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テーバイ予選

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 飛び交う参加者達…いや、ブッ飛ばされて逝く勇気ある犠牲者達とでも言えばいいのだろうか。


「何でだ。何でこうなった?」


<おぉっと、また場外に吹き飛ばされたぁ!台風か!?ハーレムハリケーンなのかぁ!?>


 競技場内に響き渡る実況の声はヘルメスのものだ。本当に手広くやっていると思う。いや、そんな事よりもこの状況は不味い。


<またもや場外失格だぁ!あれは前回予選通過したオリンポスが生んだド変態サチュロスだぁ!!ド変態すら軽く吹き飛ぶハーレムハリケーンっ!!その中心にいるのは何もしていないこの男っ!!転生者ユシルだ~っ!!>


 老若男女問わず四方八方からブーイングが飛び交う。


「うん、わかった。あいつヘルメスは敵だ。予選通過なんてどうでもいいから殴りにいこう」


 俺が怒りに身を任せて指をパキパキと鳴らしていると俺の背中を背もたれとして使用しているロキから声が掛かる。


『やめときなさい。あんたは本戦で優勝して、あの服職人に土下座させるっていう大事な任務があるでしょ』



「ねぇよ。どっちかと言えば服を作ってもらうのが目的だって。てか、何でいる?ここ競技場内だぞ?しかもツグミまで」


 俺の目の前ではリーシュとツグミが押し寄せる参加者…自殺希望者達を方や風魔法で吹き飛ばし、方や投げ飛ばしとまさに一騎当千の力の差を見せつけていた。神器もなしに。


『なんかツグミはレヴァレヴを見失って、混んでる迷子センターで名前書いてくれって言うから書いたらそこが予選受付だったんだって』


『ツ~グ~ミちゃ~ん!頑張ってぇ!!』

『ばってー』

『ピュイ~』

 見失ったはずのレヴァレヴはちゃっかり目の前の観客席でフェニを頭に乗せて楽しそうに応援している。


 俺は思わず額を手で覆った。


「どんな勘違いだよ…。で、お前は?」


『わっ、私は…あれよ!屋台を視察してたら、すっごい行列が出来てたからどんな繁盛店かと思って並んでみたのよ』


 もうそれ以上聞かずとも内容はわかる。


「その繁盛店が受付だったと?名前を書いたのは?」


『席が空いたら呼ばれると思ったのよ。色々買ってて前も見ずらかったし。まぁ、呼ばれはしたけどね』


「最後の参加者としてな。まさに迷子の呼び出しみたいだったぞ」


 ゴツッ! 


 後頭部に軽い衝撃を感じた。迷子の食魔導はお怒りのようだ。だが俺だって学習するのだ。後頭部に少しだけ魔力を纏っていたので痛みはない。お前の性格などお見通しだ。


 ガツッ! 


「いって!」


 足首に痛みが走った。見るとロキのかかとが俺のアキレス腱を踏んでいた。


『あんたの性格なんてお見通しよ。食魔導舐めんな』


「いや、お前は闇魔導だろ!?」


『いいから黙って休んでなさいよ。ん?ライトニングアロー』


 俺の背後に回ったであろう参加者はロキが雷の矢でバタバタと気絶させているようだ。始まる直前にキョロキョロしながら3人でヒソヒソしていたので何か考えがあるのだろうが、俺をヒモ男だと周囲に認知させる作戦でない事を祈りたい。
 ちなみに予選には300人ほど参加していて、このテーバイから本戦に行けるのはたった4人なのだそうだ。予選を免除され、本戦から参加する者もいるらしいが。
 おそらくだが、リーシュ達は自分達4人で予選を抜けてしまおうと言う考えなのだろう。

 そんな事を考えているとリーシュがこちらへ歩いて来るのが見えた。妙に静かなので周囲を見回すとすでに参加者はほぼ全滅していて、残っているのはツグミがまさに今投げ飛ばした者と少し離れた所にじっと立っている女だけだった。
 この時点で残り5人、あと一人倒さなければいけない状況の中、じっとしていた女はリーシュへ叫ぶように声を上げる。


『おいっ!何であたしと戦わない!?舐めてんのか!!お前もっ!』


 お前と叫ばれたツグミはあまりの剣幕に驚いたようで、ビクッとした後、そそくさとこちらへ歩くリーシュの影に隠れた。どうやらリーシュとツグミはあの怖そうな女だけを避けて戦っていたようだ。


<さぁ、予選も終盤!本戦枠は4つのみっ!荒れに荒れたハーレムハリケーンも収まり、ついに濃厚なバトルが見られるのでしょうか!?何か揉めてます?…ならば、今のうちに残った参加者を紹介してしまいましょう。先程ユシル選手は紹介したので省かせていただいて、さぁ、今歩いているエメラルドグリーンの髪が美しい美少女!皆さんも知ってる方ですよ?前神界大戦で暴れ回った戦姫っ!風天ヴァーユだぁ!!>



 声援でも起こるかと思ったが、俺の予想に反して周囲はざわざわしている。困惑してざわざわしている。


『リーシュが参加した戦場はすっごい事になってたから、ビビられててもおかしくないわね』


 ロキの解釈に周りが引くほどの事とはどれだけ暴れ回ったのか知りたかったが、俺も引いてしまいそうなのでやめた。



<ざわざわしてますね!さて、その戦姫の隣で隠れるように移動している黒髪ポニーテールの美少女っ!知る人ぞ知る隠れた有名人!大和のNo.2!!夜を切り裂く月姫!何故ここにいるのか月讀命だぁ!!>


 オォー!!


 観客席からリーシュの時にはなかった歓声が上がる。物珍しさなのだろうか?ツグミは不思議と人気があるようだ。



<さぁ、次へ行きましょう!今ユシル選手に寄り掛かっている黒髪ロングの美少女っ!寄り掛かられているユシル選手が羨ましい!皆さん知ってますよ!世界が傾くほどの狡猾さ、まさに傾国の美少女!賢姫ロキ!!>



 ・・・



 ウォーォォォォ!!!!

 ロ~キ!

 ロ~キ!


 物凄い歓声だった。ロキコールまで起こり始めている。


「何だ、この人気…。アースガルドと真逆じゃねぇか」


『傾国の美少女ですって!聞いた?ユシル。ついに私の時代が来たのよ!美乳の時代よ!まぁ、この盛り上がりは私にも分からないけど、なんか人気みたいなのよ。アンチヒーロー的な?』


 傾国の~はロキにとっては褒め言葉のようで上機嫌だ。



<さぁ、最後は我が国からです!何故テーバイ予選に来ているのか、ゼウス様側近の一人!暴力を司るぶっちぎりのヤバイ奴!暴れ馬ビアー!!>



 ウォォォォォ!!!



 ロキと同じくらいの歓声が上がる。だが歓声よりも


『何で暴れ馬なんだよっ!!あたしにも姫をつけろ!姫を!!』


 歓声よりもデカイ声で抗議するビアーに実況のヘルメスは真顔で告げた。


<ビアー、ゴメン無理。一定以上の可愛さがないと姫は付けられない。俺、お前に姫つけたくない>


『マイクを使って言うなぁーー!!』


 ヘルメスもそこまで本音で言わなくてもと少し可哀相だと思ってしまった。それが顔に出ていたのか、いつの間にか目の前に来ていたリーシュが満面の笑みで告げる。


『ユシル?可哀相とか思ってる?そんな余裕あるのかな?あの今にも怒りで暴走しそうなあの子があなたの相手だよ?』


 俺の顔から感情が消えた。


「へっ?」


『だ・か・ら、あなたの対戦相手。タイマン?あっ、エクストラリミットとレヴァちゃん禁止ね』


「それは…素手でゴリラと戦うようなものじゃ…」


『どっちかと言うと素手でゴ○ラかな?』


「何でゴジ○知って」 


 俺が話終わる前にリーシュに背中を押されてビアーと対峙してしまった。しかも、今の会話も聞かれていたようで


『馬の次はゴリラか、ゴラァ!!殺す殺すブッ殺すっ!』



「…本当にすいませんでした」


 俺はこれまでの人生で1番深く頭を下げたのだった。
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