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思い上がり
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目覚めた俺はナータの前に座り、今までの経緯を話した。何故急に稽古を引き受けたのか。ユグドラシルと何か話すことができたのか俺にはわからないが、ナータは黙って話を聴いていた。ユグドラシルの話をするかどうか迷ったがツグミが話しても大丈夫だと目配せするのですべて話す事にした。
「お前が力を欲するのは仲間の為と言っていたが、話を聴くに…その[エクストラリミット]とやらがあれば必要ないのではないのか?」
「確かに[エクストラリミット]を使った時は正直負ける気がしませんでした。でも、ロキ…あっ、アースガルド七魔導のロキに言われたんです。[エクストラリミット]を制御できてようやく自分達に届くって。俺はロキやリーシュ、ツグミ達の本当の実力を知りません。この前、邪竜ニドヘグに襲われてリーシュ達に守られてなんとか生き残れました。光魔導バルドルの差し金のような事を言ってました。でも、バルドルが命令しなくても俺の中にはユグドラシルが居ます。ニドヘグはユグドラシルに執着しているように見えました。…きっとまた襲ってくる……その時また生き残れる確証もないし、もし負けたら…一人ずつ狙われたら…リーシュ達だけなら逃げられるかもしれないけど、俺を守りながらじゃ絶対勝てない、そんな気がするんです」
俺は思っていた事を全部言った。[エクストラリミット]は正直反則だと思う。あれは魔力量の底が見えないとスサノオに言われたように、俺自身も限界がわからない。限界があるのかどうかもわからない。
しかし、使うには俺はあの魔力の奔流を制御しなければならない。ジークフリートは自我を失っていた事もあって、魔力をギリギリ制御できる時間があったがニドヘグは別だ。恐らくニドヘグと俺が対峙した場合、俺は数秒と持たない確信がある。それどころか[エクストラリミット]を使ってもリーシュ達に勝てるビジョンが浮かばない。膨大な魔力をすべて防御に使って耐えるだけならできるかもしれないが…
デカいだけのテレフォンパンチが当たるほど、この世界の上位の存在は甘くはない。今まで戦闘経験を積むために相手をしてくれていた美少女達に俺の攻撃は一度も当たった事は無く、当たっても倒せるかどうかもわからないのだ。
「ふむ、現状を少しは理解しているようだ。馬鹿ではなさそうだが、まだだな。お前はまだ理解していない」
「理解…ですか?」
「お前はまだ自分がこの世界の上位以外に敗けはしないと思っている節がある。ハッキリ言おう。お前は弱い。エクストラリミットを使えるという事実がお前に悪い影響を与えているな」
「でもっ! ジークフリートにも勝ったし、エクストラリミットがあればっ」
「お前はたった一度使えただけの力に縋るのか? 全員がお前と一対一で正々堂々と戦ってくれるのか? 確かにエクストラリミットは特殊なものではあるが、お前はそれが何の対価もなく使えると本気で思っているのか?」
言葉が思い付かなかった。ナータの今の言葉だけで実感した。
皆にすごいすごいと言われ、自分でも体感したことのなかった膨大な力に俺は思い上がっていたのだと。
ナータの言う通りだ。数で押されれば俺は簡単に押し切られるだろうし、搦め手に対応できるほど頭も良くない。今のままでは俺はいつまでもリーシュ達を心配させる存在のままだ。全然気付いていなかった。自分が思い上がっていたという衝撃を受け、俺が絞り出せた言葉は
「…俺は見下してたんでしょうか。[エクストラリミット]の全能感を何か勘違いしてたんでしょうか。この世界に存在する全ての人は神や聖霊や英雄達なのに。この世界は神界なのに」
「それでいい。背伸びをするな。お前は人間だ、神ではない。人間は弱く不安定で不確定だ。だが、自分の悪点に気付き、反省するのは人間だけなのだ。お前は人間として、この世界で生きて行けばいい」
何故かはわからないが、俺は心が軽くなるのを感じた。神が住まう神界、下等生物と評価される場違いな俺に、まるで「お前はこの世界に居ていい」とでも言われたような気がした。
「…ありがとうございます。ナータ様の言葉を支えに俺はこの世界で生きて行こうと思います」
「そんなに畏まるな。ナータでいい。私は事実を言ったまで」
「では…師匠と呼ばせていただいてもいいでしょうか?」
「好きにしろ。修練が始まれば、私の名などどうでもよくなると思うがな」
今日、俺は師匠を得た。武神、大和の動かざる守護者、不動明王…凄い二つ名を持つ師匠ができた喜びは、その後一瞬で吹き飛ぶ事になる。
「お前が力を欲するのは仲間の為と言っていたが、話を聴くに…その[エクストラリミット]とやらがあれば必要ないのではないのか?」
「確かに[エクストラリミット]を使った時は正直負ける気がしませんでした。でも、ロキ…あっ、アースガルド七魔導のロキに言われたんです。[エクストラリミット]を制御できてようやく自分達に届くって。俺はロキやリーシュ、ツグミ達の本当の実力を知りません。この前、邪竜ニドヘグに襲われてリーシュ達に守られてなんとか生き残れました。光魔導バルドルの差し金のような事を言ってました。でも、バルドルが命令しなくても俺の中にはユグドラシルが居ます。ニドヘグはユグドラシルに執着しているように見えました。…きっとまた襲ってくる……その時また生き残れる確証もないし、もし負けたら…一人ずつ狙われたら…リーシュ達だけなら逃げられるかもしれないけど、俺を守りながらじゃ絶対勝てない、そんな気がするんです」
俺は思っていた事を全部言った。[エクストラリミット]は正直反則だと思う。あれは魔力量の底が見えないとスサノオに言われたように、俺自身も限界がわからない。限界があるのかどうかもわからない。
しかし、使うには俺はあの魔力の奔流を制御しなければならない。ジークフリートは自我を失っていた事もあって、魔力をギリギリ制御できる時間があったがニドヘグは別だ。恐らくニドヘグと俺が対峙した場合、俺は数秒と持たない確信がある。それどころか[エクストラリミット]を使ってもリーシュ達に勝てるビジョンが浮かばない。膨大な魔力をすべて防御に使って耐えるだけならできるかもしれないが…
デカいだけのテレフォンパンチが当たるほど、この世界の上位の存在は甘くはない。今まで戦闘経験を積むために相手をしてくれていた美少女達に俺の攻撃は一度も当たった事は無く、当たっても倒せるかどうかもわからないのだ。
「ふむ、現状を少しは理解しているようだ。馬鹿ではなさそうだが、まだだな。お前はまだ理解していない」
「理解…ですか?」
「お前はまだ自分がこの世界の上位以外に敗けはしないと思っている節がある。ハッキリ言おう。お前は弱い。エクストラリミットを使えるという事実がお前に悪い影響を与えているな」
「でもっ! ジークフリートにも勝ったし、エクストラリミットがあればっ」
「お前はたった一度使えただけの力に縋るのか? 全員がお前と一対一で正々堂々と戦ってくれるのか? 確かにエクストラリミットは特殊なものではあるが、お前はそれが何の対価もなく使えると本気で思っているのか?」
言葉が思い付かなかった。ナータの今の言葉だけで実感した。
皆にすごいすごいと言われ、自分でも体感したことのなかった膨大な力に俺は思い上がっていたのだと。
ナータの言う通りだ。数で押されれば俺は簡単に押し切られるだろうし、搦め手に対応できるほど頭も良くない。今のままでは俺はいつまでもリーシュ達を心配させる存在のままだ。全然気付いていなかった。自分が思い上がっていたという衝撃を受け、俺が絞り出せた言葉は
「…俺は見下してたんでしょうか。[エクストラリミット]の全能感を何か勘違いしてたんでしょうか。この世界に存在する全ての人は神や聖霊や英雄達なのに。この世界は神界なのに」
「それでいい。背伸びをするな。お前は人間だ、神ではない。人間は弱く不安定で不確定だ。だが、自分の悪点に気付き、反省するのは人間だけなのだ。お前は人間として、この世界で生きて行けばいい」
何故かはわからないが、俺は心が軽くなるのを感じた。神が住まう神界、下等生物と評価される場違いな俺に、まるで「お前はこの世界に居ていい」とでも言われたような気がした。
「…ありがとうございます。ナータ様の言葉を支えに俺はこの世界で生きて行こうと思います」
「そんなに畏まるな。ナータでいい。私は事実を言ったまで」
「では…師匠と呼ばせていただいてもいいでしょうか?」
「好きにしろ。修練が始まれば、私の名などどうでもよくなると思うがな」
今日、俺は師匠を得た。武神、大和の動かざる守護者、不動明王…凄い二つ名を持つ師匠ができた喜びは、その後一瞬で吹き飛ぶ事になる。
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