【短編集】ざまぁ

彼岸花

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【連載中】前世を思い出し、破滅確定の子息を連れて逃げた侍女の話

中編

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物語の開始は主人公の悪役令嬢が十七歳。
ジュリアンは悪役令嬢と同い年で、現在十六歳。ジュリアンよりも悪役令嬢のほうが三ヶ月早く十七歳をむかえる。

計算するとタイムリミットは二ヶ月弱。

悪役令嬢の誕生日を知っているのは、貴族の頂点に立つ家柄のお嬢様にして、未来の王妃様なので、貴族なら誰でも覚えている。

その悪役令嬢が十七歳になってすぐに物語が始まったりはしない……と思うけれど、私は知っている。悪役令嬢が物語に記されている時期よりも、早くに記憶を取り戻す可能性があることを!

もっと言えば、悪役令嬢以外にも前世の記憶を持っている人がいる可能性があることを。実際、私のように前世を思い出した、名もなきモブどころか、一切登場しないモブもいるのだから。

最良なのはざまぁされる男爵令嬢も記憶を記憶持ちで、悪役令嬢と仲良く過ごすエンドだけれど、そこに賭けられるほど私はギャンブラーじゃない。

男爵令嬢がどこで記憶を取り戻すか解らないのが痛い。

とにかく私は、この家が潰されないように……

「あの人はどこにいったのよ!どうして私の所に帰ってきてくれないの!早く連れ戻して!」
「お嬢……奥様」
「早く!」

浮気男とヒステリー妻と、不倫の子に、ヒステリー妻のことを幼少期から支えている秘めた恋心を持つ執事(ただし、こいつが侯爵家破滅の黒幕)…………いや、潰れてもいいかな?

少し気弱になるのも仕方ない。

それとヒステリーな奥様だが、夫が浮気しているから可哀想というのはあるが、一目惚れした時から、こんな感じだったそうだ。
ヤンデレとか狂愛などマイルドに表現してもいいが、髪を振り乱し偶には引き抜き、自分の爪を噛み、鼻息荒く暴れ回っているその姿は、ヒステリーとしか……。

このヒステリー奥様に、私と似たような恋愛に特に興味のない前世の記憶がインストールされてくれたら、まるく収まりそうなんだが、男爵令嬢が記憶を取り戻して、馬鹿なことをしないで、悪役令嬢と仲良くなってくれたら……なんていう儚い希望を持つのと同じ事。

ジュリアンが破滅しないようにするためには……私の記憶があと十年早く戻っていたら幼いうちから教育……戻っていても、特に関係なかった。
私はいま十九歳(中身の年齢はもっと上だけど)侯爵家の侍女になったのは去年。学校を卒業してから。
十年前の九歳の私には、この侯爵家に来てジュリアンと仲良くなる術がない。

(十七歳の捻くれた子息を、どうやって……)

諦めがちらつくけれど、自分がどんな被害を喰らうかを考えると、まだ諦めるわけにはいかない。

(ジュリアンの親族で真面な人間……殺された面子なら、なんとなく覚えているけど、どれも屑だったような……)

どうしようか?と悩んでいる時に、

「あっ!たしか……」


跡を継ぐ家もなければ、それほど裕福でもないので、卒業後商会に務めた幼馴染みという程ではないが、昔からの知り合いで同い年、学校でもクラスは一緒にならなかったが同級生のカイル。

その務めた先の商会は大商会で、王太子側に付いていて、覚醒した悪役令嬢が昨今の流行らしく商会を作り猛攻を仕掛けてきて、カイルが務めている商会は潰れる。

優秀な者たちは悪役令嬢の商会に再就職できた。カイルが優秀かどうかは知らないけれど、貴族の顧客を多く抱えている大商会に務めている貴族のカイルなら、ジュリアンの親族について何か情報を持っているかもしれない!

ちょっと相談があると手紙を書こう!
そう思っていたら、仕事終わりに侍女長から手紙を渡された。

差出人はカイル。

内容は私が出そうと思っていた手紙と同じ。
直接会って相談に乗って欲しい……一ヶ月前にたまたま会って話をしたときは、特に悩みなんてなさそうだったけど。

私も会って相談に乗って欲しかったから、渡りに船だ。
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