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下らないことをする二人に鉄槌を下した話
前編
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「あの時のユーリの顔ったら、無かったわよね」
「そうそう。そしてフェナが驚きすぎて、ワイングラスを持って」
「あれは、傑作だったわ」
昔話に話を咲かせている二人を眺めながら、ヘンリエッタは紅茶を口へと運ぶ。すっかり温くなってしまったお茶は、渋くて飲めたものではないが、今のヘンリエッタにとってはどうでも良かった。
「あーご免なさい、ヘンリエッタさん。ついつい、ヨーゼフと私しか知らない話題で盛り上がっちゃって。知らないヘンリエッタさんは、つまらないでしょう」
「ええ、まあ、つまらないですね」
「本当にご免なさいね」
「おい、ヘンリエッタ。そんな言い方はないだろう」
ヘンリエッタの前で楽しげに昔の話題で盛り上がっているのは、ヘンリエッタの夫のヨーゼフと、ヨーゼフの女友達のリサ。
二人は同級生で、数名のグループで過ごしていた。
……と、ヘンリエッタも聞いてはいた。グループに女性がいるのも、おかしいことではない。
ヨーゼフとは違う学校に通っていたヘンリエッタも、仲良しグループに男性がいたし、連絡も取り合って”いた”が、
「ヨーゼフが最初に結婚するなんて、思ってもいなかったわ」
「驚いただろう」
婚約してから個別に送ったのは、結婚の招待状だけ。そして結婚式に出席してくれた彼らが、一人で新婚家庭を訪れることはない。
それが当たり前なのだが、ヘンリエッタの夫ヨーゼフの女友達のリサは一人で、二人の家庭に入り浸っていた。
当初ヘンリエッタは、ヨーゼフにリサの訪問を控えて欲しいと頼んだのだが、友人がせっかく遊びに来てくれているのだからと、全く聞き入れなかった。
「私とヨーゼフは学生時代、付き合っていたの、ねえ、ヨーゼフ」
「ああ」
「ヨーゼフに婚約者がいたから別れたんだけど、なんで貴女が後釜なの」
ヨーゼフには婚約者がいた。それはヘンリエッタでは無かった。だがその元婚約者の実家の跡取りが病で儚くなったので、元婚約者が婿を取って家を継ぐことになった。
ヨーゼフは跡取り息子なので、二人の婚約は解消となり、その元婚約者の親族がヨーゼフの嫁を探し、ヘンリエッタに白羽の矢が立った。
それどころかヨーゼフはリサに、もっと遊びに来るように言い、リサもそれに従い、ヘンリエッタのヨーゼフに対する感情は、無に等しかったのに、今やマイナスに転じてしまった。
(頼まれて嫁いだというのに、バカバカしい)
――――――
リサの実家に、裁判所からの書類が届けられた時、リサの実家は大騒ぎになった。
書類を受け取った執事が、邸内を走り邸の主であるリサの父親に告げると驚き、何かの間違いではないかと配達人に尋ねたが、裁判所から送られてきた役人は「間違いない」と無情に言い放った。
配達人が去ったあと、リサの母親も帰宅したので、二人は書斎で裁判所からの書類の封を開けて中身を確認した。
内容はリサの不貞。
意味が解らないリサの両親が、急いでリサを呼ぶように指示を出したが、家にはいなかった。
何処へ行ったのかと執事に尋ねると、リサを不貞で訴えたヘンリエッタが夫と住んでいる家だと言われ、両親は急いでヨーゼフの邸へと向かった。
そこで両親は、ガゼボで並んで座って肩を寄せ合っている二人を見て、訴えが間違いではないことを受け入れた。
いきなり現れた自分の両親に、リサは驚いてヨーゼフから離れる。それは両親の前ではしてはいけないことだと、知っていたことに他ならない。
「何をしているのだ、リサ!」
「帰るわよ!」
いきなり現れたリサの両親の剣幕に、ヨーゼフは驚きなにも言葉を発することはできなかった。
リサを自宅に連れ帰った両親は、リサに詰問した。
リサの両親はリサから「学生時代の友人と会っている」としか聞かされていなかった。
たしかにヨーゼフは学生時代の友人だが、両親は女友達だとばかり。結婚前の娘が、新婚家庭に入り浸り、夫に撓垂れて「学生時代、体の関係があったの」などと妻に向かって言っているなんて、考えもしなかった。
「学生時代に肉体関係があったと書かれているぞ!」
「ただの冗談よ!」
「言ってよい冗談と、悪い冗談がある!お前のそれは、悪いうえに全く笑えない!」
「それのどこが、冗談なのよ!身持ちが悪いと吹聴しているだけじゃないの」
「だから冗談だって」
「お前が冗談だと思っても、常識と良識がある人間は、冗談だとは思わない。不快なだけだ!」
「貴女は学生時代に男友達と寝た女として、裁判記録に残るのよ!」
「え……だって、冗談……で」
「婚約は破棄されるな。慰謝料をどうするか」
「その前に、ヘンリエッタ嬢にお支払いする慰謝料を」
リサは非常識だが、リサの両親は真面だった。
「そうそう。そしてフェナが驚きすぎて、ワイングラスを持って」
「あれは、傑作だったわ」
昔話に話を咲かせている二人を眺めながら、ヘンリエッタは紅茶を口へと運ぶ。すっかり温くなってしまったお茶は、渋くて飲めたものではないが、今のヘンリエッタにとってはどうでも良かった。
「あーご免なさい、ヘンリエッタさん。ついつい、ヨーゼフと私しか知らない話題で盛り上がっちゃって。知らないヘンリエッタさんは、つまらないでしょう」
「ええ、まあ、つまらないですね」
「本当にご免なさいね」
「おい、ヘンリエッタ。そんな言い方はないだろう」
ヘンリエッタの前で楽しげに昔の話題で盛り上がっているのは、ヘンリエッタの夫のヨーゼフと、ヨーゼフの女友達のリサ。
二人は同級生で、数名のグループで過ごしていた。
……と、ヘンリエッタも聞いてはいた。グループに女性がいるのも、おかしいことではない。
ヨーゼフとは違う学校に通っていたヘンリエッタも、仲良しグループに男性がいたし、連絡も取り合って”いた”が、
「ヨーゼフが最初に結婚するなんて、思ってもいなかったわ」
「驚いただろう」
婚約してから個別に送ったのは、結婚の招待状だけ。そして結婚式に出席してくれた彼らが、一人で新婚家庭を訪れることはない。
それが当たり前なのだが、ヘンリエッタの夫ヨーゼフの女友達のリサは一人で、二人の家庭に入り浸っていた。
当初ヘンリエッタは、ヨーゼフにリサの訪問を控えて欲しいと頼んだのだが、友人がせっかく遊びに来てくれているのだからと、全く聞き入れなかった。
「私とヨーゼフは学生時代、付き合っていたの、ねえ、ヨーゼフ」
「ああ」
「ヨーゼフに婚約者がいたから別れたんだけど、なんで貴女が後釜なの」
ヨーゼフには婚約者がいた。それはヘンリエッタでは無かった。だがその元婚約者の実家の跡取りが病で儚くなったので、元婚約者が婿を取って家を継ぐことになった。
ヨーゼフは跡取り息子なので、二人の婚約は解消となり、その元婚約者の親族がヨーゼフの嫁を探し、ヘンリエッタに白羽の矢が立った。
それどころかヨーゼフはリサに、もっと遊びに来るように言い、リサもそれに従い、ヘンリエッタのヨーゼフに対する感情は、無に等しかったのに、今やマイナスに転じてしまった。
(頼まれて嫁いだというのに、バカバカしい)
――――――
リサの実家に、裁判所からの書類が届けられた時、リサの実家は大騒ぎになった。
書類を受け取った執事が、邸内を走り邸の主であるリサの父親に告げると驚き、何かの間違いではないかと配達人に尋ねたが、裁判所から送られてきた役人は「間違いない」と無情に言い放った。
配達人が去ったあと、リサの母親も帰宅したので、二人は書斎で裁判所からの書類の封を開けて中身を確認した。
内容はリサの不貞。
意味が解らないリサの両親が、急いでリサを呼ぶように指示を出したが、家にはいなかった。
何処へ行ったのかと執事に尋ねると、リサを不貞で訴えたヘンリエッタが夫と住んでいる家だと言われ、両親は急いでヨーゼフの邸へと向かった。
そこで両親は、ガゼボで並んで座って肩を寄せ合っている二人を見て、訴えが間違いではないことを受け入れた。
いきなり現れた自分の両親に、リサは驚いてヨーゼフから離れる。それは両親の前ではしてはいけないことだと、知っていたことに他ならない。
「何をしているのだ、リサ!」
「帰るわよ!」
いきなり現れたリサの両親の剣幕に、ヨーゼフは驚きなにも言葉を発することはできなかった。
リサを自宅に連れ帰った両親は、リサに詰問した。
リサの両親はリサから「学生時代の友人と会っている」としか聞かされていなかった。
たしかにヨーゼフは学生時代の友人だが、両親は女友達だとばかり。結婚前の娘が、新婚家庭に入り浸り、夫に撓垂れて「学生時代、体の関係があったの」などと妻に向かって言っているなんて、考えもしなかった。
「学生時代に肉体関係があったと書かれているぞ!」
「ただの冗談よ!」
「言ってよい冗談と、悪い冗談がある!お前のそれは、悪いうえに全く笑えない!」
「それのどこが、冗談なのよ!身持ちが悪いと吹聴しているだけじゃないの」
「だから冗談だって」
「お前が冗談だと思っても、常識と良識がある人間は、冗談だとは思わない。不快なだけだ!」
「貴女は学生時代に男友達と寝た女として、裁判記録に残るのよ!」
「え……だって、冗談……で」
「婚約は破棄されるな。慰謝料をどうするか」
「その前に、ヘンリエッタ嬢にお支払いする慰謝料を」
リサは非常識だが、リサの両親は真面だった。
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