運命のレヴル~友達増やして神様に喧嘩売りました~

黒雪ささめ

文字の大きさ
上 下
72 / 96

すれ違い(2)

しおりを挟む
 
 ゴッ!!


「何でだよ…」

 ジョッキをテーブルに叩きつける音と共に心の声が口から漏れてしまう。
 リーシュが飛んで行ってしまった後、誰とも話す気になれずロキやツグミを無視して一人で酒場に来てしまった。ヤケ酒というやつである。もう人間という括りに収まっていない俺は誰かに咎められる事もなく酒を飲み干しては愚痴を吐くというただの八つ当たりを繰り返していた。

 周囲は俺に絡みたくないのか絡まれたくないのか近寄ってくる者はいなかった。だが、周りでコソコソとこちらを指差し話しているのを見るとおそらく先程の予選で俺の顔と名前が知れ渡ってしまったのだろう。ビアーを倒した事で。

 そんな好奇の視線すら今の俺をイラ立たせるには充分だった。


「…何だよ?文句があるなら直接言えよ!」


 ついに我慢の限界を迎え、周りの客に絡んでしまいそうになったのだが後ろから声をかけられて思わず振り向いた。


「今問題を起こすと本戦に出られなくなってしまうよ?」


 先程までの予選を実況していたヘルメスが微笑みながら立っていた。今の俺にとっては誰であろうと関係ない。興味も湧かない。正直無視でも何でもいいから放っておいてほしいくらいだ。


「ヘルメスさんですか。もう別にいいんですよ。本戦なんて…。すいませんが一人にしてもらえません?」


 お前と話す気はない。


 そんなつもりで言ったし、そう伝わったはずなのだが何故かヘルメスは同じテーブルの向かい側の椅子を引いた。


「やぁ、さっきは凄かったね。あれなら本戦でも良いところまでいけるんじゃないかな?」


「・・・」


 一人にしてくれと言っても話し掛けてくる者に返す言葉など今の俺にはない。事情を説明する気もないし、愚痴を聞いてもらいたいわけでもない。視線すら向けることはない。

 だが、明らかに無視してもヘルメスは話し続けた。


「ビアーももっと冷静ならランカーをキープできるのにね。あっ、ゴリライオンか。笑わせてもらったよ」


「・・・」


 言葉など返さないのにヘルメスはニコニコと笑顔を絶さず更に続けた。


「でも、君の周りって本当に可愛くて強い女の子ばかりだよね。羨ましいよ」


「・・・」



 ヘルメスは表情を変える事はなかった。逆にそれが俺には苛立ちよりも言い様のない気持ち悪さを感じていた。それ故に会話したい気持ちは微塵もなかったのだが。 


「仲直り…したいよね?」


「…えっ?」


 思わず顔を上げた俺にヘルメスは優しく微笑む。


「やっと目が合ったね。リーシュさんと仲直りしたいよね?そうゆう方面に詳しい人を知ってるんだ」


「そうゆう方面?」 


「そうゆう方面というか先読みというか。少しだけ未来がわかる知り合いがいるんだ。さっきは喧嘩別れしてたみたいだし、顔を合わせるのも気まずいだろう?どうだい?一緒にその人に会いに行かないかい?」

 確かに今リーシュに合わせる顔もないし、会って無視でもされようものならまた喧嘩になってしまいそうで、正直今は会いたくない。ロキにもツグミにも優しくされたら八つ当りしてしまいそうで会いたいとは思えなかった。それに未来がわかるというのは少し興味がある。ヘルメスの言うように仲直りのきっかけがわかるかもしれない。本戦でぶつかるのを避けられるかもしれない。

 ただ…何となくだが、どうしてもヘルメスを信用しきれなかった。

 ここぞというタイミングの助け舟。

 これで2度目だ。

 だが、今の俺にはその差し伸べられた手に縋るしかなかった。


「宜しく…お願いします」


 ヘルメスはより一層笑みを深めた。


「僕に任せてよ」 


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 テーバイ市街宿内 



 一人の美少女がベッドに突っ伏し、枕に顔を押し付けて脚をバタバタとしながら唸っていた。



『うぅ~~』


 傍らに立つロキはそれを眺めながら諭すように話しかけた。


『そこまでなるなら言わなきゃよかったじゃない。リーシュがあそこまでキレちゃったら誰も止められないのわかるでしょ?』


『力ずくで止めてよぉ。ツグミちゃんでもいいから』


『無理言わないで。序列7位を力ずくって、出来るわけないでしょう?ツグミなんてその前に泣きじゃくってたわよ』


『…言っちゃった。溜めてたもの全部言っちゃった。ユシルのあの顔思い出すだけで泣きそう…。嫌われたくない』


 ロキは首を左右に振りながらタメ息をつく。


『リーシュの気持ちも分からなくはないけど、ちょっと言い過ぎね。あれじゃ、ユシルがペットみたいじゃない。まぁ、ペット以下の可能性もあるけど』


 バサッと枕から顔を上げたリーシュが顔を顰めてロキを窘めた。


『ローちゃん?ユシルの悪口はダメだよ?』


『あれだけ雑魚扱いしといてよく言うわよ』


『う~~、それは反省してるのぉ』


 またバタバタとするリーシュを眺めているとツグミが静かに入って来るのが目に入った。ロキは小声でツグミに声を掛けた。


『…ツグミ、どうだった?』


 ツグミは涙目になりつつ、ロキに小声で答えた。


『一通り回って酒場にはいたようなんですが、すれ違いだったみたいです。店主の話だとヘルメスさんと店を出たって…。相当荒れてたから女でも買いに行ったんじゃねぇか、ガハハハって…』


 一瞬ロキの額に青筋が浮かぶのをツグミは見逃さなかったが、すぐに感情の抜けた表情をしたので胸を撫で下ろした。


『…そう。ご苦労様。寒かったでしょ?あんたは早く寝なさい。リーシュには私が付き添うから。あと、今の話はリーシュには…ね?』


 リーシュのユシル第一主義はツグミも嫌と言うほど理解していたので、ロキの言う事にすぐ同意した。


『…はい、では…先に休ませていただきます…』


 ツグミが静かに部屋を出たのを見送った後、ロキはリーシュに聞こえないように呟く。


『…あのバカ、ヤケになって変な事してたらぶっ殺してやるわ』


 情緒不安定なお陰で今の話がリーシュの耳に入らなかった事にロキは多少の安堵感と多大な苛立ちをタメ息と共に心に仕舞い込むのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ある横柄な上官を持った直属下士官の上官並びにその妻観察日記

karon
ファンタジー
色男で女性関係にだらしのない政略結婚なら最悪パターンといわれる上官が電撃結婚。それも十六歳の少女と。下士官ジャックはふとしたことからその少女と知り合い、思いもかけない顔を見る。そして徐々にトラブルの深みにはまっていくが気がついた時には遅かった。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

転生してテイマーになった僕の異世界冒険譚

ノデミチ
ファンタジー
田中六朗、18歳。 原因不明の発熱が続き、ほぼ寝たきりの生活。結果死亡。 気が付けば異世界。10歳の少年に! 女神が現れ話を聞くと、六朗は本来、この異世界ルーセリアに生まれるはずが、間違えて地球に生まれてしまったとの事。莫大な魔力を持ったが為に、地球では使う事が出来ず魔力過多で燃え尽きてしまったらしい。 お詫びの転生ということで、病気にならないチートな身体と莫大な魔力を授かり、「この世界では思う存分人生を楽しんでください」と。 寝たきりだった六朗は、ライトノベルやゲームが大好き。今、自分がその世界にいる! 勇者? 王様? 何になる? ライトノベルで好きだった「魔物使い=モンスターテイマー」をやってみよう! 六朗=ロックと名乗り、チートな身体と莫大な魔力で異世界を自由に生きる! カクヨムでも公開しました。

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

処理中です...