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灰かぶり、遺産を放置する
それから十数年後、それから数年後
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灰かぶりは、その後もずっと薬草屋で働いていた。
そしてあの謎の靴を履いた時から、十数年が経った頃、
「見つかった?」
一仕事を終えて、ハーブティーを淹れ、クッキーを用意し休憩するときに、朝に届いた新聞を開いた。
そこには、灰かぶりが見つかったという記事が大々的に掲載されていた。
「…………」
自分はここにいるのに?と思いながら、新聞を読み進めると、見つかったのは「灰かぶりの子」らしかった。
「…………」
もちろん灰かぶりは独身。子どもを産んだ覚えはない。
――――――
灰かぶりの調査は、出所不明な靴を持った調査の後もずっと続いていた。
灰かぶりの逃走を幇助する形になってしまった王家側も、調査費用の一部を持った。王家もこれ程長い間、灰かぶりが見つからないなどとは思ってもいなかった。
そして修道院に押し込んだ息子を恨んだ。
王家に恨まれている離宮の元王子は、その後もずっと灰かぶりの調査に駆り出されていた。
もちろん恋人も。
じつは二人とも、もう灰かぶりの顔はほとんど覚えていなかった。いくらこの二人が顔を認識できるとはいっても、顔を合わせていた期間はごく僅か。
離宮の元王子にいたっては、夜会の時に少しダンスを踊っただけ。その時ですら「上手くいけば、恋人と関係を続けられる」という考えが、思考のほとんどを占めていたので、容姿をはっきりと見ていなかった。
そのことから、ただ一つ言えることは、灰かぶりは人々の記憶に残るような容貌の女性ではないということ。
顔を覚えることが出来る者たちならば「一度しか見ていないのだから、数年も経てば忘れる」と解るのだが、灰かぶりの一族は、人の顔を覚えることができないので、彼らの記憶が薄れているということにも気付かなかった。
離宮の元王子と恋人は、再会を希望に、各地だけではなく、各国を旅させられ、ついに恋人が力尽きた。
その死体は埋葬されることなく、うち捨てられた。そして離宮の元王子に、そのことは伝えられなかった。
下手に知らせて、やる気を失うと困るからだ。
そんなある日、離宮の元王子は、とある少女を指差し叫んだ。
「あの娘だ!」
そこに居たのは、その当時の灰かぶり……よりも、かなり幼い少女だった。
少女は孤児で、両親は不明。
捨てられた年から考えると、灰かぶりの子でもおかしくはなかった。
そして彼らは孤児院にいた灰かぶりの子と思われる少女を、連れ帰ることにした。その際に、孤児院を焼き払った。
「助けてくれ!」
孤児院にいた子どもたちは、彼らが引き取った。
灰かぶりの子の顔を認識できるからだ。孤児院の管理者も同じ理由で使用人として雇ったが、離宮の元王子はもう必要なかった。
コイツのせいで、当主が決まらなかったのだという恨みを込めて、離宮の元王子を孤児院の柱に括り付け、生きたまま焼き殺した。
離宮の元王子に「恋人は死んでいる」と教えてやれば、あの世で再会できるから……と少しは苦しまずに済んだのだが、彼らはそんなに優しくはなかった。
「お前が死んだら、次はあの女だ。お前ほど楽に死なせてはやらんよ」
離宮の元王子を苦しめるために、そのように言い残し、離宮の元王子は苦しみぬいて黒こげになった。
そして灰かぶりの子は、灰かぶりと同じように監禁された。今回は前回とは比較できないほど厳重に。
――――――
灰かぶりは「灰かぶりの子」が貧しい孤児院出身で、孤児院の子たちも含めて、一族に引き取られたと知り、
「…………」
少し悩んだが、そのままにすることにした。
(この新聞に書かれている子が、あの一族の血を引いているかどうかは知らないけど、私はあの一族の血は引いていない……気がするんだよね)
灰かぶりは連れていかれた「灰かぶりの子」が、自分とは違い、喜んで一族の遺産を受け継ぐタイプだといいなと思いながら、新聞を閉じて、椅子に座ったまま背伸びをした。
それから数年後、灰かぶりの子は逃げ出した
そしてあの謎の靴を履いた時から、十数年が経った頃、
「見つかった?」
一仕事を終えて、ハーブティーを淹れ、クッキーを用意し休憩するときに、朝に届いた新聞を開いた。
そこには、灰かぶりが見つかったという記事が大々的に掲載されていた。
「…………」
自分はここにいるのに?と思いながら、新聞を読み進めると、見つかったのは「灰かぶりの子」らしかった。
「…………」
もちろん灰かぶりは独身。子どもを産んだ覚えはない。
――――――
灰かぶりの調査は、出所不明な靴を持った調査の後もずっと続いていた。
灰かぶりの逃走を幇助する形になってしまった王家側も、調査費用の一部を持った。王家もこれ程長い間、灰かぶりが見つからないなどとは思ってもいなかった。
そして修道院に押し込んだ息子を恨んだ。
王家に恨まれている離宮の元王子は、その後もずっと灰かぶりの調査に駆り出されていた。
もちろん恋人も。
じつは二人とも、もう灰かぶりの顔はほとんど覚えていなかった。いくらこの二人が顔を認識できるとはいっても、顔を合わせていた期間はごく僅か。
離宮の元王子にいたっては、夜会の時に少しダンスを踊っただけ。その時ですら「上手くいけば、恋人と関係を続けられる」という考えが、思考のほとんどを占めていたので、容姿をはっきりと見ていなかった。
そのことから、ただ一つ言えることは、灰かぶりは人々の記憶に残るような容貌の女性ではないということ。
顔を覚えることが出来る者たちならば「一度しか見ていないのだから、数年も経てば忘れる」と解るのだが、灰かぶりの一族は、人の顔を覚えることができないので、彼らの記憶が薄れているということにも気付かなかった。
離宮の元王子と恋人は、再会を希望に、各地だけではなく、各国を旅させられ、ついに恋人が力尽きた。
その死体は埋葬されることなく、うち捨てられた。そして離宮の元王子に、そのことは伝えられなかった。
下手に知らせて、やる気を失うと困るからだ。
そんなある日、離宮の元王子は、とある少女を指差し叫んだ。
「あの娘だ!」
そこに居たのは、その当時の灰かぶり……よりも、かなり幼い少女だった。
少女は孤児で、両親は不明。
捨てられた年から考えると、灰かぶりの子でもおかしくはなかった。
そして彼らは孤児院にいた灰かぶりの子と思われる少女を、連れ帰ることにした。その際に、孤児院を焼き払った。
「助けてくれ!」
孤児院にいた子どもたちは、彼らが引き取った。
灰かぶりの子の顔を認識できるからだ。孤児院の管理者も同じ理由で使用人として雇ったが、離宮の元王子はもう必要なかった。
コイツのせいで、当主が決まらなかったのだという恨みを込めて、離宮の元王子を孤児院の柱に括り付け、生きたまま焼き殺した。
離宮の元王子に「恋人は死んでいる」と教えてやれば、あの世で再会できるから……と少しは苦しまずに済んだのだが、彼らはそんなに優しくはなかった。
「お前が死んだら、次はあの女だ。お前ほど楽に死なせてはやらんよ」
離宮の元王子を苦しめるために、そのように言い残し、離宮の元王子は苦しみぬいて黒こげになった。
そして灰かぶりの子は、灰かぶりと同じように監禁された。今回は前回とは比較できないほど厳重に。
――――――
灰かぶりは「灰かぶりの子」が貧しい孤児院出身で、孤児院の子たちも含めて、一族に引き取られたと知り、
「…………」
少し悩んだが、そのままにすることにした。
(この新聞に書かれている子が、あの一族の血を引いているかどうかは知らないけど、私はあの一族の血は引いていない……気がするんだよね)
灰かぶりは連れていかれた「灰かぶりの子」が、自分とは違い、喜んで一族の遺産を受け継ぐタイプだといいなと思いながら、新聞を閉じて、椅子に座ったまま背伸びをした。
それから数年後、灰かぶりの子は逃げ出した
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