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ヒロイン男爵令嬢の取り巻き……の父親との話
ヒロイン男爵令嬢の取り巻き……の父親との話
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ルミナは街でもっとも有名で繁盛しているカフェの、有名な店員だった。
落ち着いた内装と美味しい珈琲と軽食。そしてなにより、店員と話しができる――会話上手な店員は、評判になる。
ルミナはそんな店で、会話が上手く”話していると未来が開ける気がしてくる”と言われていた。
実際ルミナのアドバイスで商売を持ち直した商会があり、その商会長が息子との結婚はどうだろうと持ちかけていると噂されていた。
「ルミナちゃん」
「商会のおっさん。また来たのかよ。商売が少し安定したからって、遊び過ぎだぜ!」
ルミナの乱暴な声が店内に響く。落ち着いた内装にはそぐわないが。それ以上にそぐわないのがルミナ自身。
ふわふわしたミルクティー色の髪と大きく澄んだ瞳など、可愛らしいパーツが集められた顔だち。体格も可愛らしく、とてもこんな話し方をするようには見えないのだが、
「あたしは家のやつらに比べたら、大人しいもんだよ!なあ?マスター」
「そうだね」
ルミナの父親は何人もの従業員を抱える大工で、弟子たちは住み込みで働いている。現場仕事が多く、命に関わることが多いので、大声で怒鳴ることも多く、気が荒いのが普通。
家に帰ってきて、ルミナに接する時は、現場のような荒々しさはなく、言葉を選んで接していたが、もともと荒々しいので言葉を選んで話しても、普通よりずっと荒々しく、そんな彼らと接して生きてきたルミナの言葉使いは荒い。
だが容姿と可愛らしさとその荒い言葉遣いのアンバランスさが、とても魅力的だと評判だった。
もちろん性格と頭の回転の良さがあってのこと。
「で、ルミナちゃん。ウチの息子との結婚話、考えてくれた?」
何度か持ちかけられていた話しで、働くことが好きなルミナにとっては、商会の一族になるのは悪くはない話だった。
だから前向きに考え、情報を集めた。
「あのさ、おっさん。おっさんがあたしに勧めてる息子だけど、ヤバイ女の取り巻きやって、かなりヤバイことになるってよ」
「どういうことだい?ルミナちゃん」
「おっさんの話しを、あたしも前向きに考えて、息子がどんなヤツか、情報を集めたんだ。身内からは見えないことってあるだろう?そしてこのカフェには、学園の人たちも通ってくれてるからさ」
商会長の息子が通っている学園は、ほとんどが貴族だ。
平民で通えるのは、金持ちで賢い子。金を持っているだけや、賢いだけの子は入学することはできない。
商会長の息子は学園に通っているので賢い……はずなのだが、男爵令嬢に骨抜きにされ、こともあろうに、王子の婚約者の公爵令嬢に酷い態度を取っているという情報を仕入れた。
「なぜウチの息子が」
商会長は息子が王子の側近を務めていることは知っていたが、そんな恥知らずな行動を取っていることは知らなかった。
「王子様が男爵令嬢の取り巻きの一人になっちまってるんだ。王子様もメアリー様に酷い態度を取っているみたいだよ。メアリー様が言うには、王子様はもともとそういう態度だったから気にはしてないみたいだけど、そりゃ、あくまでも王子様とメアリー様の間だけのことで、おっちゃんの息子は違うよね」
王子が他の女にうつつを抜かしていることは、商会長も小耳に挟んでいたが、息子までもがその女に入れあげて、挙げ句の果てに公爵令嬢に「いつも王子がしているような態度」を取っているとなると話は違ってくる。
「……頭のいい息子だったんだが」
「賢いバカだったね」
「そうだな。賢いバカだな」
「ルミナちゃ。見合いの話はなかったということで」
「分かった。そうそう、メアリー様にも伝えておくね」
メアリーはこのカフェの常連客で、ルミナのことを気に入っている。
――――――
「例の商会の息子さん、退学したわ」
ルミナが商会長に息子の行動について話してから四日後、カフェを訪れたメアリーがコーヒーを飲みながら、ルミナに話し掛けてきた。
「おっちゃん、仕事早いなあ」
「そうね。海外支店で修行をさせるそうよ。あの商会、海の向こうに支店なんて、持ってないはずなのですが」
そう言ってメアリーは微笑む。
「海外展開に一族のヤツを送るのは、よくあることだからな!海路が不安定で座礁しなければ、いいっすねメアリー様」
「そうね」
コーヒーを飲み終えたメアリーは、ルミナにチップを渡してカフェを出た。
ルミナは裏に入りチップを数える。
「ん……」
紙幣の間にメアリーからの感謝の気持ちが綴られていた。
「やっぱ、ムカついてたんだな」
ルミナはメアリーからの手紙を、サイフォン用アルコールランプで燃やして、
「ルミナちゃん!」
「お客もマスターも待ってな!」
表へと戻った。
落ち着いた内装と美味しい珈琲と軽食。そしてなにより、店員と話しができる――会話上手な店員は、評判になる。
ルミナはそんな店で、会話が上手く”話していると未来が開ける気がしてくる”と言われていた。
実際ルミナのアドバイスで商売を持ち直した商会があり、その商会長が息子との結婚はどうだろうと持ちかけていると噂されていた。
「ルミナちゃん」
「商会のおっさん。また来たのかよ。商売が少し安定したからって、遊び過ぎだぜ!」
ルミナの乱暴な声が店内に響く。落ち着いた内装にはそぐわないが。それ以上にそぐわないのがルミナ自身。
ふわふわしたミルクティー色の髪と大きく澄んだ瞳など、可愛らしいパーツが集められた顔だち。体格も可愛らしく、とてもこんな話し方をするようには見えないのだが、
「あたしは家のやつらに比べたら、大人しいもんだよ!なあ?マスター」
「そうだね」
ルミナの父親は何人もの従業員を抱える大工で、弟子たちは住み込みで働いている。現場仕事が多く、命に関わることが多いので、大声で怒鳴ることも多く、気が荒いのが普通。
家に帰ってきて、ルミナに接する時は、現場のような荒々しさはなく、言葉を選んで接していたが、もともと荒々しいので言葉を選んで話しても、普通よりずっと荒々しく、そんな彼らと接して生きてきたルミナの言葉使いは荒い。
だが容姿と可愛らしさとその荒い言葉遣いのアンバランスさが、とても魅力的だと評判だった。
もちろん性格と頭の回転の良さがあってのこと。
「で、ルミナちゃん。ウチの息子との結婚話、考えてくれた?」
何度か持ちかけられていた話しで、働くことが好きなルミナにとっては、商会の一族になるのは悪くはない話だった。
だから前向きに考え、情報を集めた。
「あのさ、おっさん。おっさんがあたしに勧めてる息子だけど、ヤバイ女の取り巻きやって、かなりヤバイことになるってよ」
「どういうことだい?ルミナちゃん」
「おっさんの話しを、あたしも前向きに考えて、息子がどんなヤツか、情報を集めたんだ。身内からは見えないことってあるだろう?そしてこのカフェには、学園の人たちも通ってくれてるからさ」
商会長の息子が通っている学園は、ほとんどが貴族だ。
平民で通えるのは、金持ちで賢い子。金を持っているだけや、賢いだけの子は入学することはできない。
商会長の息子は学園に通っているので賢い……はずなのだが、男爵令嬢に骨抜きにされ、こともあろうに、王子の婚約者の公爵令嬢に酷い態度を取っているという情報を仕入れた。
「なぜウチの息子が」
商会長は息子が王子の側近を務めていることは知っていたが、そんな恥知らずな行動を取っていることは知らなかった。
「王子様が男爵令嬢の取り巻きの一人になっちまってるんだ。王子様もメアリー様に酷い態度を取っているみたいだよ。メアリー様が言うには、王子様はもともとそういう態度だったから気にはしてないみたいだけど、そりゃ、あくまでも王子様とメアリー様の間だけのことで、おっちゃんの息子は違うよね」
王子が他の女にうつつを抜かしていることは、商会長も小耳に挟んでいたが、息子までもがその女に入れあげて、挙げ句の果てに公爵令嬢に「いつも王子がしているような態度」を取っているとなると話は違ってくる。
「……頭のいい息子だったんだが」
「賢いバカだったね」
「そうだな。賢いバカだな」
「ルミナちゃ。見合いの話はなかったということで」
「分かった。そうそう、メアリー様にも伝えておくね」
メアリーはこのカフェの常連客で、ルミナのことを気に入っている。
――――――
「例の商会の息子さん、退学したわ」
ルミナが商会長に息子の行動について話してから四日後、カフェを訪れたメアリーがコーヒーを飲みながら、ルミナに話し掛けてきた。
「おっちゃん、仕事早いなあ」
「そうね。海外支店で修行をさせるそうよ。あの商会、海の向こうに支店なんて、持ってないはずなのですが」
そう言ってメアリーは微笑む。
「海外展開に一族のヤツを送るのは、よくあることだからな!海路が不安定で座礁しなければ、いいっすねメアリー様」
「そうね」
コーヒーを飲み終えたメアリーは、ルミナにチップを渡してカフェを出た。
ルミナは裏に入りチップを数える。
「ん……」
紙幣の間にメアリーからの感謝の気持ちが綴られていた。
「やっぱ、ムカついてたんだな」
ルミナはメアリーからの手紙を、サイフォン用アルコールランプで燃やして、
「ルミナちゃん!」
「お客もマスターも待ってな!」
表へと戻った。
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