運命のレヴル~友達増やして神様に喧嘩売りました~

黒雪ささめ

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レヴァとレヴ

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 目の前には懐かしい景色があった。木々が生い茂り、舗装されていない道が続く俺の育った家の裏山。


 同時に前世の俺の最後の場所でもある。


 初めは驚いたが、今はただ懐かしいという思いしかない。ここは俺の深層領域である。前世の裏山を細部にまで再現したような場所。毎日ここに何かを探しに来ているがピンと来るものも特になく鳥はおろか人すら見たことがない。だが、ここ最近は何となくだが気配を感じる事がある。はっきりとしたものではないのだが、どことなく見られているような気がするのだ。
 まぁ、その気配を追う事ができないのでとりあえず歩き回るしかできないのだが。俺はいつも通り裏山を適当に歩く事にした。今まで走り回ったり、大声を出したり、穴を掘ったりしたが結局何の変化もなかった。


「さて、今日は何を試してみようかな。…あっ、そうだ」


 先程の制御の失敗が頭を過った。久しぶりの失敗だったからだろう。その失敗で死んでた可能性もあるが、師匠が意外に俺を凝視してる事が多かったので実はほんの少しだけ心に余裕を持てるようになっていた。
 しかし、命がかかっていたのは事実である。どうせただ歩き回るだけなら制御の練習でもしようと俺は片手から魔力を出した。自分の魔力でも圧縮は可能である。量と密度はエクストラリミットで出した魔力には到底及ばない程度の大きさで、手の平サイズという感じだろうか。


「コンプレッション、…モールド」


 俺が魔力を圧縮して成形したものはリスだった。理由は特にないが、強いて言うなら前世でア⚪ラ先輩の出てくるアニメが好きだったというくらいのものだ。
 俺はその魔力リスを動かし、まるでペットを散歩させるかのように歩いた。自分の魔力だけなら圧縮するにもたかが知れているし、ある程度制御できる。師匠に指示されている魔力の量が尋常ではないのだ。

 そうやって魔力リスを散歩させているとふいに脇の草むらがガサガサと揺れた。


 ガササッ!


『可愛い~♪』


『あっ、レヴァ!』


「うぉっと!?」


 突如目の前に子供が二人飛び出してきた。


『ねぇねぇ、レヴ見てっ! 可愛いよぉ♪』


 俺の制御する魔力リスをしゃがんで見つめる金髪の女の子。そして、それを追いかけて銀髪の女の子が姿を現した。


 魔力リスに夢中だった金髪の女の子がようやく俺に気付いたようで、こちらを見て気マズそうな顔で言う。


『あちゃー、見つかっちゃった!』


 銀髪の女の子は額に手を置き


『レヴァは好奇心旺盛過ぎ』


 始めて出会った二人に俺は衝撃を受けつつ


「あの…君達は? ここ、俺の深層領域のはずなんだけど」


 すると金髪の女の子が左手を腰の後ろに回し、下に伸ばした右手の平をこちらに向けて


『お控えなすってぇ!! 手前、レヴァと申しやす! どうぞよしなに!』


「いや、意味わかんねぇし」


 いきなり変な仁義を切ってきたので、思わず素でツッコんでしまった。少しして俺は正気を取り戻し


「あっ、ごめん。レヴァちゃんね。君は?」


 銀髪の女の子を見て言ったのだが


『お控えなすってぇ!! 手前、レヴァと申し…』


「ちょっ、わかってるよ!? レヴァちゃんだよね! そっちの銀髪の子に聞いたんだよ? 名前教えてくれる?」


 何故かレヴァと名乗った金髪の女の子がもう一度やろうとしていたので止めてもらい、銀髪の子に名前を聞いたのだが


『ヤダ。人に名前を聞くならまず自分から名乗るべきだと思う』


「うっ、確かに。ごめんね、俺はユシルっていうんだ。君の名前も教えてくれるかな?」


『ヤダ』


「えぇ!? 何で!?」


 驚く俺にレヴァが言う。


『お兄ちゃん、レヴに質問しても無理だよ? 』


「え? 何で? 俺、初対面で嫌われたとか?」


 質問しても無理とはどうゆう事だろう。無駄ではなく無理? この辺の言い回しは何か意味があるのだろうか。


『嫌われてるかどうかはわからないけど、レヴに質問するとヤダとかイヤしか返ってこないの。レヴに教える気があるなら自分から言ってくると思うよ』


「えーと、レヴちゃんね。よろしくね」


 おそらく今のよろしくねと言うと同時に向けた笑顔は、今までで一番引きつっていたに違いない。


「二人は姉妹なのかな? 名前も似てるし」


『違うよ? レヴとはここで会ったの』


「ここ? ここ俺の深層領域で?」


 そんな話をしている時だった。


『なんとまぁ運のいい奴だな』


 いつものような頭の中ではなく、今回はスピーカーから聞こえるように周囲にユグドラシルの声が響いた。これも俺の深層領域だからだろうか。そして、何の事かと聞こうとしたところ、俺より先に反応した人物がいた。


『…あれ? おいちゃん? おいちゃんだよねっ! おいちゃーん!あたしだよ、レヴァだよっ!』


『おいちゃんと呼ぶなと言っただろう。我がお前を忘れるわけがなかろう。レヴァよ、久しぶり…というわけではないが、話すのはいつぶりだろうな』


『んー、わかんないっ! でも、いつも一緒にいたから久しぶりな気もするよ?』


「えっ!? 知り合い?」


『知り合いどころではないぞ? レヴァはお前が持っているレーヴァテインの深層意識だ。我がずっと頂上で封印していたのを覚えているか? あの時期はレヴァとロキが我の話し相手であった』


 今日は驚かされてばかりだ。レーヴァテインにこんな可愛らしい深層意識がいて、まさか俺の深層領域にいるなんて誰も思わないだろう。それに気になる事がもうひとつある。


「じゃあ、レヴちゃんもレーヴァテインの?」


 レヴを見たらプイッと顔を逸らされてしまった。


『深層意識がいくつもあるわけがないだろう。そのレヴという娘には我も心当たりはない。レヴァはどうなのだ?』


『あたしもここでレヴに出会ったからよく知らないの。でも、仲良しなんだよねー、レヴ♪』


『仲良し』


 聞きたいことがたくさんあるが、きっと聞いても無理なのだろう。


「ユグドラシル、初めに言ってた運がいいって何の事だ? レヴァとレヴに出会った事か?」


『その事以外有るまい。神器の深層意識になど簡単に会えるものではないぞ? 長年修行を積み重ね、自らを極めた者の中から深層意識の存在に気付いた者にのみ、神器は全てを委ねるのだ』


「それってもしかして…」


『そうだ。それが神器の極致、[憑依神装]なのだ。深層意識に気付けない未熟者に神器は心を開く事はない。お前も見ただろう? 未熟者の末路を』


「ジークフリートか。 えーと、じゃあもしかして俺にも[憑依神装]が使えたり?」


 少しワクワクしてしまう。だが


『お兄ちゃんはまだダメダメだと思うよ?』


 レヴァがスパッと切り落としてくれた。ダメダメって…相当ダメじゃないか。


「ダメダメ…ちなみに何がダメか聞いてもいいかな?」


『んー? だってあたし[憑依神装]した事ないもん。どうやったらいいかもわからないし、なんか…お兄ちゃんダメそう』


 グサッときた。明確な理由のないなんかダメそうって本当にダメなやつだと思う。よく見ると落ち込んでいる俺を見てレヴが口を両手で抑えて笑っている。逆にレヴァは何故俺が落ち込んでいるのか不思議がっているようだ。


『未熟者め…』


 ユグドラシルの呆れた声の直後、俺は深層領域から現実の明王館の離れの布団の上へと意識が引き戻された。そして、時計は5時半を指していた。あと30分でまた地獄の鬼ごっこが始まる。体は休めているが、意識は活動していたので精神的な疲労が半端じゃない。だが全部でと言ったのは俺だ。自分の言った事くらい実行できなければ、それこそダメダメである。


 俺はどうやったらレヴァの言うなんかダメそうな状態から抜け出せるのか考えながら修練に行き、師匠に弛んでいると半殺しにされるのだった。











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