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本戦出場者

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「さぁ!選手紹介をさせていただきます!まずはアテナイ予選を通過したのはこの4名っ!!

 力の象徴、グラトス!

 オリンポスの誇る風神アイオロス!

 トロイア戦争の英雄アキレウス!

 謎の狼仮面ウォーダン!

 皆さんも知っているるだろうが、グラトスとアイオロスに関しては推薦組に選ばれてもおかしくない優勝候補です!」


 呼ばれた選手たちが闘技場中央へと歩み出ると観客から歓声が沸き上がる。ちなみに俺が聞いたことのあるのはアキレウスくらいだ。確かアキレス腱が弱点じゃなかったかと記憶している。


(推薦組クラスが更に2人追加か。まぁ、俺はリーシュに当たるまでは誰であろうと負けられないんだ。というかあのウォーダンとかいう狼仮面怪しくないか?)


 何が怪しいか。もちろんそれは他国、敢えて言うなら敵国か。今、俺達はどこの国にも属してないが、バルドルの率いるアースガルドや大和に攻め行った他2国の刺客がこのトーナメントに参加していても何もおかしくはない。むしろ優勝報酬が破格な上にオリンポスの戦力を削ぐにも情報を集めるのにもこのトーナメントは格好の機会だ。いると考える方が普通で、俺が気付くくらいなのだからオリンポスの上層部も気付いているだろう。それでも素性を知らない者を参加させるというのは自信かそれとも過信なのか、正直嫌な予感しかしない。


「続きまして、アトランティス予選を通過したのはこの4名っ!!

 元漁師の海の神グラウコス!

 正体不明の全身鎧ルー!

 その槍は振るわれるのか海神トリトン!

 太陽を司るヘリオス!

 アトランティス組にもトリトンとヘリオスという推薦されてもおかしくない強者がいますね!今大会どうなっているんだー!面白くなりそうだぁ!!」


(また怪しい奴が)


 フルフェイスの鎧はどこか不気味で、要注意人物が増えたなと思っていると聞き慣れた声が背後から掛かった。


『怪しいで言ったらあんたも正体不明で怪しいからね』


 久々に聞いた声だ。そして見慣れた3人が俺を追い抜いて闘技場中央へと歩いていく。


『ほら、次は私たちの番よ。早く来なさい』


 ぶっきらぼうなロキの言葉に釣られるように闘技場中央へと向かった。


「さぁ次は今大会誰も予想しなかったテーバイ予選通過者です!この4名っ!!

 戦姫、風天ヴァーユ・リーシュ!

 賢姫、元アースガルド闇魔導ロキ!

 月姫、大和のNo.2月読尊ことツグミ!

 ビアーを予選で圧倒した転生者、ユシル!

 この組は全員が他国出身という想定外の通過者です。しかし!その実力は本物!戦姫は言わなくてもわかるでしょう。あっ、悲鳴はやめてくださいね。進行に差し支えるので。賢姫も月姫も実力は未知数ですが、推薦組に劣るとはとても思えません!そして転生者ユシルはビアーを赤子の手を捻るように圧倒したのは記憶に新しいでしょう!」


 歓声、悲鳴、ブーイングが飛び交う。ツグミはツグミで紹介していいのだろうか?明らかに実況で長い名前を言いたくないというヘルメスの意図が頭に浮かぶ。


『久しぶりだね』


 リーシュが俺の方を振り向いた。もう怒りは治まったのか、肌がピリピリするようなプレッシャーはない。


「あぁ、本当に久しぶりだ。今回は本気で行くから、リーシュも手は抜かないでくれよ?」


 本当は久々に会えて嬉しいはずなのに、そんなぶっきらぼうな事を言ってしまう。それとなく伝わってしまったのか、リーシュは一度クスッとした後、悪戯っぽく微笑んだ。


『そんな事言って大丈夫?今まで一本も取った事ないのに?』


「そっちこそ、そんな余裕で大丈夫か?油断してると足元掬わせてもらうぞ」


 強がりでそんな風に返したのだが、リーシュは微笑みを崩す事はなかった。


『油断なんてしないよ。あたしは本気。この勝負も、ユシルの事も全部本気なんだから』


 俺の肩に手を置いたリーシュはそう言い残して闘技場の端へと歩いていった。その後ろ姿はどこか吹っ切れたように見えた。そんな俺に優しく背中に添えられる手とダメージを与える気のない蹴りが同時に届く。


『お久しぶりです、旦那様。私たちだって心配してたんですからね?もっともっと話したい事がありますが、それは全て終わった後にします』


『私たちって何よ。私はあんたみたいなカスなんて全っ然心配してないんだから。まぁ、あんたとリーシュが当たってボコボコにされるのはちょっと興味あるから教えてあげるけど、リーシュと当たるには最低でも2回勝たないとダメだからね?私達は同じ予選を通過したんだから』


 そう言われハッとした。プロメテウスに言われて当たるものだと思っていたが、よくよく考えれば同じ予選の者をすぐに対戦させるのは運営側も避けるだろう。


「このメンバーで2回か。かなりキツイな」


 昔の俺なら無理だとか勘弁してほしいと思っただろうが、今は違う。


「まぁ、当たる奴は全員踏み台になってもらおうか。そうでもしなきゃリーシュに追いつける気がしない」

 本当に出来るかどうかは別としてもこれは俺の決意だ。そんな俺の横顔を見ていたロキは強めに俺の爪先を踏み抜いてから闘技場の出口へと歩いていく。


「いっ、あっおい!どこ行くんだよ!」


『私は目立ちたくないから控え室に戻るわ。…あんたの決意に少しくらいなら手伝ってあげてもいいかなって気になってきたんだから、敬っていいわよ?』



「ったく…素直に応援するって言えないのかよ。けど、敬いはしないがお前の事は信頼してる」


 聞こえているかいないかわからないが、ロキはそのまま闘技場を降りていった。


「さぁ、最後は推薦組を紹介します!今大会の推薦組はこの4名だっ!!

 オリンポス十二神、軍神アレス!

 同じくオリンポス十二神、狩猟と貞操を司る女神アルテミス!

 今回推薦組初選抜、義憤と罰を司るネメシス!

 東風の化身、風神エウロス!

 えー、皆さんに残念なお知らせがあります。エウロスですが、先程控え室で色々あったようで体調不良で棄権になりました!いやはや、いきなりの波乱!今大会の荒れ模様を示唆しているかのような雲行きになって参りました!
 だがしかし!皆さんには関係ないようですね!なんと言っても今回はアレスが出ますからね!オリンポスの最高戦力!出た大会は全て優勝という不動の勝者!果たして他の選手たちはアレスを止められるのか!?本当に楽しみです!さぁ、では組み合わせの発表に移りたいと思います!
 」


 エウロスの棄権で少しだけ観客に動揺があったが、アレスの参戦がそれを吹き飛ばした。エウロスは…まぁ、アレスとのアレで今も控え室でのびているのだろう。
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