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新作エリクサー~下界の汚水味~
しおりを挟む医務室から出た俺はひと息つく。勝ったとはいえ無傷ではない。むしろ風爆を間近で食らったので、動けはするが満身創痍だ。とりあえず今は魔力で治癒力を上げてはいるが、リーシュとの試合に間に合うかどうかギリギリだ。そんな事を考え、壁に寄り掛かっていると目の前にうす緑色の液体が入った小瓶が差し出された。
『自爆してんじゃないわよ。ほら、新作エリクサーあげるわ』
「ロキ…ツグミも、ありがとうな」
エリクサーは貴重だが、ここはありがたくいただく事にした。リーシュと戦うのは万全を期したい。たまには良いとこもあるなと飲んでみたのだが
「ぅえっ!にげぇ」
なんだろう。もう匂いからしてドブのような、味もドブのような…。飲んだ事はないがとにかく苦い、体が飲み込むのを拒否している。毒を盛られたかと思ったが、気だるさがなくなっていくので一応は薬なのだろう。俺の様子を心底嬉しそうに眺めるロキと心配そうにオロオロするツグミは対照的で、明らかにロキに何かあるのはわかった。
『どう!?新作エリクサー、下界の汚水味!ねぇ、美味しい?ねぇねぇ』
嬉しそうに下から俺の表情を覗き込むロキにイラっとしたが、傷が癒えていくので文句も言えず、ただ睨み付ける事しか出来なかった。
俺のリアクションに満足したのか、いつも通りない胸を張り偉そうに見下ろす。
『仕方ないじゃない?急遽宿屋で作ったんだから。普通研究室くらいないとキツイんだからね?味の調整までは無理だったけど、効果があるだけ感謝なさい』
よく考えれば俺の為に作ってくれたのかもしれない。エリクサー使いそうなのは俺くらいしか思い付かないからな。
「う…味はともかく、ありがとうよ。助かった」
リーシュと全力でやれるなら毒だろうと飲んでやる。そう思っていたが、マジで毒レベルの薬を飲むことになるとは思わなかった。だが、自業自得なのだからしょうがない。ここは感謝するところであり、不味さに文句など俺につける権利はない。
『言い訳聞きに来たついでよ。さぁ、洗いざらい吐きなさい。ツグミだって心配してるんだから。あっ、ちょっとドブ臭いからあと3歩下がってしゃべって』
そんなに匂うかと思ったが、レヴァとレヴが物凄く遠くの物陰から鼻を摘まんでこちらを見ているので相当なのだろう。
「色々あったんだよ…」
それから俺はビアーと戦っている最中のユグドラシルの事、ここ数日どこで何をしてたかなど今まで話したくても話せなかった事を話した。二人とも静かに聞いていたが、俺が話し終わると同時に別々の反応を見せた。
ツグミはとにかく心配でしょうがなかったようで、俺にケガがないかなどひとしきり聞いた後はスキルについての疑問を口にする。
『スキルを合成して新しいスキルを作る…ですか。何かとんでもないスキルですね。しかも旦那様は仲良くなった方からスキルを借りれますから本当にとんでもないです。
オーディン様の[精神一到]やナータ様の[時雨之化]についてはよくわかりませんが、アブソリュートスキルという単語は姉様から聞いた事があります。確か…本気で使えば国が傾くと』
ロキはどこか納得したような表情で考察を始める。
『やっぱり。予選の時におかしいと思ったのよ。あんたが急に傷を癒したり、周囲の音を切ったりしたから。それにしてもユグドラシルがね。本体ならまだしも、分体の状態であのビックリ魔力は厳しかったか。
にしても、アブソリュートスキルか。伝承でしか知らないけど』
ツグミの国が傾くというのはどこか理解出来る。立場ある者が使えば本当に傾くかもしれない。それにしても伝承?
「伝承って、どんな伝承だ?」
『あぁ、あんたは知らないか。各国に似たような昔話があるんだけどね。世界を作った7柱の神の話。この世界と私達を作っていなくなっちゃうってやつ』
その話にはどこか聞き覚えがあった。だが、俺の知っている話とは少し異なる。
「それって8柱じゃないのか?人間と神を作って、最後に喧嘩して共倒れっていう」
ヘルメスから聞いたのはそんな内容だったはずだ。ロキは小首を傾げながら頬に手を充てる。
『知ってたの?ていうか7柱よ。どこの国にも7柱で通ってるもの。しかも共倒れってそんな物騒な』
「そうなのか。まぁ、昔話だしな。で、それとアブソリュートスキルとどう関係があるんだよ」
『7柱はそれぞれ力を与えたって話もあるのよ。それがアブソリュートスキルだってなんかの本で読んだ記憶があるわ』
(あれ?それって…)
『とりあえず事情はわかったわ。あんたは本当に色々やらかすけど、毎度だからさすがに慣れてきたわね。そろそろリーシュの試合も始まるし、行きましょう』
何か引っ掛かったのだが、ロキはスタスタと先へ行ってしまったので深く考える事はなかった。
俺達が観客席へ出るとすでに試合は始まっていたようで…
すでに終わっていた。
闘技場の床から反り立つように生える2本の脚。すでに気絶しているでだろうダラリと力なく投げ出された両手。突き刺さっていて見る事のできない顔。
「一瞬の出来事だ!見えた方います?皆さんのためにリプレイ映像お願いします!」
闘技場の巨大なディスプレイに大男が対峙していたリーシュに剣で斬りかかる場面が映る。
リーシュはあっさりとそれを避け、大男の頭を掴み…
ここでヘルメスの実況の声が入る。
「おっと戦姫がグラウコスの頭を掴み…あぁっと!!グラウコスが闘技場にメリ込んだー!!」
メリ込むシーンを角度を変えて3回ほど
「メリ込んだー!!」
「メリ込んだー!!」
「メリ込んだー!!」
・・・
あれだ、なんか見たことあるかと思ったら前世の人気番組SA〇UKEの転落シーンに酷似したアングルカットだったな。遊んでるな、ヘルメス。
『さすがリーシュね。あれは確かジャパニーズソウル[生け花]というスキルよ。見て、闘技場とグラウコスがまるで1枚の絵のように溶け合っているわ。調和という概念よね。和の心を感じるわ…』
・・・
「いや、一切感じねぇよ。溶け合ってない、深く突き刺さってるだけだ。調和じゃない、あれは直立という概念だ。それに何だよ、ジャパニーズソウル[生け花]って、思わず情報解析しちまったじゃねぇか。こうゆう時に迫真の演技見せんな」
一切笑う素振りも見せないロキに騙されそうになったが、コイツは絶対笑っている。心の中で絶対に笑っている。お前まで遊ぶな。
『ねぇ、ユーちゃん、あれに乗ってみたい!』
『みたい』
レヴァが突き刺さるグラウコスを指差して言う。どう説得しようか迷ったが、やはりレヴァとレヴの世話はツグミがするらしい。
「ダメですよ。闘技場は危ないんですからね?」
(そうゆう問題なのか?)
首を傾げているとロキが急に肩を組んで来た。
『ヘイ、お兄さん。冗談はここまでにして、これでリーシュと当たるのが確定したわけだけど、覚悟はできてんでしょうね?』
それで気付いた。今までのバカっぽいやり取りは全て俺の緊張を解すためにしてくれていたのだと。
だからこそ、俺もしっかり答えなければならない。
「おかげさまで体力的にも精神的にも完璧だ。任せろ」
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