運命のレヴル~友達増やして神様に喧嘩売りました~

黒雪ささめ

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ミーティる?

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 凄いものを見てしまった。色々、色々とだ。


 ロキの試合は本当に凄かった。推薦組は生半可な強さではないだろう。何故なら優勝しなければ国が傾く事態になりかねないのだ。しかも、アルテミスは俺でも知っているビッグネーム。オリンポス十二神であのアレスと同格である。


 そのアルテミスをロキは嘲笑うかのように何もさせずに圧倒した。いや、思いっきり嘲笑ってたなあいつ。


 ロキは本当に多種多様の魔法を使う。障壁を破壊する魔法や魔力を封じる魔法、はたまた隕石を落とす魔法など使えない魔法が存在しないのではないかと思わせられるほどだ。そして苦手だと思っていた接近戦は予想を越えた動きだった。俺から見ても明らかに接近戦も戦い慣れている。一瞬消えたのはテレポートだろうか?あんなのを混ぜられたら正直俺も苦戦しそうだ。接近戦というのは相手の挙動、動きだし、体重移動など様々な情報を使って攻撃を予測する。それなのにあのように目の前から消えられてしまったらキツい。ツグミの周囲感知があるのでなんとかなるかもしれないが、それでもどこに出てくるかわからないのは不利以外の何者でもない。

 それを全て踏まえても本当に恐ろしいのはあの戦略性だ。

 いつ仕込んでいたのかわからない魔法でアルテミスを逆上させ、魔法戦主体と思わせての接近戦。そこで魔力を封じる魔法と服の溶ける魔法を仕込んで気付かせないように離脱。ついでに腹に一発入れてたな。あれもきっと意識を逸らすためのものだろう。そして魔法名で判断したのかヘルメスの実況で判断したのかわからないがアルテミスの使いたかった魔法と類似している魔法を無詠唱で発動させる。


 これをただの嫌がらせだと思ったら大間違いだ。


 もうこの時点でロキの最初に見せたあの膨大な魔法の存在は意識の外に出る。初めはわざと見せて魔法戦をするかのように錯覚させて、中盤からは存在を隠し終盤の隠し玉として残す。恐らくアルテミスがあの時点で降参していなかったら、トドメとしてあの膨大な魔法が放たれていたのだろう。

 この戦略性、謀略が自分に向けられたらと思うとゾッとする。

 ロキに主導権を渡すとこうゆうことになるのだ。ロキの『貴女が貴女だから』というのは言い過ぎだと思うが、間違いなくロキというトリックスターの情報を知らなかった事は敗因の1つだろう。しかし…


(何であいつ、俺に叫んでたんだ?歓声で聞こえなかったけど)


 アルテミスの裸も凄かったが、俺が注目していたのは金色に輝く神弓だ。リーシュ対策として、この大会中は神器を情報解析を使って視ていたのだ。決してアルテミスの体を凝視していたわけではない。だがもう一度言おう。アルテミスの裸は凄かった。

(ん?)

 そんな事を考えていると一瞬ピリッとした殺気?に近いものを感じた。その方向をチラリと見ると目を細めたリーシュと目があってしまった。まさか…そんな遠くから俺の心の中を読めたりしないよな?


「波乱続きの今大会、唯一の普通…失礼、あまり驚きのない第4試合が今終わりました!グラトスvsヘリオスの試合は格闘戦が得意なグラトスを全く近づかせずに得意の炎魔法で圧倒したヘリオスの勝利です!落ち着きますね!実況も楽させていただいてありがとうございます!」


 いつの間にか第4試合は終わっていた。全然集中できなかった。あの裸…ゲホッ、ロキの試合が凄かったせいだ。


「さぁ、次の試合に行きましょう!第5試合!これも注目のカードですね。表舞台に出てくるのは今回が初!大和のNo.2!!月姫ツグミvs優勝候補、海神トリトン!!」


 ヘルメスが叫ぶと同時に大きな歓声が上がる。それほどトリトンが強いのだろう。観客のほとんどはオリンポスの住民達だ。先程アルテミスやアキレウスが敗退した事で鬱憤が溜まっているのだろう。


 いつも着ている巫女装束をたすき掛けしたツグミが先に闘技場へ上がる。途端に歓声は大きなブーイングに変わった。あまりに大きなブーイングにツグミが少し涙目になっていた。


「おい!やめろよ!女の子だぞ!!」


 いくら俺が叫んでも掻き消されるばかりで、何か他に黙らせる方法はないかと考え始めた時だった。



『うるっさい!!何、うちのツグミ苛めてんのよ?ウジウジシクシクと後々のフォローが大変なの!まだ私の仕事増やそうってんなら覚悟出来てるんでしょうねぇ!?そこのお前!お前も!あとあっちのお前!そこのブス!さっきの私の試合見た?[ミーティア]行きたい?ミーティられたいの?ミーティろうか?あぁ?』


 ロキがいつの間にか実況席のマイクを奪い取り叫んでいた。ブーイングが止み、適当にお前お前と指を指された者は恐怖でプルプルと震えている。それほど先程の試合が凄まじかったのだ。
 ミーティアを落とす=ミーティるという事なのだろう。しかし、途中ブスと指差されてた女性は可哀想だ。それ、ただの悪口だからな?
 静かになった観客を見回し、よしと小さく呟いた後、子供を諭すような穏やかな声を出す。


『試合の勝ち負けに興奮するのも、好きな選手を応援するのもいいけど、ブーイングは何もならないわ。それだけはお姉さんが許さないんだから。もう皆にはさっきアルテミスの服を溶かした腐敗魔法を掛けておいたから、お痛しちゃダメよ?』


 全員が自分の服を確認し出す。もちろん俺もだが。どうやら特に変な魔法は掛かってなさそうだが…何と言ってもロキなので可能性を捨てきれない。ロキの言葉で観客が青くなる中、対戦相手のトリトンがひっそりと闘技場に上がってきていた。その頃にはロキは既に実況席を降りたようで姿は見えなくなっていた。



「え~、皆さん!気を取り直して行きましょう!もし本当に掛かっていたとしてもこの試合の盛り上がりで誰も見てません!盛り下がるのだけは避けましょう。目立ちますからね?さぁ、トリトンの登場だー!!」


 ワーー!!


 ヘルメスのフォローのような開き直りに活気を取り戻す観客達を見ながら、ロキの恐ろしさを再確認するのだった。






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