運命のレヴル~友達増やして神様に喧嘩売りました~

黒雪ささめ

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今更鑑定

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『断る』


 アテナの返事は短くハッキリとしたものだった。


「そんな事言わないでさ、話くらい聞いてよ?」


 ヘルメスは相変わらずだ。恐らくいつもこうなのだろう。アテナは小さく溜息をついた後、呆れたような目で先を促した。


『要求は?』


「要求ってのは心外だなぁ。僕は君が採掘場からの荷物持ちがほしいって言ってたから連れてきてあげたのに。このユシル君はね、本戦が始まるまで寝床がないどころか無一文でオマケに着替えも持ってないんだ。アルバイト代はここでの2日間の滞在と食事、あと少しの着替えかな。どう?破格でしょ?」


 ニコニコと矢継ぎ早に話すヘルメスの話を聞き終わったアテナは先程より大きな溜息をついた。


『まず初めに、確かに私は荷物持ちがほしいと言った。力のある女性とな。それに採掘場はランカーで無ければ入れん。そしてこのパルテノンは処女神殿だぞ?男を泊められるはずがないだろう。お前が宿泊代を貸してやればいいだろう?』


 アテナの言う事は正論だ。処女神殿、恐らく女性しかいないのだろう。そんなところに寝泊まりするのは正直キツい。ヘルメスにお金を借りて2日間やり過ごす方が楽だと思ったのだが、何故かヘルメスは引かなかった。


「ユシル君はランカーだよ。だから採掘場にも入れるし、運ぶのもお手の物さ。ここに泊められないのなら採掘場に寝泊まりさせればいい。君の管轄だし、確か休憩用の小屋があったよね?ご飯とお風呂はここの使わせてあげてよ
 」 


『だから!何故私がそこまで面倒を見なければいけないのだ!』


 アテナが怒るのも当たり前だ。アテナに俺を面倒見る筋合いはないし、印象も最悪だろう。それでもヘルメスは引き下がらなかった。異常なほどに。ヘルメスは珍しく真顔で迫った。


「これは君にとっても、ユシル君にとっても大事な事なんだ。もし了承してくれないなら…アレ、バラすけどいいの?」


 ヘルメスのそのひと言にアテナの態度が軟化した。


『はにゃ!?…ちょっと待て。アレの話はダメだ。何故そこまで』


 脅迫してでも押し込む理由がわからなかったが、ヘルメスが本気で交渉してくれてるのは伝わったので俺は口を挟まなかった。


「アテナ、頼むよ。荷物持ちとして好きなだけコキ遣ってもいいからさ」


 最後の懇願でついにアテナは折れた。盛大な溜息と共に。


『はぁ~、…もういい。2日だけだからな。それと本当にコキ遣うから覚悟しておけ。アラクネ!その男に替えの服と食事を出せ。2時間後に採掘場に出る』


 結局ヘルメスのおかげで俺は寝床と着替えを手に入れた。アラクネが神殿内を案内しようとするとヘルメスは俺に声を掛けた。


「じゃあ、僕はこれで。本戦も実況しなくちゃいけないから体調を整えないと」


 俺は素直に感謝の言葉を告げた。全てヘルメスのおかげなのだから。最後にヘルメスは俺の耳元で小さく囁いた。


「これで練習スペースが確保できたね。好きなだけスキルを研くといい。アテナは気難しいけど、根は良い子だから頑張って。アテナと仲良くするヒントは日本・・だよ」


 俺の頭の中には?しか浮かばなかった。一歩下がったヘルメスは手を差し出した。


「少しだったけど楽しかったよ。本戦期待してるからね、色んな意味で」


「ありがとう。俺もだ。酒場代は今度ちゃんと返すから」


 そう言いヘルメスの手を握った瞬間だった。



(ポーーンッ!オリンポス十二神[ヘルメス]との友情値が50%を越えました。情報共有[始]は上位互換され情報解析[途]に変更できます。情報解析[途]を借用登録しますか?)


 久々で驚いたが、迷わず借用登録した。握手していたヘルメスは軽く微笑んで手を離した。


「じゃあ、本戦でね」


 歩きだしたヘルメスを見送っていると、20メートルほど歩いたところでふいに振り向いた。


「ユシル君!僕からアドバイスだ!君はただ願えばいい!それで全て上手く行く!あまりに大きな目標は自分を苦しめる時もあるから、目の前の事からひとつずつだよ!」


 そう言い残し去っていった。


『ずいぶんとヘルメスと仲が良いな。まぁ、いい。2時間後にここに来い』


 アテナも奥へ行ってしまい、俺はアラクネに神殿を案内されながら衣装室へ向かった。衣装室で男物の服一式を俺に渡したアラクネは外に出る事なくドアの前に立ち目を閉じた。


「あの…着替えたいんですけど」


『どうぞ』


「いや、外に出てもらえると…」


『アテナ様の服があるのでそれはできません。安心してください。目は閉じていますから。ついでなのでここでのルールを説明します』


 まさか下着泥棒扱いされるとは思わなかったが、出ていく気配がないのでしょうがなくこのまま着替える事にした。
 渡されたのは白一色の服で服を腰に巻いて下着を履き替えるのが1番苦労した。

(女性の前で何やってんだろ…)

 素直にそう思った。着替えているとアラクネが説明を始めた。


『この神殿内でユシル様が使っていいのは浴室のみです。基本寝泊まりは採掘場の目の前にある休憩小屋になります。必要な物は運び込んでおきますので、何かありましたら言い付けてください。着替えと食事は朝晩小屋までお持ちします。昼食はアテナ様の分のお弁当もお渡ししますので神殿まで取りに来てください。浴室の使用は必ず私に一声かけてください。以上です。何かありますか?』


 一気に言われたが、要は昼御飯を取りに行くのと風呂を使う時はアラクネに一声掛けるというだけなのですぐ理解した。


 着替えが終わり豪勢な朝食をいただいた後、1時間ほど時間が余ってしまったので俺は中庭のベンチに座っていた。


「本当に綺麗な…というか神秘的か?凄い神殿だな」


 建物もそうだがきちんと手入れされた中庭には噴水もあり、様々な彩りの花に溢れていてほんの少しだけリーシュと出会ったアルフヘイムに似ていた。


(本当にリーシュと当たるのかな。じいさんは断言してたしな。俺に今できる事って何なんだ)


 本戦までに自分のできる事を考えていると、ユグドラシルの言葉を思い出した。


(魔力応用とスキルの本質を知る事か。そういえば最近本当にマイリストを開いてないな)


 大和を出た後、神界序列を確認するために1度開いたが、スキルまでは確認していなかった。今ここで魔力操作すると問題になりそうなので、久々にスキルを確認する事にした。


(マイリスト)


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 名前//ユシル

 神格//世界樹 ?

 スキル//???、上下一心(A)、精神一到(A)、時雨之化(A)、疾風迅雷、暗夜之礫、迅速果断、周囲感知[途]、情報解析[途]、風魔法[途]、火魔法[途]、土魔法[始]、魔力操作[終]、体術[終]


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「マジかよ…」


 思わず心の声が漏れた。知らないうちに[途]に上がっていたり、魔力操作と体術がスキル化されて[終]までついている。借りたスキルとはいえ、ここまで固有スキルを持っている者などいるのだろうか?


(Aって何なんだろう?)


 心の中で呟いたのだが


【Aとはアブソリュートスキルの略です】


 突然頭の中に声が響いた。


「えっ!?何?」


 驚きで声が出てしまった。


【情報解析です。スキルの内容、物の材質、人物の特定が解析可能です】


 どうやらヘルメスから借りた情報解析[途]の効果らしい。


(これって、要するに鑑定ってやつじゃないのか?もっと転生したての頃にこうゆうスキルがあれば、今ほどスキルを蔑ろにしなくて済んだのかもな。あれ?でも、これがなかったから体術[終]がついたのか?まぁ…そんな都合よくはいかないもんか) 


 鑑定を手に入れた嬉しさと自分の人生はラノベほど都合よくはいかないものだという気持ちが入り交じり、俺は素直に喜ぶ事ができなかったのだった。
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