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暴風の楔

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 キンッ、ガキンッ!


 金属同士がぶつかり合う音が響く。甕星の鋭い一撃を俺は裏拳で刀の腹を叩いて軌道を逸らす。俺の魔力を込めた蹴りを甕星は刀の峯で受ける。


「ったく、そんなの刃で受けたら刃こぼれすんじゃん?てか、お前やっぱ実力隠してんじゃん」


「そんなこと言ってる割には余裕そうだな」


 甕星の刀の扱い方には特徴があった。それは刃を引きながら振る事である。攻撃も俺に当たる瞬間に刃を滑らせてくる。これが日本刀の使い方なのか、甕星の戦い方なのかはわからないが普通に受けたらスパッと切り落とされそうなほどの切れ味があるのは実感している。対して俺の攻撃も今甕星が言っていた通り、刃を引かずに直に受ければ確実に刃こぼれするであろう威力が籠っていた。師匠との修練のおかげだろう。俺の攻撃は師匠と出会う前よりも遥かに鋭く早い。無駄が削ぎ落とされているのだ。そして、手数が増えた事によって甕星に隙を与えない。手数に関しては以前の倍以上になっていた。
 俺は徐々に抑えていた疾風迅雷と手数のギアを上げ始めた。


 キンッ、キキンッ!キキキキ…


「なっ…まだ上がるの!?ちょっ…」


 キキキキキキキキ…


 徐々に甕星の反撃が減り、防戦一方となっていった。


 師匠から徒手空拳で使える技術をいくつか教わった。その一つがこれである。徒手空拳…長物の武器を持たない俺にとってのデメリットは2つ。

 リーチ差、そして刃物を直に受け止められない事。

 魔力をかなり多めに込めればある程度は防ぐ事が可能だろう。しかし、魔力は無限ではない。もちろん、[エクストラリミット]なら可能だろうが、それではあの技が使えない。レーヴァテインは相手の魔力障壁を無視するほど攻撃に特化している強力な神器だ。だからこそ、それほど魔力を込めなくてもかなりの威力が出る事を俺は明王館で知った。

 俺は師匠やレヴァ、レヴに出会って初めてレーヴァテインの本当の使い方を理解した。それに気付いたのはレヴの一言がきっかけだった。修練中は外から見ているのは良いが、俺と師匠の組手中に明王館に立ち入る事はリーシュ達でさえ禁止だった。休憩中だけは許されていて、よくぶっ倒れた俺の世話をしてくれていたが、基本組手中に傍に居れるのはツグミとレヴァとレヴだけだった。

『…ゆーちゃんは無駄ばっか…』


『だよねぇ』


 レヴァも同意していた。レーヴァテインを発動していて、感覚的にかなり研ぎ澄まされていた俺はそれを聞き逃さなかった。レヴに何かを聞いても答えはくれないので、俺は師匠との組手を中断し、レヴをじっと見つめた。するとレヴがまた独り言のように話し出した。


『…レヴァは強いのに、あの膜が邪魔、てか無駄』


「膜?……魔纏か?まさか」


 そんなことが有り、今の現状がある。レーヴァテインの正しい使い方は魔力を纏う事ではない。

 レーヴァテイン本体である腕輪の場所に魔力を込める事だった。外から覆うのではなく体内を通じて内側から込める。たったこれだけの差でレーヴァテインは威力が上がる。今までは俺の魔纏や拳に魔力を込めた時に漏れ出した魔力の残滓でレーヴァテインは発動していたのだ。

 そしてきちんと発動したレーヴァテインと俺の徒手空拳に合った師匠から教わった技術はただの連打だった。正確に言うと連打を、手数を増やすための体の使い方。

 連打は片腕からできり。

 ワンツーのように両手を使って2打を使うのは勿体ないと師匠に言われた。俺が使うのは徒手空拳であって、ボクシングではない。拳のみに頼る必要はないのだ。さらには拳である必要もない。片腕には大きな3つの関節がある。手首、肘、肩だ。それをうまく使えば手数は格段に増える。初撃は拳で流れで肘、衝撃を利用して肘を曲げた状態から手首のスナップで裏拳など、片腕だけでも3打は出せる。それを両腕で6打、更に肩でチャージして7打、脚でも行い、蹴りと膝で更に手数を稼ぐ。これらを織り混ぜて行くと多大な手数とパターンを読ませない攻撃の複雑化が可能になるのだ。

 多大な手数で圧倒し、甕星は下がらざるを得なくなっていた。


『…ねぇ、たかだか数ヶ月でこれってどうゆうこと?』


 ロキが唖然とした顔で周りに問い掛けた。


『センス…って言葉じゃさすがに片付けられないよね。もし、あの体術をスキルとして判断するなら[終]までいってるかも』


「…へぇ、やっぱりそうゆう事か。おっ?」


 リーシュがロキの問いかけに答える中、誰にも聞こえないくらいの声でオーディンは呟いた。そして何かを感じ取りユシルに声を掛ける。


「坊主っ!今、こっちにもう一つ軍が向かってる!楽しんでるとこ悪いが、あんまし時間ねぇぞ!」


 おっさんに言われてハッとした。俺はいつの間にかここを脱出するという目的を忘れて甕星との戦いに夢中になってしまっていた。俺が甕星と戦い始めたせいでリーシュ達も観戦に没頭してしまい、未だに多く兵士が残っていた。


「…甕星、正直言うと楽しかった。だけど、俺達は行かなきゃならない。引いてくれないか?」



「そりゃ無理だな。お前が悪人じゃなさそうなのはなんとなく分かる。だけど、俺は軍団長だ。ここにいる奴らは俺の軍のほんの一部でしかない。見逃したら、俺の軍全てが罰せられるんだ。それに…俺も楽しくなっちゃってさ。そろそろ本気出そうと思うんだわ」


 ふいに甕星の魔力が膨れ上がった。俺は慌てて渾身の蹴りで甕星を弾き飛ばして距離を取った。


「あれ?ビビっちゃった?俺も久々に憑依神装使うからさ、もっと楽し…」


憑依神装んなもんさせるかよっ!」


 俺は甕星を恐れたわけではない。最短でここを脱する選択をしただけだ。


 欲しかったのは距離。


「甕星とその後ろにいる奴ら!死にたくなきゃ逃げるか死ぬ気で防げ!コード[エクストラリミット]!」



 内から溢れる魔力と膨大な魔力の激流に入ったような感覚。初めて使った時は膨大な魔力の激流にまともな制御などする余裕はなかったが、今は違う。まずこれが出来なければ、この先にある圧縮や形成の制御は不可能だからだ。


「おいおい…何だよ、それ。そんなの聞いてないんだけど」


 甕星が驚いているのも無理はない。何故なら俺と甕星の間に濃密で膨大な緑色の魔力が溜まっているからだ。もちろん出したのは俺だが。


「ふっ!」


 俺はその魔力の塊を制御、圧縮し、形成する。


 俺の目の前には三角形の円錐をくり貫いたような緑色の物質が作り出された。もちろん全て魔力で出来ている。魔力は圧縮すればするほど威力が上がる。緑色なのはリーシュから借り受けた風魔法を混ぜているからだ。風魔法の特徴である拡散は対集団に関してかなり相性が良い。


「新技の初お披露目だ。忠告はしたからな。
 弾けろ![暴風の楔ゲイルヴェッジ]!」


 俺はレーヴァテインにも膨大な魔力を込めて巨大な楔形の魔力塊を右拳で撃ち抜いた。




 ヒュッ…ドバンッ!!!


 風の抜ける音がした直後にした重い破裂音、目の前の甕星やその後ろにいた大量の兵士達もまとめて跡形もなく消えた。

 ものすごい速さで吹き飛んだのだ。いつもは師匠に消されてしまってそよ風程度だったので、俺も見るのは初めてだったが。


「皆!今のうちに抜けるぞ!」


 全員無言で付いてきたが、ニヤニヤするオーディン以外は周りを見渡して唖然としていた。


 何故なら俺より少しでも前にいた兵士は全て・・吹き飛んでしまい、俺達の目の前には何も障害物のない平坦な道しかなかったからだ。


 その後、俺の背中には様々な視線が集まった。


 目をキラキラさせるリーシュ、ツグミ、フレイ。

 眉根を寄せてこめかみを抑えるロキとスクルド。

 何故かガッハッハと大笑いのおっさん。


 こうして俺達はかなり派手に大和から出国した。




 後日、この日のお陰か俺の神界序列は74位になっていた。
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