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灰かぶり、遺産を放置する
灰かぶり、逃げ果せる
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お手洗いにいった帰り、道に迷ってしまったことに気付いた時には、もう周りに人の気配はなかった。
だが立ち止まっていても、どうしようもないので、歩き続けていると、人の声らしきものが聞こえてきた。
”ああ、良かった”
そう思いながらそちらへと歩みを進めると、男女が抱き合っていた。
私は物陰に隠れて、二人をうかがう。男性のほうはこの離宮に住む王子で、先ほどまで私に愛を囁いていた。
「上手くいきそうですね」
「ああ、お前のお陰だ」
抱き合っていた二人は離れ、でも見つめ合っている。その姿はどう見ても恋人同士だ。
「早く戻らないと、不審に思われますよ」
女のほうは、私がいる場所からは顔は見えないが、声には聞き覚えがあった。
王子のお妃選びのパーティーに参加するために必要な、ドレスや馬車を用意してくれた中年女性……あれは化粧だったのかもしれない。
「ああ、解っている。かならず、あの灰かぶり姫と結婚する。だが心は君にしかないことを忘れないでくれ」
「解っています。信じております」
そしてまた二人は抱き合って、濃厚なキスをした。
私はヒールの高い靴を脱ぎ、両手に持って足音を消しながらその場を離れた。
”そいう事ね”
二人からかなり離れたところで靴を履き、そのまま離宮をあとにした。もちろん、王子の恋人が用意した馬車には乗らずに。
私の実家は現在とても混乱している。
実家は由緒ある貴族で裕福。その当主……私の父なのだけれど、既に亡くなっている。
そして私は、亡くなった当主が父だったとは知らなかった。私は使用人として邸で働いていた。
私は母親も知らない。生まれてすぐに孤児院の前に捨てられていて、四つくらいのときに実家で働くことになった。
だからこの家の子だなんて、知らなかった。
父の遺言状なのだが「私と結婚した一族の男性を跡取りとする」と書かれていたことで、生活が一変した。
贅沢な生活が出来るようになった……などではない。その逆で抜け駆けされないようにと監禁されることになった。
不幸中の幸いか「娘が死んだら、財産は全額教会に寄付をする」と教会側に届けていたこともあり、殺害だけはされなかった。
誰が私の婿になるのか?騒動はすでに三ヶ月ほど続いている。
前当主の死後、半年以内に次の当主が立たなくてはならないので、猶予はあと三ヶ月。私の知らないところで、争いは激化しているらしく、この前は扉の向こう側で「息子が死んだのは、貴女のせいよ!」と、全く知らない中年女性の叫び声が聞こえてきた。
勝手に監禁して、勝手に殺し合われても……
父の遺言のせいで大変なことになっているな……と、うんざりしていた時、料理を運ぶ人が変わった。
それが先ほど王子と抱き合っていた女性。
彼女は「一週間後に王子の離宮で、お妃選びの舞踏会がある。それに参加しないか」と書いたメモを載せて、食事を運んできた。
王子に見初められるとは思っていなかったが、監禁されたまま殺し合いの勝者と結婚するよりは、外に活路を……と思い、その誘いに乗った。
メモでやり取りをしていたのだが、とても私に親身になってくれていた……が、やはり裏があったみたいだ。
「まーいいんだけどね!」
私としては監禁されていた部屋から出られただけで充分。
私は財産に興味がないから、何度か一人で脱出しようと思ったけれど、脱出できなかったんだよね。
離宮を出てからそのまま劇場へ。裏口に回って「この服を売りたい」と申し出て、着替えの古着を入手した。
「見た目は華やかだが、所々の造りが雑だな。舞台衣装としては、充分だが」
王子が用意したドレスは、思いのほかショボかったが、下手に超高級品で出所を探られたりするよりはずっとマシ。
ドレスを売ったお金で宿に泊まり、翌朝、街を出た。
少し離れた街で、仕事を見つけて一人で暮らしてゆくつもり。
私が結婚して受け継ぐはずだった財産?どうなったのかは、知らないよ。
だが立ち止まっていても、どうしようもないので、歩き続けていると、人の声らしきものが聞こえてきた。
”ああ、良かった”
そう思いながらそちらへと歩みを進めると、男女が抱き合っていた。
私は物陰に隠れて、二人をうかがう。男性のほうはこの離宮に住む王子で、先ほどまで私に愛を囁いていた。
「上手くいきそうですね」
「ああ、お前のお陰だ」
抱き合っていた二人は離れ、でも見つめ合っている。その姿はどう見ても恋人同士だ。
「早く戻らないと、不審に思われますよ」
女のほうは、私がいる場所からは顔は見えないが、声には聞き覚えがあった。
王子のお妃選びのパーティーに参加するために必要な、ドレスや馬車を用意してくれた中年女性……あれは化粧だったのかもしれない。
「ああ、解っている。かならず、あの灰かぶり姫と結婚する。だが心は君にしかないことを忘れないでくれ」
「解っています。信じております」
そしてまた二人は抱き合って、濃厚なキスをした。
私はヒールの高い靴を脱ぎ、両手に持って足音を消しながらその場を離れた。
”そいう事ね”
二人からかなり離れたところで靴を履き、そのまま離宮をあとにした。もちろん、王子の恋人が用意した馬車には乗らずに。
私の実家は現在とても混乱している。
実家は由緒ある貴族で裕福。その当主……私の父なのだけれど、既に亡くなっている。
そして私は、亡くなった当主が父だったとは知らなかった。私は使用人として邸で働いていた。
私は母親も知らない。生まれてすぐに孤児院の前に捨てられていて、四つくらいのときに実家で働くことになった。
だからこの家の子だなんて、知らなかった。
父の遺言状なのだが「私と結婚した一族の男性を跡取りとする」と書かれていたことで、生活が一変した。
贅沢な生活が出来るようになった……などではない。その逆で抜け駆けされないようにと監禁されることになった。
不幸中の幸いか「娘が死んだら、財産は全額教会に寄付をする」と教会側に届けていたこともあり、殺害だけはされなかった。
誰が私の婿になるのか?騒動はすでに三ヶ月ほど続いている。
前当主の死後、半年以内に次の当主が立たなくてはならないので、猶予はあと三ヶ月。私の知らないところで、争いは激化しているらしく、この前は扉の向こう側で「息子が死んだのは、貴女のせいよ!」と、全く知らない中年女性の叫び声が聞こえてきた。
勝手に監禁して、勝手に殺し合われても……
父の遺言のせいで大変なことになっているな……と、うんざりしていた時、料理を運ぶ人が変わった。
それが先ほど王子と抱き合っていた女性。
彼女は「一週間後に王子の離宮で、お妃選びの舞踏会がある。それに参加しないか」と書いたメモを載せて、食事を運んできた。
王子に見初められるとは思っていなかったが、監禁されたまま殺し合いの勝者と結婚するよりは、外に活路を……と思い、その誘いに乗った。
メモでやり取りをしていたのだが、とても私に親身になってくれていた……が、やはり裏があったみたいだ。
「まーいいんだけどね!」
私としては監禁されていた部屋から出られただけで充分。
私は財産に興味がないから、何度か一人で脱出しようと思ったけれど、脱出できなかったんだよね。
離宮を出てからそのまま劇場へ。裏口に回って「この服を売りたい」と申し出て、着替えの古着を入手した。
「見た目は華やかだが、所々の造りが雑だな。舞台衣装としては、充分だが」
王子が用意したドレスは、思いのほかショボかったが、下手に超高級品で出所を探られたりするよりはずっとマシ。
ドレスを売ったお金で宿に泊まり、翌朝、街を出た。
少し離れた街で、仕事を見つけて一人で暮らしてゆくつもり。
私が結婚して受け継ぐはずだった財産?どうなったのかは、知らないよ。
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