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スキル[風魔法(始)]
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俺は今、ドアの前に立っている。
早く起きたはいいが、触ると消滅する可能性があるドアを開けられないでいるのだ。
リーシュは自分の部屋と風呂だけだと言ってはいたが、もし何かの間違いでこのドアに風結界が張られていたら…そう思い、どうしたものかと悩んでいると。
コンコン!
『ユシル~、そろそろ起き…』
「っ起きてる! 開けて! ドア開けて!!」
このチャンスを逃がしたら、当分出られない可能性があるので必死だった。
『わっ! ビックリした~…起きてたんだね』
そう言いながらドアを開けてくれた。
「おはよう。ありがとう、このドアの風結界は?」
『おはよー。 風結界? このドアには張ってないよ?…もしかして、風結界があると思って出られなかったの?』
「ま、まぁ…」
『もうっ! 信用してよ! あたし、風の神様だよ? 絶対間違えないからっ! ほらっ、顔洗ってきて!』
「…分かりました」
信用するという明言は避け、俺はリーシュからタオルを受け取り顔を洗いにいった。
朝食はこんがりと焼いてあるトーストにハムエッグ、ポトフのような野菜たっぷりのスープだった。
「…旨い。やっぱリーシュって料理上手だよな」
『そう? 素材がいいだけだよ!』
謙遜しながらもリーシュは嬉しそうにしていた。多分リーシュは一人でご飯を食べる事が多かったんじゃないだろうか。俺が食べる前からニコニコしていたし、ローちゃんとやらもたまにしか来ないようだし。
『ご飯食べたら森に行こう!ユシルはあたしからあまり離れないようにしてね? この辺には結構強めの魔獣が出るから』
「魔獣? モンスター的な何か?」
『そうそう!そんな感じ!昨日食べた不死鳥は聖獣だけどね。環境がいいから、聖獣もいるの』
魔獣に不死鳥…聖獣を食べてしまうなどさすが神様と言うべきか。
俺とリーシュは今 森の中にいる。 森の中はビー玉くらいの発光体がたくさん飛んでいて、聞いてみると光の精霊なのだそうだ。
「リーシュ、光の精霊は襲ってこないのか?」
『光の精霊は大丈夫だよ。いい子たちだから、こちらから何もしなきゃ花の周りを飛び回ってるだけだから』
「あれ? でも、ここに来る途中は花畑でもないのにたくさんいたよな?」
『いたね。多分、何かがこの子たちの花畑を荒らしてるのかも。何かは予想つくけど』
そんな会話をしていると、目の前に綺麗な花畑が見えてきた。綺麗なのだが…花畑の真ん中には、その美しさとは正反対の生物《・・》がいた。
『やっぱり、コカトリスか』
それは体長2メートルほどで毒々しい紫の羽が特徴的な尻尾が蛇のようになってる鶏に似た生き物だった。
「コカトリス!? あの目を合わせると石にされるとかいうやつ!?」
俺のこの世界で通じそうな知識はゲームや漫画から得たものしかない。
『間違ってはないけど、正確には見つめ合わなきゃ大丈夫だよ。見つめ合って初めて少しだけ石化が始まるの。それよりも厄介なのはあの毒だよ。見て?』
リーシュの指差す先を見ると花畑の一部がコカトリスの羽と同じように毒々しい紫色になっていた。
『あいつが木や花を食べると、その一帯が汚染されるの。もうこの花達はダメね』
リーシュは悲しそうに呟く。花畑の一部だった紫色が次第に広がっていき、半分が紫色に染まってしまった。
「どうにかできないのか?リーシュ」
『花はどうしようもできない。だから、ゴメンね…[鎌鼬]』
ボソッと何か呟いたかと思うと、急に花びらが…いや、花自身が一斉に宙に舞った。紫色の花だけが。
「何をしたんだ?」
『風魔法で汚染されてるのを全部切ったんだよ。ほっとくと他にも広がっちゃうから』
悲しそうなリーシュが頭を振り、気持ちを切り替えたらしく、少し困ったような顔を俺へ向けた。
『あいつは生かしてちゃダメだから、ユシルへの説明の実験台になってもらうね?』
「わかった、頼む」
『まず、スキルっていうは個人の能力みたいなものって言ったじゃない? 全てが戦闘系のスキルとは限らないんだけど、使い方は大体一緒。体に魔力を通して、使いたいスキルを頭の中で想像して、魔力を放出する。そうするとスキルが使えるの。たとえば』
(ふむ、まずは体に魔力を通すのか。あとはイメージの問題か? 魔法なんて使ったことないからな)
『見やすいように魔力に色をつけてあげるね。まず体に魔力を通す』
すると緑の煙のような…あのユグドラシルの幹から出てきていた煙ととても似たものがリーシュの体を薄く包んだ。
『次に頭の中で使いたいスキルを想像する』
体を包んでいた緑色がリーシュの手のひらに集まっていく。
『そして魔力を放出、[風刃]』
その瞬間、手のひらから放たれた緑の刃はコカトリスの尻尾をあっさり切り飛ばした。突然尻尾を切られ怒ったコカトリスは、口から毒液のようなものをこちらに吐き出した。しかし、リーシュは何でも無さそうに
『魔力を周囲に張るとね、[風壁]』
こちらへ飛んできていた毒液が手前で掻き消えた。
『こんな感じかな? あとは魔力を飛ばしたりしないで座標を指定して使うスキルもあるよ。[風爆]』
ドンッ!と物凄い音がして、コカトリスの方を見るとコカトリスの姿はなかった。音と衝撃からして跡形もなく消し飛んだのだろう。
「…すげぇ」
『ちょっとやり過ぎちゃった! 綺麗な花畑だったのになぁ』
そう、苦笑いで言うリーシュは少しだけ悲しそうな目をしていた。
『さて、次はユシルがスキルを使う番だよ! あの後ろの岩に風魔法スキルを試してみて!』
後ろにはコカトリスと同じくらいの大きさの岩があった。俺も気持ちを切り替えてさっき見たことを思いだし、トレースしていく。
「魔力を体に通す」
『おぉー! 上手い、上手い! その調子だよ!』
目には見えないが何かが体を包んでいるような感覚がした。おそらく、魔力を血液やら体温に見立ててやってみたのが良かったのだろう。
「…頭の中でイメージ」
手のひらに魔力が集まっていく気がした。いける気がする!
「[風刃]」
ザッと雑草を踏んだ時のような音と共に岩には5センチほどのキズがついただけだった。
(おいおい、弱すぎないか? リーシュならきっと真っ二つだぞ)
『…成功? だよね?』
俺に聞かないでもらいたい。
「多分?」
『魔力を通すのは物凄くよかったんだけどね。質も良さそうだったし!でも、まだ1回目だからね! 適性ないって決めつけるのは早いね!』
(適性も存在するのか?てか、もうすでに適性ないかもって思ってるよね? 絶対思ってるよね?)
増える回数、近づく岩との距離、そして俺は
「ちくしょー!!! 魔力を通す! 想像! 風刃! 通す!想像!風刃!えぇい、面倒だ! 魔力通しっぱなしでいい。風刃!風刃!風刃!…岩ぁ、割れろーーー!!!」
ヤケになった。八つ当たりもした。なんか昔の青春ソングのようになってしまったが、それでも…岩はただキズが増えるだけで割れる気配はなかった。
ちなみにリーシュは30分ほど気マズそうに見ていたが、その後はこちらを見ることなく昼ごはんの準備に勤しんでいた。
さらに10分ほどして俺は自分の想像を遥かに下回る風刃の威力にヘコみ始め、ドヤ顔で存在する岩(ユシル目線)に悔しさを通り越し、止めどない怒りが沸いてきていた。
「風刃!っ風刃!…あぁ~もぉー!いい加減にしろぉぉ!!」
俺は更にヤケになり、魔力を手のひらに集めたまま拳を握り、ドヤ岩を思いきり殴りつけた。
ドンッという今まで感じた事のない近距離での轟音、上がる土煙に俺は何が何だかわからず
「…え?」
『…え?』
土煙が収まり、見てみるとドヤ岩が…憎きドヤ岩が粉々になっていた。
「お、おぉ!見たかドヤ岩っ!割ってやったぞ!」
『いや、割れたんじゃなくて 跡形もなく粉々に砕け散ってるから! というか、ドヤ岩?名前付けてたのね』
リーシュが何か言っているが、俺は晴々とした気分でドヤ岩を見ながら頷いていた。
『相当な威力だったけど、どうやったの? 風刃? 違うよね?粉々だし』
「ヤケになって、風刃飛ばさずに握りこんで殴ってみた」
『ん~、[魔纏《まてん》]を拳にって感じなのかな』
「魔纏? 魔法の一種?」
『そう。普通は武器にその属性の魔力を纏《まと》わせて威力を上げる魔法なんだけど、拳に使うなんて見たことない使い方かも。アースガルドではエンチャントとかが似てるかな』
「?…拳を使う人はいないのか?」
そう、前世にも空手や拳法の達人たちがいたようにこの世界にもそうゆう人達はいるものだと思っていた。
『多分ほとんどいないよ? 素手で戦う人はこの世界にはね。素手の武術が実戦で使えるのはミドガルドだけだと思う』
「え!? 何で!?」
『だって、あたしたちは何かしらの防御手段を持ってるから。たとえばあたしの風壁とか風結界とか…アースガルドではバリア、シールドとかがあるね。それに属性なしでも魔力を飛ばせるからね。もしかして転生前は素手の武術やってたの?』
「小さい頃からジイさんに古武道…徒手空拳か、やらされてきたんだ。本当に使う人はいないのか?」
『残念だけどいないね。何かそれ用の武器があればいるかもしれないけど、やっぱり剣とか槍の方がリーチも切断力もあるし、素手じゃシールドは抜けないから』
「…そう」
正直、ショックだった。徒手空拳にはずっとやってるだけあって自信があったし、この世界でもある程度通用するとまでは言わないが自衛手段くらいにはなるのではないかと思っていたからだ。
『あ、でも! あの威力は異常だよ!? [始]じゃ絶対出ない威力だったし、それに世界樹に言われたんでしょ? 好きにしろって…なら、いいじゃない♪ 人と違う道を進んだって! 運命に負けたくないんでしょ?…だから、元気だして?』
(そうだ…好きにしろって、自分で運命に負けたくないって、ただ死ぬはずだった運命を捻じ曲げて来たんだ)
「そう…だよな! そうだ! 俺は好きに生きていいんだ! 自分で道を作ったっていいんだ! ありがとな、リーシュ。さすが女神だよ」
『そうだよっ! よかった、落ち込ませちゃってゴメンね! あたしは女神じゃなく風の神様だってば!』
「大丈夫だ。ちゃんと自分で納得できる答えを探すさ。さて、もっと試したいし、また岩でも探すか!」
『その前にお昼ご飯の準備できてるよ♪食べてからにしよ?』
「そうだな!」
ちなみに昼ご飯はサンドイッチと温かいオニオンスープだった。スープのためにわざわざ鍋まで持ってきていたとは…言葉遣いはボーイッシュだがリーシュの女子力の高さには驚かされた。
そして俺達はまた森の奥へと進んでいく。
…もちろん、リーシュを先頭にしてだが。
早く起きたはいいが、触ると消滅する可能性があるドアを開けられないでいるのだ。
リーシュは自分の部屋と風呂だけだと言ってはいたが、もし何かの間違いでこのドアに風結界が張られていたら…そう思い、どうしたものかと悩んでいると。
コンコン!
『ユシル~、そろそろ起き…』
「っ起きてる! 開けて! ドア開けて!!」
このチャンスを逃がしたら、当分出られない可能性があるので必死だった。
『わっ! ビックリした~…起きてたんだね』
そう言いながらドアを開けてくれた。
「おはよう。ありがとう、このドアの風結界は?」
『おはよー。 風結界? このドアには張ってないよ?…もしかして、風結界があると思って出られなかったの?』
「ま、まぁ…」
『もうっ! 信用してよ! あたし、風の神様だよ? 絶対間違えないからっ! ほらっ、顔洗ってきて!』
「…分かりました」
信用するという明言は避け、俺はリーシュからタオルを受け取り顔を洗いにいった。
朝食はこんがりと焼いてあるトーストにハムエッグ、ポトフのような野菜たっぷりのスープだった。
「…旨い。やっぱリーシュって料理上手だよな」
『そう? 素材がいいだけだよ!』
謙遜しながらもリーシュは嬉しそうにしていた。多分リーシュは一人でご飯を食べる事が多かったんじゃないだろうか。俺が食べる前からニコニコしていたし、ローちゃんとやらもたまにしか来ないようだし。
『ご飯食べたら森に行こう!ユシルはあたしからあまり離れないようにしてね? この辺には結構強めの魔獣が出るから』
「魔獣? モンスター的な何か?」
『そうそう!そんな感じ!昨日食べた不死鳥は聖獣だけどね。環境がいいから、聖獣もいるの』
魔獣に不死鳥…聖獣を食べてしまうなどさすが神様と言うべきか。
俺とリーシュは今 森の中にいる。 森の中はビー玉くらいの発光体がたくさん飛んでいて、聞いてみると光の精霊なのだそうだ。
「リーシュ、光の精霊は襲ってこないのか?」
『光の精霊は大丈夫だよ。いい子たちだから、こちらから何もしなきゃ花の周りを飛び回ってるだけだから』
「あれ? でも、ここに来る途中は花畑でもないのにたくさんいたよな?」
『いたね。多分、何かがこの子たちの花畑を荒らしてるのかも。何かは予想つくけど』
そんな会話をしていると、目の前に綺麗な花畑が見えてきた。綺麗なのだが…花畑の真ん中には、その美しさとは正反対の生物《・・》がいた。
『やっぱり、コカトリスか』
それは体長2メートルほどで毒々しい紫の羽が特徴的な尻尾が蛇のようになってる鶏に似た生き物だった。
「コカトリス!? あの目を合わせると石にされるとかいうやつ!?」
俺のこの世界で通じそうな知識はゲームや漫画から得たものしかない。
『間違ってはないけど、正確には見つめ合わなきゃ大丈夫だよ。見つめ合って初めて少しだけ石化が始まるの。それよりも厄介なのはあの毒だよ。見て?』
リーシュの指差す先を見ると花畑の一部がコカトリスの羽と同じように毒々しい紫色になっていた。
『あいつが木や花を食べると、その一帯が汚染されるの。もうこの花達はダメね』
リーシュは悲しそうに呟く。花畑の一部だった紫色が次第に広がっていき、半分が紫色に染まってしまった。
「どうにかできないのか?リーシュ」
『花はどうしようもできない。だから、ゴメンね…[鎌鼬]』
ボソッと何か呟いたかと思うと、急に花びらが…いや、花自身が一斉に宙に舞った。紫色の花だけが。
「何をしたんだ?」
『風魔法で汚染されてるのを全部切ったんだよ。ほっとくと他にも広がっちゃうから』
悲しそうなリーシュが頭を振り、気持ちを切り替えたらしく、少し困ったような顔を俺へ向けた。
『あいつは生かしてちゃダメだから、ユシルへの説明の実験台になってもらうね?』
「わかった、頼む」
『まず、スキルっていうは個人の能力みたいなものって言ったじゃない? 全てが戦闘系のスキルとは限らないんだけど、使い方は大体一緒。体に魔力を通して、使いたいスキルを頭の中で想像して、魔力を放出する。そうするとスキルが使えるの。たとえば』
(ふむ、まずは体に魔力を通すのか。あとはイメージの問題か? 魔法なんて使ったことないからな)
『見やすいように魔力に色をつけてあげるね。まず体に魔力を通す』
すると緑の煙のような…あのユグドラシルの幹から出てきていた煙ととても似たものがリーシュの体を薄く包んだ。
『次に頭の中で使いたいスキルを想像する』
体を包んでいた緑色がリーシュの手のひらに集まっていく。
『そして魔力を放出、[風刃]』
その瞬間、手のひらから放たれた緑の刃はコカトリスの尻尾をあっさり切り飛ばした。突然尻尾を切られ怒ったコカトリスは、口から毒液のようなものをこちらに吐き出した。しかし、リーシュは何でも無さそうに
『魔力を周囲に張るとね、[風壁]』
こちらへ飛んできていた毒液が手前で掻き消えた。
『こんな感じかな? あとは魔力を飛ばしたりしないで座標を指定して使うスキルもあるよ。[風爆]』
ドンッ!と物凄い音がして、コカトリスの方を見るとコカトリスの姿はなかった。音と衝撃からして跡形もなく消し飛んだのだろう。
「…すげぇ」
『ちょっとやり過ぎちゃった! 綺麗な花畑だったのになぁ』
そう、苦笑いで言うリーシュは少しだけ悲しそうな目をしていた。
『さて、次はユシルがスキルを使う番だよ! あの後ろの岩に風魔法スキルを試してみて!』
後ろにはコカトリスと同じくらいの大きさの岩があった。俺も気持ちを切り替えてさっき見たことを思いだし、トレースしていく。
「魔力を体に通す」
『おぉー! 上手い、上手い! その調子だよ!』
目には見えないが何かが体を包んでいるような感覚がした。おそらく、魔力を血液やら体温に見立ててやってみたのが良かったのだろう。
「…頭の中でイメージ」
手のひらに魔力が集まっていく気がした。いける気がする!
「[風刃]」
ザッと雑草を踏んだ時のような音と共に岩には5センチほどのキズがついただけだった。
(おいおい、弱すぎないか? リーシュならきっと真っ二つだぞ)
『…成功? だよね?』
俺に聞かないでもらいたい。
「多分?」
『魔力を通すのは物凄くよかったんだけどね。質も良さそうだったし!でも、まだ1回目だからね! 適性ないって決めつけるのは早いね!』
(適性も存在するのか?てか、もうすでに適性ないかもって思ってるよね? 絶対思ってるよね?)
増える回数、近づく岩との距離、そして俺は
「ちくしょー!!! 魔力を通す! 想像! 風刃! 通す!想像!風刃!えぇい、面倒だ! 魔力通しっぱなしでいい。風刃!風刃!風刃!…岩ぁ、割れろーーー!!!」
ヤケになった。八つ当たりもした。なんか昔の青春ソングのようになってしまったが、それでも…岩はただキズが増えるだけで割れる気配はなかった。
ちなみにリーシュは30分ほど気マズそうに見ていたが、その後はこちらを見ることなく昼ごはんの準備に勤しんでいた。
さらに10分ほどして俺は自分の想像を遥かに下回る風刃の威力にヘコみ始め、ドヤ顔で存在する岩(ユシル目線)に悔しさを通り越し、止めどない怒りが沸いてきていた。
「風刃!っ風刃!…あぁ~もぉー!いい加減にしろぉぉ!!」
俺は更にヤケになり、魔力を手のひらに集めたまま拳を握り、ドヤ岩を思いきり殴りつけた。
ドンッという今まで感じた事のない近距離での轟音、上がる土煙に俺は何が何だかわからず
「…え?」
『…え?』
土煙が収まり、見てみるとドヤ岩が…憎きドヤ岩が粉々になっていた。
「お、おぉ!見たかドヤ岩っ!割ってやったぞ!」
『いや、割れたんじゃなくて 跡形もなく粉々に砕け散ってるから! というか、ドヤ岩?名前付けてたのね』
リーシュが何か言っているが、俺は晴々とした気分でドヤ岩を見ながら頷いていた。
『相当な威力だったけど、どうやったの? 風刃? 違うよね?粉々だし』
「ヤケになって、風刃飛ばさずに握りこんで殴ってみた」
『ん~、[魔纏《まてん》]を拳にって感じなのかな』
「魔纏? 魔法の一種?」
『そう。普通は武器にその属性の魔力を纏《まと》わせて威力を上げる魔法なんだけど、拳に使うなんて見たことない使い方かも。アースガルドではエンチャントとかが似てるかな』
「?…拳を使う人はいないのか?」
そう、前世にも空手や拳法の達人たちがいたようにこの世界にもそうゆう人達はいるものだと思っていた。
『多分ほとんどいないよ? 素手で戦う人はこの世界にはね。素手の武術が実戦で使えるのはミドガルドだけだと思う』
「え!? 何で!?」
『だって、あたしたちは何かしらの防御手段を持ってるから。たとえばあたしの風壁とか風結界とか…アースガルドではバリア、シールドとかがあるね。それに属性なしでも魔力を飛ばせるからね。もしかして転生前は素手の武術やってたの?』
「小さい頃からジイさんに古武道…徒手空拳か、やらされてきたんだ。本当に使う人はいないのか?」
『残念だけどいないね。何かそれ用の武器があればいるかもしれないけど、やっぱり剣とか槍の方がリーチも切断力もあるし、素手じゃシールドは抜けないから』
「…そう」
正直、ショックだった。徒手空拳にはずっとやってるだけあって自信があったし、この世界でもある程度通用するとまでは言わないが自衛手段くらいにはなるのではないかと思っていたからだ。
『あ、でも! あの威力は異常だよ!? [始]じゃ絶対出ない威力だったし、それに世界樹に言われたんでしょ? 好きにしろって…なら、いいじゃない♪ 人と違う道を進んだって! 運命に負けたくないんでしょ?…だから、元気だして?』
(そうだ…好きにしろって、自分で運命に負けたくないって、ただ死ぬはずだった運命を捻じ曲げて来たんだ)
「そう…だよな! そうだ! 俺は好きに生きていいんだ! 自分で道を作ったっていいんだ! ありがとな、リーシュ。さすが女神だよ」
『そうだよっ! よかった、落ち込ませちゃってゴメンね! あたしは女神じゃなく風の神様だってば!』
「大丈夫だ。ちゃんと自分で納得できる答えを探すさ。さて、もっと試したいし、また岩でも探すか!」
『その前にお昼ご飯の準備できてるよ♪食べてからにしよ?』
「そうだな!」
ちなみに昼ご飯はサンドイッチと温かいオニオンスープだった。スープのためにわざわざ鍋まで持ってきていたとは…言葉遣いはボーイッシュだがリーシュの女子力の高さには驚かされた。
そして俺達はまた森の奥へと進んでいく。
…もちろん、リーシュを先頭にしてだが。
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