【短編集】ざまぁ

彼岸花

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恨まれて当然なことをした夫未満の話

恨まれて当然なことをした夫未満の話

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夫には学生時代から恋人がいた。
恋人の女性は夫の四歳年上で、学生ではなく、学内で清掃を行っている社会人だった。
夫の恋人は身分が低く、また夫には私という婚約者がいたので、二人は結婚することはできなかった。

私も夫に愛人がいることは知っていたが、貴族の政略結婚にとって、珍しいことではないので、特に何も言わなかった。

初夜に「恋人以外と寝るつもりはない!」と宣言し、実行に移すために寝室から出ていったのには驚いた。

その後、夫は両親に叱責されたが、考えを変えることはなかった。

「どう育てたら、あんな甘ったれになるのか。是非とも、教えて欲しいものだ」
「可愛い可愛い一人息子ちゃんですもの。仕方ないわ」
「…………」
「…………」

私の両親が嫌味を言い、夫の両親は俯いて耐えるだけ。
ここで息子の弁護なんてしたら、更に攻撃されて傷口が広がることが解っているからだろう。

こうして、結婚当日に両家の関係は破綻した。

政略結婚を一方的に破棄したのは夫未満。その為、夫未満の実家に賠償金を請求し、支払われた。
賠償金の額は大したことはないが、政略結婚を破綻させたことにより、夫未満の実家は派閥内での発言力が落ち、また夫未満が爵位を継ぐことに、難色を示す人たちが増え、一族が空中分解しそうなくらい大変なことになっている。

結婚式当日に「愛することはない!」と言って、愛人の所へ向かった男と結婚させられた私としては、そんな一族は滅んでしまえばいいと思うが、一応政略結婚をして利権がどうのこうの……というくらいには力のある一族だったので、これが瓦解してしまうと、領民に影響が出る。

事実、すでに夫未満の一族の領民には影響が出ているらしい。

私は父から「適度に被害者ぶっておけ」と言われた。あまりに悲劇のヒロインを気取ると鼻について、嫌われるだけならまだしも、夫未満側に付かれる可能性があるからだ。

「その適度というのが、難しいのだけど」

そんなことを呟きながら、私はあまり人とは接することなく、でも友人たちとは適度にお茶会を開いて情報を流したり、仕入れたりしていた。

「あの人が愛人に入れ込んでいるのは、有名な話だったものね」
「愛人を排除しておくべきだったと、今更後悔しているのでしょう」
「いままで愛人のことを見逃してきた人たちだって、今回のことで排除に動くでしょう」
「とにかく愛人の排除は、確実よね」

夫未満の愛人が排除されるのが時間の問題なのは、誰の目にも明らかだった。

それから数日もしないうちに、夫未満の愛人が殺害された教えられた。
聞けば領地が荒れて、行き場を失い、今日の食事すら事欠くことになった領民たちが、この状況が「夫未満が契約を一方的に破棄したせいだ」と知り、その元凶で自分たちの手が届く範囲にいる、夫未満の愛人の家へ大挙して押しかけ、酷い暴行を受けて、最後は文字通りバラバラになった。

――――――

「お前のせいで、彼女は死んだんだ!」

夫未満の愛人が殺害されてから一ヶ月ほど過ぎた頃、何故か夫未満が我が家にやってきた。
もちろん、邸に入れる筋合いはないので、門扉を固く閉ざし放置していたが、夫未満はしつこかった。
門扉にしがみつき、愛人が死んだのは私のせいだと叫び続ける。

「私、彼女と会ったこともないのですが」

なんでそんなことを叫いているのだろう?不思議に思ったが、わざわざ門まで足を運んで話を聞く気にはならないので、放置しておいた。

「恥ずかしいことをするな、この馬鹿が!」
「痛い! 殴るな!」
「殴られるようなことをした、お前が悪い!」

その後、夫未満の一族が回収していった。この一件で、夫未満は完全に一族に見限られ、爵位を継げないだけではなく、領地で幽閉されることになった。

あと、興味はなかったのだが、我が家に押しかけ叫いたので、あの言動の理由についての報告は届いた。

夫未満が「私のせいで愛人が死んだ」と叫んでいた理由だが、私という婚約者がいたので金が自由にならず、愛人を警備が厳重な邸に住まわせることができず、ちょっといいアパートしか借りられなかった。
そんな所に住んでいたから、襲われ亡くなってしまったのだと……。

「ヤツは気が触れてしまったのだろう」

私という婚約者がいたから、金が自由にならない?そちらのお金の使い方なんて、私には関係ないのですが?
警備が厳重な邸に住まわせることができない?私達、すぐに離婚しましたよね?私は挙式当日に両親と共に実家に帰りましたが?
アパートしか借りられない理由は知らないが、愛人が襲われたのは、私と貴方が離婚してから半年以上過ぎてましたよね?私になんの関係が?

「もともと気が触れていた人なのでしょう。そうとしか思えません」

夫未満の愛人は、一時だけでも裕福な生活をしたいと思って手を取ったのか?それとも永遠に幸せが続くと思ったのか。

愛人がどんな性格だったのかは知らないが、こんな男の愛人になったところで、人生が詰むのはほとんどの人には解っていた。

「解っていなかったのは、当事者の二人だけでしょうね」

だから、こうなったのだろう。

夫未満が我が家に訪れて、門扉前で大騒ぎしてから三ヶ月後、夫未満が亡くなったという連絡が届いた。
そんな連絡は必要ないのだが、

「愛人の死が辛く、現実逃避して、食事もとらなくなり餓死した」

とのこと。
おそらく、というか確実に、餓死させられたのだろう。現実逃避して幸せに閉じこもって死ぬなんて、一族の者たちが許すはずがないから。

「貴族の責務を果たして買う恨みと、好き勝手して買う恨みの結末が違うのは当然よ」

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