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2章 王宮
27.僕はなにもしてないよ
しおりを挟む「そうだ! なぁ、リオ。よかったら俺と、召喚契約してくれないかな?」
にっこり笑ってそう言うと、リオは勢いよく顔を上げた。
泣いていたせいで、綺麗な緑色の瞳が涙でぐちゃぐちゃだ。リオは、はっとした表情をして慌てて袖で涙をぬぐった。
「しょ、召喚契約って、何ですか……?」
「あ、そっか。リオは知らないよな。俺、移動能力者なんだ。俺のレベルだと三人まで契約できて、契約した人が離れたところにいても、呼び出すことができるようになるんだ。いわゆる召喚ってやつ。どうかな? 嫌だったら断ってくれていいよ」
「こ、断るなんてとんでもないですっ! 僕でよかったら喜んでっ! どうしたらいいですか!?」
勢いこんでリオは言った。
無理矢理契約させるようなことは絶対したくなかったんだけど、その心配はなさそうで安心する。
でもなぁ、契約するのに同意と……キスが必要なんだよな。同意は今もらったから大丈夫なんだけど、キスは……こんな若い子にいきなりしたらさすがにまずいよな……。ここが元の世界だったら捕まってしまう。
「じ、実はさ……召喚契約するのにキスが必要なんだ……。だから嫌だったらマジで断ってくれていいんだけど……」
おずおずとそう切り出すと、リオはきょとん、として。
それからみるみる顔を真っ赤した。
「ぼ、ぼぼ、僕とスズさまが、ですか!?」
「そ、そう……嫌だよな、俺みたいな男に触れられるの」
「と、とと、とんでもありません! よ、よ、よろ、よろしくお願いします!」
リオは真っ赤な顔のまま、目を閉じた。
……これは嫌がられてはいないよな?
そう思い、目の前の頬にそっと触れる。触れた途端、リオは見て分かるぐらい大きく跳ね上がった。
なんだかこっちまで恥ずかしくなってきて顔が熱くなる。
さっさと終わらせてあげよう、と震えるくちびるに触れるだけのキスをした。それからすぐに離して、にっこりと笑ってやる。
「はい終わり。これで契約完了したよ。困ったときは呼び出すかもしれないけど、拒否できるみたいだから都合が悪かったり嫌なときは、応じてくれなくていいから」
「ななな何を差し置いても絶対に行きますっ!」
首を横にぶんぶんと振りながら、リオは言った。
……何か、すげー懐かれてる気がするな。モーガン様はリオが裏切った場合のことを心配していたけど、絶対にないと思う。もしリオに裏切られたら人間不信になるわ。
とにかくこれで、王宮側の要求は全てのんだ! 軟禁生活も今日で終わりだ!
「モーガン様。リオが俺の部下になったんだし、これで俺は部屋から出てもいいんですよね?」
たずねると、モーガン様はしぶしぶといった表情で、うなずいた。
「……まぁ、陛下がいいと言ったのだから許可する。でも十分に気を付けてほしい。あと外出時には必ずリオ、もしくは騎士を一人連れていくように」
「やったー! 了解しました! じゃあさっそくどっか行こうか、リオ」
「えっ、今からですか?」
驚いたリオに、大きくうなずいた。
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「もちろん王宮の制服がある。ついでに、身だしなみを整えてもらいなさい」
その言葉にリオは不安そうに俺の方を振り返る。
俺は笑ってうなずいた。
「待ってるから、行ってきな」
「は、はい……! じゃあお願いします!」
リオは、見張りの兵士に連れられて部屋を出て行く。
俺はリオを安心させるように笑顔で手を振った。
あーかわいいな。なんか弟みたいっていうか。守ってあげたくなるな。いや守ってもらうの俺なんですけどね。
「……俺もここで失礼するよ。スズちゃん、必ずリオが戻ってきてから外に出てくれ。もし破ったら、分かってるね?」
モーガン様が念を押すようにそう言ったので、うなずいた。
「分かってます。絶対に一人で行動しませんから大丈夫です」
「……エルマー。念のためリオが戻ってくるまで、スズちゃんを監視していてくれないか」
「へーへー」
エルマー様は机に肘をついて、モーガン様を追い出すように手を払った。
モーガン様や、リリア様、もう一人の女性騎士の方は部屋を出ていく。
それからすぐに、今までずっと机にもたれて寝ていたカノン様が、突然むくりと起き上がった。
「――あえ? もしかして、もう面接終わったー?」
そう言って、カノン様はキョロキョロと周りを見回しはじめる。
俺と目が合うとへらっと笑って、トコトコと近づいてきた。
「ねーねー、スズ!」
「は、はい。なんですか?」
ニコニコと邪気のない笑みを浮かべながら、カノン様は制服のポケットをごそごそと探りはじめる。
「スズにこれあげるー。8号クンだよ!」
「8号くん……?」
そう言って手渡されたのは、緑色の身体に黄色いくちばしの、手乗りサイズの文鳥だった。
文鳥はすぐに俺の手に飛び乗って、指をがじがじと甘噛みしてくる。
「連絡手段として使うといいよ! スズの移動能力の亜空間内に入れといていいけど、一日一回は出してあげてね。そしたら勝手にゴハン食べて戻ってくるからー!」
「え、え、ちょっと!」
「じゃあねー! ふわぁ、ぼく戻って寝るー! おやすみー!」
カノン様はひらひらと手を振って、部屋を出ていってしまった。
……え、説明これだけ?
そばで様子を見ていたエルマー様が文鳥を見て、ああ、と声を出した。
「……その鳥なら王宮への連絡用だぞ。カノンが何匹も飼ってて、いろんな奴らに配ってんだ。俺はいらねーからもらってないけどな。何か起きたときに、鳥にメモでも付けて離せばいいだけだ」
「離したら、どうなるんですか?」
「内容によっては、王宮から救援が来るんだよ」
「へぇ、なるほど」
感心してしまった。
通信手段がないこの世界で、王宮は鳥を連絡手段に使っているらしい。
でも能力世界なのにずいぶん原始的だなぁ。もっとこう、レベルの高いテレパシー能力を持ってる人が何とかしてくれてる、みたいなのないんだろうか。
「……てかお前、これ以上ペット増やしてどうすんだよ。でかいわんこが増えたばっかだってのに」
エルマー様は、文鳥とバロンを交互に見てそう言う。すると、俺の肩に乗っていたバロンが、眉をひそめた。
「……おいクソ人間。まさかとは思うけど、ペットってぼくも含まれてるんじゃないだろうな?」
「お前を入れなくて誰を入れるんだよ……」
「ぼ、ぼくがペットッ!? 神聖な存在であるこのぼくを!? このやろーっ!」
衝動的に飛びかかったバロンを、エルマー様がひょいと避ける。
そのまま派手な音をたてて椅子に突っ込んだので、慌てて拾いにいった。頼むから大人しくしててほしい。
「……ってか、さっき怪しかったよな、あいつ」
エルマー様が呟くようにそう言ったので、俺は首をかしげた。
「ん? 怪しいって、誰がですか?」
「……モーガンだよ。何かよそよそしいっていうか。スズ、気をつけろよ。ありゃ何企んでるか分かんねーぞ」
「えー大丈夫ですよ、リオがいますし。っていうか王宮側が何か企んでいるなら、エルマー様が知らないのはおかしくないですか? 同じ騎士なのに」
「あー俺、ゴリゴリの新参だから。まだ三年目。だからヤバい話は全く聞かされねーんだよ。まぁどうでもいいけど。お互い様だし」
どうでもいい、と言いながらエルマー様はちょっと不機嫌そうだ。
「スズっ! ぼくがいるから大丈夫だよ~! 今度こそ、ぼくが守ってあげるからねっ!」
「うん、バロンも頼りにしてるよ」
そう言って、バロンを撫でてやる。
あざといのは分かってるんだけど、このモフモフの魅力には勝てないんだよな……。
「あ、そういえば……」
ふと思い出して、バロンを持ち上げて視線を合わせる。
「ん? どうしたの、スズ」
「バロン。この世界にあるダンジョンってさ、今どうなってるんだ?」
軽い気持ちでたずねた。
アレウスとエルマー様が、ここ数百年ぐらい、ダンジョンに入った人が戻って来ないって言ってたから、バロンなら何か知ってるかなって思ったんだ。
バロンは首をかしげた。
「ん-? どういう意味?」
「エルマー様とアレウスがさ、この世界に存在するダンジョンに入った人が、ここ数百年間ぐらい、全く戻ってこなくなったって言ってたんだ。本来なら、失敗しても記憶を消されてどこかに戻るんじゃないのか?」
「ああ、そのことねー!」
「何か知ってるの?」
「もちろん、知ってるよ! だってぼく、ダンジョンの管理者だもん!」
何でもないことのように言われる。
けれど、バロンはその先の言葉、原因を言わなかった。
エルマー様と顔を見合わせる。もう一度バロンを見た。
「……え、知ってるんだろ? 何が起きてるか教えてくれよ」
「スズ、それはね。残念だけど、ぼくの口からは、教えてあげられないよ」
バロンはきっぱりとそう言った。さらに言葉を続ける。
「基本的にぼくは、世界に対して大きな干渉はできないんだ。特にこの問題は、教えたところでこの世界を混乱させるだけだからね。どうしても知りたいっていうなら、それはスズが責任を持って、自分自身で解き明かすべきだよ!」
めずらしく神妙な口調だった。
……何だよ、難しい言い方して。知ってるなら、教えてくれたっていいのに!
「そんなこと言って、どうせバロンが何か悪いことしてるんだろー?」
「ぼくは何もしていないよ」
茶化すように言うと、バロンはすぐに答えた。
いつもと違う様子にとまどってしまう。
「本当にぼくは何もしていないんだ。スズ、ぼくを信じてくれる?」
「……そんな真剣になるなよ。本気でバロンを疑ってるわけじゃないって」
そう言うとやっとバロンは、にぱっと笑った。
「よかったー! ぼく、スズのこと好きだからさ、嫌われたくないんだよね!」
そう言ったバロンに、エルマー様が鼻で笑った。
「けっ、知ってるふりして何もしらねーだけだろ」
「なんだと、このクソ人間ッ!」
いつもの調子で二人が喧嘩をはじめたので、ちょっとほっとする。
うーん。漠然とだけど、この問題は簡単に踏み込んじゃいけない気がするなぁ。
そもそも数百年も前のことなんて、今と関係ないことだし、あんまり追及するのはやめよう。
そう思った。
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