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ムカついたので、思い通りに進まないようにしてやった
後編
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話を聞きたいと、第三者から促されたカーラ。
「なにについて、話せばよろしいのでしょうか?」
なんとなく意図は分かったが、それに乗るつもりはないので、第三者の騎士団長に「具体的に」と尋ねた。
「先ほどの会場での出来事だ」
「少し離れたところにいたので、はっきりと解らないので、ご説明いただけますか?」
聞こえていたし、覚えているが、時間稼ぎも兼ねて騎士団長に何があったのかを語ってもらうことにした。
「夫が義母とよく一緒にいる……ということについて、答えればよろしいのですか」
騎士団長の話を聞き終えて、室内を見回す。
部屋にはカーラと夫のノルベルト、当主夫妻に騎士団長、そして記録を取るための書記官が三名に、少しだけ遅れて入室してきた判事が三名。
(夜会が行われている王宮に、判事の黒ローブ姿でお越しということは、本当に前もって……ここでの発言は正式なものになる手筈が整っているみたいね)
完全に用意された席なので、
「そうだ」
「わたしは、特に気になりませんし、普通だと思いますが」
カーラは正直には答えなかった。
「え……」
「あ……」
(当主が驚くのは解るけど、第三者の騎士団長まで変な声を上げて。この人は中立に見せかけて完全に当主寄り……判事の三人は、さすがに表情から見て取れないけれど、書記官たちは普通に記録しているようね)
「いや、そうか?だが、二人の距離が近いと思ったりはしないのか?」
「二人というのは、夫と義母のことですよね?その二人でしたら、わたしは気になりません。他はなにか?」
重ねて尋ねてくる騎士団長似たいし、口元を扇子で隠して小首を傾げて聞き返す。
「そうか。特に気にならない……と」
「はい」
当主と騎士団長が、うっすらと浮かべた焦り。
(彼らは私が「その通りです。二人がべったりで、私は蔑ろにされています」と答えると考えていたようね。……目的は解らないけれど、私に前もって説明していないということは、簡単に扱えると思ったのか、それとも……)
カーラは思い通りの返事をしなかったことに焦っている二人から、少しだけ視線を移動させてノルベルトとシャノンをうかがった。
彼らはこの場の空気に飲まれて、ただ青い顔をして震えているだけ。勿論、二人で並んで座っているし、シャノンはノルベルトに縋り付き気味。
(あの二人も一緒になって、私を嵌めようとしている可能性も考えていたけど……表情からはうかがえないから、警戒しておきましょう)
「気になることはないのか?」
「はい。嫁いでまだ三ヶ月ほどですので、解らないことだらけで」
離婚することばかりを考えていたカーラだが、マザコン夫と嫌味な姑コンビよりも、訳の分からない状況に勝手に巻き込んだ当主に怒りを覚え、穏やかに反抗する。
(この話に乗れば、離婚できそうだけど、乗る気になれないのよね。当主は息子がマザコンで、母親が息子大好きだってことを、知っていて私と結婚させた。知っていながら結婚後もなにもせず……なにか目的があるのだろうけれど、事情も説明しないで巻き込んで……ムカつく)
なにか目的があったのならば、最初から伝えて協力を仰げば、カーラも考えないでもない。
(私に協力を依頼しなかったってことは、私ごと切り捨てるつもり……よね)
「よく考えてくれ」
「考える……ですか?」
「そうだ。君の夫とその母親はいつも一緒にいて、君は困らされたのでは!」
「親子なら、普通の距離感だと思いますが」
語気が強くなる騎士団長と、顔を見合わせ始める判事達。
記録を取っている書記官達も、記録用紙から顔を上げてちらちらと、騎士団長を見る。
「なぜ嘘をつくのだ!判事がいる場での虚偽発言は犯罪だぞ!」
思い通りに進まなかったことに腹を立てた当主が、机を拳で叩き叫んだ。
(いや、裁判所じゃないし、宣誓もしていないから罪に問われるわけないでしょ。立ち会い人に判事がいるから、裁判の証拠にはなるけど)
カーラは呆れ、判事達も同じように呆れた視線を当主と騎士団長へと向けた。
「ご子息の夫人は、何度も気にならないと仰っている。その発言を曲げようとするほうがおかしい」
これ以上、話していても埒が明かないと判断した判事の言葉で、その場はお開きとなった。
――――――
理由が分からない、公開断罪のようなものに巻き込まれたカーラのその後だが、ノルベルトと離婚した。
そして当主がその座を退き、幽閉されることになり、カーラへの慰謝料代わりにと、カーラの父親が当主の座に就き、カーラは跡取りとなった。
(遺産目当てだったとは)
次期当主なのでということで、父親とともに聞かされたことの真相は、ノルベルトの遺産を横取りするために、騎士団長と当主が仕組んだものだった。
当主にとっては連れ子だったノルベルト。彼の亡くなった父の大叔母が、かなりの資産家だった。
その大叔母は近親者は既になく、かなり遠縁に当たるノルベルトが遺産相続人に選ばれた。
その遺産はノルベルト個人のものなので、血が繋がらない当主は権利を主張することができなかった。
勿論ノルベルトの母親にも、その権利はない。
(母息子二人の有責で離婚させ、その際の妻へと支払う慰謝料として、大叔母の遺産を巻き上げて、私の個人資産にして取り上げるつもりだったって……最悪だわ)
そこでノルベルトの遺産を取り上げるために、一族の女カーラと結婚させ、離婚時に慰謝料がつり上がるよう、ノルベルトとシャノンが有責事項を増やすよう仕向けた。
(離婚歴がある女性だから、後妻にしやすいって……最低よね)
多額の慰謝料を手に入れたカーラを騎士団長が後妻として娶り、夫として財産を好き勝手にする計画だった。
(あの場で騎士団長を立ち会わせ、その後も色々と相談に乗ってくれ、徐々に惹かれて……そして当主の肝いりで再婚させるつもりだった聞かされたときは、どんな表情をしていいのか解らなかったわ)
あの場の騎士団長の姿を思い出し「好きになる要素なんてゼロ」と、カーラは断言できる。
その騎士団長は、幽閉こそされなかったが、団長の座を退かざるを得なくなり、退役後に領地に引き下がろうとしたのだが、地位のある公職についていたのが禍した。
王宮で騒ぎを起こした当主と結託していたことで、王宮の主の怒りを買ったらしく、領地に向かう途中で、賊の襲撃に遭い、無惨に殺害された。
離婚した元夫ノルベルトだが、当主が隠していたため遺産相続について知らなかった。
結婚する歳になって、自身の資産管理もままならないことを露呈してしまったノルベルト。
彼は父や騎士団長が、地位を失う可能性があるにも関わらず、策を練って取り上げようとした財産というものに恐れをなし、所有していたら今度は命を狙われるのではないかと考えて、財産の八割を離婚の慰謝料としてカーラに渡してきた。
「お金は幾らあってもいいけど、私がその大金で命を狙われるとは考えないのかしら……考えないか」
自分が助かるために、大金をカーラに渡したと大々的に喧伝して、大好きな母親と共に去ったノルベルト。
「大好きなお母様と、仲良くやってね」
シャノンも息子が財産を所持していることで、狙われたら困ると、厄介ごとの塊である財産をカーラに押し付けることに同意した。
親子揃って同じ考え方なのに、カーラは苦笑したが、いかにもあの二人らしいとも思った。
「ま、私もこの財産は手元に置いておくつもりはないから」
カーラはこの騒ぎの元凶となった財産の一部を札束にし、金網製の檻に収め、当主が幽閉されている部屋においた。
そして「財産は欲しがっていた当主に渡した。使えないけど」と噂を流した。
当主は幽閉先の部屋の三分の一を占領する金網製の檻の中にある札束を見て、金網を掴んで、頭突きをし取りだそうとして負傷し、怪我の治療や体を清める世話のために訪れる使用人たちに「金を盗みに来た」と殴り掛かり怪我をさせて、いるとカーラは報告を貰った。
「あの使用人達も、当主の命令に従って、口裏を合わせていたんだから、少しくらい痛い目をみせてもいいでしょう」
だが心は全く痛まず、積み上がった釣書にはめもくれず、養子候補の調査書を手に取った。
「なにについて、話せばよろしいのでしょうか?」
なんとなく意図は分かったが、それに乗るつもりはないので、第三者の騎士団長に「具体的に」と尋ねた。
「先ほどの会場での出来事だ」
「少し離れたところにいたので、はっきりと解らないので、ご説明いただけますか?」
聞こえていたし、覚えているが、時間稼ぎも兼ねて騎士団長に何があったのかを語ってもらうことにした。
「夫が義母とよく一緒にいる……ということについて、答えればよろしいのですか」
騎士団長の話を聞き終えて、室内を見回す。
部屋にはカーラと夫のノルベルト、当主夫妻に騎士団長、そして記録を取るための書記官が三名に、少しだけ遅れて入室してきた判事が三名。
(夜会が行われている王宮に、判事の黒ローブ姿でお越しということは、本当に前もって……ここでの発言は正式なものになる手筈が整っているみたいね)
完全に用意された席なので、
「そうだ」
「わたしは、特に気になりませんし、普通だと思いますが」
カーラは正直には答えなかった。
「え……」
「あ……」
(当主が驚くのは解るけど、第三者の騎士団長まで変な声を上げて。この人は中立に見せかけて完全に当主寄り……判事の三人は、さすがに表情から見て取れないけれど、書記官たちは普通に記録しているようね)
「いや、そうか?だが、二人の距離が近いと思ったりはしないのか?」
「二人というのは、夫と義母のことですよね?その二人でしたら、わたしは気になりません。他はなにか?」
重ねて尋ねてくる騎士団長似たいし、口元を扇子で隠して小首を傾げて聞き返す。
「そうか。特に気にならない……と」
「はい」
当主と騎士団長が、うっすらと浮かべた焦り。
(彼らは私が「その通りです。二人がべったりで、私は蔑ろにされています」と答えると考えていたようね。……目的は解らないけれど、私に前もって説明していないということは、簡単に扱えると思ったのか、それとも……)
カーラは思い通りの返事をしなかったことに焦っている二人から、少しだけ視線を移動させてノルベルトとシャノンをうかがった。
彼らはこの場の空気に飲まれて、ただ青い顔をして震えているだけ。勿論、二人で並んで座っているし、シャノンはノルベルトに縋り付き気味。
(あの二人も一緒になって、私を嵌めようとしている可能性も考えていたけど……表情からはうかがえないから、警戒しておきましょう)
「気になることはないのか?」
「はい。嫁いでまだ三ヶ月ほどですので、解らないことだらけで」
離婚することばかりを考えていたカーラだが、マザコン夫と嫌味な姑コンビよりも、訳の分からない状況に勝手に巻き込んだ当主に怒りを覚え、穏やかに反抗する。
(この話に乗れば、離婚できそうだけど、乗る気になれないのよね。当主は息子がマザコンで、母親が息子大好きだってことを、知っていて私と結婚させた。知っていながら結婚後もなにもせず……なにか目的があるのだろうけれど、事情も説明しないで巻き込んで……ムカつく)
なにか目的があったのならば、最初から伝えて協力を仰げば、カーラも考えないでもない。
(私に協力を依頼しなかったってことは、私ごと切り捨てるつもり……よね)
「よく考えてくれ」
「考える……ですか?」
「そうだ。君の夫とその母親はいつも一緒にいて、君は困らされたのでは!」
「親子なら、普通の距離感だと思いますが」
語気が強くなる騎士団長と、顔を見合わせ始める判事達。
記録を取っている書記官達も、記録用紙から顔を上げてちらちらと、騎士団長を見る。
「なぜ嘘をつくのだ!判事がいる場での虚偽発言は犯罪だぞ!」
思い通りに進まなかったことに腹を立てた当主が、机を拳で叩き叫んだ。
(いや、裁判所じゃないし、宣誓もしていないから罪に問われるわけないでしょ。立ち会い人に判事がいるから、裁判の証拠にはなるけど)
カーラは呆れ、判事達も同じように呆れた視線を当主と騎士団長へと向けた。
「ご子息の夫人は、何度も気にならないと仰っている。その発言を曲げようとするほうがおかしい」
これ以上、話していても埒が明かないと判断した判事の言葉で、その場はお開きとなった。
――――――
理由が分からない、公開断罪のようなものに巻き込まれたカーラのその後だが、ノルベルトと離婚した。
そして当主がその座を退き、幽閉されることになり、カーラへの慰謝料代わりにと、カーラの父親が当主の座に就き、カーラは跡取りとなった。
(遺産目当てだったとは)
次期当主なのでということで、父親とともに聞かされたことの真相は、ノルベルトの遺産を横取りするために、騎士団長と当主が仕組んだものだった。
当主にとっては連れ子だったノルベルト。彼の亡くなった父の大叔母が、かなりの資産家だった。
その大叔母は近親者は既になく、かなり遠縁に当たるノルベルトが遺産相続人に選ばれた。
その遺産はノルベルト個人のものなので、血が繋がらない当主は権利を主張することができなかった。
勿論ノルベルトの母親にも、その権利はない。
(母息子二人の有責で離婚させ、その際の妻へと支払う慰謝料として、大叔母の遺産を巻き上げて、私の個人資産にして取り上げるつもりだったって……最悪だわ)
そこでノルベルトの遺産を取り上げるために、一族の女カーラと結婚させ、離婚時に慰謝料がつり上がるよう、ノルベルトとシャノンが有責事項を増やすよう仕向けた。
(離婚歴がある女性だから、後妻にしやすいって……最低よね)
多額の慰謝料を手に入れたカーラを騎士団長が後妻として娶り、夫として財産を好き勝手にする計画だった。
(あの場で騎士団長を立ち会わせ、その後も色々と相談に乗ってくれ、徐々に惹かれて……そして当主の肝いりで再婚させるつもりだった聞かされたときは、どんな表情をしていいのか解らなかったわ)
あの場の騎士団長の姿を思い出し「好きになる要素なんてゼロ」と、カーラは断言できる。
その騎士団長は、幽閉こそされなかったが、団長の座を退かざるを得なくなり、退役後に領地に引き下がろうとしたのだが、地位のある公職についていたのが禍した。
王宮で騒ぎを起こした当主と結託していたことで、王宮の主の怒りを買ったらしく、領地に向かう途中で、賊の襲撃に遭い、無惨に殺害された。
離婚した元夫ノルベルトだが、当主が隠していたため遺産相続について知らなかった。
結婚する歳になって、自身の資産管理もままならないことを露呈してしまったノルベルト。
彼は父や騎士団長が、地位を失う可能性があるにも関わらず、策を練って取り上げようとした財産というものに恐れをなし、所有していたら今度は命を狙われるのではないかと考えて、財産の八割を離婚の慰謝料としてカーラに渡してきた。
「お金は幾らあってもいいけど、私がその大金で命を狙われるとは考えないのかしら……考えないか」
自分が助かるために、大金をカーラに渡したと大々的に喧伝して、大好きな母親と共に去ったノルベルト。
「大好きなお母様と、仲良くやってね」
シャノンも息子が財産を所持していることで、狙われたら困ると、厄介ごとの塊である財産をカーラに押し付けることに同意した。
親子揃って同じ考え方なのに、カーラは苦笑したが、いかにもあの二人らしいとも思った。
「ま、私もこの財産は手元に置いておくつもりはないから」
カーラはこの騒ぎの元凶となった財産の一部を札束にし、金網製の檻に収め、当主が幽閉されている部屋においた。
そして「財産は欲しがっていた当主に渡した。使えないけど」と噂を流した。
当主は幽閉先の部屋の三分の一を占領する金網製の檻の中にある札束を見て、金網を掴んで、頭突きをし取りだそうとして負傷し、怪我の治療や体を清める世話のために訪れる使用人たちに「金を盗みに来た」と殴り掛かり怪我をさせて、いるとカーラは報告を貰った。
「あの使用人達も、当主の命令に従って、口裏を合わせていたんだから、少しくらい痛い目をみせてもいいでしょう」
だが心は全く痛まず、積み上がった釣書にはめもくれず、養子候補の調査書を手に取った。
応援ありがとうございます!
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