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3章.目論見
38.5話 王と少年
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部屋の窓から見える外は、深い闇だ。
夜も更けたころ、静まり返った部屋で少年は膝を抱えて椅子に座っていた。少年の翡翠色の瞳は、赤く充血している。泣いた跡がはっきりと残っていた。
傍には大きなベッドがあり、そこに若い青年が眠っている。つい数時間前まで、血で汚れていた身体は侍女によって丁寧に拭かれ、服も着替えさせられていた。
「……また、スズさんに、助けられてしまった……」
少年らしい若い声が、静まりかえっていた部屋に響く。
命の恩人を危険な目に遭わせてしまい、自分のふがいなさが情けなかった。今夜は眠らないで、一晩中見張りをしようとそう思っていた。
眠っている青年の断続的な呼吸音を聞きながら、辺りを警戒していた、そのときだった。
突然、部屋に黒いもやが現れて、そこから一人の男が姿を現した。
その男は、この王国の王と呼ばれている人間だった。少年は驚いて慌てて立ち上がった。
「へ、陛下……? どうしてここに……?」
「おや、いたんですか」
王は冷たい声と視線を、少年に向ける。まるで、汚物を見るかのような、酷く冷たい視線だった。
「出ていってくださいますか?」
「え? い、いやです……」
何となく危険を感じて、少年は逆らってはいけない存在の王に向かって、思わず首を振っていた。
その行為に、王はさらに不機嫌そうに眉根を寄せる。
「……聞こえなかったのですか? 早く出て行けと言っているんです」
「こ、ここは僕が見張りをしますから……っ! もう遅いですし今日は、お戻りくだ――」
そこで、少年の言葉はとぎれ、姿は消えた。
王が自身の能力で、少年を強制移動させたのだ。本来なら殺したいほど、少年を疎ましく思っていたが、眠っている目の前の青年に殺さないでほしいと釘を刺されていたため、それは出来なかった。
王は、青年に近づく。
ベッド近くの床に膝をつけて、眠る青年の頬に、手を触れた。動かない右手を持ち、手の甲にそっとくちづけを落とす。
青年は深い眠りについており、動かなかった。
「……ゴフェル。お願いです。早く、思い出してください」
王は、小さな声で祈るように、そう呟いた。
夜が、明けていく。
部屋の窓から見える外は、深い闇だ。
夜も更けたころ、静まり返った部屋で少年は膝を抱えて椅子に座っていた。少年の翡翠色の瞳は、赤く充血している。泣いた跡がはっきりと残っていた。
傍には大きなベッドがあり、そこに若い青年が眠っている。つい数時間前まで、血で汚れていた身体は侍女によって丁寧に拭かれ、服も着替えさせられていた。
「……また、スズさんに、助けられてしまった……」
少年らしい若い声が、静まりかえっていた部屋に響く。
命の恩人を危険な目に遭わせてしまい、自分のふがいなさが情けなかった。今夜は眠らないで、一晩中見張りをしようとそう思っていた。
眠っている青年の断続的な呼吸音を聞きながら、辺りを警戒していた、そのときだった。
突然、部屋に黒いもやが現れて、そこから一人の男が姿を現した。
その男は、この王国の王と呼ばれている人間だった。少年は驚いて慌てて立ち上がった。
「へ、陛下……? どうしてここに……?」
「おや、いたんですか」
王は冷たい声と視線を、少年に向ける。まるで、汚物を見るかのような、酷く冷たい視線だった。
「出ていってくださいますか?」
「え? い、いやです……」
何となく危険を感じて、少年は逆らってはいけない存在の王に向かって、思わず首を振っていた。
その行為に、王はさらに不機嫌そうに眉根を寄せる。
「……聞こえなかったのですか? 早く出て行けと言っているんです」
「こ、ここは僕が見張りをしますから……っ! もう遅いですし今日は、お戻りくだ――」
そこで、少年の言葉はとぎれ、姿は消えた。
王が自身の能力で、少年を強制移動させたのだ。本来なら殺したいほど、少年を疎ましく思っていたが、眠っている目の前の青年に殺さないでほしいと釘を刺されていたため、それは出来なかった。
王は、青年に近づく。
ベッド近くの床に膝をつけて、眠る青年の頬に、手を触れた。動かない右手を持ち、手の甲にそっとくちづけを落とす。
青年は深い眠りについており、動かなかった。
「……ゴフェル。お願いです。早く、思い出してください」
王は、小さな声で祈るように、そう呟いた。
夜が、明けていく。
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