいる! 勇者? 王様? 何になる? ライトノベルで好きだった「魔物使い=モンスターテイマー」をやってみよう! 六朗=ロックと名乗り、チートな身体と莫大な魔力で異世界を自由に生きる! カクヨムでも公開しました。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

処理中です...