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私のささやかな望みです
後編
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友人の実家を出た私は、そのまま実家へと向かった。
嫁いだ娘がいきなり帰ってきたことに、両親は驚き、友人が集めてくれた証拠に目を通して更に驚いた。
「それで、どうしたい?」
「これが真実だとしたら、私は子どもを取り上げられ、離婚されるか殺害されることになります」
「殺害は、行きすぎでは?」
「出産直後、母体は弱ります。産褥死という言葉もあるくらいですから。それに、子どもができない女と結婚したいから、他の女と結婚して子どもを取り上げて再婚しようと、両家ぐるみで考えるような一族が、真面だとお思いで?」
私の言葉に父は目を閉じて少し考え、
「子どもを取り上げて、再婚しようとしているかどうか?について裏を取る。それまで、妊娠しないよう注意を払え」
「かなり難しいことです。なにせあちら側は、妊娠を望んで色々なことをしてくるのですから」
「解っている。こちらも、取れる手は取ろう」
「友人のご両親にお礼をしなくてはいけませんね。そうそう、明日にでも避妊用の茶葉やアロマオイルを届けるから、しっかりと使いなさい」
報告書の端を握り締めながら、母が怖ろしい笑顔を作った。
おかしな動きをして、夫たちに気取られては困るので、今までと変わらない生活を心がけた。
避妊用の茶葉は、普通の紅茶に混ぜて。
紅茶の風味が損なわれるが、仕方ない。アロマオイルはハンカチに数滴落として。
気付かれるか?と思っていたが、夫たちは、私に計画が漏れているとは知らないので、変わった動きをすることはなかった。
それは調査も同じことだったらしい。
「思いのほか、簡単に情報が手に入った」
父に呼ばれて実家に帰り、友人両親が調べてくれたことが真実だと、父も認めた。
「それで、どうします?」
「殺害されるかどうかは解らないが、子どもを産めば離縁は確実。その時に、相手側が難癖を付けてお前に責任を負わせるとも限らない」
「個人的にはそれはないと考えます」
「なぜだ?」
「あの人達は跡取りが欲しいのです。跡取りの母親に問題があった……は避けたいでしょう。だからこそ、生まれてすぐに母親を失った息子と、妻を亡くした夫を献身的に支えた従姉と再婚……という流れに持っていくと思うのです」
「…………跡取り息子の経歴を汚さず、美談に仕立て上げる……か。舐めてくれたものだな」
父は少し考えて、不機嫌そうに言い捨てた。
「甘く見ているからこそ、私と結婚したのでしょう」
それに対しての私の言葉。父は苦笑し、
「甘く見たことを後悔させてやる」
その後、怒りを滲ませた声で呟いた……それから三ヶ月もしないうちに、私は夫と離婚することになった。
離婚理由は私の夫の悪評が立ちすぎたので、縁を切らせてもらう……というもの。悪評を立てたのは父なのだが。
父はまず、離婚した従姉の元夫のところへと行き、元夫の実家を巻き込んで「従姉が流産したのは、浮気相手の子だった」という噂を流した。
そして頻繁に従姉の家に出入りする男がいる、その男は従姉が結婚していた時にも外で会っていた……など、本当のことを流布させた。
本当のことなので、これらの話を消すことができない。
そして「跡取りがいる男性と再婚予定」という、こちらも本当の情報を流した。
従姉の家に出入りする、若い男性は夫だけなので、二人が「そういう関係」ということは、すぐに知れ渡った。
友人の両親が情報を集めてくれたことからも解る通り、従姉一家の使用人たちは、ぽろぽろと二人の関係を漏らしてもいたので「そう言えば聞いたことがある……」と言い出す使用人の知人たち。
「そう言えば先代当主が別れさせた」「流産した子は……だろうね」「離婚した従姉をエスコートしていたのは、そういうわけか」等の噂が広まる。
両家は頻度は高いがあくまでも親戚の交流の範囲内だと、言っていたが、
「私は従姉の家を訪れたことはありません。夫や義理の両親に誘われたことはありません。結婚式にも披露宴にもお越しになっていないので、存在すら存じませんでした」
従姉は愛しい従弟、要するに私の夫の結婚式に参列するのは、辛すぎるということで、参加していなかった。
何よりも私は従姉の存在を隠されていたので、本当に知らなかった。
こうして本家と分家が結託して、跡取りを産ませた妻を殺害して、再婚して幸せに暮らす計画を立てていたという、真実が街を席巻した。
両家は子どもを取り上げる計画だったことは認めたが、私のことは殺害するつもりはないと必死に「噂」を訂正しようとしたが「なんの落ち度もない妻とどうやって離縁するつもりだったんだ?」という問いに対して、言葉を濁すことしかできなかった。
「産後に毒を盛って、産褥熱で死んだということにするつもりだったのだろう」や「産後、体の自由がきかない間に殺害して、駆け落ちしたことにしようとしたのでは」等。跡取りの経歴を汚さないようにするためには、最初の「産褥死を装って」というのが、多くの人に受け入れられた。
夫と従姉の一族は「非道極まりない一族」として白眼視され、他の親族から「まずは離婚すべき」と諭され、
「申し訳なかった」
離婚が成立後、元夫が深々と頭を下げた。その時の言葉は、不快感もなく……本心からだったのかも知れないが、もう遅い。
従姉一族は一家心中をはかって、全員この世を去った……ことになっているが、本当は一族によって殺害された。
かなり惨たらしい死体だったが、顔は全く傷付いておらず、死体もすぐに見付かったので、身元に間違いはないそうだ。
だって従姉一家がいたら、本家の跡取りである元夫のところに、誰も嫁に来てくれないから。
たとえ、元夫を本家の跡取りから降ろしたとしても自浄作用のない一族に、外から嫁ぎたくはないからね。
私は特に慰謝料など貰わずに離婚したので、財政的には厳しくはないと思うので、是非ともこの先頑張って、足掻き苦み惨めに生きていって欲しい。
それが殺害されそうになった元妻の、ささやかな望みです。
嫁いだ娘がいきなり帰ってきたことに、両親は驚き、友人が集めてくれた証拠に目を通して更に驚いた。
「それで、どうしたい?」
「これが真実だとしたら、私は子どもを取り上げられ、離婚されるか殺害されることになります」
「殺害は、行きすぎでは?」
「出産直後、母体は弱ります。産褥死という言葉もあるくらいですから。それに、子どもができない女と結婚したいから、他の女と結婚して子どもを取り上げて再婚しようと、両家ぐるみで考えるような一族が、真面だとお思いで?」
私の言葉に父は目を閉じて少し考え、
「子どもを取り上げて、再婚しようとしているかどうか?について裏を取る。それまで、妊娠しないよう注意を払え」
「かなり難しいことです。なにせあちら側は、妊娠を望んで色々なことをしてくるのですから」
「解っている。こちらも、取れる手は取ろう」
「友人のご両親にお礼をしなくてはいけませんね。そうそう、明日にでも避妊用の茶葉やアロマオイルを届けるから、しっかりと使いなさい」
報告書の端を握り締めながら、母が怖ろしい笑顔を作った。
おかしな動きをして、夫たちに気取られては困るので、今までと変わらない生活を心がけた。
避妊用の茶葉は、普通の紅茶に混ぜて。
紅茶の風味が損なわれるが、仕方ない。アロマオイルはハンカチに数滴落として。
気付かれるか?と思っていたが、夫たちは、私に計画が漏れているとは知らないので、変わった動きをすることはなかった。
それは調査も同じことだったらしい。
「思いのほか、簡単に情報が手に入った」
父に呼ばれて実家に帰り、友人両親が調べてくれたことが真実だと、父も認めた。
「それで、どうします?」
「殺害されるかどうかは解らないが、子どもを産めば離縁は確実。その時に、相手側が難癖を付けてお前に責任を負わせるとも限らない」
「個人的にはそれはないと考えます」
「なぜだ?」
「あの人達は跡取りが欲しいのです。跡取りの母親に問題があった……は避けたいでしょう。だからこそ、生まれてすぐに母親を失った息子と、妻を亡くした夫を献身的に支えた従姉と再婚……という流れに持っていくと思うのです」
「…………跡取り息子の経歴を汚さず、美談に仕立て上げる……か。舐めてくれたものだな」
父は少し考えて、不機嫌そうに言い捨てた。
「甘く見ているからこそ、私と結婚したのでしょう」
それに対しての私の言葉。父は苦笑し、
「甘く見たことを後悔させてやる」
その後、怒りを滲ませた声で呟いた……それから三ヶ月もしないうちに、私は夫と離婚することになった。
離婚理由は私の夫の悪評が立ちすぎたので、縁を切らせてもらう……というもの。悪評を立てたのは父なのだが。
父はまず、離婚した従姉の元夫のところへと行き、元夫の実家を巻き込んで「従姉が流産したのは、浮気相手の子だった」という噂を流した。
そして頻繁に従姉の家に出入りする男がいる、その男は従姉が結婚していた時にも外で会っていた……など、本当のことを流布させた。
本当のことなので、これらの話を消すことができない。
そして「跡取りがいる男性と再婚予定」という、こちらも本当の情報を流した。
従姉の家に出入りする、若い男性は夫だけなので、二人が「そういう関係」ということは、すぐに知れ渡った。
友人の両親が情報を集めてくれたことからも解る通り、従姉一家の使用人たちは、ぽろぽろと二人の関係を漏らしてもいたので「そう言えば聞いたことがある……」と言い出す使用人の知人たち。
「そう言えば先代当主が別れさせた」「流産した子は……だろうね」「離婚した従姉をエスコートしていたのは、そういうわけか」等の噂が広まる。
両家は頻度は高いがあくまでも親戚の交流の範囲内だと、言っていたが、
「私は従姉の家を訪れたことはありません。夫や義理の両親に誘われたことはありません。結婚式にも披露宴にもお越しになっていないので、存在すら存じませんでした」
従姉は愛しい従弟、要するに私の夫の結婚式に参列するのは、辛すぎるということで、参加していなかった。
何よりも私は従姉の存在を隠されていたので、本当に知らなかった。
こうして本家と分家が結託して、跡取りを産ませた妻を殺害して、再婚して幸せに暮らす計画を立てていたという、真実が街を席巻した。
両家は子どもを取り上げる計画だったことは認めたが、私のことは殺害するつもりはないと必死に「噂」を訂正しようとしたが「なんの落ち度もない妻とどうやって離縁するつもりだったんだ?」という問いに対して、言葉を濁すことしかできなかった。
「産後に毒を盛って、産褥熱で死んだということにするつもりだったのだろう」や「産後、体の自由がきかない間に殺害して、駆け落ちしたことにしようとしたのでは」等。跡取りの経歴を汚さないようにするためには、最初の「産褥死を装って」というのが、多くの人に受け入れられた。
夫と従姉の一族は「非道極まりない一族」として白眼視され、他の親族から「まずは離婚すべき」と諭され、
「申し訳なかった」
離婚が成立後、元夫が深々と頭を下げた。その時の言葉は、不快感もなく……本心からだったのかも知れないが、もう遅い。
従姉一族は一家心中をはかって、全員この世を去った……ことになっているが、本当は一族によって殺害された。
かなり惨たらしい死体だったが、顔は全く傷付いておらず、死体もすぐに見付かったので、身元に間違いはないそうだ。
だって従姉一家がいたら、本家の跡取りである元夫のところに、誰も嫁に来てくれないから。
たとえ、元夫を本家の跡取りから降ろしたとしても自浄作用のない一族に、外から嫁ぎたくはないからね。
私は特に慰謝料など貰わずに離婚したので、財政的には厳しくはないと思うので、是非ともこの先頑張って、足掻き苦み惨めに生きていって欲しい。
それが殺害されそうになった元妻の、ささやかな望みです。
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