【短編集】ざまぁ

彼岸花

文字の大きさ
上 下
22 / 26
下らないことをする二人に鉄槌を下した話

前編

しおりを挟む
「あの時のユーリの顔ったら、無かったわよね」
「そうそう。そしてフェナが驚きすぎて、ワイングラスを持って」
「あれは、傑作だったわ」

昔話に話を咲かせている二人を眺めながら、ヘンリエッタは紅茶を口へと運ぶ。すっかり温くなってしまったお茶は、渋くて飲めたものではないが、今のヘンリエッタにとってはどうでも良かった。

「あーご免なさい、ヘンリエッタさん。ついつい、ヨーゼフと私しか知らない話題で盛り上がっちゃって。知らないヘンリエッタさんは、つまらないでしょう」
「ええ、まあ、つまらないですね」
「本当にご免なさいね」
「おい、ヘンリエッタ。そんな言い方はないだろう」

ヘンリエッタの前で楽しげに昔の話題で盛り上がっているのは、ヘンリエッタの夫のヨーゼフと、ヨーゼフの女友達のリサ。
二人は同級生で、数名のグループで過ごしていた。
……と、ヘンリエッタも聞いてはいた。グループに女性がいるのも、おかしいことではない。
ヨーゼフとは違う学校に通っていたヘンリエッタも、仲良しグループに男性がいたし、連絡も取り合って”いた”が、

「ヨーゼフが最初に結婚するなんて、思ってもいなかったわ」
「驚いただろう」

婚約してから個別に送ったのは、結婚の招待状だけ。そして結婚式に出席してくれた彼らが、一人で新婚家庭を訪れることはない。

それが当たり前なのだが、ヘンリエッタの夫ヨーゼフの女友達のリサは一人で、二人の家庭に入り浸っていた。

当初ヘンリエッタは、ヨーゼフにリサの訪問を控えて欲しいと頼んだのだが、友人がせっかく遊びに来てくれているのだからと、全く聞き入れなかった。

「私とヨーゼフは学生時代、付き合っていたの、ねえ、ヨーゼフ」
「ああ」
「ヨーゼフに婚約者がいたから別れたんだけど、なんで貴女が後釜なの」

ヨーゼフには婚約者がいた。それはヘンリエッタでは無かった。だがその元婚約者の実家の跡取りが病で儚くなったので、元婚約者が婿を取って家を継ぐことになった。
ヨーゼフは跡取り息子なので、二人の婚約は解消となり、その元婚約者の親族がヨーゼフの嫁を探し、ヘンリエッタに白羽の矢が立った。

それどころかヨーゼフはリサに、もっと遊びに来るように言い、リサもそれに従い、ヘンリエッタのヨーゼフに対する感情は、無に等しかったのに、今やマイナスに転じてしまった。

(頼まれて嫁いだというのに、バカバカしい)

――――――
リサの実家に、裁判所からの書類が届けられた時、リサの実家は大騒ぎになった。
書類を受け取った執事が、邸内を走り邸の主であるリサの父親に告げると驚き、何かの間違いではないかと配達人に尋ねたが、裁判所から送られてきた役人は「間違いない」と無情に言い放った。

配達人が去ったあと、リサの母親も帰宅したので、二人は書斎で裁判所からの書類の封を開けて中身を確認した。

内容はリサの不貞。

意味が解らないリサの両親が、急いでリサを呼ぶように指示を出したが、家にはいなかった。
何処へ行ったのかと執事に尋ねると、リサを不貞で訴えたヘンリエッタが夫と住んでいる家だと言われ、両親は急いでヨーゼフの邸へと向かった。

そこで両親は、ガゼボで並んで座って肩を寄せ合っている二人を見て、訴えが間違いではないことを受け入れた。

いきなり現れた自分の両親に、リサは驚いてヨーゼフから離れる。それは両親の前ではしてはいけないことだと、知っていたことに他ならない。

「何をしているのだ、リサ!」
「帰るわよ!」

いきなり現れたリサの両親の剣幕に、ヨーゼフは驚きなにも言葉を発することはできなかった。

リサを自宅に連れ帰った両親は、リサに詰問した。

リサの両親はリサから「学生時代の友人と会っている」としか聞かされていなかった。
たしかにヨーゼフは学生時代の友人だが、両親は女友達だとばかり。結婚前の娘が、新婚家庭に入り浸り、夫に撓垂れて「学生時代、体の関係があったの」などと妻に向かって言っているなんて、考えもしなかった。

「学生時代に肉体関係があったと書かれているぞ!」
「ただの冗談よ!」
「言ってよい冗談と、悪い冗談がある!お前のそれは、悪いうえに全く笑えない!」
「それのどこが、冗談なのよ!身持ちが悪いと吹聴しているだけじゃないの」
「だから冗談だって」
「お前が冗談だと思っても、常識と良識がある人間は、冗談だとは思わない。不快なだけだ!」
「貴女は学生時代に男友達と寝た女として、裁判記録に残るのよ!」
「え……だって、冗談……で」
「婚約は破棄されるな。慰謝料をどうするか」
「その前に、ヘンリエッタ嬢にお支払いする慰謝料を」


リサは非常識だが、リサの両親は真面だった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

別に要りませんけど?

ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」 そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。 「……別に要りませんけど?」 ※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。 ※なろうでも掲載中

嫁ぎ先(予定)で虐げられている前世持ちの小国王女はやり返すことにした

基本二度寝
恋愛
小国王女のベスフェエラには前世の記憶があった。 その記憶が役立つ事はなかったけれど、考え方は王族としてはかなり柔軟であった。 身分の低い者を見下すこともしない。 母国では国民に人気のあった王女だった。 しかし、嫁ぎ先のこの国に嫁入りの準備期間としてやって来てから散々嫌がらせを受けた。 小国からやってきた王女を見下していた。 極めつけが、周辺諸国の要人を招待した夜会の日。 ベスフィエラに用意されたドレスはなかった。 いや、侍女は『そこにある』のだという。 なにもかけられていないハンガーを指差して。 ニヤニヤと笑う侍女を見て、ベスフィエラはカチンと来た。 「へぇ、あぁそう」 夜会に出席させたくない、王妃の嫌がらせだ。 今までなら大人しくしていたが、もう我慢を止めることにした。

罪なき令嬢 (11話作成済み)

京月
恋愛
無実の罪で塔に幽閉されてしまったレレイナ公爵令嬢。 5年間、誰も来ない塔での生活は死刑宣告。 5年の月日が経ち、その塔へと足を運んだ衛兵が見たのは、 見る者の心を奪う美女だった。 ※完結済みです。

美人な姉と『じゃない方』の私

LIN
恋愛
私には美人な姉がいる。優しくて自慢の姉だ。 そんな姉の事は大好きなのに、偶に嫌になってしまう時がある。 みんな姉を好きになる… どうして私は『じゃない方』って呼ばれるの…? 私なんか、姉には遠く及ばない…

王侯貴族、結婚相手の条件知ってますか?

時見 靜
恋愛
病弱な妹を虐げる悪女プリシア・セノン・リューゲルト、リューゲルト公爵家の至宝マリーアン・セノン・リューゲルト姉妹の評価は真っ二つに別れていたけど、王太子の婚約者に選ばれたのは姉だった。 どうして悪評に塗れた姉が選ばれたのか、、、 その理由は今夜の夜会にて

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

処理中です...