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オリンポス、テーバイにて
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「…なぁ、ロキ。何とかならないか?めちゃくちゃ目立ってるぞ」
『何言ってんのよっ! 久々に見れたんだから、目に焼き付けておかないと。アンタ、止めたらぶっ飛ばすわよ?』
俺達は無事ギリシャ神話の国[オリンポス]へ入っていた。
いや、正確に言えば入国手続きに手間取っていた。大戦の為、警戒レベルが上がっているのもあるのだろうが、おそらく今手間取っているのはこの御方のせいだ。
「だぁかぁらぁ!ウチらは全然怪しくねぇし、面子は面子だけど観光で来たって言ってんじゃねぇか!何でわかんねぇんだよっ!」
おっさんかと思いきや…
見覚えのあるキャスケットを被りマスクを付けた、俺がこの世界で初めて出会った女の子のせいだった。
オリンポス入国にあたりテーバイという都市の7つある門の1つであるネイタイ門に近づいた所で、リーシュが突然ハッとしたような顔をした後、自前のリュックを漁り始めたのだ。そして「あったぁ!」という声と同時に出てきたのがキャスケットとマスクである。
それをいそいそと装着した途端、肩で風を切って入国窓口へ一人で突入していったのだ。
ロキとフレイは嬉しそうにキラキラした目で見つめ、おっさんは苦笑い、スクルドは呆気に取られ、俺はビビッて後退り、ツグミは後ろの方で恐くて泣いている。俺はとりあえずこの面子の中で一番知名度があるであろうおっさんに助け船を求めることにした。
「おっさん、これどうにかできない?主神の威厳とかでさ」
おっさんは後頭部を手で掻きながら困った顔をする。
「できるんだが、まだ目ぇつけられたくねぇんだよ。監視が付く前に色々と根回しもしてぇしよぉ」
その答えを聞いて俺はがっくりと頭を下げたのだが、ふと視線を感じで頭を上げた。すると少し離れた場所に入国待ちをしているのか、荷馬車の御者をしていた男がこちらを興味深そうに見ていた。さすがに気になったので俺はその御者に声をかけることにした。その御者は何を考えているかわからないようなキツネ顔のイケメンだった。歳は人間であれば25くらいだろうか。
「あの~、何か?」
その御者は軽く微笑みながら答えた。
「いやぁ、お困りかなと思ってね。色々事情も有りそうだし、良かったら後ろの荷の箱に隠れてもいいよ?え~と、7人かな?…うん、そのくらいならなんとか」
(怪しい。かなり後ろで泣いているツグミまで数に入れるとか変だろ。なんかめっちゃ怪しい!)
「あ、いや、結構です」
「あれ!?なんか僕、疑われてる?怪しい者じゃないよ?」
顔に出てしまっていたようだ。御者はさらに言う。
「じゃあさ、取引はどう?こっちは君達を僕の権限で入国させる。代わりに君の肩に乗ってる聖獣の羽を1枚くれないかい?僕は珍しい物に目が無くてね」
御者は俺の肩に乗るフェニを指差した。
「…坊主、ここはその話に乗っとけ」
おっさんが小さく耳打ちしてきた。
(確かフェニって複数のマジックリフレクション?とかいうスキルを持ってる珍しい朱雀なんだっけ?)
お互いにメリットが出ると途端に信用度が上がるのは何故だろうか。
「フェニ、痛くなかったらでいいんだけど羽を1枚くれないかな?」
ピ~!
フェニは自分の翼に嘴を突っ込み器用に1枚の羽を抜いて俺へ差し出してくれた。
俺はフェニを撫でながら、後で魔力の底が付くまで濃縮魔力を食べさせてあげようと決めた。
「これでいいですか?」
俺は御者へフェニの羽を差し出した。御者はそれを受け取り胸元へしまうと後ろの荷台を指差した。
「ありがとう。いい取引が出来て僕も嬉しいよ。じゃあ、後ろに乗って。他の人も連れてきてもらえるかな」
俺は全員を集めて荷馬車の後ろに乗せた後、窓口係員の視線を受けながらも乗り込んだ。
この御者は権限で入国させると言ったのだ。隠れる必要などないというのが俺の結論だった。
そして俺の予想はピッタリ当たり、荷台にさっき揉めていたグループがいるにも関わらず、何もなかったように荷馬車はすんなりと門を通過し、オリンポスの都市の1つであるテーバイへ入ったのだった。
門を通過して少し行った所で荷馬車は止まった。
「さぁ、もう大丈夫だろう。降りても問題ないよ」
俺達が荷台を降りると目の前には石造りの街並みがあった。アースガルドより少し古い時代、中世ヨーロッパのような街並みだろうか。雰囲気は似ているが、街の人々はアースガルドより少し顔が濃い方が多い気がする。美男美女ばかりなのは言うまでもないが。
見とれる俺の目の前に手が差し伸べられていた。
「僕はもう行くよ。オリンポスへようこそ、歓迎する。君達の旅が無事に終わる事を僕も祈っているよ」
俺は差し伸べられた手を握ると
ポーンッ!
『オリンポス十二神[ヘルメス]との友情値が30%を越えました。情報共有〔始〕が借用可能です。借用登録しますか?』
俺は何故すんなり入国できたのか理解した。おそらくおっさんは始めから気付いていたのだろう。新しいスキルを登録し、俺は御者へ最後の言葉をかける。誰にせよ、助けられたのには変わらないのだから。
「何も聞かないんですね。でも助かりました。ありがとうございます」
御者は荷馬車を走らせた。動き出す荷馬車から御者が去り際に言った。
「僕は君達を応援したいと思ってるよ!僕の名は[ヘルメス]!また会おう、アースガルドの問題児達と大和の姫君」
そんな言葉を残し、荷馬車は見えなくなっていった。
「なんだよ…全部わかってんじゃん」
ギリシャ神話側のトリックスター、オリンポス十二神の一人[ヘルメス]の導きで俺達はオリンポスへ入ったのだった。
『何言ってんのよっ! 久々に見れたんだから、目に焼き付けておかないと。アンタ、止めたらぶっ飛ばすわよ?』
俺達は無事ギリシャ神話の国[オリンポス]へ入っていた。
いや、正確に言えば入国手続きに手間取っていた。大戦の為、警戒レベルが上がっているのもあるのだろうが、おそらく今手間取っているのはこの御方のせいだ。
「だぁかぁらぁ!ウチらは全然怪しくねぇし、面子は面子だけど観光で来たって言ってんじゃねぇか!何でわかんねぇんだよっ!」
おっさんかと思いきや…
見覚えのあるキャスケットを被りマスクを付けた、俺がこの世界で初めて出会った女の子のせいだった。
オリンポス入国にあたりテーバイという都市の7つある門の1つであるネイタイ門に近づいた所で、リーシュが突然ハッとしたような顔をした後、自前のリュックを漁り始めたのだ。そして「あったぁ!」という声と同時に出てきたのがキャスケットとマスクである。
それをいそいそと装着した途端、肩で風を切って入国窓口へ一人で突入していったのだ。
ロキとフレイは嬉しそうにキラキラした目で見つめ、おっさんは苦笑い、スクルドは呆気に取られ、俺はビビッて後退り、ツグミは後ろの方で恐くて泣いている。俺はとりあえずこの面子の中で一番知名度があるであろうおっさんに助け船を求めることにした。
「おっさん、これどうにかできない?主神の威厳とかでさ」
おっさんは後頭部を手で掻きながら困った顔をする。
「できるんだが、まだ目ぇつけられたくねぇんだよ。監視が付く前に色々と根回しもしてぇしよぉ」
その答えを聞いて俺はがっくりと頭を下げたのだが、ふと視線を感じで頭を上げた。すると少し離れた場所に入国待ちをしているのか、荷馬車の御者をしていた男がこちらを興味深そうに見ていた。さすがに気になったので俺はその御者に声をかけることにした。その御者は何を考えているかわからないようなキツネ顔のイケメンだった。歳は人間であれば25くらいだろうか。
「あの~、何か?」
その御者は軽く微笑みながら答えた。
「いやぁ、お困りかなと思ってね。色々事情も有りそうだし、良かったら後ろの荷の箱に隠れてもいいよ?え~と、7人かな?…うん、そのくらいならなんとか」
(怪しい。かなり後ろで泣いているツグミまで数に入れるとか変だろ。なんかめっちゃ怪しい!)
「あ、いや、結構です」
「あれ!?なんか僕、疑われてる?怪しい者じゃないよ?」
顔に出てしまっていたようだ。御者はさらに言う。
「じゃあさ、取引はどう?こっちは君達を僕の権限で入国させる。代わりに君の肩に乗ってる聖獣の羽を1枚くれないかい?僕は珍しい物に目が無くてね」
御者は俺の肩に乗るフェニを指差した。
「…坊主、ここはその話に乗っとけ」
おっさんが小さく耳打ちしてきた。
(確かフェニって複数のマジックリフレクション?とかいうスキルを持ってる珍しい朱雀なんだっけ?)
お互いにメリットが出ると途端に信用度が上がるのは何故だろうか。
「フェニ、痛くなかったらでいいんだけど羽を1枚くれないかな?」
ピ~!
フェニは自分の翼に嘴を突っ込み器用に1枚の羽を抜いて俺へ差し出してくれた。
俺はフェニを撫でながら、後で魔力の底が付くまで濃縮魔力を食べさせてあげようと決めた。
「これでいいですか?」
俺は御者へフェニの羽を差し出した。御者はそれを受け取り胸元へしまうと後ろの荷台を指差した。
「ありがとう。いい取引が出来て僕も嬉しいよ。じゃあ、後ろに乗って。他の人も連れてきてもらえるかな」
俺は全員を集めて荷馬車の後ろに乗せた後、窓口係員の視線を受けながらも乗り込んだ。
この御者は権限で入国させると言ったのだ。隠れる必要などないというのが俺の結論だった。
そして俺の予想はピッタリ当たり、荷台にさっき揉めていたグループがいるにも関わらず、何もなかったように荷馬車はすんなりと門を通過し、オリンポスの都市の1つであるテーバイへ入ったのだった。
門を通過して少し行った所で荷馬車は止まった。
「さぁ、もう大丈夫だろう。降りても問題ないよ」
俺達が荷台を降りると目の前には石造りの街並みがあった。アースガルドより少し古い時代、中世ヨーロッパのような街並みだろうか。雰囲気は似ているが、街の人々はアースガルドより少し顔が濃い方が多い気がする。美男美女ばかりなのは言うまでもないが。
見とれる俺の目の前に手が差し伸べられていた。
「僕はもう行くよ。オリンポスへようこそ、歓迎する。君達の旅が無事に終わる事を僕も祈っているよ」
俺は差し伸べられた手を握ると
ポーンッ!
『オリンポス十二神[ヘルメス]との友情値が30%を越えました。情報共有〔始〕が借用可能です。借用登録しますか?』
俺は何故すんなり入国できたのか理解した。おそらくおっさんは始めから気付いていたのだろう。新しいスキルを登録し、俺は御者へ最後の言葉をかける。誰にせよ、助けられたのには変わらないのだから。
「何も聞かないんですね。でも助かりました。ありがとうございます」
御者は荷馬車を走らせた。動き出す荷馬車から御者が去り際に言った。
「僕は君達を応援したいと思ってるよ!僕の名は[ヘルメス]!また会おう、アースガルドの問題児達と大和の姫君」
そんな言葉を残し、荷馬車は見えなくなっていった。
「なんだよ…全部わかってんじゃん」
ギリシャ神話側のトリックスター、オリンポス十二神の一人[ヘルメス]の導きで俺達はオリンポスへ入ったのだった。
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