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婚約破棄されて意識を失った気弱な令嬢の体に憑依してしまったから、やり返してやろう
前編
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私はこの王宮に住み着いている悪霊。
私が悪霊になった理由は、非業の死を遂げたから。
百年と少し前、一夫多妻制だったこの国の国王の妃の一人だった。
美しかった私は、老境の国王の寵愛を受けて、好き放題していた。
噂話に策謀、毒を使って他の妃を排除するのは、日常茶飯事だったし、他の妃もしていた。
それを差し引いても好き勝手していた自覚はある。
ある日、私と仲が悪く、私に負けて後宮を追い出されることになった妃が、最後に怒り狂って私を突き飛ばした。
打ち所が悪かった私は、そのまま死亡。
そのせいなのか、当初は死んだ自覚がなくて、気付いたら霊になっていた。
自分の姿が誰にも見えていないことに気付き、他の妃の館や召使いたちの噂を聞いて、自分が追い出した女に殺されたことを知った。
私を突き飛ばして殺した女を、私自身が呪い殺していたら、満ち足りて天に昇って……は無理だろうけど、地獄には行っていたと思うのだけど、私を殺した女はすぐに処刑されてしまった。
妃の身分を失った者が、妃を殺害したのだから、極刑になって当然。
それらを知った時、どうして自分はもっと早くに意識を取り戻し、自分を殺した憎い相手を殺せなかったのかと、人生で一番悔やんだ。
その後は、生前嫌いだった妃たちを、ちくちくと攻撃したり、気にくわなかった召使いを驚かせたりして、退屈を紛らわせながら過ごしていた。
百年経たないうちに、生前関わりがあった人間は全員いなくなった。私のように、恨みを残して王宮に居着くやつはいなかった。
あんた達、意外と人生に満足してたんだ。
一人気ままに王宮を漂って噂話を聞き、その噂の中で腹が立った相手に、生前とは比べ物にならないくらい軽い悪戯をしながら、気楽に過ごしていた。
そんなある日、私を殺した女の一族の子孫が、
「お前のような性悪な女と、これ以上はやっていけない!婚約を破棄する!」
王宮で行われる、新年を祝うパーティーで、いきなりそんなことを叫びだした。
あの女の一族は、私を殺害した罪で、五十年ほど王宮に立ち入り禁止になっていたけれど、様々な恩赦によって出入りができるようになった。
(馬鹿なんじゃないの?あの女より馬鹿じゃない)
王族主催の新年のパーティーで、一貴族の息子がそんなことを言い出すなんて、長いこと王宮を漂っている私でも初めてのこと。
そして、あの女の子孫に婚約破棄を言い渡された、おどおどとした冴えない小娘が気を失った。
(あの娘が婚約破棄された、あのくらいで気を失うと……)
あの程度で気を失うとか、貴族令嬢としてどうなの?と思っていたら、いきなり視界がぐるりと回って、さっきまで見下ろしていた、あの女の子孫の息子が目の前にいた。
「なにか言ったらどうだ!」
(あれ?体が)
小動物を思わせる、くりりとした瞳が特徴の女の腰を抱きながら。
(ちょっと!目を覚ましなさい!)
長いこと悪霊をしている私だけれど、人体に入り込んだことはない。体から出ようとしているけれども、出られない。
きっとこの体の持ち主が、意識を取り戻していないからだ。
「お前のような女が居て良い場所ではない!早急に立ち去れ!」
無視をしていると、婚約破棄してきた馬鹿息子が手を伸ばしてきた。
「汚らわしい!」
その手を扇で弾く。
「お前!」
あの女や、その近親者には復讐できなかったけれど、子孫がかかってくるというのなら、やり返してやるわ!
「叫ばないで下さらない。汚らしい声で耳が穢れるわ」
「なっ!」
「黙りなさい。このパーティーは国王陛下主催の、王国でもっとも権威のあるパーティーよ。貴方のような者が、私的な下らない宣言をするために使用していいものじゃない。そんなことも分からないの?」
あの女の子孫は、言い返されたことに驚いていた。
この娘の記憶をざっと見てみたけど、この男の言いなりだったみたいね。
どんな理不尽なことを言われても、涙を堪えて我慢するような。
「王宮への出入り禁止をくらう一族って、百数十年経っても変わらないのね」
「なんのことだ!名誉毀損だぞ!」
「国王陛下主催のパーティーで、こんな騒ぎを起こして、実家の名誉を地に落としているヤツに言われたくないわ。それと貴方のご実家、かつて妃の一人を殺害して、王宮出入り禁止になってたこと、知らないのぉ?」
気に触るように語尾を上げて。
この娘は、こういう喋り方したことはないみたいだし、あの女の子孫もされたことはないみたい。腕に抱かれているお目々が可愛いだけの女は、私の危険さにいち早く気付いたようだ。
そうね、男を手玉にとるタイプの女って、私みたいな危険な女に対して敏感じゃないとね?
でも、もう遅いから。
私が悪霊になった理由は、非業の死を遂げたから。
百年と少し前、一夫多妻制だったこの国の国王の妃の一人だった。
美しかった私は、老境の国王の寵愛を受けて、好き放題していた。
噂話に策謀、毒を使って他の妃を排除するのは、日常茶飯事だったし、他の妃もしていた。
それを差し引いても好き勝手していた自覚はある。
ある日、私と仲が悪く、私に負けて後宮を追い出されることになった妃が、最後に怒り狂って私を突き飛ばした。
打ち所が悪かった私は、そのまま死亡。
そのせいなのか、当初は死んだ自覚がなくて、気付いたら霊になっていた。
自分の姿が誰にも見えていないことに気付き、他の妃の館や召使いたちの噂を聞いて、自分が追い出した女に殺されたことを知った。
私を突き飛ばして殺した女を、私自身が呪い殺していたら、満ち足りて天に昇って……は無理だろうけど、地獄には行っていたと思うのだけど、私を殺した女はすぐに処刑されてしまった。
妃の身分を失った者が、妃を殺害したのだから、極刑になって当然。
それらを知った時、どうして自分はもっと早くに意識を取り戻し、自分を殺した憎い相手を殺せなかったのかと、人生で一番悔やんだ。
その後は、生前嫌いだった妃たちを、ちくちくと攻撃したり、気にくわなかった召使いを驚かせたりして、退屈を紛らわせながら過ごしていた。
百年経たないうちに、生前関わりがあった人間は全員いなくなった。私のように、恨みを残して王宮に居着くやつはいなかった。
あんた達、意外と人生に満足してたんだ。
一人気ままに王宮を漂って噂話を聞き、その噂の中で腹が立った相手に、生前とは比べ物にならないくらい軽い悪戯をしながら、気楽に過ごしていた。
そんなある日、私を殺した女の一族の子孫が、
「お前のような性悪な女と、これ以上はやっていけない!婚約を破棄する!」
王宮で行われる、新年を祝うパーティーで、いきなりそんなことを叫びだした。
あの女の一族は、私を殺害した罪で、五十年ほど王宮に立ち入り禁止になっていたけれど、様々な恩赦によって出入りができるようになった。
(馬鹿なんじゃないの?あの女より馬鹿じゃない)
王族主催の新年のパーティーで、一貴族の息子がそんなことを言い出すなんて、長いこと王宮を漂っている私でも初めてのこと。
そして、あの女の子孫に婚約破棄を言い渡された、おどおどとした冴えない小娘が気を失った。
(あの娘が婚約破棄された、あのくらいで気を失うと……)
あの程度で気を失うとか、貴族令嬢としてどうなの?と思っていたら、いきなり視界がぐるりと回って、さっきまで見下ろしていた、あの女の子孫の息子が目の前にいた。
「なにか言ったらどうだ!」
(あれ?体が)
小動物を思わせる、くりりとした瞳が特徴の女の腰を抱きながら。
(ちょっと!目を覚ましなさい!)
長いこと悪霊をしている私だけれど、人体に入り込んだことはない。体から出ようとしているけれども、出られない。
きっとこの体の持ち主が、意識を取り戻していないからだ。
「お前のような女が居て良い場所ではない!早急に立ち去れ!」
無視をしていると、婚約破棄してきた馬鹿息子が手を伸ばしてきた。
「汚らわしい!」
その手を扇で弾く。
「お前!」
あの女や、その近親者には復讐できなかったけれど、子孫がかかってくるというのなら、やり返してやるわ!
「叫ばないで下さらない。汚らしい声で耳が穢れるわ」
「なっ!」
「黙りなさい。このパーティーは国王陛下主催の、王国でもっとも権威のあるパーティーよ。貴方のような者が、私的な下らない宣言をするために使用していいものじゃない。そんなことも分からないの?」
あの女の子孫は、言い返されたことに驚いていた。
この娘の記憶をざっと見てみたけど、この男の言いなりだったみたいね。
どんな理不尽なことを言われても、涙を堪えて我慢するような。
「王宮への出入り禁止をくらう一族って、百数十年経っても変わらないのね」
「なんのことだ!名誉毀損だぞ!」
「国王陛下主催のパーティーで、こんな騒ぎを起こして、実家の名誉を地に落としているヤツに言われたくないわ。それと貴方のご実家、かつて妃の一人を殺害して、王宮出入り禁止になってたこと、知らないのぉ?」
気に触るように語尾を上げて。
この娘は、こういう喋り方したことはないみたいだし、あの女の子孫もされたことはないみたい。腕に抱かれているお目々が可愛いだけの女は、私の危険さにいち早く気付いたようだ。
そうね、男を手玉にとるタイプの女って、私みたいな危険な女に対して敏感じゃないとね?
でも、もう遅いから。
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