運命のレヴル~友達増やして神様に喧嘩売りました~

黒雪ささめ

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スサノオ

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「楽だな…」


『確かに何もしなくていいから楽だよね』


『ほんの少しだけ見直しました』


『まぁ、戦力的には問題ない人物ですし……性格はアレですが…』


『ポチ!水っ!』


 俺達は須佐之男命すさのおのみことに会うため、黄泉にある唯一の街[伊邪那岐都いざなぎのみやこを目指して[黄泉比良坂よもつひらさか]を歩いている。
 この黄泉比良坂、気味が悪い。

 薄暗く草木も全くないのだが、鬼がうじゃうじゃいる。素通りするのもいるが、大概は襲ってくる鬼ばかりだ。
 そんな襲ってくる鬼を切り伏せ俺達の道を開いてくれているのが、今さっき[ポチ]と呼ばれたこの男である。



「ハイっす!少々お待ちを!…このっ!」



 ズバッと目の前の鬼を切り伏せ走ってくるのは、俺の友人であるニニギだった。
 ニニギは背負っているリュックから水のペットボトルを出し、ロキに差し出す。


「どうぞっす!」


『うむ!』


 ロキが満足そうに大きく頷き、水を受け取る。


「いや、『うむ!』じゃねぇよ! 何、俺の友達パシリに使ってんの!?」


『いいじゃないっ! ポチがこき使ってくれって、自分で言ってんだから!』



 転送門を通る前、なかなか了承しないロキにニニギが言ったのだ。

「何でもしますんで、連れてってくださいっす!」

 この発言にロキは気を良くし、同行を了承したのだった。
 その結果がこれである。


 俺達はただ歩くだけで楽なのだが、ニニギに悪い気がしてならなかった。


「ニニギ~、代わろうか?」


 なんとなく罪悪感で声を掛けたのだがニニギは


「ユシルっ! この仕事取られたら俺っち、ここに居られないんだよ! 頼むっ! やらせてくれっ! ロキさんの奴隷を!」



「…あっそう…」


 どうやら俺の罪悪感は何かの間違いだったようだ。


 新しい何かに目覚めそうなニニギに一抹の不安を覚え、俺達は順調に進んでいった。



 そしてニニギをロキが顎で使い1時間ほど歩いた所で、建物らしきものが見えてきた。



 そこでクイクイと袖を引かれる感覚があった。



『旦那様……あれが[伊邪那岐都]です。鬼の進入を防ぐ結界がありますので、受付をしないと…』


 ツグミが俺の袖を掴みながら見上げる。


「受付かぁ、黄泉の街って意外にちゃんとしてるんだな」


 2メートル程の低い外壁越しに見えた街並みは時代劇などで見た江戸時代の街に似ていた。


『なんか面白そうな所じゃないっ! もしかして、そんなに危険じゃないの?黄泉って』


『危険です。環境が…ではなく、正確にはこの黄泉を管理する幹部連が酷く好戦的なのです。弱者には興味がなく、強者には戦いを挑む……ツグミ様はスサノオ様の姉でいらっしゃるので、スサノオ様の目の届く範囲では挑んでくる事はありません。ですが、今回は必ず挑んでくるでしょう。前回はスサノオ様が行き帰り見送りに来られていましたので』


 ウズメが心配そうにツグミを見つめる。


「好戦的なのは幹部連?という奴等だけなんですか? 他の住民達は大丈夫なんですか?」


『警戒すべきは幹部連だけです。住民達は普通に生活しているだけですから、高天原の住民と遜色ありませんよ』


 それを聞いて俺は胸を撫で下ろした。街にいるのに周囲が敵だらけなど心の休まる暇がない。 


 そうこうしていると外壁に古い門のようなものが見えてきた。そこへ向かっているので、おそらくあれが受付なのだろう。
 門には二人いて、こちらを見た一人が俺達の方へ歩いてくる。
 するとウズメが俺達の前に出た。


「失礼する!この黄泉の国[伊邪那岐都]への入国希望者か?」


 甲冑のような鎧を着た門番が聞いてくる。


『はい。高天原より6名です』


「最近物騒な事件が多くてな……できれば、何か身分を証明出来るものがあると助かるんだが」


 するとウズメは腰から何かを取り出した。


(ん? 脇差し……いや、小太刀か?)


 ウズメは鞘を抜き言う。



『こちらに居られるのは高天原の第二主神 月読尊様です。そして、私はアメノウズメ、身分の証明はこの天下五剣が一つ…[大典太光世おおでんたみつよ]でよろしいですか?』



 眩い光を放ち始めた小太刀をポカンと見つめる門番。
 そしてハッとした門番が頭を下げる。



「無礼をお許しください!月読尊様、アメノウズメ様! ただ今、スサノオ様に伝えてもらうよう連絡して参ります! 門の近くに椅子などを用意させますので、そこでお待ちください!では!」


 そう言って門番は走って行った。どうやら黄泉であってもツグミとウズメは偉いようだ。黄泉だとツグミも身分を隠さなくていいらしい。


 それから程なくしてスサノオの遣いが迎えに来たので、俺達はスサノオの屋敷に通された。
 中は高天原のツグミの家に良く似ていたが、ツグミの家と違い使用人が10人ほど忙しなく働いていた。

 当のスサノオは開けた縁側に一人ポツンとあぐらをかいて座っていて、どこか寂しさと近寄りがたい空気を放っていた。



『…スサ、久しぶり。元気だった?』



 珍しく敬語じゃないツグミが最初に話し掛けた。

 すると振り返りツグミの顔を見たスサノオがニカッと笑い、嬉しそうに答える。爽やかイケメンという感じで、髪が青みがかっているのが特徴的である。



「おぉ! つぐ姉っ! 久々だな! 急にどうしたんだ? 連絡してくれれば黄泉比良坂まで迎えに行ったのに」


 久々に姉と会ったからなのか、本当に嬉しそうなスサノオはとても黄泉で1番偉いようには見えなかった。ツグミが話し掛けた時から近寄りがたい空気がなくなっている。


『急に決まったし、皆も一緒だったから』


「皆?」


 途端に怪訝そうな顔で俺達を眺めるスサノオ。


 するとウズメが


『スサノオ様、ご無沙汰しております。ウズメでございます。こちらはアースガルドからの留学生でツグミ様のご友人でもある、リーシュ様、ロキ様、ユシル様でございます。あとは使用人としてニニギが同行しております』


「ふ~ん……あれ?ん~」


 リーシュとロキをマジマジと見つめる。


「…合格! よろしくな! リーシュにロキ」


 二人だけを見つめ、ニカッと笑う。
 そこでニニギが喋り出す。


「スサノオ様? 俺っちとユシルも居ますけど?」


「…」


 スサノオは俺達を一瞥し、何も言わずウズメを見る。


『スサノオ様、ニニギはあれとしても……ユシル様はアースガルドからの留学生、要はお客様でございます。是非、御言葉をお願いいたします』


「あ? ヤダよ。俺のルール知ってんだろ?」


 不機嫌さを隠しもせず、嫌悪感を全面に出してくる。


『…スサ? この人は私の将来の旦那様なの。挨拶して?』


 ツグミがそんな事を口走るとスサノオはギョッとして俺の方を指差しながら


「はぁ!? 何言ってんの!? こんなのと結婚!? だってコイツ弱いだろ?」


(酷くないか?…こっちを無視してコイツ扱いなのかよ。ていうか、もう結婚する気なのか? 俺が聞きたいんだが)



『今は私より弱いかもしれないけど、この人はいずれ私を越えると思うの。伸びしろはまだまだあるの』



「ないないない!全く魔力が足りないし、何より軟弱そうにしか見えない」


(魔力隠してんのに、総量がわかるのか?やっぱり主神クラスか…)


 そんな話をしていると街にけたたましい鐘の音が響き渡る。



 カーン!カーン!カーン!


 すると一人の兵士が庭に駆け込んできた。


「スサノオ様っ!都に侵入者です! アースガルドの者と思われます! 今、鳴雷様が対応していますが、相手は強力な神器を持っているようで、突破は時間の問題です!」


「何っ!?八雷神と互角だと!? 相手の要求は何だ!」


 俺達は何が起こっているのか分からず、ただ傍観していたのだが


「留学生として[ユシル]という男が来ているはずだと……その者の身柄の引き渡しを要求しています! 我々はそんな者は来ていないと言ったのですが、匿うのかと暴れだしまして」


(…俺じゃん)


 全員が俺を見る。するとスサノオが俺を睨み付けて言う。


「貴様、厄介事を……直ちに突き出してくれる!」


 立ち上がり俺の方へと近付いてきたのだが、俺を庇うようにリーシュが立ち塞がる。


『スサノオ様、風天ヴァーユリーシュと申します。このユシルは何か問題を起こすような者ではありません。ですので、その暴れている者の対応はあたし達でします』


「そんな事、信用できるか! ソイツを突き出せば終わる話だろう!」


 聞く耳を持たないスサノオに今度はツグミが前に出る。


『スサ、この人達は私の友達です。信用できるし、責任は私が持ちます。だから、お願い……まかせて?』


「だけど、つぐ姉!」


『お願い!』


「ぐっ……わかったよ。でも、俺も行く。どうしようもないようなら強引にでも俺が納めるからな?」


『…ありがとう、スサ』


 ツグミになんとか説得されたスサノオを伴い、俺達は急いで現場に向かうのだった。





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