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聖女が死ぬその時まで
聖女が死ぬその時まで
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「ラナこそが真の聖女なのです!(これで邪魔なルシールを排除できる!ははっ!お前の味方はここにはいないんだよ)」
ルシールの婚約者ローレンス王太子は、ラナという少女の肩に手をおき、抱き寄せた。
「……(雑魚は徒党を組むのが好きだからな)」
ルシールはこの国の聖女であり、貴族の娘なので、幼い頃にローレンスの婚約者になった。
「たしかに……(ルシールの聖女としての能力は、ぱっとしないからな。それならば、大富豪の隠し子を迎え入れたほうが、国の利になる)」
ローレンスが提出した「ルシールは偽聖女で、ラナが本物である」という書類に目を通したローレンスの父でもある国王が呟いた。
「……(ぱっとしねえのは、テメエの息子だがなあ。ああ、親譲りか。両親ともども、雑魚で屑だもんな。そりゃあ、雑魚屑のサラブレットが生まれて当然か。けっ!臭え茶番はいいから、さっさと話進めろや、ジジイ)」
ルシールは「豊穣の聖女」と名乗っているが、真の権能は「全ての真実を知ることが赦されたもの」
もちろん豊穣の能力も所有している。それは真の権能には及ばないが、国王にぱっとしないと嘲られるようなものではない。
「ルシール!なぜ嘘をついたの!(ほんと、気味の悪い。自分が産んだ娘だなんて、思いたくない。さっさと目の前からいなくなって欲しいわ!)」
室内には王太子のローレンスと、ラナという可愛らしい庶民、そして国王夫妻にルシールの両親と兄がいた。
「……(こっちだって生母が選べるなら、テメエなんざ選ばねえよ!)」
ルシールは内心で悪態をつきながら「お遊戯会:タイトル・ルシール追放」を眺めていた。
このお遊戯会にルシールの実家が協力しているのは、王太子の婚約者として、様々な特権を有しているルシールが、まったく実家に配慮しないことに、両親は「恩知らずな娘だ」と腹を立てていた。
そこに大富豪が「愛人が産んだ娘だが、よく弁えている」と話を持ちかけた。
話に乗ったルシールの両親は、新たな聖女のいなるラナを養女として引き取り、貴族籍を与えることを約束し、大富豪は既に金を支払った。
ラナの貴族籍は、ローレンスの妃にするため。ルシールの実家としては、家から王太子妃を出せれば良いのだから、ルシールでもラナでもどちらでもよい。なので便宜を払ってくれるラナを選ぶような家だった。
ルシールはお願いした覚えもなければ、そんな神託を下したと神から聞いた覚えもない。勝手に婚約者にして「婚約者にしてやったんだ!さあ、便宜を払え!」と言われも……だった。
「ルシール!なにか言うことはないのか!」
ルシール以外の者たちが、自分に都合がよくなるように……考えた結果、ラナを真の聖女にして、ルシールを追放することにした。
(追放したと宣言して、地下に閉じ込めて、聖女の仕事をさせるとか!屑だ屑だと思っていたが、屑だなあ!)
ただ彼らも馬鹿ではない。いや、掛け値無しの馬鹿なのだが、真の聖女を本気で追放する気はなかった。
ルシールが心を読んだように、国から出すつもりはなかった。
(ぱっとしなくても、豊穣だからな。それにしても)
「聖女を騙った罪は重い!(驚いて声もでないようだな。ふん、地下牢に押し込んで食事を与えず飢えさせてから、食料と引き替えに体を開くのもいいな。聖女としておたかくとまっている女が、私に媚びを売る姿を早くみたいものだ!)衛兵、地下牢へ連れていけ!」
ローレンスの下品な思考を読んだルシールだが、特に表情は変わらなかった。なぜなら、ローレンスはいつも「こう」なので。
そして衛兵に連れられ、地下牢に連れて行かれる……
「大人しくするわけ、ないだろう?」
「なっ!」
「ぎやっ!腕が!」
ローレンス達はルシールがこんな力を持っているとは知らなかった。真の権能とは違い、隠していたつもりはないが、聖女として生きてきたら、特に使うことはないので言いもしなかった。
ようなルシールではなく、衛兵たちの手足を切って体を天井に叩きつけて潰し、悠々と城から出た。その時、周りが虹色の光に包まれ、
「ここ……どこだよ……」
輝きが収まると、そこは森の中だった。
そして視線の先には粗末な小屋。そこから人の気配がした。
「さて、では勇者を育てますか」
この世界においてのルシールの役割は、魔王を倒す勇者を育てること。
(そろそろ魔族が攻め込んでくるころだったな。興味がなさすぎて、忘れてた)
ルシールはこの世界が魔族に蹂躙され、勇者が育つ十七年間の間、人間たちは絶望する未来を知っていたが、この世界にはまだ魔族が確認されていなかったので「魔族が来る」などと告げたところで、信じてもらえるはずもなく、
「こうなるのは知ってたけどさ」
小屋にあった水晶玉で、故国を覗いてみたところ、ローレンスたちの居城が陥落寸前だった。
『私は王太子だぞ!お前が盾になれ!(死にたくない!死にたくない!死にたくない!)』
『いや!ぎやああああ!(死にたくなっ!あつい!いだい!ぐるじいぃぃ……たすけて、せいじょ……)』
ルシールに虐められたと証言し「聖女は虐めなどしない」と教会関係者に親の金を握らせて、体まで差し出して王太子妃になろうとしたラナは、ローレンスに突き飛ばされ、魔物に串刺しにされた。
「相変わらず屑で、清々しいなローレンス」
『どけ王妃!王の私がなによりも、優先される!(死にたくない!死にたくない!こんなところで死にたくない!)』
王妃を蹴り倒し、王は隠し通路に飛び込み、すぐにドアを閉めた。
『開けて!開けて!あけろおぉぉ!(死にたくない、死にたくない、助けてルシール!虐めてご免なさい!赦して!いやああ…………死ねえ!王!)』
置いていかれた王妃は、魔物の足音に絶叫し爪が全部剥がれるまで、壁をひっかき続け、到着した魔物に殺害された。
『この先に、なにかあるよう……ん?どこかから見ているような』
「おや、気付かれたか。ということは、あの耳が尖った魔物が将軍で、私を殺しにくるのか。ふーん、なるほど」
ルシールは水晶玉を覗くのをやめて、幼い勇者が食べる離乳食を作るために竈へと向かった。
ルシールの婚約者ローレンス王太子は、ラナという少女の肩に手をおき、抱き寄せた。
「……(雑魚は徒党を組むのが好きだからな)」
ルシールはこの国の聖女であり、貴族の娘なので、幼い頃にローレンスの婚約者になった。
「たしかに……(ルシールの聖女としての能力は、ぱっとしないからな。それならば、大富豪の隠し子を迎え入れたほうが、国の利になる)」
ローレンスが提出した「ルシールは偽聖女で、ラナが本物である」という書類に目を通したローレンスの父でもある国王が呟いた。
「……(ぱっとしねえのは、テメエの息子だがなあ。ああ、親譲りか。両親ともども、雑魚で屑だもんな。そりゃあ、雑魚屑のサラブレットが生まれて当然か。けっ!臭え茶番はいいから、さっさと話進めろや、ジジイ)」
ルシールは「豊穣の聖女」と名乗っているが、真の権能は「全ての真実を知ることが赦されたもの」
もちろん豊穣の能力も所有している。それは真の権能には及ばないが、国王にぱっとしないと嘲られるようなものではない。
「ルシール!なぜ嘘をついたの!(ほんと、気味の悪い。自分が産んだ娘だなんて、思いたくない。さっさと目の前からいなくなって欲しいわ!)」
室内には王太子のローレンスと、ラナという可愛らしい庶民、そして国王夫妻にルシールの両親と兄がいた。
「……(こっちだって生母が選べるなら、テメエなんざ選ばねえよ!)」
ルシールは内心で悪態をつきながら「お遊戯会:タイトル・ルシール追放」を眺めていた。
このお遊戯会にルシールの実家が協力しているのは、王太子の婚約者として、様々な特権を有しているルシールが、まったく実家に配慮しないことに、両親は「恩知らずな娘だ」と腹を立てていた。
そこに大富豪が「愛人が産んだ娘だが、よく弁えている」と話を持ちかけた。
話に乗ったルシールの両親は、新たな聖女のいなるラナを養女として引き取り、貴族籍を与えることを約束し、大富豪は既に金を支払った。
ラナの貴族籍は、ローレンスの妃にするため。ルシールの実家としては、家から王太子妃を出せれば良いのだから、ルシールでもラナでもどちらでもよい。なので便宜を払ってくれるラナを選ぶような家だった。
ルシールはお願いした覚えもなければ、そんな神託を下したと神から聞いた覚えもない。勝手に婚約者にして「婚約者にしてやったんだ!さあ、便宜を払え!」と言われも……だった。
「ルシール!なにか言うことはないのか!」
ルシール以外の者たちが、自分に都合がよくなるように……考えた結果、ラナを真の聖女にして、ルシールを追放することにした。
(追放したと宣言して、地下に閉じ込めて、聖女の仕事をさせるとか!屑だ屑だと思っていたが、屑だなあ!)
ただ彼らも馬鹿ではない。いや、掛け値無しの馬鹿なのだが、真の聖女を本気で追放する気はなかった。
ルシールが心を読んだように、国から出すつもりはなかった。
(ぱっとしなくても、豊穣だからな。それにしても)
「聖女を騙った罪は重い!(驚いて声もでないようだな。ふん、地下牢に押し込んで食事を与えず飢えさせてから、食料と引き替えに体を開くのもいいな。聖女としておたかくとまっている女が、私に媚びを売る姿を早くみたいものだ!)衛兵、地下牢へ連れていけ!」
ローレンスの下品な思考を読んだルシールだが、特に表情は変わらなかった。なぜなら、ローレンスはいつも「こう」なので。
そして衛兵に連れられ、地下牢に連れて行かれる……
「大人しくするわけ、ないだろう?」
「なっ!」
「ぎやっ!腕が!」
ローレンス達はルシールがこんな力を持っているとは知らなかった。真の権能とは違い、隠していたつもりはないが、聖女として生きてきたら、特に使うことはないので言いもしなかった。
ようなルシールではなく、衛兵たちの手足を切って体を天井に叩きつけて潰し、悠々と城から出た。その時、周りが虹色の光に包まれ、
「ここ……どこだよ……」
輝きが収まると、そこは森の中だった。
そして視線の先には粗末な小屋。そこから人の気配がした。
「さて、では勇者を育てますか」
この世界においてのルシールの役割は、魔王を倒す勇者を育てること。
(そろそろ魔族が攻め込んでくるころだったな。興味がなさすぎて、忘れてた)
ルシールはこの世界が魔族に蹂躙され、勇者が育つ十七年間の間、人間たちは絶望する未来を知っていたが、この世界にはまだ魔族が確認されていなかったので「魔族が来る」などと告げたところで、信じてもらえるはずもなく、
「こうなるのは知ってたけどさ」
小屋にあった水晶玉で、故国を覗いてみたところ、ローレンスたちの居城が陥落寸前だった。
『私は王太子だぞ!お前が盾になれ!(死にたくない!死にたくない!死にたくない!)』
『いや!ぎやああああ!(死にたくなっ!あつい!いだい!ぐるじいぃぃ……たすけて、せいじょ……)』
ルシールに虐められたと証言し「聖女は虐めなどしない」と教会関係者に親の金を握らせて、体まで差し出して王太子妃になろうとしたラナは、ローレンスに突き飛ばされ、魔物に串刺しにされた。
「相変わらず屑で、清々しいなローレンス」
『どけ王妃!王の私がなによりも、優先される!(死にたくない!死にたくない!こんなところで死にたくない!)』
王妃を蹴り倒し、王は隠し通路に飛び込み、すぐにドアを閉めた。
『開けて!開けて!あけろおぉぉ!(死にたくない、死にたくない、助けてルシール!虐めてご免なさい!赦して!いやああ…………死ねえ!王!)』
置いていかれた王妃は、魔物の足音に絶叫し爪が全部剥がれるまで、壁をひっかき続け、到着した魔物に殺害された。
『この先に、なにかあるよう……ん?どこかから見ているような』
「おや、気付かれたか。ということは、あの耳が尖った魔物が将軍で、私を殺しにくるのか。ふーん、なるほど」
ルシールは水晶玉を覗くのをやめて、幼い勇者が食べる離乳食を作るために竈へと向かった。
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