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ラブマスターとして
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『へぇ~、反応がよくなったね!どんどん前に出てくるし、手数も格段に増えてる…ツグミちゃん、いい先生だね♪』
ツグミの頭をよしよしと撫でるリーシュ
『…先生…えヘヘ…』
嬉しそうにするツグミ
「あのスキルでだいぶ良くなったと思ったけど、まだリーシュには届かないか…」
ボロ雑巾のようになり、庭で横たわる俺。
俺はツグミと講義へ行き、ツグミの恐ろしい程の気配を消すスキルのおかげで特に何事もなく帰ってきたのすだが、帰ってきてからの近接戦闘の担当がリーシュだった為…今に至る。
『そんなすぐに追い付かれちゃったら、こっちが置いていかれそうじゃない。それに今は神器も使ってないから本当の実力とは言えないし』
それでも俺はボロボロにされたのだが
そんな事を繰り返し…1週間が経った頃
「ただいま~」
『おかえりなさい、ユシル様…今、御客様がいらっしゃっていて…』
迎えに出てくれたのはツグミだった。今日一緒に講義を受けたロキは食後のデザートを買いに行くと途中で別れてきたので、今は俺とツグミだけである。
「…御客様?珍しいな。じゃあ、俺は庭に直行するわ」
そう言い、庭に行こうとすると
『あの…私ではなく…ユシル様に御客様です。ユシル様が来るまでは私も話してましたけど…。今は客間にいらっしゃいます』
(俺に?…ニニギか?最近会ってなかったし…)
「…わかった、ちょっと着替えてから行く」
(ニニギに家の場所教えたっけ?…)
そして、着替えて客間に行くと思わぬ人物がいた…
『ユシルよ、久々じゃの!』
「え!?何でここに!?…お久しぶりです…天照様…」
『妾がここに来た理由は気になるじゃろう? ならば、先にこちらが質問じゃ。…そなた、何故遊びに来ぬ?』
(それかぁ~…あまりに俺にノロケを話したくて、我慢できずに来たって事かよ。さすかに忘れてました…じゃダメだよな…)
「…ちょっと色々と立て込んでまして…家探しとか、塾とか鬼神とか…」
『それは聞いたのじゃ…鬼神の件では迷惑をかけたのう。ニニギを助けてくれた事は礼を言う。じゃが…羅刹とやり合おうというのはちょっと褒められた事ではないな?それは分かっておるか?』
真面目な顔で言う天照
「…はい…危うく死ぬとこでした」
『そうじゃ。じゃが、何もなくて本当によかった…』
本当に俺の事を心配してくれたような表情だった。
(まだ1度しか会ったことないのに優しい人だな)
『さぁ、鬼神の件の説教はここまでじゃ!今更じゃが、家がここに決まってよかった…というか妾はここを紹介するつもりだったんじゃがの…ウズメから聞いたぞ?ツグミを助けてくれたそうじゃな?』
「はい…まぁ、ツグミの実力からしたら必要なかったかもしれませんけどね」
『いや、ツグミは制限が多い。そして性格も見ての通りじゃ。助けてもらって感謝しているし、そなたらが一緒に住んでくれると知って、本当に安心したぞ』
(やっぱり最高神も妹は可愛いんだなぁ)
そして天照は急に気の抜けた顔になり、話を続ける。
『さて…では、ラブマスターにこの前の続きを聞いてもらうとしようかの』
(え!?今から!?…ノロケ話、始まんの?)
正直…勘弁してほしい…
今日はツグミに相手してもらう予定なのに。
家での近接戦闘訓練は毎日行われていて、主にリーシュとツグミに相手をしてもらっているのだが、リーシュからは戦闘の基本と無駄を省く動きを…戦い方が似ているツグミからは体術面での身体の使い方や攻撃の捌《さば》き方を教わっている。
「あの、ツグミと近接戦闘の練習があるんですが…」
『…そなた…妾の所に遊びに来なかったな?そして、妾は大和の最高神……それでも断るのかの?』
(ここにきて権力振りかざし始めやがった!必死か!?そんなにノロケ話がしたいのか!?)
「慎んで…聞かせていただきます」
俺は諦めた。
そしてノロケ話で1時間ほど経った頃
『での!そこでオーディンが言ったのじゃ!「俺は女性だからって見下したりしねぇぞ?シヴァ」っての!ここでの女性というのは、もちろん妾を指すのじゃがの?つまり、妾とオーディンは同等以上の仲だと言っておるのも同じ事じゃ!これはもう妾の事を女として意識しておるとしかとれ…』
『帰ったわ!外に不審者がいたから取っ捕まえてきたんだけど…って……あれ?』
天照のノロケタイムを止めたのはロキだった…そして、ロキが首の襟を掴み、ツグミが髪を掴んで引きずられてきた不審者は…
「…ニニギ!?」
ボコボコにされたニニギだった。
「…ん?チ~ス、ユシル…助けて…」
「馬鹿っ!そいつは不審者じゃなくて俺の友達だから!解放してあげて!あと、ロキ!回復薬くれ!」
ロキ特製の回復薬をニニギにぶっかけ数十秒後
「ぷは~…死ぬかと思った…鬼神の時より死を身近に感じたわ…」
『あんたが悪いんでしょう?急に声かけてきて、ツグミの手なんか握るから…』
話を聞いてみると、ニニギは俺の住居を訪ねる為にタケミカズチに家の場所を聞き、家の前まで来たらしい。
そこで家の前で気配を消していないツグミと買い出しから帰ったロキが立ち話をしているのを発見し、あまりの可愛さにナンパも兼ねて話し掛けたらしいのだが、ロキには相手にされず…ツグミにばかり話し掛けていたら、人見知りなツグミを押せばイケると判断したようで手の甲に王子様ばりのキスをしたらしいのだ。
その結果、ロキから呪縛魔法を掛けられて、キレたツグミにサンドバッグのように殴られ続けて今に至るらしい。
「話を聞いただけでもお前が悪いじゃねぇか…」
「いや、だってこんな可愛い子たちがいたら、普通声かけるっしょ?」
『…声だけならいいですが、あれはセクハラです…危うく神器を出す所でした』
まだ怒りが収まっていないのか、ツグミが静かに批判する。
『あっはっはっは…相変わらずじゃのう?ニニギよ』
「その声は……おばあ様!?」
ゴンッ!
ニニギの額に天照が持っていた扇子《せんす》がクリーンヒットした。
『ババア扱いするな!妾はまだヤングじゃ!』
『…フッ…ヤング…』
ロキが小さく笑う。
「あの…天照様はニニギと知り合いで?」
『知り合いというか…孫じゃな…形式的にはじゃがの…昔、葦原中国《あしはらのなかつくに》を治めさせるために天孫降臨する時に1度だけ会ったかの…簾越しじゃが』
「ちょっとちょっと!何でおば…天照大御神様がユシルの家に?てか、この家…美女多すぎないっすか?」
『妾はユシルと話をしに来たのじゃ。あぁ、そういえば初めてじゃったか?お主をボコボコにしたのは妾の妹じゃぞ?』
「妹…?あっ!大叔母様?」
ゴンッ!
今度はツグミから、持っていたお盆で頭を叩かれるニニギ…
『…是非…死んでください』
(こわっ…ツグミって怒ったらこうなのか?)
「いたた…痛いけど、こんな美女達に囲まれたら悪い気はしないっすね」
『…懲りんなぁ…ツグミの事は秘密じゃからな?しゃべるなよ?しゃべったら…』
「絶対しゃべんないっす!」
『…まぁよい…しゃべったら消すからの?』
「はいっす!!」
ニニギもさすがにわかっているのか、真面目な顔をしていた…
そんな会話をしていると
『ただいま~♪…あれ?天照様?』
「かぁ~~…また美女降臨っ!何なんすか、この家は!」
『おぅ、リーシュよ!今日はユシルとツグミに用があっての。天津神殿を抜け出してきたのじゃ』
『え!?それってマズいんじゃ…』
「無視すか!?俺っちは無視すか!?」
チラッとニニギを見ただけでリーシュは話を続ける…
『あの用っていうのは何でしょう?』
『そうじゃ、やっと本題に入れるの。…少しばかりツグミにお使いを頼みたいのじゃ。そうじゃの…何もなければ2週間くらいかの?』
「何もなければ?…何かあるんですか?」
『黄泉にいる弟のスサの所に話を聞きに行ってもらおうと思っての。スサの奴…自分と同格以上の者でないと話そうとしないのじゃよ…』
『それは…天照様とツグミちゃんしか会話できないという事ですか?』
天照は目を伏せ
『そうじゃ…あやつはプライドがどこまでも高い…普通なら黄泉になど行かせたくないのじゃが…羅刹の件…黄泉が絡んでいる線が出てきての…鬼を狩っている時に羅刹が現れたのは覚えているな?…じゃから、黄泉が絡んでいるのか聞きに行ってもらいたいのじゃ』
『それはツグミじゃないとダメなの?』
ロキがツグミを黄泉に行かせると聞いて急に話に入ってくる…
『ダメじゃ、スサが話をせん。本当は妾が行きたいのじゃがな……じゃから、ウズメにも同行させる』
『それ、私たちも同行しちゃダメ?』
『ローちゃん……そうね!あたしたちも行こう!』
(危ないとわかってる場所に女の子だけで行かせられるかよ…)
「行こう!黄泉に!」
俺たちがそう決心した直後…
『ダメじゃ』
天照の非情な声が響く。
その言葉に対してロキが怒りを露に反発する。
『何でよ!?危ないなら戦力は多い方がいいじゃない!』
『それは正しいがダメじゃ』
『だから!何でって聞いてんのよ!』
ロキの悲痛な声が響く。
『あの…皆さん落ち着いてください…私は大丈夫ですから…』
『ダメよ!ずっと一緒にいたじゃない!今更、そんな所に一人で行かせられないわ!』
(ロキ…)
ロキはアースガルドでずっと嫌われていた。
友達もリーシュくらいしかおらず
一人が何?という空気を纏っていた。
だが…今は違う…
ロキは我が儘だ…
食べたいものは必ず食べるし、ほしいもの、したいことも我慢などしない…
(たまには…俺のワガママな友人の気持ちを汲もうか…俺もツグミと一緒にいたいしな)
そして俺は天照に話し掛ける。
「天照様、どうしても俺達の同行は許していただけないと?」
『ダメじゃ。そなたらは留学生じゃ…何かあっては国際問題になる』
「おっさんは自分で判断しろ…人に流されるなと言いました。自分の道を守れるようになったら一人前だと…俺は自分の道は自分で決めます」
『…うぅ…そうは言っても…しょうがないのじゃ…』
「…あの話、話しますよ?いいんですか?こっちの方が大問題だと思いますけど?」
あの話とは…俺と天照しか知らない恋バナというやつだ。
俗にいう大スキャンダルになるわけだが
『…そなた…今している事がわかっているのか?最高神を脅迫しておるのだぞ?』
今まで見たこともない天照の表情を見た。
俺はそのプレッシャーに必死に耐えながら
「わかってますよ?…ハハ……俺はラブマスターですからね。女の子を落とす事は命の次に大事なんで、ツグミと黄泉にデートしに行ってきますよ。…例え最高神と争ってでも…ツグミとは一緒に行きます」
・・・
『…はぁ~…わかった…もうよい…好きなだけデートしてくるがよい…』
『え!?いいの!?』
『いいと言っておるじゃろう…我が妹の為に最高神に喧嘩売るんじゃぞ?姉として…何も言えんではないか…(少しカッコよかったしの…)ツグミ、いい友達ができてよかったのぅ』
『…はい!私もそう思います!』
満面の笑みのツグミを見て、俺はホッとした…
生活面も戦闘面もツグミには世話になりっぱなしである。ちょっと危ない所に行くくらいどうという事はない。逆にロキとリーシュがいる分だけ過剰戦力である。
『あんた、たまにはやるじゃない!最高神を脅迫とか最高よ♪』
ロキがウリウリと肘で小突いてくる。
『ユシルって、たまにとんでもないことするよね♪いい意味で♪』
「まぁ、ツグミが嬉しそうだからいいじゃん」
そんな事を話していると俺の目の前に笑顔のツグミがきた。
『ユシル様っ!ありがとうございました♪皆さんと一緒にいられるって思うと黄泉へも旅行気分で行けそうです♪』
「そうか!よかったな、ツグミ!じゃあ、ちょっと黄泉観光に行くか!」
とても心が晴れ晴れとしていた。
だが…次の言葉で消し飛んだ…
『はい!…あの……私…あんなに大胆な告白をされたのは初めてです!これはやっぱり黄泉と言えど新婚旅行になるんでしょうか?』
『『「…はい?」』』
(いや、何言ってんの?告白の要素なかったよね!?てか、新婚旅行ってプロポーズにまで発展してんじゃね?)
『…ユシル、あなたはそこのチャラチャラしてるの連れて自分の部屋に行ってくれる?…ちょっとあたしたちはこの世間知らずに常識を叩き込まないといけないの』
「は?え!?」
『…ユシル、黙って行きなさい。ここは私がうまくやるから…』
俺とニニギは逃げるように客間を後にした。
結局締まらない結果になるのは…もうお約束のようだ…
ツグミの頭をよしよしと撫でるリーシュ
『…先生…えヘヘ…』
嬉しそうにするツグミ
「あのスキルでだいぶ良くなったと思ったけど、まだリーシュには届かないか…」
ボロ雑巾のようになり、庭で横たわる俺。
俺はツグミと講義へ行き、ツグミの恐ろしい程の気配を消すスキルのおかげで特に何事もなく帰ってきたのすだが、帰ってきてからの近接戦闘の担当がリーシュだった為…今に至る。
『そんなすぐに追い付かれちゃったら、こっちが置いていかれそうじゃない。それに今は神器も使ってないから本当の実力とは言えないし』
それでも俺はボロボロにされたのだが
そんな事を繰り返し…1週間が経った頃
「ただいま~」
『おかえりなさい、ユシル様…今、御客様がいらっしゃっていて…』
迎えに出てくれたのはツグミだった。今日一緒に講義を受けたロキは食後のデザートを買いに行くと途中で別れてきたので、今は俺とツグミだけである。
「…御客様?珍しいな。じゃあ、俺は庭に直行するわ」
そう言い、庭に行こうとすると
『あの…私ではなく…ユシル様に御客様です。ユシル様が来るまでは私も話してましたけど…。今は客間にいらっしゃいます』
(俺に?…ニニギか?最近会ってなかったし…)
「…わかった、ちょっと着替えてから行く」
(ニニギに家の場所教えたっけ?…)
そして、着替えて客間に行くと思わぬ人物がいた…
『ユシルよ、久々じゃの!』
「え!?何でここに!?…お久しぶりです…天照様…」
『妾がここに来た理由は気になるじゃろう? ならば、先にこちらが質問じゃ。…そなた、何故遊びに来ぬ?』
(それかぁ~…あまりに俺にノロケを話したくて、我慢できずに来たって事かよ。さすかに忘れてました…じゃダメだよな…)
「…ちょっと色々と立て込んでまして…家探しとか、塾とか鬼神とか…」
『それは聞いたのじゃ…鬼神の件では迷惑をかけたのう。ニニギを助けてくれた事は礼を言う。じゃが…羅刹とやり合おうというのはちょっと褒められた事ではないな?それは分かっておるか?』
真面目な顔で言う天照
「…はい…危うく死ぬとこでした」
『そうじゃ。じゃが、何もなくて本当によかった…』
本当に俺の事を心配してくれたような表情だった。
(まだ1度しか会ったことないのに優しい人だな)
『さぁ、鬼神の件の説教はここまでじゃ!今更じゃが、家がここに決まってよかった…というか妾はここを紹介するつもりだったんじゃがの…ウズメから聞いたぞ?ツグミを助けてくれたそうじゃな?』
「はい…まぁ、ツグミの実力からしたら必要なかったかもしれませんけどね」
『いや、ツグミは制限が多い。そして性格も見ての通りじゃ。助けてもらって感謝しているし、そなたらが一緒に住んでくれると知って、本当に安心したぞ』
(やっぱり最高神も妹は可愛いんだなぁ)
そして天照は急に気の抜けた顔になり、話を続ける。
『さて…では、ラブマスターにこの前の続きを聞いてもらうとしようかの』
(え!?今から!?…ノロケ話、始まんの?)
正直…勘弁してほしい…
今日はツグミに相手してもらう予定なのに。
家での近接戦闘訓練は毎日行われていて、主にリーシュとツグミに相手をしてもらっているのだが、リーシュからは戦闘の基本と無駄を省く動きを…戦い方が似ているツグミからは体術面での身体の使い方や攻撃の捌《さば》き方を教わっている。
「あの、ツグミと近接戦闘の練習があるんですが…」
『…そなた…妾の所に遊びに来なかったな?そして、妾は大和の最高神……それでも断るのかの?』
(ここにきて権力振りかざし始めやがった!必死か!?そんなにノロケ話がしたいのか!?)
「慎んで…聞かせていただきます」
俺は諦めた。
そしてノロケ話で1時間ほど経った頃
『での!そこでオーディンが言ったのじゃ!「俺は女性だからって見下したりしねぇぞ?シヴァ」っての!ここでの女性というのは、もちろん妾を指すのじゃがの?つまり、妾とオーディンは同等以上の仲だと言っておるのも同じ事じゃ!これはもう妾の事を女として意識しておるとしかとれ…』
『帰ったわ!外に不審者がいたから取っ捕まえてきたんだけど…って……あれ?』
天照のノロケタイムを止めたのはロキだった…そして、ロキが首の襟を掴み、ツグミが髪を掴んで引きずられてきた不審者は…
「…ニニギ!?」
ボコボコにされたニニギだった。
「…ん?チ~ス、ユシル…助けて…」
「馬鹿っ!そいつは不審者じゃなくて俺の友達だから!解放してあげて!あと、ロキ!回復薬くれ!」
ロキ特製の回復薬をニニギにぶっかけ数十秒後
「ぷは~…死ぬかと思った…鬼神の時より死を身近に感じたわ…」
『あんたが悪いんでしょう?急に声かけてきて、ツグミの手なんか握るから…』
話を聞いてみると、ニニギは俺の住居を訪ねる為にタケミカズチに家の場所を聞き、家の前まで来たらしい。
そこで家の前で気配を消していないツグミと買い出しから帰ったロキが立ち話をしているのを発見し、あまりの可愛さにナンパも兼ねて話し掛けたらしいのだが、ロキには相手にされず…ツグミにばかり話し掛けていたら、人見知りなツグミを押せばイケると判断したようで手の甲に王子様ばりのキスをしたらしいのだ。
その結果、ロキから呪縛魔法を掛けられて、キレたツグミにサンドバッグのように殴られ続けて今に至るらしい。
「話を聞いただけでもお前が悪いじゃねぇか…」
「いや、だってこんな可愛い子たちがいたら、普通声かけるっしょ?」
『…声だけならいいですが、あれはセクハラです…危うく神器を出す所でした』
まだ怒りが収まっていないのか、ツグミが静かに批判する。
『あっはっはっは…相変わらずじゃのう?ニニギよ』
「その声は……おばあ様!?」
ゴンッ!
ニニギの額に天照が持っていた扇子《せんす》がクリーンヒットした。
『ババア扱いするな!妾はまだヤングじゃ!』
『…フッ…ヤング…』
ロキが小さく笑う。
「あの…天照様はニニギと知り合いで?」
『知り合いというか…孫じゃな…形式的にはじゃがの…昔、葦原中国《あしはらのなかつくに》を治めさせるために天孫降臨する時に1度だけ会ったかの…簾越しじゃが』
「ちょっとちょっと!何でおば…天照大御神様がユシルの家に?てか、この家…美女多すぎないっすか?」
『妾はユシルと話をしに来たのじゃ。あぁ、そういえば初めてじゃったか?お主をボコボコにしたのは妾の妹じゃぞ?』
「妹…?あっ!大叔母様?」
ゴンッ!
今度はツグミから、持っていたお盆で頭を叩かれるニニギ…
『…是非…死んでください』
(こわっ…ツグミって怒ったらこうなのか?)
「いたた…痛いけど、こんな美女達に囲まれたら悪い気はしないっすね」
『…懲りんなぁ…ツグミの事は秘密じゃからな?しゃべるなよ?しゃべったら…』
「絶対しゃべんないっす!」
『…まぁよい…しゃべったら消すからの?』
「はいっす!!」
ニニギもさすがにわかっているのか、真面目な顔をしていた…
そんな会話をしていると
『ただいま~♪…あれ?天照様?』
「かぁ~~…また美女降臨っ!何なんすか、この家は!」
『おぅ、リーシュよ!今日はユシルとツグミに用があっての。天津神殿を抜け出してきたのじゃ』
『え!?それってマズいんじゃ…』
「無視すか!?俺っちは無視すか!?」
チラッとニニギを見ただけでリーシュは話を続ける…
『あの用っていうのは何でしょう?』
『そうじゃ、やっと本題に入れるの。…少しばかりツグミにお使いを頼みたいのじゃ。そうじゃの…何もなければ2週間くらいかの?』
「何もなければ?…何かあるんですか?」
『黄泉にいる弟のスサの所に話を聞きに行ってもらおうと思っての。スサの奴…自分と同格以上の者でないと話そうとしないのじゃよ…』
『それは…天照様とツグミちゃんしか会話できないという事ですか?』
天照は目を伏せ
『そうじゃ…あやつはプライドがどこまでも高い…普通なら黄泉になど行かせたくないのじゃが…羅刹の件…黄泉が絡んでいる線が出てきての…鬼を狩っている時に羅刹が現れたのは覚えているな?…じゃから、黄泉が絡んでいるのか聞きに行ってもらいたいのじゃ』
『それはツグミじゃないとダメなの?』
ロキがツグミを黄泉に行かせると聞いて急に話に入ってくる…
『ダメじゃ、スサが話をせん。本当は妾が行きたいのじゃがな……じゃから、ウズメにも同行させる』
『それ、私たちも同行しちゃダメ?』
『ローちゃん……そうね!あたしたちも行こう!』
(危ないとわかってる場所に女の子だけで行かせられるかよ…)
「行こう!黄泉に!」
俺たちがそう決心した直後…
『ダメじゃ』
天照の非情な声が響く。
その言葉に対してロキが怒りを露に反発する。
『何でよ!?危ないなら戦力は多い方がいいじゃない!』
『それは正しいがダメじゃ』
『だから!何でって聞いてんのよ!』
ロキの悲痛な声が響く。
『あの…皆さん落ち着いてください…私は大丈夫ですから…』
『ダメよ!ずっと一緒にいたじゃない!今更、そんな所に一人で行かせられないわ!』
(ロキ…)
ロキはアースガルドでずっと嫌われていた。
友達もリーシュくらいしかおらず
一人が何?という空気を纏っていた。
だが…今は違う…
ロキは我が儘だ…
食べたいものは必ず食べるし、ほしいもの、したいことも我慢などしない…
(たまには…俺のワガママな友人の気持ちを汲もうか…俺もツグミと一緒にいたいしな)
そして俺は天照に話し掛ける。
「天照様、どうしても俺達の同行は許していただけないと?」
『ダメじゃ。そなたらは留学生じゃ…何かあっては国際問題になる』
「おっさんは自分で判断しろ…人に流されるなと言いました。自分の道を守れるようになったら一人前だと…俺は自分の道は自分で決めます」
『…うぅ…そうは言っても…しょうがないのじゃ…』
「…あの話、話しますよ?いいんですか?こっちの方が大問題だと思いますけど?」
あの話とは…俺と天照しか知らない恋バナというやつだ。
俗にいう大スキャンダルになるわけだが
『…そなた…今している事がわかっているのか?最高神を脅迫しておるのだぞ?』
今まで見たこともない天照の表情を見た。
俺はそのプレッシャーに必死に耐えながら
「わかってますよ?…ハハ……俺はラブマスターですからね。女の子を落とす事は命の次に大事なんで、ツグミと黄泉にデートしに行ってきますよ。…例え最高神と争ってでも…ツグミとは一緒に行きます」
・・・
『…はぁ~…わかった…もうよい…好きなだけデートしてくるがよい…』
『え!?いいの!?』
『いいと言っておるじゃろう…我が妹の為に最高神に喧嘩売るんじゃぞ?姉として…何も言えんではないか…(少しカッコよかったしの…)ツグミ、いい友達ができてよかったのぅ』
『…はい!私もそう思います!』
満面の笑みのツグミを見て、俺はホッとした…
生活面も戦闘面もツグミには世話になりっぱなしである。ちょっと危ない所に行くくらいどうという事はない。逆にロキとリーシュがいる分だけ過剰戦力である。
『あんた、たまにはやるじゃない!最高神を脅迫とか最高よ♪』
ロキがウリウリと肘で小突いてくる。
『ユシルって、たまにとんでもないことするよね♪いい意味で♪』
「まぁ、ツグミが嬉しそうだからいいじゃん」
そんな事を話していると俺の目の前に笑顔のツグミがきた。
『ユシル様っ!ありがとうございました♪皆さんと一緒にいられるって思うと黄泉へも旅行気分で行けそうです♪』
「そうか!よかったな、ツグミ!じゃあ、ちょっと黄泉観光に行くか!」
とても心が晴れ晴れとしていた。
だが…次の言葉で消し飛んだ…
『はい!…あの……私…あんなに大胆な告白をされたのは初めてです!これはやっぱり黄泉と言えど新婚旅行になるんでしょうか?』
『『「…はい?」』』
(いや、何言ってんの?告白の要素なかったよね!?てか、新婚旅行ってプロポーズにまで発展してんじゃね?)
『…ユシル、あなたはそこのチャラチャラしてるの連れて自分の部屋に行ってくれる?…ちょっとあたしたちはこの世間知らずに常識を叩き込まないといけないの』
「は?え!?」
『…ユシル、黙って行きなさい。ここは私がうまくやるから…』
俺とニニギは逃げるように客間を後にした。
結局締まらない結果になるのは…もうお約束のようだ…
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