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恋する最高神
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「あの……俺に何か?」
『まぁ、座るのじゃ…ウズメの入れた茶が冷めてしまう』
いつの間に置いたのか…テーブルの上には2つのお茶が用意されていた。
とりあえず天照の向かいに座ると、天照は目を瞑りお茶を口にしたので、俺も内容がわからないのに話し掛けるわけにも行かず、同じようにお茶を啜る。
(旨っ!?さすが…日本の神界…お茶すらこんなに旨いのか…)
そんなことを思っていると、目を開けた天照がお茶を眺めながら喋り出す。
『…そなたはオーディンを「おっさん」と呼ぶほど仲がいいと聞いたが…、留学前にオーディンは妾の事を何か言ってなかったか?』
(何か言伝でもあったか?特になかったような)
「何も言ってなかったですね。あの……それが何か?」
『…そうか……』
がっかりした顔でお茶を見つめる天照…少しした後、目線を上げ俺を見つめ黙る。
俺は逸らす事もできずになんとか見つめ返すが、内心は大変な事になっていた。
(!?…何だ、この憂いの帯びた瞳は…てか、そんな目で俺を見つめないで!こんな綺麗な人に見つめられると恥ずかしすぎて悶えたくなるから!)
『リーシュとロキとはいつ知り合ったんじゃ?』
ジッと俺を見つめるのは変わらないが、急に話が変わりほっとする。
「えーと、リーシュとは転生直後で、ロキとはアースガルドに入った時ですね。それまではアルフヘイムのリーシュの家でお世話になってました」
『そうか……そういえば、ロキはアースガルドでは悪名高い噂を聞いているのじゃが…さっきの謁見の間での反応を見る限りはそのようが輩には見えんのう?そなたの為にトヨに食って掛かっておったしのぅ』
「あいつは口は悪いですが、悪い奴ではないと思います。まぁ、初対面の時は殺されかけましたけどね…ハハ……でも、アースガルドにいる時はあいつの家に泊めてもらっていたんですが、リーシュにべったりでしたよ」
天照は少し考え込んだ後、どこか納得したように頷いた。
『ふむ…リーシュだけでなくロキとも一緒に住んでいたわけか…やはり…』
「…やはり?」
天照はグッと身を乗り出し、言い放つ。
『そなたはやっぱり……ラブマスターじゃな!?』
・・・
俺は一瞬固まった。
「あの…意味がわからないのですが……ラブマスター?って何ですか?」
『ラブマスターはそのままの意味じゃぞ?そなたはあのリーシュとロキを侍らせておるじゃろう?』
(ラブマスターじゃないし、侍らせてもないんだが…)
「ラブマスターじゃないですし、侍らせてもいないですよ?リーシュとロキは付いて来てくれただけですし、ロキは研究の為だって言ってましたし…」
『そなた…鈍い男じゃの……オーディンにそっくりじゃぞ?まず、付いて来るのがおかしいと思わんか?アースガルドの主神に次ぐ権力を持った者が2人もじゃぞ?』
「…おかしいですかね?リーシュはこの国をまた見てみたいって感じでしたし、ロキは食べ物に釣られてましたし」
『…わざとかの?それとも鈍いところもラブマスターの特徴かの?まぁ、よい。それよりも、そなたに折り入って頼みがあるのじゃ』
「頼み…何ですか?」
『好きな相手を落とすにはどうしたらいいのか教えてくれぬか?』
・・・
「…はぃ?」
『じ、じゃから!す、好きな相手を落とすにはどうしたらいいのか聞いておるのじゃ!』
顔を真っ赤にして早口でよくわからないことを聞いてくる天照。
「…二人きりにしてくれって言ったのは、それを聞きたかったんですか?」
『そうじゃ……そなたはオーディンと仲が良い……加えて、リーシュとロキという絶世の女子を落としておる。ならばそのラブマスターたる、そなたに聞くのが確実じゃろう?』
(確実じゃろう?って…落とした記憶もないし、ラブマスターになったって自覚もないんだが…)
「…あの…恋してるんですか?……おっさ…オーディン様に?」
天照の顔が更に赤くなる…湯気でも上がってきそうだ。
『な、何故わかる!?妾は言っておらんよな?…それもラブマスターの能力か!?』
・・・
「…いえ、今までの会話を整理したら大概の人はわかるのでは?」
『む?そうなのか?』
(…ウブすぎる……好意が溢れ出てたぞ。というか……神界の大スキャンダルじゃないのか?主神と最高神…お互いが各神話のトップだぞ!?)
そこで俺はある事に気付く。
「あの…おっさんって、結婚してますよね?子供もいますよ?」
子供とはバルドルの事だ。思わずオーディンをおっさんと言ってしまうが、あまりのスキャンダルに俺は気付く余裕がない。
『…しておるな……じゃが、向こうでは一夫多妻を認めているはず。それに子は妾にもおるしな…8人ほど』
「8人!?それは…お盛んで…」
思わず心の中の言葉が出てしまったのだが
『妾が産んではおらん!弟のスサと姉弟喧嘩の仲直りに使った八尺瓊勾玉と十拳剣を8つに分けて命を与えただけじゃ!妾は処女じゃ!』
(最高神としてその発言は許されるのか?…もしかして……残念な人なのか?)
「その発言は聞かなかった事にしますね…」
『何故じゃ?妾は嘘はつかん。処女だと言って何が悪いのじゃ?5柱の会議以外、男神と出会う機会もなく…皆、簾越し…恐れ慄き、近寄ってくることもなく、会話すらトヨ越し…これ…アウトじゃろ?』
「いや、あなたの発言が1番アウトですから!最高神ですからね!?」
どうしても我慢できずツッコんでしまった…
「あっ、すいません……失礼な事を…」
『…ハハハハ……よいよい。そなた、面白いな!オーディンに好かれるわけじゃ。妾にそんな事を言うのは男じゃと5柱会議の連中だけじゃぞ?…ふむ…器は主神級か。さすがはラブマスター』
「ラブマスターはやめてくださいよ。というか、おっさん…あ…オーディン様を好きに?」
『おっさんでよいぞ?オーディンも許しておるのじゃろう?…何故……何故とな…それを聞くとは…覚悟があるんじゃな?』
「覚悟?…何か重大な秘密が?」
溜めに溜めた天照が顔を赤くして言う。
『いや…この話は1日、2日じゃ語りきれんのじゃ…』
「10分にまとめてください!」
『…そなた、鬼じゃな。まぁ、善処しよう…』
そこからが長かった。2時間は経っただろうか…天照は花畑なオーラを放ちながら、おっさんとの初めての出会いを1から全て話し続けている。
おかげでだいぶ時間が経ったのに、まだ初めての出会いの話が続いていた。常に頬を赤く染め…時折、頬に手を当てくねくねする…まさに恋する女性だった。
聞いた話をざっとまとめると
初めての5柱会議でオーディンが気さくに声を掛けてきたのがきっかけで、それまで身内以外の男から話し掛けられた事などなく…初めての5柱会議で唯一の女性だったので緊張していたのだが、それを解してくれたのが気さくなおっさんであったらしい。
そこから5柱会議でよく話すようになり、異文化交流の会談と称して何度か連絡を取っていたそうだ。
2時間でこれしか情報がなかった。
おっさんの口調が気に入っただの…服装はどうであったかだの…5柱会議の前日はドキドキして寝れずに肌の状態が悪かっただの…
やはり恋する乙女は最強である。正直いらない情報までも事細かに話してくる。
俺はちょっと疲れ始めていた。誰しも経験した事があるだろう。恋の話題は最初は聞いていて楽しいが、途中からノロケに変わると途端につまらなくなる。
しかし、ノロケている方は楽しくてしょうがないので話題が尽きない。
コンコン…
そこで俺に救世主が現れた。あまりに長時間二人きりにしていたので、隣のリーシュたちが痺れを切らせたようだ。
『天照大御神様…そろそろお話は終わりましたでしょうか…もう3時間ほどになるのですが…』
ウズメさんだった…後ろにはお腹が減ったのか物凄い殺気を放つロキと心配そうなリーシュの顔が見えた。
(やった!やっと解放される…)
そう思ったのだが…
『ん?まだ話は終わっておらんの…もう少し待ってい…』
「天照様!今日はもうこの辺にしませんか!?また今度…ゆっくりとお聞きしますんで!」
(続行させてたまるかぁ~!!)
『むぅ…まだまだまだ話し足りないんじゃがな…まぁ、1日、2日じゃ話し切れない大事な話じゃからな……しょうがない…また明日じゃな!』
「いえ、また今度でお願いいたします。留学生活がその話で終わってしまいそうなので!」
『ユシル様…少々言葉が過ぎるのではな…』
『ウズメ…よい。妾はユシルから学ばなければいけない事があるのじゃ。トヨのように言い過ぎて、会ってくれなくなったらどうしてくれるのじゃ!』
『大変失礼いたしました…』
ポカンとするリーシュとロキ…
「ウズメさんは全然悪くないですよ!すいません…あまりに長く話を聞いていたので馴れ馴れしくなってしまいました。」
『よいぞ、ユシル。そなたとの話は新鮮で楽しかった。言葉遣いなど気にする必要はない。ただ…あの話は秘密じゃぞ?』
天照が可愛く口に人差し指を当て、シーとする…。
「もちろんです…」
(大スキャンダルだからな…)
『ところで、そなたたちは留学生じゃろ?塾には行くのか?』
『塾…ですか?そのような施設有りましたっけ?』
リーシュが聞き直すとウズメが答える…
『代わりに説明いたします。リーシュさんがいなくなってしまってからできた学校に近い教育施設なのです。大和には八百万の神がおり、日々新しい神が生まれています。その若い神たちの教育施設を兼ねた訓練所とでも言いましょうか……若い神たちの他に暇をもて余した神たちが多数在籍しますが、様々な講義が行われていますのでお薦めです』
『へぇ~…そんな施設が…制服とかあるかな?…なんか面白そうだね!ローちゃんとユシルはどう思う?』
「俺はこの国をいろいろ見てみたいから、講義の種類を見てみないとなぁ。出席が強制じゃなければ行ってみたいけど…」
『私はパスね。そんなとこ行くなら食べ歩…オホンッ!…研究がしたいわね』
(今、食べ歩きって言ったよな?8割言っといて今更だろ…)
『今の疑問につきましては…制服は希望者にのみ巫女装束を支給しております。次に出席に関してですが、月1回の出席さえしていただければ強制はいたしません。ユシル様のご希望ですと…講義の中には[高天原観光地巡り]と[大和の歴史]などがございます。ロキ様…[高天原美食巡り]、[甘味研究~高天原のシュガーを添えて~]という講義がございます』
『行くわっ!!』
(いや、早ぇよ……講義っていうか、旅行会社のツアーじゃねぇか……なんだよ…シュガーを添えてって……講義がフレンチみたくなってるぞ…)
『あの…料理教室とかもありますか?』
『もちろん有りますよ。リーシュさん……全ジャンルを取り揃えております』
『なら、あたしも行きたいなぁ』
(リーシュは偉いな。すでに相当料理うまいのに更にレパートリーを増やそうとしてるのか)
「じゃあ、俺も行く方向でお願いします。一応留学生ですし…」
『編入の手続きはウズメがやってくれるじゃろう。種類が多彩なので飽きないぞ?…ふふ…妾が提案した施設だからの、いろいろ見てみるといい』
「天照様が提案したんですか?」
『そうじゃよ♪アースガルドのヴァルハラと葦原中国の[H○S]と[J○B]いう学校を参考にしたのじゃ♪』
(それは旅行会社であって…学校じゃないぞ?)
『なるほどね…ヴァルハラのエインヘリャルとH○S?…ハイスクールの略かしら?』
(いや、ちげぇよ。素晴らしい思い出のお手伝いをしてくれるところだよ。でも、天照さんが得意気過ぎて言えない…)
『とりあえず塾は決定じゃの!あとは家か?』
『天照大御神様、家は自分達で探そうと思っています。ですので…』
『わかった。ただウズメには家が決まったら教えておいてくれぬか?ラブマスターに話を聞いてもらわねば困るからの』
『わかりました……ラブマスター??』
「はい!わかりました!決めたらウズメさんに教えておきますね!さて、そろそろお暇しようか!な!な!?」
天照が自分で秘密だと言っといて、墓穴を掘るものだから焦ってしまう。
『あんた…何を焦ってるの?』
1番ヤバそうな奴に目を付けられた。
「いや…お腹空いたなぁと思ってさ!ロキもペコペコだろ?」
ロキの訝しむような目がキラキラした目に変わった。
『あんたわかってるじゃないっ!ペコペコよ!すぐに行きましょう♪』
(よかった~…食い意地が張ってて…)
「というわけなので…天照様、今日はもう失礼します!」
『むっ?もうか?…まぁ、今日着いたばかりで疲れてもおるじゃろう。今日は引き留めて悪かった、また遊びに来るんじゃぞ。ウズメ経由ならばトヨにも会わずに済むだろう』
『いえ、こちらこそ私室にお邪魔させていただき ありがとうございました。久々にお顔を拝見できて嬉しく思います』
『今日はお招きいただきありがとうございました。またいつかお会いできるのを楽しみにしております…』
ロキは最初と最後だけはきっちりするようだ。
そして俺も
「天照様、今日はありがとうございました。また今度お話をお聞かせください」
最初は噛みまくったが、もう天照にそれほど緊張しないのでちゃんと挨拶できた…と思いたい。
『うむ、妾も楽しかったぞ』
屈託のない笑顔で天照は俺達を見送ってくれた。
そして、俺たちは天津神殿を出た。すでに外は暗くなっていて、夜ご飯にはちょうどいい時間だった。
『今日は宿を取って、明日家探そっか!ご飯食べてから宿に行こうね♪』
リーシュがそう決めたなら、俺とロキに異論などない。
『賛成♪店は、通り道にあった[おでん]って赤いバサバサしたライトのとこがいいわ!』
(それって赤提灯の居酒屋じゃね…?まぁ、いいか…久々のおでん…食べたい)
「俺もそこがいい!」
『じゃあ、そこにしよっか♪あたしもおでんは何回かしか食べたことないし♪』
俺たちはおでんを楽しみ、宿に泊まった。ロキはご満悦で、俺はうまくラブマスターの事は誤魔化せたと思っていたが、リーシュがチラチラと俺を見ていたので色々と勘付いてそうだが、何も聞いてこないので天照の[秘密]という言葉が引っ掛かっているのだろう。
そして高天原2日目を迎える。
『まぁ、座るのじゃ…ウズメの入れた茶が冷めてしまう』
いつの間に置いたのか…テーブルの上には2つのお茶が用意されていた。
とりあえず天照の向かいに座ると、天照は目を瞑りお茶を口にしたので、俺も内容がわからないのに話し掛けるわけにも行かず、同じようにお茶を啜る。
(旨っ!?さすが…日本の神界…お茶すらこんなに旨いのか…)
そんなことを思っていると、目を開けた天照がお茶を眺めながら喋り出す。
『…そなたはオーディンを「おっさん」と呼ぶほど仲がいいと聞いたが…、留学前にオーディンは妾の事を何か言ってなかったか?』
(何か言伝でもあったか?特になかったような)
「何も言ってなかったですね。あの……それが何か?」
『…そうか……』
がっかりした顔でお茶を見つめる天照…少しした後、目線を上げ俺を見つめ黙る。
俺は逸らす事もできずになんとか見つめ返すが、内心は大変な事になっていた。
(!?…何だ、この憂いの帯びた瞳は…てか、そんな目で俺を見つめないで!こんな綺麗な人に見つめられると恥ずかしすぎて悶えたくなるから!)
『リーシュとロキとはいつ知り合ったんじゃ?』
ジッと俺を見つめるのは変わらないが、急に話が変わりほっとする。
「えーと、リーシュとは転生直後で、ロキとはアースガルドに入った時ですね。それまではアルフヘイムのリーシュの家でお世話になってました」
『そうか……そういえば、ロキはアースガルドでは悪名高い噂を聞いているのじゃが…さっきの謁見の間での反応を見る限りはそのようが輩には見えんのう?そなたの為にトヨに食って掛かっておったしのぅ』
「あいつは口は悪いですが、悪い奴ではないと思います。まぁ、初対面の時は殺されかけましたけどね…ハハ……でも、アースガルドにいる時はあいつの家に泊めてもらっていたんですが、リーシュにべったりでしたよ」
天照は少し考え込んだ後、どこか納得したように頷いた。
『ふむ…リーシュだけでなくロキとも一緒に住んでいたわけか…やはり…』
「…やはり?」
天照はグッと身を乗り出し、言い放つ。
『そなたはやっぱり……ラブマスターじゃな!?』
・・・
俺は一瞬固まった。
「あの…意味がわからないのですが……ラブマスター?って何ですか?」
『ラブマスターはそのままの意味じゃぞ?そなたはあのリーシュとロキを侍らせておるじゃろう?』
(ラブマスターじゃないし、侍らせてもないんだが…)
「ラブマスターじゃないですし、侍らせてもいないですよ?リーシュとロキは付いて来てくれただけですし、ロキは研究の為だって言ってましたし…」
『そなた…鈍い男じゃの……オーディンにそっくりじゃぞ?まず、付いて来るのがおかしいと思わんか?アースガルドの主神に次ぐ権力を持った者が2人もじゃぞ?』
「…おかしいですかね?リーシュはこの国をまた見てみたいって感じでしたし、ロキは食べ物に釣られてましたし」
『…わざとかの?それとも鈍いところもラブマスターの特徴かの?まぁ、よい。それよりも、そなたに折り入って頼みがあるのじゃ』
「頼み…何ですか?」
『好きな相手を落とすにはどうしたらいいのか教えてくれぬか?』
・・・
「…はぃ?」
『じ、じゃから!す、好きな相手を落とすにはどうしたらいいのか聞いておるのじゃ!』
顔を真っ赤にして早口でよくわからないことを聞いてくる天照。
「…二人きりにしてくれって言ったのは、それを聞きたかったんですか?」
『そうじゃ……そなたはオーディンと仲が良い……加えて、リーシュとロキという絶世の女子を落としておる。ならばそのラブマスターたる、そなたに聞くのが確実じゃろう?』
(確実じゃろう?って…落とした記憶もないし、ラブマスターになったって自覚もないんだが…)
「…あの…恋してるんですか?……おっさ…オーディン様に?」
天照の顔が更に赤くなる…湯気でも上がってきそうだ。
『な、何故わかる!?妾は言っておらんよな?…それもラブマスターの能力か!?』
・・・
「…いえ、今までの会話を整理したら大概の人はわかるのでは?」
『む?そうなのか?』
(…ウブすぎる……好意が溢れ出てたぞ。というか……神界の大スキャンダルじゃないのか?主神と最高神…お互いが各神話のトップだぞ!?)
そこで俺はある事に気付く。
「あの…おっさんって、結婚してますよね?子供もいますよ?」
子供とはバルドルの事だ。思わずオーディンをおっさんと言ってしまうが、あまりのスキャンダルに俺は気付く余裕がない。
『…しておるな……じゃが、向こうでは一夫多妻を認めているはず。それに子は妾にもおるしな…8人ほど』
「8人!?それは…お盛んで…」
思わず心の中の言葉が出てしまったのだが
『妾が産んではおらん!弟のスサと姉弟喧嘩の仲直りに使った八尺瓊勾玉と十拳剣を8つに分けて命を与えただけじゃ!妾は処女じゃ!』
(最高神としてその発言は許されるのか?…もしかして……残念な人なのか?)
「その発言は聞かなかった事にしますね…」
『何故じゃ?妾は嘘はつかん。処女だと言って何が悪いのじゃ?5柱の会議以外、男神と出会う機会もなく…皆、簾越し…恐れ慄き、近寄ってくることもなく、会話すらトヨ越し…これ…アウトじゃろ?』
「いや、あなたの発言が1番アウトですから!最高神ですからね!?」
どうしても我慢できずツッコんでしまった…
「あっ、すいません……失礼な事を…」
『…ハハハハ……よいよい。そなた、面白いな!オーディンに好かれるわけじゃ。妾にそんな事を言うのは男じゃと5柱会議の連中だけじゃぞ?…ふむ…器は主神級か。さすがはラブマスター』
「ラブマスターはやめてくださいよ。というか、おっさん…あ…オーディン様を好きに?」
『おっさんでよいぞ?オーディンも許しておるのじゃろう?…何故……何故とな…それを聞くとは…覚悟があるんじゃな?』
「覚悟?…何か重大な秘密が?」
溜めに溜めた天照が顔を赤くして言う。
『いや…この話は1日、2日じゃ語りきれんのじゃ…』
「10分にまとめてください!」
『…そなた、鬼じゃな。まぁ、善処しよう…』
そこからが長かった。2時間は経っただろうか…天照は花畑なオーラを放ちながら、おっさんとの初めての出会いを1から全て話し続けている。
おかげでだいぶ時間が経ったのに、まだ初めての出会いの話が続いていた。常に頬を赤く染め…時折、頬に手を当てくねくねする…まさに恋する女性だった。
聞いた話をざっとまとめると
初めての5柱会議でオーディンが気さくに声を掛けてきたのがきっかけで、それまで身内以外の男から話し掛けられた事などなく…初めての5柱会議で唯一の女性だったので緊張していたのだが、それを解してくれたのが気さくなおっさんであったらしい。
そこから5柱会議でよく話すようになり、異文化交流の会談と称して何度か連絡を取っていたそうだ。
2時間でこれしか情報がなかった。
おっさんの口調が気に入っただの…服装はどうであったかだの…5柱会議の前日はドキドキして寝れずに肌の状態が悪かっただの…
やはり恋する乙女は最強である。正直いらない情報までも事細かに話してくる。
俺はちょっと疲れ始めていた。誰しも経験した事があるだろう。恋の話題は最初は聞いていて楽しいが、途中からノロケに変わると途端につまらなくなる。
しかし、ノロケている方は楽しくてしょうがないので話題が尽きない。
コンコン…
そこで俺に救世主が現れた。あまりに長時間二人きりにしていたので、隣のリーシュたちが痺れを切らせたようだ。
『天照大御神様…そろそろお話は終わりましたでしょうか…もう3時間ほどになるのですが…』
ウズメさんだった…後ろにはお腹が減ったのか物凄い殺気を放つロキと心配そうなリーシュの顔が見えた。
(やった!やっと解放される…)
そう思ったのだが…
『ん?まだ話は終わっておらんの…もう少し待ってい…』
「天照様!今日はもうこの辺にしませんか!?また今度…ゆっくりとお聞きしますんで!」
(続行させてたまるかぁ~!!)
『むぅ…まだまだまだ話し足りないんじゃがな…まぁ、1日、2日じゃ話し切れない大事な話じゃからな……しょうがない…また明日じゃな!』
「いえ、また今度でお願いいたします。留学生活がその話で終わってしまいそうなので!」
『ユシル様…少々言葉が過ぎるのではな…』
『ウズメ…よい。妾はユシルから学ばなければいけない事があるのじゃ。トヨのように言い過ぎて、会ってくれなくなったらどうしてくれるのじゃ!』
『大変失礼いたしました…』
ポカンとするリーシュとロキ…
「ウズメさんは全然悪くないですよ!すいません…あまりに長く話を聞いていたので馴れ馴れしくなってしまいました。」
『よいぞ、ユシル。そなたとの話は新鮮で楽しかった。言葉遣いなど気にする必要はない。ただ…あの話は秘密じゃぞ?』
天照が可愛く口に人差し指を当て、シーとする…。
「もちろんです…」
(大スキャンダルだからな…)
『ところで、そなたたちは留学生じゃろ?塾には行くのか?』
『塾…ですか?そのような施設有りましたっけ?』
リーシュが聞き直すとウズメが答える…
『代わりに説明いたします。リーシュさんがいなくなってしまってからできた学校に近い教育施設なのです。大和には八百万の神がおり、日々新しい神が生まれています。その若い神たちの教育施設を兼ねた訓練所とでも言いましょうか……若い神たちの他に暇をもて余した神たちが多数在籍しますが、様々な講義が行われていますのでお薦めです』
『へぇ~…そんな施設が…制服とかあるかな?…なんか面白そうだね!ローちゃんとユシルはどう思う?』
「俺はこの国をいろいろ見てみたいから、講義の種類を見てみないとなぁ。出席が強制じゃなければ行ってみたいけど…」
『私はパスね。そんなとこ行くなら食べ歩…オホンッ!…研究がしたいわね』
(今、食べ歩きって言ったよな?8割言っといて今更だろ…)
『今の疑問につきましては…制服は希望者にのみ巫女装束を支給しております。次に出席に関してですが、月1回の出席さえしていただければ強制はいたしません。ユシル様のご希望ですと…講義の中には[高天原観光地巡り]と[大和の歴史]などがございます。ロキ様…[高天原美食巡り]、[甘味研究~高天原のシュガーを添えて~]という講義がございます』
『行くわっ!!』
(いや、早ぇよ……講義っていうか、旅行会社のツアーじゃねぇか……なんだよ…シュガーを添えてって……講義がフレンチみたくなってるぞ…)
『あの…料理教室とかもありますか?』
『もちろん有りますよ。リーシュさん……全ジャンルを取り揃えております』
『なら、あたしも行きたいなぁ』
(リーシュは偉いな。すでに相当料理うまいのに更にレパートリーを増やそうとしてるのか)
「じゃあ、俺も行く方向でお願いします。一応留学生ですし…」
『編入の手続きはウズメがやってくれるじゃろう。種類が多彩なので飽きないぞ?…ふふ…妾が提案した施設だからの、いろいろ見てみるといい』
「天照様が提案したんですか?」
『そうじゃよ♪アースガルドのヴァルハラと葦原中国の[H○S]と[J○B]いう学校を参考にしたのじゃ♪』
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『とりあえず塾は決定じゃの!あとは家か?』
『天照大御神様、家は自分達で探そうと思っています。ですので…』
『わかった。ただウズメには家が決まったら教えておいてくれぬか?ラブマスターに話を聞いてもらわねば困るからの』
『わかりました……ラブマスター??』
「はい!わかりました!決めたらウズメさんに教えておきますね!さて、そろそろお暇しようか!な!な!?」
天照が自分で秘密だと言っといて、墓穴を掘るものだから焦ってしまう。
『あんた…何を焦ってるの?』
1番ヤバそうな奴に目を付けられた。
「いや…お腹空いたなぁと思ってさ!ロキもペコペコだろ?」
ロキの訝しむような目がキラキラした目に変わった。
『あんたわかってるじゃないっ!ペコペコよ!すぐに行きましょう♪』
(よかった~…食い意地が張ってて…)
「というわけなので…天照様、今日はもう失礼します!」
『むっ?もうか?…まぁ、今日着いたばかりで疲れてもおるじゃろう。今日は引き留めて悪かった、また遊びに来るんじゃぞ。ウズメ経由ならばトヨにも会わずに済むだろう』
『いえ、こちらこそ私室にお邪魔させていただき ありがとうございました。久々にお顔を拝見できて嬉しく思います』
『今日はお招きいただきありがとうございました。またいつかお会いできるのを楽しみにしております…』
ロキは最初と最後だけはきっちりするようだ。
そして俺も
「天照様、今日はありがとうございました。また今度お話をお聞かせください」
最初は噛みまくったが、もう天照にそれほど緊張しないのでちゃんと挨拶できた…と思いたい。
『うむ、妾も楽しかったぞ』
屈託のない笑顔で天照は俺達を見送ってくれた。
そして、俺たちは天津神殿を出た。すでに外は暗くなっていて、夜ご飯にはちょうどいい時間だった。
『今日は宿を取って、明日家探そっか!ご飯食べてから宿に行こうね♪』
リーシュがそう決めたなら、俺とロキに異論などない。
『賛成♪店は、通り道にあった[おでん]って赤いバサバサしたライトのとこがいいわ!』
(それって赤提灯の居酒屋じゃね…?まぁ、いいか…久々のおでん…食べたい)
「俺もそこがいい!」
『じゃあ、そこにしよっか♪あたしもおでんは何回かしか食べたことないし♪』
俺たちはおでんを楽しみ、宿に泊まった。ロキはご満悦で、俺はうまくラブマスターの事は誤魔化せたと思っていたが、リーシュがチラチラと俺を見ていたので色々と勘付いてそうだが、何も聞いてこないので天照の[秘密]という言葉が引っ掛かっているのだろう。
そして高天原2日目を迎える。
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執筆終了済みです。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
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