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別れた夫の落ちぶれ方が想像の斜め上に最悪だった
後編
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「ルイーズが帰ってくるまで、元気でいなくてはな」
「もちろんですよお祖父さま。楽しい旅の話を、たくさんして差し上げますから」
「今からルイーズが帰ってくるのが楽しみだ。ルイーズのこと、頼むぞ」
「はい、領主様」
隊商がいる広場で、見送りにきてくれた祖父母に挨拶をしていると、
「ルイーズ!」
聞き覚えがあるような、ないような声に名前を呼ばれた……同名の他人かもしれないと思っていたのだが、
「ルイーズ!」
「……」
大声で私を呼んでいたのは、元夫だった。
「ルイーズ!会えて良かった!」
「貴方に呼び捨てにされる覚えはないのですが」
「私達は夫婦じゃないか!」
「”元”です。私は用事があるので」
「待ってくれ、ルイーズ!話を聞いてくれ!」
私が聞くと一言も言っていないのに、元夫は私と離婚後の出来事を語り出した。元夫と愛人は、私との離婚が成立してすぐに結婚し、幸せに暮らしていたが、生まれてきた子どもは、元夫との子ではなかったと。
既婚男性と浮気するような女なのだから、他の男と関係があっても驚くに値しないと思うのだけれど。
「赤子の顔なんて、あやふやなものでしょう?」
「顔だちも、髪に瞳、更には肌の色まで、全てアイツの実家の庭師と瓜二つだった!」
「あらあら……それで?」
「あいつとは別れた!」
「そう。だから?」
「君がどれほど素晴らしい女性だったか、今になってやっと解った。だからもう一度、結婚して欲しい、ルイーズ!」
元夫は叫んで、膝をついてジュエリーケースを開けた。中には指輪。
「あ、お断りします。お祖父さま、お祖母さま、そしてみんな、行って参りますので」
これ以上、付き合う気になれなかったので、私は無視して旅立ちの挨拶をし、
「ルイーズ様のことは、お任せください」
隊商の護衛たちにガードされながら、馬車に乗り込んだ。小窓から外をのぞくと、お祖父さまの護衛が、元夫をそのまま石畳に組み伏せていた。
「いやあ、面白いものが見れました」
責任者の姪はしみじみと呟き、馬車の手綱をひく。
「そうね。私も他人事なら、面白かったかも」
私は窓から手を振り、広場をあとにした。
私が元夫のその後を知ったのは、故郷に帰ってきた二年後。元夫の実家は無くなっていた。
聞いた話によると、元夫は当然ながら再婚相手と離婚した。再婚相手の実家に対して、我が家に支払った賠償金と同額を請求したらしい。
子どもができたから、言い値で賠償金を支払ったのに、その子が元夫の子ではないと判明したので……というのが言い分で、その言い分が通り、再婚相手の実家は破産し、再婚相手と子どもの父親は売られた。
実は二人が売られたことは知っている。それというのも、二人が売られた国にも立ち寄ったからだ。私の顔を覚えていた再婚相手が「助けてください!」と、元夫同様に聞いてもいない身の上話を語りそうになったが、再婚相手とその恋人?の主が殴り付けて、引きずっていった。
それを見ていた隊商の一人が情報を仕入れてきてくれ、話を聞き「そういうこと」と知った。
再婚相手とその相手は知っていたが、元夫の実家がなぜ無くなったのか?
二度目の結婚で、自分の子ではない子を、育てることになりかけたことから、結婚相手は絶対に妊娠していないことを第一条件にして探した。
それ自体は当たり前のことなのだが、元夫と両親はそれが行きすぎて、まだ月の物も来ていない貴族の少女を、誘拐同然に連れ帰り監禁した。
少女の親がすぐに届け出て、救出され、取り調べで「子どものうちから、男性に触れさせず育てれば、間違いはない」と言い張った。
誘拐された少女の両親が、方々に手を回し、危険人物として爵位も財産も剥奪され、最後に「もう、跡取りは必要ないから、少女を誘拐するなよ」と言われて、王都から追放になったそうだ。
「跡取りが欲しいのも、裏切られたのも解るけど、少女の誘拐って」
「三歳の子だったって」
「同情の余地なしね」
「ルイーズと結婚してるときは、そんな素振りはなかったんでしょ?」
「なかったわよ」
管理者の姪と元夫の顛末を聞いているとき、ふと、先ほど久しぶりの帰国で懐かしく領地の街中を歩いているとき、こちらをじっと見つめていた、汚れきった風貌の男のことを思い出した。
(元夫に似ているような気もするけど、どうでもいい……幼女誘拐犯の過去を持っている可能性がある人間を、放置しておくわけにはいかないわね)
捕らえさせたところ、本当に元夫で「やり直そう!ルイーズ!」と叫んでいたそうだが、不倫で離婚して犯罪歴のある貴族籍を失った相手と、やり直す人なんて居るはずない。
頭がおかしくなったとしか思えないし、牢から出したら何をしでかすか解らない……と悩んでいたら、とある貴族が引き取りたいと申し出たということで、身柄を引き渡した。
迎えの馬車の紋章を見て、元夫は「いやだ!行きたくない!助けてくれ、ルイーズ」と叫んでいたそうだけど、私はその場にいなかったから知らない。
馬車の紋章は、誘拐された女の子の家の紋章。誘拐した当時は、貴族同士だったから、生き延びられたけど、今は庶民と貴族だから……どうなることやら。まあ、もう「その後の情報」なんて要らないんだけどね。
「もちろんですよお祖父さま。楽しい旅の話を、たくさんして差し上げますから」
「今からルイーズが帰ってくるのが楽しみだ。ルイーズのこと、頼むぞ」
「はい、領主様」
隊商がいる広場で、見送りにきてくれた祖父母に挨拶をしていると、
「ルイーズ!」
聞き覚えがあるような、ないような声に名前を呼ばれた……同名の他人かもしれないと思っていたのだが、
「ルイーズ!」
「……」
大声で私を呼んでいたのは、元夫だった。
「ルイーズ!会えて良かった!」
「貴方に呼び捨てにされる覚えはないのですが」
「私達は夫婦じゃないか!」
「”元”です。私は用事があるので」
「待ってくれ、ルイーズ!話を聞いてくれ!」
私が聞くと一言も言っていないのに、元夫は私と離婚後の出来事を語り出した。元夫と愛人は、私との離婚が成立してすぐに結婚し、幸せに暮らしていたが、生まれてきた子どもは、元夫との子ではなかったと。
既婚男性と浮気するような女なのだから、他の男と関係があっても驚くに値しないと思うのだけれど。
「赤子の顔なんて、あやふやなものでしょう?」
「顔だちも、髪に瞳、更には肌の色まで、全てアイツの実家の庭師と瓜二つだった!」
「あらあら……それで?」
「あいつとは別れた!」
「そう。だから?」
「君がどれほど素晴らしい女性だったか、今になってやっと解った。だからもう一度、結婚して欲しい、ルイーズ!」
元夫は叫んで、膝をついてジュエリーケースを開けた。中には指輪。
「あ、お断りします。お祖父さま、お祖母さま、そしてみんな、行って参りますので」
これ以上、付き合う気になれなかったので、私は無視して旅立ちの挨拶をし、
「ルイーズ様のことは、お任せください」
隊商の護衛たちにガードされながら、馬車に乗り込んだ。小窓から外をのぞくと、お祖父さまの護衛が、元夫をそのまま石畳に組み伏せていた。
「いやあ、面白いものが見れました」
責任者の姪はしみじみと呟き、馬車の手綱をひく。
「そうね。私も他人事なら、面白かったかも」
私は窓から手を振り、広場をあとにした。
私が元夫のその後を知ったのは、故郷に帰ってきた二年後。元夫の実家は無くなっていた。
聞いた話によると、元夫は当然ながら再婚相手と離婚した。再婚相手の実家に対して、我が家に支払った賠償金と同額を請求したらしい。
子どもができたから、言い値で賠償金を支払ったのに、その子が元夫の子ではないと判明したので……というのが言い分で、その言い分が通り、再婚相手の実家は破産し、再婚相手と子どもの父親は売られた。
実は二人が売られたことは知っている。それというのも、二人が売られた国にも立ち寄ったからだ。私の顔を覚えていた再婚相手が「助けてください!」と、元夫同様に聞いてもいない身の上話を語りそうになったが、再婚相手とその恋人?の主が殴り付けて、引きずっていった。
それを見ていた隊商の一人が情報を仕入れてきてくれ、話を聞き「そういうこと」と知った。
再婚相手とその相手は知っていたが、元夫の実家がなぜ無くなったのか?
二度目の結婚で、自分の子ではない子を、育てることになりかけたことから、結婚相手は絶対に妊娠していないことを第一条件にして探した。
それ自体は当たり前のことなのだが、元夫と両親はそれが行きすぎて、まだ月の物も来ていない貴族の少女を、誘拐同然に連れ帰り監禁した。
少女の親がすぐに届け出て、救出され、取り調べで「子どものうちから、男性に触れさせず育てれば、間違いはない」と言い張った。
誘拐された少女の両親が、方々に手を回し、危険人物として爵位も財産も剥奪され、最後に「もう、跡取りは必要ないから、少女を誘拐するなよ」と言われて、王都から追放になったそうだ。
「跡取りが欲しいのも、裏切られたのも解るけど、少女の誘拐って」
「三歳の子だったって」
「同情の余地なしね」
「ルイーズと結婚してるときは、そんな素振りはなかったんでしょ?」
「なかったわよ」
管理者の姪と元夫の顛末を聞いているとき、ふと、先ほど久しぶりの帰国で懐かしく領地の街中を歩いているとき、こちらをじっと見つめていた、汚れきった風貌の男のことを思い出した。
(元夫に似ているような気もするけど、どうでもいい……幼女誘拐犯の過去を持っている可能性がある人間を、放置しておくわけにはいかないわね)
捕らえさせたところ、本当に元夫で「やり直そう!ルイーズ!」と叫んでいたそうだが、不倫で離婚して犯罪歴のある貴族籍を失った相手と、やり直す人なんて居るはずない。
頭がおかしくなったとしか思えないし、牢から出したら何をしでかすか解らない……と悩んでいたら、とある貴族が引き取りたいと申し出たということで、身柄を引き渡した。
迎えの馬車の紋章を見て、元夫は「いやだ!行きたくない!助けてくれ、ルイーズ」と叫んでいたそうだけど、私はその場にいなかったから知らない。
馬車の紋章は、誘拐された女の子の家の紋章。誘拐した当時は、貴族同士だったから、生き延びられたけど、今は庶民と貴族だから……どうなることやら。まあ、もう「その後の情報」なんて要らないんだけどね。
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