【短編集】因果応報

彼岸花

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ムカついたので、思い通りに進まないようにしてやった

前編

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「どうしてお前は、母上のようにできないんだ」

(どうやったって、文句を付けてくるくせに)

カーラは夫のノルベルトの言葉に、心の中で言い返した。
カーラとノルベルトは、結婚して二ヶ月ほどの新婚だが、夫婦仲は最悪。

(母上、母上って……)

ノルベルトは極度のマザコンだった。
どのくらいのマザコンかというと、結婚当日に「母上に呼ばれたから」という理由で初夜をすっぽかしたくらい。
ちなみにその後も、ノルベルトの母親が色々と言ってきて、初夜はまだ迎えていない。

(私としては、今更寝るつもりはないけれど)

「このネックレスは、母上のほうが似合う」

(黒髪の私には全く似合わないデザインを買ってきたのは、貴方でしょう)

母親に似合うデザインのネックレスを買ってきて、カーラに身につけさせてから「母親のほうが似合う」と言いったり、

「母上と出かけてくる……母上、今日もお美しい!」
「ありがとう、私の可愛いノルベルト」
「ご一緒できて、嬉しいです!」
「私もよ」

二人でデートに出かけたり。カーラは結婚式当日までノルベルトに会ったことはなく、そして結婚後も一緒に出かけたことはない。

(一緒に出かけたくもないけどね)

嫁いで二ヶ月、カーラはどうやって離婚してやろうか?そればかり考えていた。

――――――

「もともと、母親大好きだったのね」
「はい……」

カーラはタウンハウスで、昔からの使用人にノルベルトと母親の関係について聞いてみた。
普通なら当主夫人とその息子のことなので、嫁いだばかりのカーラからの、彼らが不利になるような質問については、誤魔化すのだが、

(執事ですら”誤魔化しようがありませんので”と、正直に答えてくれたのが……)

物事には限度というものがあり、ノルベルトと母親はその範疇を超えていたため、使用人たちも正直に答えた……だが、カーラは引っかかることがあった。

(でも、なんか変なのよね)

使用人達が口を揃えて、カーラの質問に「全員同じ回答」をしたことが気になった。

(一人か二人くらいは、誤魔化したり、気のせいですよと言う使用人がいてもいい様な気がする……)

そのことを気にしながらも、カーラは一ヶ月後の王宮で開かれる夜会のための準備を進めた。
結婚して初めて出席する、王宮での夜会。

「なんで父上が……」

カーラと一緒に馬車に乗っているノルベルトは、今日の夜会で母親をエスコートできないことに不満を漏らしていた。

(既婚男性が妻を差し置いて、未亡人でもない母親のエスコートしたら、目立ち過ぎるでしょう)

ノルベルトの父親はいつも領地にいて、滅多に首都に出てくることはなく、昨年や一昨年は成人していたノルベルトが母親をエスコートしていた。
カーラがノルベルトの父親に会ったのは、結婚式の当日。
その父親は翌日にはすぐに領地へと帰っていった。
本来なら一週間くらいは滞在し、来客の対応などをするのだが、ノルベルトは当主の実の息子ではないので、そこまでする必要はないと考えて帰った……

(そう思っていたのだけど……もしかして?)

カーラの向側、車中で不機嫌さを隠さず、ぶつぶつと文句を言っているノルベルトは、母親の連れ子で当主の実子ではない。

ノルベルトの実父とその実家は、悪い家ではないので、縁を結んでもいいだろうということで、当主はノルベルトの母親を連れ子ごと受け入れて結婚し、その連れ子と当主の親戚筋の娘を結婚させることにした。

(私のほうが、当主に近いのよね。そのせいで、結婚相手に選ばれてしまったのだけど)

そこで選ばれたのがカーラ。
当主からの指名なので、当然ながら断ることもできず、嫁いできたのだ。

(もう少し、どうにかしてくれないかしら。息子ラブな妻と、マザコン息子を見たくないのは解るんだけど、当主が注意してくれないと……ん……もしかして……)

貴賓扱いしろとは言わないが、もう少し扱いを丁寧にしてくれても……と思っていたカーラだが、ふとある事が思い浮かんだ。

(もしもそうだとしたら……)

王宮に到着するとノルベルトはカーラのエスコートもそこそこに、母親の元へと駆けていった。

(当主の姿が見えない……)

当主が妻の元を離れたら、息子が新妻を放置するという奇行に走り、人々に奇異の目で見られることは解っているはず。

(それなのに離れたということは……ああ、嫌だわ)

王宮へとやってくる道中、少しの間離れていただけなのに、まるで数年ぶりの再会のように母親と話すノルベルトと、優越感に浸りながらカーラをチラチラとみてくる母親。

(そんなに優越感丸出しで、こっちにマウンティングされても、他人から見たら非常識母息子なだけで)

悦に浸れる部分が何もないのに、そんなことをされても……カーラの正直な気持ちだった。

――――――

「シャノン!君とは離婚する!」

夜会が始まってしばらくしてから、そんな声が上がった。

「カーラ。あれって、貴女の義理の両親じゃあ」

母親にべったりなノルベルトを放置して、私は女友達と話に花を咲かせていた。

「そうね……一体なんのつもりかしら」

ノルベルトの父親は妻のシャノンを責めた。

「結婚した息子が、自分にべったりでおかしいと思わないのか!」
「おかしいなんて!ノルベルトは、私の可愛い息子よ!貴方は実子じゃないから、ノルベルトを!」
「君はいつもそうやって、私がノルベルトの実の父親ではないから、辛く当たると言い、私が注意するとすぐに引き離してきたが、その結果がこれだ!周囲からの軽蔑の視線が解らないのか!」
「母上に酷いことを言わないで下さい!」

カーラは「呼ばないで」と願いながら、ノルベルト達の言い争いを眺めていたが、その願いは通じなかった。

「話を聞きたい」

場所を移して、第三者立ち会いのもと、話し合いが持たれた。
その席にカーラも呼ばれることに。

「話ですか?」
「そうだ」

立ち会ったのは、騎士団団長。国王の直属で、もちろん側近も務めている。

(ここでの話は、すぐに国王の耳に入るということね……それにしても、話し合いまでの流れがスムーズだこと。これは今夜、ここで当主が夫人に離縁を言い渡すことを、王宮側の人間の誰かが知っていいたと考えて間違いないな)

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