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ロキは嫌われ者

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 俺が死にかけた翌日も俺とロキは朝からと言い争っていた。理由はしょうもないのだが、朝食のフレンチトーストを取り合ってだった。フェニがフレンチトーストを食べる事を知り、ロキが自分の分をすべてフェニにやって、俺の分を食べ始めたからだ。結局リーシュがもう1食フレンチトーストを作った事でなんとか終息した。そして、食後…


『さて、リーシュは今日何するの?』


『ん?今日?今日はこの家の掃除するよ?あとは買い出しかな…ローちゃんち、全然食材ないんだもん。昨日も言ったけど、何日か御世話になるからね』


 俺たちは昨日からロキの家にいるのだが。この家、めちゃくちゃ広い。迷うほど広い。


『こいつはいらないけど、リーシュは大歓迎よっ♪あっ、でも研究室には入らないでね?リーシュなら大丈夫だろうけど、危なそうなの多いから』


 俺を指差しロキはいう。この研究室という名目の部屋は実は屋敷の8割を占める。研究室で生活してるんじゃないかと思うくらい、リビングやキッチンには物がなかった。多分本当に研究室で生活しているのだろう。


(入るだけで危ない部屋って何だよ、怖ぇよ…)


『リーシュが掃除とかしてくれるなら、こいつは暇なのよね?』


 俺を指差し言う。 


「こいつじゃなく、ユシルな?毎回指差して疲れないのかよ」


『疲れるけど、あんたの名前呼ぶよりか100倍マシよっ!あんた、今日は私に付き合いなさいっ!昨日の話、聞いてやらなきゃいけ…』

「やだね」

素直にはいと言うはずがない。俺はロキの話を遮った。


『この下等生物っ!消すわよ?マジで消すから!』


 ロキの手に魔力が籠る。


『はい、スト~ップ。喧嘩しない!ローちゃんがユシルに用事?』


『そうなの。昨日の話を聞いて、やらなきゃいけない事ができたのよ。ユグドラシル関連のね』


(ユグドラシル関連か…それは気になるが)


「昨日、お前に付き合って死にかけたんだけどな」


『男がいつまでも細かいこときにしてんじゃないわよっ!あんたが転生してこなきゃ、やらなくてよかった仕事なんだから!』


(死にかけた事を細かい事って言うなよ。それより、俺がユグドラシルから力をもらったことで何か問題が起きたのか?)


「…はぁ~、行くよ」


『それでいいのよっ!でも、今日は本当に死んだらゴメンなさいね、カス』

(…おいおい)

 俺が文句を言おうとすると


『ローちゃん?もし…ユシルに何かあったら、絶交するよ?』


『あ~ん、ゴメン…リーシュぅ…冗談だからぁ~、何かないように私がこのカスを守るから、絶交は許して~』


『ユシルをよろしくねっ♪』


 この家ではリーシュが絶対権力者のようだ。









 という訳で、俺は今…男版ロキと街を歩いていた。


「…おい、何で男になってんだよ」


『そりゃぁ、もちろん目立たないためさ。僕は完全な男にも変身できるんだよ?僕の服を着てたじゃないか。それで察したと思ってたが…やっぱりカスだね』


 やけにイケメンな空気を振り撒きながら貶してくるロキはどこからどう見ても男だった。


「うるせぇよ…やっぱり目立っちゃダメなのか?大変だな」


『あんた、どんだけ鈍いのよっ!昨日も見られてたでしょうが!』


「口調戻ってるぞ?確かに見られてたなぁ。でも、昨日のって俺と一緒にいたせいだろ?」


『あんた、本当にバカなのね…いいわ、見せてあげるわ。[リリース]』


 ヒュアッ! 


 ロキの姿が男の状態から、性悪美少女に戻った。その途端に周囲の人たちがこちらを見てヒソヒソし始めた。耳を澄ませてみると

<おい…あれ、ロキじゃないか?今日はツイてないな…>

<ロキじゃない、今日も誰か生け贄にしに来たのかしら…>

<七魔導の落ちこぼれだろ?どうせオーディン様の弱みでも握って脅したんだろ…>

<今日は何人殺したんだ?…あぁ、隣にいるのは今日の生け贄か…>

<街に来るなよ…ていうか、アースガルドから出ていけよな…>


 すべてロキに対する悪口や噂話だった。その内容はあまりに酷く、平気な顔で歩いているロキが如何に毎度の事なのかを物語っていた。

(なんか、胸くそ悪いな…)


『ね?わかったでしょ?私は皆から嫌われてるのよ。確かに七魔導やヴァルハラ城にはしょっちゅうイタズラしてるけど、街の人には何もしてないわ。生け贄を欲しがってるなんて噂まで皆信じてるんだから…まぁ、あんたがどっちを信じるのも自由よ』


 感情のない自傷的な笑いを浮かべるロキを俺は複雑な気持ちで見つめた。


<おい…後であいつが歩いたとこに塩蒔いとけ。穢れる>

<見るな、見るな。ロキを見ると目が見えなくなるぞ>

<前の神界大戦で死ねばよかったんだよ…>




 ブチッ!

いくら何でも言い過ぎだ。それもコソコソと、しかしこちらに確実に聞こえるように。

「オイッ!!!」


 思わず大声が出た。周りの視線が俺に集まる。 だが、なぜか我慢できなかった。


「お前ら、さっきからコソコソ悪口言いやがって、それでも神界の住民かよっ!?こいつがお前らを殺そうとしたのか?文句があるなら、コソコソしてないで正面から言ってこいよっ!!」


 その場がシーンとした。


『ち、ちょっとっ!あんた何言ってんのよっ!』


<何だ、あいつ…ロキに騙されてんじゃねぇか?>


「騙されてねぇよ!こいつは性格は最悪だけどな、優しくされた奴には優しくできる奴なんだよ!!」


(正直よくわからない…まだ知り合ったばかりだし、出会いは最悪だし、ロキがリーシュたち以外に優しくしてるのを見たことがあるわけでもない。そんな気がするだけだけど…) 


 周囲がロキに向けるような視線を俺にも向け始めた時だった。



『あぁ~、もうっ!恥ずかしいからやめなさいよっ!…[エアウォーク]』  


 ロキがまるで階段でもあるかのように空中をかけ登り始めた。途中俺の首根っこを掴み、俺も空中へ引っ張られるように登っていった。


「うぉっ!?」


『暴れんなっ!落ちたら死ぬわよ?』


 もうすでに雲の中に入ってしまいそうな高さまで来ていて、俺は下を見て目が回りそうになった。


『あんたが恥ずかしい事するから街通って行けなくなったじゃないっ!あんまり魔力使いたくなかったのに…もう、面倒だからこのまま行くわよっ!』


「行くって…どこへ行くんだよっ!?どんどん上がってってるぞ!?」


 高度はグングン上がっていく…もう雲なんてずっと前に通り過ぎていた。首根っこ掴まれたままの俺はさぞかし無様なんだろうが


『世界樹の頂上よ。ユグドラシルに預けてたパンドラの箱を取りに行くの。飛ばすわよ…』



 更にスピードがあがった。俺はあまりの高さと危うさにそれ以上しゃべる事ができなかった。なので…




『…ありがと』




 ロキの呟いた、そんな一言にも気付くことはなかった。




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