運命のレヴル~友達増やして神様に喧嘩売りました~

黒雪ささめ

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8柱

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 酒場を出てから3時間程経っただろうか。俺は森の中で前を歩くヘルメスの後ろを歩いていた。


「ヘルメスさん、転移魔法陣使ってから2時間くらい経ちますよね?あとどれくらいとかわかります?」


 振り返ったヘルメスはまたお馴染みの貼り付けたような笑みをこちらに向けて、指を2本立てた。


「あと2時間くらいかな。ごめんね、遠くて。疲れたかい?休憩でもする?」


 もう2時間という言葉に一瞬ガクッとしてしまったが、疲れは特に感じないので休憩は必要ない。それよりも


「あの、だったら走りません?本気で走ればすぐだと思うんですが」


 正直走ればあっという間だ。[疾風迅雷]を使えば3分もかからない可能性すらある。何故歩くのか、走りたくなければ何故馬を連れて来なかったのか疑問に思っていた。


「あぁ、それはダメだね。あと2時間くらいしないと会えないんだ。…傷が塞がってないと思うし、本人が嫌がる」


「傷?怪我してるんですか?」 


「そうだね。大変だよね。優しい人さ」


 話が突然噛み合わなくなり、何から聞いていいのか考えているとヘルメスはこちらを見る事なく続けた。


「時間もあるし、ちょうどいい機会だ。本当かどうかわからない昔話、聞きたくないかい?」


「は?…聞きたく…ないですね」


 本当かどうかわからない昔話など意味がわからない。何故その話を今するのかも俺にはわからなかった。


「そう言わないでさ。多少は君の力になれると思うんだ。君、リーシュさんの事は好きかい?」


 いきなり何を言い出すんだと正直思った。昔話はどこへ行ったのかとも。だが、何故だかその問いには正直に答えなければと思ってしまった。


「好きとかそうゆう問題じゃないですよね?だってリーシュは神様で俺は人間ですから」


「何故だい?神様を人間は好きになってはいけないのかい?」

「だって、おこがましいじゃないですか。俺達人間を作った存在ですよ?」


 ヘルメスは深く息を吐いた後、聞き惚れるような綺麗な声で語りだした。


「僕は世界を旅するのが好きでね。まぁ、旅人の神様でもあるんだけれど、世界にはこんな昔話もあるんだ」




 昔々、それはまだ人間も神もいない世界。まだ出来て間もない世界の話。

 その世界には強い力を持った8柱の賢者がいた。

 賢者達には名前など無く、お互いをその賢者の持つ概念で呼んでいた。

 全てを成し遂げる成功者

 全てに教えを授ける指導者

 全てを助け支える支援者

 全ての有を無にする破壊者

 全てをただ見守る傍観者

 全てを愛する博愛者 

 全てを総括する管理者

 全てに逆らう反逆者


 この8柱には上も下もなく、互いに足りないものを補い合っていた。

 ある日、賢者の1柱が言った。


「自分達に似た器を作り、そこにそれぞれの概念を力として埋め込んでみよう」と


 賢者達は寂しかったのかもしれない。何故ならその世界は賢者達8柱しかいないのだから。

 他の賢者達は喜んで賛成した。ただ反逆者だけは賛成とも反対とも言わなかった。反対したところで他の7柱が賛成してしまっていたので、その提案が覆らない事を反逆者は理解していた。

 反逆者を無視して賢者達は自分達によく似た7つの力を納められる器を作った。それはもうそっくりで、その器を「人間」と名付けた。賢者達は我先にと自分達の象徴する概念を力として埋め込んでいった。

 賢者達はその作業に1つだけルールを設けていた。



 それは「自分達を越えるような力を与えない事」。


 全員の力をやみくもに与えてしまえば自分達より上位の存在が出来てしまう。そう考えたのだ。

 だから賢者達は自分達の概念に制約をかける形で各々埋め込んでいた。


 成功者は何かを成す為に必要な[欲望]を。

 指導者は堕落しないように[時間]を。

 支援者は互い助け合う為の[協調性]を。

 破壊者は同じ者が存在し続けないように[生と死]を。

 博愛者は器が綺麗でいられるように[愛]を。

 管理者は器の違いがわかるように[知能]を。


 器にはすでに6つの力が埋め込まれいた。ここで賛成した賢者の中で唯一力を与えていない傍観者が言った。


「私は力を与えるより、その器がどう生きるのか見守りたい。だから、力を与える権利は[反逆者]に譲る」と。



 そこまでの時点で器は完璧だったのかもしれない。

 争いもなく、お互い助け合い、愛し、一瞬の生にその身を輝かせ、儚く散り、規律を守り、目標も無いのに何かを成し遂げようと乱れる事なく全てが同じ行動をする。


 そんなオモチャのような完璧な人形。


 逆らう事もなく、自由にする事もなく囲われた賢者達のオモチャ。


 反逆者は無言でその気持ち悪いオモチャに最後の力[●■▲]を埋め込んだ。


 その途端にオモチャ達は同じ動きを止め、バラバラに動き出した。ある者は争い、ある者はそれを止めるように、ある者は他の者と肩を組み、ある者は賢者に刃を向けた。


 それを見ていた賢者達は気付いた。


 反逆者がたった1つだけ設けたルールを破ったのだと。


 賢者達は急いでもう1つの世界を作り、器達を放り込んだ。だが、それだけでは安心できない。

 賢者達は最初に作った器を管理する強い力を与えた器を作った。そしてこの器には[神]と名付けた。

[神]と名付けられた器ももう1つの世界へ送られ、[人間]には見えないように世界を住み分けさせた。


 その後、賢者達は激しく争った。初めは賛成側だった賢者数人が反逆者へ付いたのだ。争いは激しさを極め、世界は炎に包まれ、ついに全員が力尽きた。

 器達と一緒にもう1つの世界へ行った傍観者以外は。

 たった独りになってしまった傍観者は今も燃え上がる元いた世界に[太陽]と名前を付けた。




「…なんて本当かどうかわからない昔話があるくらいだ。しかもその話では[人間]の方が先に生まれているんだよ。なら[人間]と[神]の立場の違いって何なのかな?そんなにどちらかが上でどちらかが下である必要ってあるのかな?」


 昔話とやらが終わったのか、ヘルメスは貼り付けたような笑みをこちらへ向けた。あまりに凄絶な昔話に声も出せずにいる俺へさらに声をかける。


「ちなみに反逆者が人間に与えたのって、何なんだろうね?君にはわかるかい?」


「へ?…え~と、自由とかですかね」


 ヘルメスは少しガッカリしたような表情をした後、俺の返答には触れずにまた微笑を浮かべて遠くにある崖を指差した。


「あっと言う間だっただろう?着いたよ」
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