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第三章

ミカちゃん

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 小学校しょうがっこう最後さいご運動会うんどうかい学芸会がくげいかいわって、二学期にがっきもあとすこしとなりました。
ブンちゃん、リキヤくん、ミカちゃんたちの卒業そつぎょうまで、もう三か月さんかげつほどです。
 
 12月最初さいしょ土曜日どようびはさわやかにれて、こよみの上では、もうふゆはじまっているのに、すこ陽射ひざしのあたたかい日になりました。
そらまれそうなあおで、所々ところどころ、小さなくもかんでいます。
まちのイチョウの木は黄色きいろめていますが、ブランコ山の大イチョウはわずかかに黄緑色きみどりいろのこしていました。

「キキキーー」

ブンちゃんが自転車じてんしゃってブランコ山にやってました。
公園こうえんでは、小さな子たちがたのしいそうにあそんでいます。
自転車じてんしゃ置場おきばは子どもをせる椅子いすいた自転車じてんしゃでいっぱいです。
自転車じてんしゃめて公園こうえんに入ると、ブンちゃんはなにかにきました。
(あれ、リキヤ君?)
ベンチにはリキヤ君がすわっていました。
ブンちゃんはゆっくりと近付ちかづき、ベンチのうしろから、リキヤ君のかたをポンとたたいて、こえをかけました。

「よう!」

すこおどろいた様子ようすいたリキヤ君は、ブンちゃんのかおを見て「なーんだ」と表情ひょうじょうかえしました。

「おう」

ブンちゃんはベンチにすわると、リキヤ君のかおのぞんでたずねました。

「どうしたの?」

リキヤ君が一人ひとりでベンチにすわっていることが、ブンちゃんにはすこ不思議ふしぎかんじでした。
リキヤ君はブンちゃんと目をわさずに学校がっこうほうを見ながら、すこしごまかすようにかえしました。

「えっ、ああ、ひまだからてみた」

リキヤ君のごまかす様子ようすで、リキヤ君がここにいる理由りゆうなんとなくかったブンちゃんは、ニヤッとしながらリキヤ君のかおのぞんで、すこ意地悪いじわるかんじで、またたずねました。

「いつもー?」

ブンちゃんのかたで、言葉ことば意味いみ気付きづいたリキヤ君は、ずかしそうにうつむくと、みをかべ、視線__しせん__#を学校がっこうほうもどしていました。

「たまにだよ、たまに。時間じかんがあるときだけ」

ブンちゃんは、とぼけたように、

「ふーーーん」

と、返事へんじをして、空を見上みあげます。

今度こんどはリキヤ君がブンちゃんにかえしました。

「おまえこそ、どうしたんだよ」

ブンちゃんも学校がっこうほうに目をけると、ニヤッとして、

「リキヤ君とおなじ」

と、こたえました。

二人ふたりはおたがいのかおって

「ふーーーん」

こえわせると、すこをおいて、

「ハハハハハー」

わらい出しました。
 
 学校がっこうこうに見える山並やまなみは、すこかたむきかけた太陽たいようらされて、ひかりたるところと、かげになるところがはっきりとかれています。
二人ふたりはぼんやりととおくの空をながめていました。

「ワッ!」

突然とつぜんうしろから大きなこえがしました。
(なに?なに?)
ブンちゃんはビックリしてきます。

そこに立っていたのは、ニッコリとわらったミカちゃんでした。

なにたそがれちゃってるのよ、男同士おとこどうしで」

ミカちゃんはベンチのもたれにうでせると、ニヤニヤしながら目を左右さゆうにキョロキョロさせました。
すこおこったようにリキヤ君が、

なんでもねーよ」

と、こたえます。
リキヤ君はドキドキしています。
そして、ブンちゃんに「だまってろよ」と合図あいずするかのように、

「な!」

って、ブンちゃんのかおのぞみました。
ブンちゃんはあわててこたえます。

「あ、ああ、なんでもない」

「リキヤ君は女の子をっている」なんてえません。
ブンちゃんは何事なにごともないようなかおをして、ミカちゃんから目をらしました。
ミカちゃんは眉間みけんにしわをせ、目をほそめて二人ふたりをジロジロ見ます。

「あやしーーーい」

リキヤ君とブンちゃんは目をわせないように、ジッとまえを見ています。

「ま、いいか」

ミカちゃんはそううと、無理むりやり二人ふたりあいだんで、ベンチにすわりました。
ミカちゃんは大胆だいたんです。

なんだよーーー」

ビックリしたリキヤ君が、れたようにこえを上げました。
リキヤ君のかおあかくなっています。
でも、リキヤ君のかおは、どことなくうれしそうでした。

「ミカこそ、どうしたんだよ」

リキヤ君が反撃はんげきするようにミカちゃんにかえします。

すこけて、今度こんどはミカちゃんが空を見上みあげてこたえました。

「べっつにーー」

ごまかすようにそううと、ミカちゃんは学校がっこうほうに目をけました。
 
 太陽たいようやわらかいひかりで三人のほおらします。
しばらくの沈黙ちんもくあと、ミカちゃんが「プッ」とすと、三人は「ククククッ、アハハハハ」とわらい出しました。

小学校しょうがっこう最後さいごとし、三人はまたおなじクラスになっていました。
 
 ミカちゃんは相変あいかわらずおしゃべりで、言葉ことば使づかいは乱暴らんぼうでしたが、しつこさはなく、サッパリとして、クラスをまとめる女親分おんなおやぶんぶりはそのままでした。
でも、こうた君がくなってから、ミカちゃんの雰囲気ふんいきやさしいかんじになったと、ブンちゃんはひそかにおもっていました。
こうた君がくなったことと関係かんけいがあるのだろうとはおもっていましたが、だれかに理由りゆういたことはありませんし、とてもミカちゃん本人ほんにんくことはできませんでした。
今日きょうはなんだかけそう)
ブンちゃんは、なぜかそんな気がしました。

ブンちゃんはおもって口をひらきました。

「ミカちゃん、あのさ、いていい?」

ミカちゃんが笑顔えがおのままブンちゃんを見詰みつめて返事へんじをしました。

「なにっ?」

ミカちゃんの笑顔えがおにドキッとして、ブンちゃんは言葉ことばまってしまいました。
なかなかり出さないブンちゃんに、ミカちゃんはきゅうおこったかおになると、

なによ!」

と、ブンちゃんをにらみつけました。
いつものミカちゃんです。
一瞬いっしゅんたじろいだブンちゃんでしたが、遠慮えんりょするようにり出しました。

「あ、あのね、こうた君がくなったあと、ミカちゃん学校がっこうやすんでたよね」
(えっ?)
ミカちゃんは一瞬いっしゅんおどろいたような表情ひょうじょうかべました。
ミカちゃんの表情ひょうじょう徐々じょじょにこわばっていきます。
(あっ)
ミカちゃんの変化へんか気付きづいたブンちゃんは、

「あっ、ごめん。やっぱりいちゃいけなかったよね。いいのいいの、わすれて」

と、右手みぎて左右さゆうりながら、あわてて言葉ことばしました。
しばらく沈黙ちんもくつづきました。
リキヤ君も「どうした?」と表情ひょうじょうでミカちゃんを見ています。
しばらくうつむいていたミカちゃんでしたが、かおを上げ、また学校がっこうほうに目をけました。

「もういいの、大丈夫だいじょうぶ

そう言うと、口をむすんだまま、視線しせんとして、ミカちゃんはニッコリとした表情ひょうじょうかべました。
そしてなにかをおもい出したようにまえくと

「でも、あんたのせいよ」

って、ギロっとブンちゃんをにらみました。

「えーー、おれのせい?」

意外いがいこたえにブンちゃんがビックリすると、

「そう、あんたのせい!」

そうって、ミカちゃんはブンちゃんのモモをパチンとたたき、ベンチから立ち上がりました。

「いてっ!」

なさけないかおでブンちゃんは足をさすります。

いたいよー」

なさけない表情ひょうじょうのまま、ブンちゃんはミカちゃんを見上みあげます。
ミカちゃんはブンちゃんを見ていません。
ミカちゃんの横顔よこがおかなしそうでした。
かなしそうな目でミカちゃんはとおくを見詰みつめていました。
わずかな沈黙ちんもくあと、ミカちゃんが口をひらきました。

「だってわたし、こうた君をめたままだった。リキヤ君の恐竜きょうりゅうくびったことをめたままだった。そのあと、こうた君、なかったじゃない。わたし、ひどいことったのに『ゴメンナサイ』ってえなかったじゃない。あれね、結構けっこうつらかった。ショックだった。しばらくなおれなかった。きっと、わたしがこうた君をめたからだって、そうおもったの。だから学校がっこうに行けなくなった」

ミカちゃんの告白こくはくにブンちゃんはなにえなくなってしまいました。
ミカちゃんのとおり、原因げんいんはブンちゃんです。
ブンちゃんのうそがなければ、ミカちゃんがそうおもうことはなかったはずです。
ブンちゃんはあのときのことをおもい出してうつむいてしまいました。

「ひどかったよね。おれ、ウソつきだったよね。ウソであんな大事おおごとになるなんてかんがえもしなかった。ウソでだれかがかなしむなんてかんがえたこともなかった。まさかミカちゃんまでかなしませていたなんて・・・。ホントひどいよね。ホントごめん、ホント」

うなだれるブンちゃんのかたをポンとたたいて、リキヤ君がおもい出したようにミカちゃんにきました。

三日みっかぐらいやすんだっけ?」

ミカちゃんはまたとおくを見ると、

「ううん、二日ふつか月曜日げつようび火曜日かようび

と、しずかにこたえると、おもい出すようにはなしつづけました。

「あのあとね、不思議ふしぎなことがあったの。いまわすれない。不思議ふしぎな人たちにったの」

ミカちゃんの『不思議ふしぎな人たち』と言葉ことばにハッとしたブンちゃんは、かおを上げて、ミカちゃんを見詰みつめました。
かぜがミカちゃんのかみをフワッとやさしくげます。
ミカちゃんはかみびて、おな六年生ろくねんせいなのかとおもうくらい、大人おとなっぽくなっていました。

 太陽たいようひかりがミカちゃんをらしています。
うるんだひとみがキラキラとひかります。
ミカちゃんはゆっくりとベンチにこしろし、不思議ふしぎ出来事できごとのことをしずかにはなはじめました。

* * * * *
 
 ミカちゃんがこうた君のかなしいらせをったのは、こうた君がくなった翌日よくじつ日曜日にちようびでした。
金曜きんようよるから、ミカちゃんはおかあさんと一緒いっしょとまりがけで出かけていました。
そして日曜日にちようび、出かけさきから直接ちょくせつ、おばあちゃんのお見舞みまいいのために病院びょういんていました。
 
 日曜日にちようび病院びょういんは、平日へいじつちがってしずかでした。
天井てんじょうまどからやわらかなひかりが、ひろいホールをらしています。
かべのステンドグラスが色鮮いろあざやかにかがやいて、うえほうだけ見ると、テレビで見た教会きょうかいのようです。
ガラスにかこまれたイチョウの木をチラッと見て、ミカちゃんはおばあちゃんのいる病室びょうしついそぎました。

わたし階段かいだんくね。エレベーターと競争きょうそうね!」

そううと、ミカちゃんはいそぎ足であるはじめました。
階段かいだんはホールをけたところにあるエレベーターのとなりでした。
ミカちゃんは階段かいだん手前てまえまると、おかあさんを見てニヤッと微笑ほほえみます。
そして階段かいだんほうなおると、エレベーターのとびらまるのと同時どうじに「パンッ」と手をたたいて、階段かいだんあがりました。
 
 おばあちゃんの病室びょうしつは六かいです。
かい、二かい、三かいまでは順調じゅんちょうでした。
でも四かいくらいで、段々だんだんいきはじめました。
病院びょういんると、普段ふだんばいくらいは空気くうきっているんじゃないかと、ミカちゃんはいつもおもいます。
でもいやではありません。
不思議ふしぎと、この病院びょういんにおいがきなのです。
階段かいだん表示ひょうじされた階数かいすうのプレートを確認かくにんしながら、ミカちゃんはおばあちゃんのいるかい目指めざします。
(ここでたおれても大丈夫だいじょうぶ。ここは病院びょういんだから)
わけからないはげましを自分じぶんにして、ミカちゃんは階段かいだんのぼると、「ハアハア」いながら、
(いっちばーん!)
こころの中でさけびました。
病院びょういんだから大きなこえは出せません。
(あれ?この上ってかいがなかったっけ・・・)
すこへんかんじがしましたが、いきれているのもあって、ミカちゃんはふかかんがえませんでした。
 
 ホールにはだれもいません。
タバコをうガラスの部屋へやにもだれもいません。
正面しょうめんのカウンターの中には看護師かんごしさんが一人ひとりいるだけです。
かいしずかなかいでした。

 エレベーターの扉__とびら__#がひらき、おかあさんが出てました。
ミカちゃんはおかあさんにかってブイサインを出すと、「どうだ!」とばかりに、ニヤッと微笑ほほえみます。
かあさんはあきれたかおをすると、カウンターにかい、看護師かんごしさんとはなはじめました。
 
 キュッキュッとスニーカーのおとひびきます。
しずかすぎて、廊下ろうかつきあたりでひか非常口ひじょうぐちみどりかりが、すこ不気味ぶきみかんじられます。
おばあちゃんの病室びょうしつは、いつならんだ病室びょうしつ一番手前いちばんてまえです。
ドアのまえに立つと、ミカちゃんは「ハー」といきととのえました。

トントン

ノックの音も廊下ろうかひびきます。

「どうぞ」

予想通よそうどおりのこえかえってきました。
(ふふふ)
ミカちゃんはとびらまえ微笑ほほえみます。
ゆっくりととびらすべらせて中に入ると、おどろかせるようにしろいカーテンをバッとめくりました。

「ヤッホー、おばあちゃん元気げんきだったー?」

ミカちゃんはおばあちゃんのそばにります。
おばあちゃんはミカちゃんの行動こうどう予想よそうしていたかのように、おどろくこともなく笑顔えがおむかえました。

「いらっしゃい。また階段かいだんたのかい?」

ベッドをこしてほんんでいたおばあちゃんは、あきれたような目でミカちゃんを見ています。

「わかった? だってスーッとするにおいがきなんだもん。階段かいだんるといっぱいえるような気がして」

おばあちゃんは、やっぱりあきがおです。

へんな子だねえ」

そううと、おばあちゃんは布団ふとんの上にいてあったしおりのようなものをはさんで、本をじました。

「おばあちゃんのまごだからね」

すかさずミカちゃんがかえします。

「なんだとーーー」

そうって、おばあちゃんは眉間みけんにしわをせます。
そして、わずかな沈黙ちんもくあと

「アハハハハ」

と、二人ふたり一緒いっしょわらい出しました。

 ミカちゃんはまどそとに目をやります。
ゆっくりとながれるくもまど横切よこぎります。
まどられた空は、どことなくくらい青に見えます。
ブランコ山が見えました。
空のいろもあってか、ブランコ山の大イチョウはどことなくさびしそうに見えました。
 
 おばあちゃんが入院にゅういんしてから半年はんとしっていました。
おばあちゃんはあたまがたまってしまう病気びょうきになって、足がうごかなくなってしまったのです。
リハビリをしながら一人ひとりで立てるように頑張がんばっています。
でもとしのせいもあって上手うまくいきません。

「もう無理むりかもねえ」

ミカちゃんは一度いちどだけおばあちゃんが弱音よわねいているのをいたことがありました。
大好だいすきな山登やまのぼりもできなくなって、おばあちゃんはさびしそうです。
山登やまのぼりがまると、おばあちゃんはいつもミカちゃんをさそっていました。

「やだよー、つかれるよー」

でも、ミカちゃんはいつも行きたがりませんでした。
だから、おばあちゃんのさびしそうなかおを見て、ミカちゃんは後悔こうかいしています。
おばあちゃんの足がなおったら一緒いっしょ山登やまのぼりに行きたい。
ミカちゃんにとって、これが今一番いまいちばんねがいです。

相変あいかわらす口が達者たっしゃだね。学校がっこう大丈夫だいじょうぶなのかい?」

おばあちゃんは眼鏡めがねを少しげてミカちゃんを見詰みつめます。
 
 ミカちゃんはとても気持きもちのやさしい子です。
そしてぐで正義感せいぎかんつよおんなの子です。
だからうそをつく子や意地悪いじわるな子がゆるせません。
でも、そんな子のまえではすこぎてしまうところがあります。
いままで何人なんにんかせてしまいました。
ひろみちゃんが約束やくそくやぶったときぎてかせてしまいました。
ケンタ君が友達ともだち意地悪いじわるをしたときかせました。
二学期にがっきはじめにはブンちゃんもかされたことがあります。
でもミカちゃんのよいいところは、ぎたあとにキチンとあやまるところです。

「ゴメンネ、ぎたよね」

だから、ミカちゃんはクラスのみんなから信頼しんらいされているのです。
女親分おんなおやぶんみたいな存在そんざいなのです。
でも、そんなミカちゃんにもひと心残こころのこりがありました。
まだミカちゃんがあやまっていない子がいるからです。

大丈夫だいじょうぶよ」

そううと、ミカちゃんはおばあちゃんのベッドにピョンとすわりました。

「そう、それならいいけどね」

メガネのフレームをって下にずらすと、おばあちゃんはうたがうようにミカちゃんのかおのぞみました。

「あれ?」

ミカちゃんがなにかに気がきました。
それはおばあちゃんが本にはさんだしおりでした。

「それ、イチョウのじゃない?」

ミカちゃんがグッとからだ近付ちかづけます。
本のはしからわずかに黄色きいろび出ていました。
本にはさまれたイチョウのをおばあちゃんがり出します。

「ああ、これね・・・」

イチョウのを手にると、おばあちゃんの表情ひょうじょうくもりました。

「もらったんだよ。男の子にね」

おばあちゃんはジッとイチョウの見詰みつめます。
おばあちゃんのさびしそうな表情ひょうじょうに、心配しんぱいそうにミカちゃんがたずねました。

なにかあったの?」

おばあちゃんはまどそとに目をうつし、はなはじめました。

「ちょうどミカが夏休なつやすみにはいったころだったかねぇ。とびらけっぱなしにしていたらね、ここに風船ふうせんが入ってたんだよ。銀色ぎんいろ風船ふうせんだったね。そしたらね、その風船ふうせんいかけて男の子が入ってたんだよ。『スミマセン』ってってね」

ミカちゃんは入口いりぐちに目をやりました。
おばあちゃんはイチョウのを見ながら、しずかに話__はな__#しをつづけました。

いろの白い、すこせた子でね、身体からだはミカより小さかったたねぇ。すこはなしいたら、もう何度なんど入院にゅういんしたり退院たいいんしたりしているってってねぇ。わたし入院にゅういんしたときもいたらしいけど、足がうごかなかっただろう。あんな子がいるなんて全然ぜんぜんらなかったんだよ。
気持きもちのやさしい子でね。本がたくさんあるのに気付きづいたんだね。そしたら『しおりにして』ってこのイチョウのをくれてねぇ」

おばあちゃんはまたさびしそうにイチョウの見詰みつめました。

「ふーん、そうなんだぁ」

ミカちゃんはおばあちゃんのつイチョウのを手にりました。
(あっ)
ミカちゃんはおどろいてかおを上げました。
(こうた君・・・)
一瞬いっしゅん、こうた君のかおあたまかんだのです。
ミカちゃんの表情ひょうじょうを見て、おばあちゃんが不思議ふしぎそうにたずねました。

「どうかしたかい?」

ミカちゃんはうつむいて、くびよこりました。

「ううん、なんでもない」

おばあちゃんはミカちゃんのかた指先ゆびさきつつきます。

「ははー、なにかあったんだね」

ミカちゃんはしばらくだまったままでしたが、かくごとけるように、おばあちゃんにはなはじめました。

「あのね、さっきのはなしだけど、わたしね、またやっちゃったの・・・。男の子にね、ぎちゃって、それでね、まだその男の子にあやまっていないの」

ミカちゃんはうつむきながら、手にったイチョウの見詰みつめています。

「その子、わたしぎちゃったつぎの日から学校がっこうやすんでいてね、それからまだえていないの。ウソついていたのはほかの子だったのに、らないでわたし、その子のことをめちゃったの」

おばあちゃんはなにわず、ミカちゃんを見詰みつめています。
ミカちゃんはうつむいたまま、イチョウのをクルクルとゆびまわしながら話__はな__#しをつづけました。

「いつ転校てんこうしてきたかさえらなかったんだけど、その子も病気びょうきがちで、ほとんど学校がっこうにはていない子なの。だから、あんまりえないんだけど、ってどうしてもあやまりたいの。『ごめんなさい』ってあやまらないといけないの。キチンとあやまればゆるしてもらえるとおもうの。そのときも『こまってる』ってウソをついた子を手伝てつだっていたし、ウソをついていた子をかばってあやまっていたくらいだから、きっとおばあちゃんにこのイチョウのをくれた子みたいにこころやさしい子だとおもうの。こうた君は」

ミカちゃんはかおを上げておばあちゃんを見ます。
おばあちゃんはおどろいたようなかおをしています。
(えっ、どうしたの・・・)
ミカちゃんは不思議そうにおばあちゃんを見詰めました。
おばあちゃんはミカちゃんを見詰め、たしかめるようにたずねました。

いま、『こうた君』ってったかい?」

ミカちゃんはおどろいたようにこたえました。

「えっ? うん、そう、こうた君」

おばあちゃんはうつむいて、かなしい表情ひょうじょうかべました。

「どうしたの?」

心配しんぱいそうにミカちゃんがたずねると、おばあちゃんはミカちゃんを見てしずかにこたえました。

「そのイチョウのをくれた子、昨日きのうくなったんだよ」

おばあちゃんの目がうるんでいます。

「その子、その子ね、こうた君って名前なまえだった。『いとりこうた』ってっていたけど、まさか、だよね?」

おばあちゃんは不安ふあんそうにつくわらいをかべました。

(えっ)

ミカちゃんのむねがドキンと高鳴たかなりました。
ミカちゃんはおどろいた表情ひょうじょうでおばあちゃんにかえします。

「ウソ・・・、だよね?」

おばあちゃんのわる冗談じょうだんだとおもってミカちゃんはわらおうとしますが、うまく笑顔えがおつくることができません。

「ウソよ、絶対ぜったいウソ!」

おこったようにミカちゃんはおばあちゃんを見詰みつめます。
目になみだめながら、おばあちゃんをジッと見詰みつめています。
 
 ミカちゃんのおかあさんが病室びょうしつに入って来ました。
ミカちゃんは、おばあちゃんから目をらしません。
なにらないおかあさんは、ミカちゃんのうし姿すがたをチラッと見ると、まどに手をかけ、すこしだけまどけました。

「ミカ、いまね、いえ電話でんわしてお父さんとはなしたんだけど、こうた君ていう子、おな学年がくねんにいた?」

かあさんはまどからそとを見ながらしずかにたずねました。
かあさんの口からこうた君の名前なまえが出た途端とたん、ミカちゃんの目から大粒おおつぶなみだこぼちました。
ミカちゃんは両手りょうてかおおおってベッドの上にくずれます。

「ウソ、ウソよー、ううううう」

おばあちゃんの手がミカちゃんのあたまやさしくでます。
おどろいたおかあさんは、かえっておばあちゃんのかおを見ました。
おばあちゃんはだまってくびよこります。

わたしあやまってないのに、まだ、ちゃんとあやまってないのに、ううううう」

ミカちゃんのごえ廊下ろうかへとながれます。
まどからスーッとつめたいかぜが入ってきました。
なみだぬぐうように、かぜがミカちゃんのほおやさしくでます。
おばあちゃんもおかあさんもなにも言いません。
ただミカちゃんのごえだけが病室びょうしつひびいていました。
 
 病院びょういんからどうやってかえったのか、ミカちゃんはおぼえていません。
気がくとミカちゃんは自分じぶん部屋へや布団ふとんくるまっていました。
(なんで、なんでんじゃうの。わたしひどいことったままで、まだちゃんとあやまってないよ。なんでよ)
おもい出すとなみだあふれてきます。
かあさんがばんはんこえをかけますが、ミカちゃんはべる気になれません。
いつもはおかあさんと一緒いっしょに入っているお風呂ふろも、今日きょう一人ひとりで入りました。
ボーっとして、なにをしたのかおぼえていません。
 お風呂ふろからがると、だれともはなさずにすぐ自分じぶん部屋へやに入ってしまいました。
こうた君のことをおもい出すと、またなみだが出てきます。
自分じぶんがこうた君をめている姿すがたかびます。
わたしはひどい子だ)
ミカちゃんは自分じぶんめるばかりです。
(クラスのみんなはっているの? 一緒いっしょにこうた君をめていた人はどうしているの? リキヤ君はどうおもっているの? ブンちゃんは・・・)
まだかみかわかないまま、ミカちゃんはまくらかおをうずめました。
あたまの中にはあの日の出来事できごとよみがえります。
ミカちゃんはつかれていました。
いて、いて、つかれてしまったミカちゃんは、いつのにかベッドの上でねむってしまいました。
 
 ミカちゃんはゆめの中です。
リキヤ君に恐竜きょうりゅうくびわたして、こうた君が教室きょうしつから出てきます。
こうた君がミカちゃんのよことおぎます。

「ごめんね、こうた君。こうた君はわるくないのに、わたしぎたよね」

ミカちゃんはこうた君にあやまりますが、こうた君はミカちゃんを見てくれません。

って、こうた君!」

ミカちゃんのこえはこうた君にとどいていません。

って、ってよ!」

大きなこえを出しているのに、こうた君はどんどんとおくにってしまいます。

「ごめんね、こうた君! ごめんね!」

こうた君に近付ちかづこうとしますが、足がうごきません。

「こうた君、こうた君!」

ミカちゃんは必死ひっしに手をばします。

「こうた君、って、こうた君!」

こうた君のかなしそうなうし姿すがたが、暗闇くらやみえてしまいました。

「ミカ! ミカ!」

お母さんのこえゆめの中に入ってきました。

「ミカ、きてる? 学校行ける?」

かあさんのこえがミカちゃんをゆめからましました。
ゆめ?)
ミカちゃんは返事へんじができません。
心配しんぱいしたおかあさんが部屋へやに入ってきます。

「ミカ、学校がっこうける?」

布団ふとんくるまって出てこないミカちゃんに、おかあさんはこえをかけました。
(もうあさなの?)
ゆめのせいで、ミカちゃんはねむれたかんじがしていません。
フッとゆめのことをおもい出しました。

きたくない」

自分じぶんこえ布団ふとんの中にひびきます。
布団ふとんをはがされるかも・・・)
ミカちゃんはそうおもいましたが、お母さんの反応はんのうはありません。

「わかった。先生せんせいには連絡れんらくしておくから」

予想よそうとはちが言葉ことば布団ふとんの中に入ってきました。
(おばあちゃんからいたんだ・・・)
おばあちゃんとおかあさんがはなしをしている姿すがたかびました。
いつもはガミガミっているけど、おかあさんのやさしさがミカちゃんにつたわってきます。
それでも学校がっこうく気にはなれません。
こうた君をおもい出すたびに、ミカちゃんはまたかなしくなるだけでした。
 
 布団ふとんの中でねむったのか、ねむっていなかったのかかりません。
ボーっとしたまま時間じかんだけがぎてきました。

サーー、サーー

カーテンがれる音がこえました。
かあさんがまどけてったのだとミカちゃんにはかりました。
かめのようにヌーっとくびを出して枕元まくらもと時計とけいを見ると、時間じかんはもう12ぎていました。

「グーーー」

(ハァー、こんなときでもおなかはるんだなぁ)
ミカちゃんはなさけないかおをしています。
おなかはっているのに食欲しょくよくはありません。
布団ふとんをめくってがると、ミカちゃんはベッドの上でひざかかえてボーっとしています。

「ハーーー」

こうた君のことをおもい出してためいきが出ます。
うごかなくちゃ)
ミカちゃんはベッドからりると、部屋へやを出て、階段__かいだん__#をりました。

 一階いっかい居間いまっていました。
かあさんは仕事しごとに出てしまい、カーテンはまったままです。
でも、カーテンからけるひかりが「そとれているよ」とおしえてくれました。
エアコンのスイッチを入れると、ミカちゃんはソファーにすわって両足りょうあしかかみます。
とりあえずテレビをつけました。
らないドラマやニュースで面白おもしろくありません。
本棚ほんだなから漫画まんがんでみました。
漫画まんが面白おもしろくありません。
(あっ)
テーブルの上におかあさんがつくってくれたおにぎりがあるのに気がきました。
でも、やっぱりべる気にはなれません。
ミカちゃんはソファーにすわってボーっとするだけです。

「ハーーー」

こうた君のことをおもい出して、またためいきが出ます。
 
 洗面所せんめんじょかがみを見るとひどかおです。
どおしだったので、目がれています。
でもかおあらう気にもなりません。
ミカちゃんはまた自分じぶん部屋へやもどって、布団ふとんの中にもぐってしまいました。

「ハーーー」

こうた君のことをおもい出して、またまた、ためいきが出ます。
 
 ばんはんはおかあさんがカレーをつくってくれました。
でもみんなと一緒いっしょ食事しょくじをする気にはなれません。

「お部屋へやべたい」

「ダメ」とわれるかもとおもいましたが、おかあさんはなにわずに部屋へやにカレーをはこんでくれました。
今日きょう大好だいすきなキーマカレーです。

「はい、どうぞ」

かあさんはつくえの上にカレーとサラダとおちゃとスプーンをならべてくれました。
ミカちゃんはおかあさんのかおを見られません。

「ごめんね、おかあさん」

部屋へやから出るおかあさんの背中せなかかってあやまります。

「いいのよ」

いたおかあさんのやさしい笑顔えがおに、ミカちゃんはホッとしました。
 
 カレーは半分はんぶんしかべられませんでした。
いつもならまっておかわりするのに、大好だいすきなカレーがのどとおりません。
べているあいだも、教室きょうしつでの出来事できごとあたまかんできます。

 のこしたカレーをキッチンまでってくと、おかあさんは「ハァー」とためいきをつきながら「仕方しかたないわね」とうようなかおでミカちゃんを見ました。
とうさんは「元気げんきを出しなさい」とうように微笑ほほえんでいます。
ミカちゃんは笑顔えがおかえしたつもりでしたが、上手うまわらえていないと自分じぶんでもかりました。
 
 洗面所せんめんじょくとかがみうつかお今朝けさよりマシになっていました。
風呂ふろから出て歯磨はみがきをすると、ミカちゃんはすぐに部屋へやもどって、布団ふとんの中に入ってしまいました。
今日きょう体育たいいくだったな。またドッジボールやるって先生せんせいってたな)
天井てんじょう見詰みつめていると、学校がっこうでの出来事できごとあたまかびます。
(あのときもドッジボールのあとだった・・・)
またこうた君のことをおもい出しました。
布団ぶとんをギュッとにぎめ、ガバッと布団ぶとんをかぶります。
なみだあふれ、布団ぶとんらします。
(ごめんなさい、ごめんなさい)
ミカちゃんはこころの中で何度なんどつぶやきました。
 
 日中にっちゅうたくさん寝過ねすぎたせいか、よるはなかなかねむれません。
時計とけい午前一時ごぜんいちじまわっています。
布団ぶとんから出て、つくえよこまどけると、ほおすようなつめたい空気くうきがスッとはいってきました。

「さむい・・・」

からだをすぼめながらミカちゃんは空を見上みあげました。
(あっ)
むねてていたうでほどき、すように窓枠まどわくに手をけます。
そこにはさむさをわすれるほど、きれいな星空ほしぞらひろがっていました。
(すごい・・・)
オリオンのペテルギウスがキラキラとひかっています。
ふゆ大三角だいさんかくもはっきりとかります。
らなかった。こんなにきれいに見えるんだ)
あまりのうつくしさに、ミカちゃんは、しばらく時間じかんわすれてしまいました。
んじゃうとほしになるのかな?)
こうた君のかお星空ほしぞらかびます。
はなおくがジーンとして、ミカちゃんの目からなみだこぼちます。

「ごめんね、こうた君」

星空ほしぞらうつるこうた君が、ニッコリと微笑ほほえんだようにミカちゃんには見えました。
なみだいて、まどめようとしたとき、フッとなにかのかおりがしました。
(あれ、このかおり・・・)
大きくもうと、ミカちゃんが目をじたときです。

「いいよ」

だれかのこえこえました。
ハッとしたミカちゃんはまどからからだり出して、キョロキョロとまわりを見ました。
でもそとにはだれもいません。
たしかにこえた)
もう一度いちどまどそとを見ます。
やっぱりだれもいません。
そとはシーンとしずまりかえっています。
てばかりいたから、おかしくなっちゃったかな・・・)
ミカちゃんはさむさにブルっとからだふるわせると、いそいでまどめました。
カーテンをめてかえると、ミカちゃんの目になにかがうつりました。

「あっ」

イチョウのです。
ベッドとつくえあいだにイチョウのちています。
おばあちゃんがこうた君からもらってしおりにしていたイチョウのです。
ミカちゃんは手にったまま気付きづかずに、イチョウのってきてしまったのです。
イチョウのひろげると、ミカちゃんはゆびでクルクルとまわしました。
フッと、こうた君の姿すがたかびます。
またなみだあふれてきます。
ミカちゃんはパジャマのそでなみだぬぐいました。
(きっとほしになるんだ)
そうおもいながら目をじると、ミカちゃんは星空ほしぞら微笑ほほえむこうた君の姿すがた想像そうぞうしました。
(ごめんね、こうた君)
こうた君はわらっています。
 ミカちゃんはイチョウの枕元まくらもとたないて布団ふとんはいりました。
かりをすと、しばらく暗闇くらやみ世界せかいがミカちゃんをつつみます。
なにも見えない世界せかいです。
しかし暗闇くらやみながくはつづきません。
ぼんやりとかすかなひかりかんじられます。
ミカちゃんは目をじました。
フッとかおりがしました。
さっきのかおりです。
なんだっけ? っているのになぜかおもい出せない)
かおりがミカちゃんをねむりにさそいます。
こうた君がいます。
ミカちゃんを見ています。
笑顔えがおで手をってくれています。
ミカちゃんの目からなみだながちます。

「ごめんね、こうた君」

そうつぶやきなが、ミカちゃんはしずかにねむりについていきました。

ミカちゃんはゆめの中です。

こうた君がミカちゃんのよことおぎます。
こうた君のよこには白いワンピースをた小さな女の子が、こうた君と手をつないであるいています。
女の子のかおは見えません。

「ごめんね、こうた君。こうた君はわるくないのに、わたしぎたよね」

こうた君はミカちゃんを見てくれません。

って、こうた君!」

ミカちゃんのこえはこうた君にとどきません。

って、ってよ」

こうた君はどんどんとおくにってしまいます。

「ごめんね、こうた君! ごめんね!」

こうた君に近付ちかづこうとしますが、足がうごきません。
足元あしもとを見ると、イチョウのの中に足がまっています。

「こうた君、こうた君」

ミカちゃんは足をこうとしますが、足がうごきません。
こうた君のかなしそうなうし姿すがたが、暗闇くらやみえてきます。

「こうた君、って、こうた君!」

ミカちゃんは必死ひっしに手をばします。
こうた君がまってかええりました。
こうた君が微笑ほほえんでいます。

「こうた君!」

ミカちゃんはさけびます。
でも、こうた君はミカちゃんに微笑ほほえんだまま、暗闇くらやみの中にえてしまいました。

「ミカ、きてる?」

階段かいだんの下からおかあさんのこえ布団ふとんの中にながんできます。
ゆめ?)
ミカちゃんはボーっとして、からだうごかせません。

「ハーー、ゆめか・・・」

ミカちゃんは小さくためいきをつきます。
(でも、こうた君、わらってた・・・)
そうおもうと、ミカちゃんは布団ふとんの中でみをかべました。

「ミカ、きてるの?」

かあさんのこえあとに、トントンと階段かいだんを上がってくる音がおくれてついてきます。
ガチャっととびらひらくのと同時どうじ

「ミカ、今日きょうはどう?」

こえだけがおかあさんよりさき部屋へやの中に入ってました。
ミカちゃんは布団ふとんからかおを出しておかあさんを見詰みつめます。

大丈夫だいじょうぶ、でも今日きょう、もう一日だけやすんでもいい?」

ミカちゃんがそう言うと、おかあさんはおどろいたようなかおをしました。
眉間みけんにしわをせて、しばらくかんがんだおかあさんは、ギュッと口をむすんでミカちゃんを見詰みつめると、

「まあ、いいか」

と言って、ニッコリ微笑ほほえみました。

先生せんせいには上手うまっておくね」

かあさんがウィンクをします。

「ありがとう、おかあさん。ごめんね」

ミカちゃんはもうわけなさそう表情ひょうじょうかべます。
かあさんは少し心配しんぱいそうなかおをしていました。

「いいのよ、でも、なにかするの?」

ミカちゃんはまどそとに目をけて、

「うん、ちょっとね」

と、こたえると、おかあさんを見てニッコリと微笑ほほえみました。
かあさんは、また口をむすんで小さくうなずくと、それ以上いじょうなにいませんでした。
 
 おかあさんは仕事しごとに出かけました。
ミカちゃんはまた一人ひとりです。
カーテンしにやさしいひかりんでいます。
カーテンをけると、薄暗うすぐらかった部屋へやがパッとあかるくなりました。
まどけると、青い空がひろがるいお天気てんきです。
空を見上みあげると、たかところにはウロコぐもいています。
でもひくところではシュークリームのようなかたちをしたくもがゆっくりながれています。
にわではひくいイチョウの木の一枚いちまいだけれています。
まるでミカちゃんに手をるようにれています。
スーッとつめたいかぜみました。
やさしいかぜがミカちゃんをつつみます。

「うーーーん」

ミカちゃんは大きく背伸せのびをしました。
 
 一階いっかいのキッチンにくと、冷蔵庫れいぞうこから昨日きのうのカレーののこりを出して、電子でんしレンジであたためました。
牛乳ぎゅうにゅうをコンロであたためて、インスタントのコーンスープもつくりました。
今朝けさ食欲しょくよくがあります。

そとこう」

まどそとながめながらミカちゃんはつぶやきました。
学校がっこうやすすでいるのにそとに出るなんていけないけど、一人ひとりでいるとかなしくなるだけ)
それに、不思議ふしぎいえにいてはいけないような、だれかにわないといけないような、そんな気がしています。
スープののこりを口にながむと、ミカちゃんはいそいで支度したくはじめました。
 
 歯磨はみがきをしてかおあらいます。
目のれはえています。
パジャマからシャツとジーンズに着替きがえ、すこし大きめのパーカーを羽織はおり、おかあさんがってくれたキャップをふかかぶりました。
バレないように百円ひゃくえんショップでった、の入っていないメガネをかけ、マスクもけました。
かあさんがつくってくれたおにぎりをラップでくるみ、肩掛かたかけカバンに入れます。
準備じゅんびはOKです。
 
 人目ひとめにつかないように、ミカちゃんは、そっと玄関げんかんを出ました。
つめたいかぜ首筋くびすじからみます。
もんまえに立ってミカちゃんはあたりを見回みまわしました。
学校がっこうのそばにはけません。
見つかったらしかられます。
商店街しょうてんがいにもけません。
だれかに見られたら、あとが大変たいへんです。
ミカちゃんは人のすくない土手どて散歩さんぽコースをあるくことにしました。
 
 土手どてくさみじかんであって、ところどころ地面じめんが見えています。
河川敷かせんじきには野球場やきゅうじょうとサッカー場がならんでいます。
ウォーキングをしているおばさんが、ミカちゃんをジロジロ見詰みつめます。
犬を散歩さんぽさせているおじさんもミカちゃんを見詰みつめます。
ミカちゃんはすこあやしまれています。
ミカちゃんは目をわさず、とおくを見るようにあるきます。
かわ太陽たいようひかり反射はんしゃしてキラキラとかがやいています。
そらではくもがミカちゃんをくようにながれてきます。 
 
 すこあるつかれたミカちゃんは、土手どて斜面しゃめんすわみました。
目のまえ野球場やきゅうじょうでは、小さい男の子とおかあさんが野球やきゅうをしています。
男の子のみじかいバットが何度なんどくうり、そのたびに男の子がたまひろって、おかあさんにかえしています。
野球場やきゅうじょうってだれもいないとひろいんだ)
リキヤ君が野球やきゅうをやっていたのをおもい出しました。
(こうた君、野球やきゅうやったことあるのかな)
色白いろじろうでほそいこうた君が野球やきゅうやサッカーをやっている姿すがた想像そうぞうできません。
(どんな本をんでいたのかな)
あの日の教室きょうしつでの出来事できごとあたまかびます。
(なんで自分じぶんから悪者わるものになったんだろう)
こうた君のうし姿すがたかびました。
(リキヤ君、なんでゆるしたんだろう)
おこるとすぐに暴力ぼうりょくるっていたリキヤ君が、こうた君をゆるしたことに、みんなビックリしていたこともおもしました。
(手ははやいけど、リキヤ君ってホントはやさしいんだよね)
校庭こうていのイチョウの木をってあそんでいた子たちをリキヤ君と一緒いっしょ注意ちゅういしたことをおもい出しました。

「木がかわいそうだろ!」

あのときのリキヤ君の言葉ことばはミカちゃんにも意外いがいでした。
たしか、あのあと二人ふたりれたえだをテープでつないで、それからみずけてあげたんだっけ・・・)
リキヤ君が水いっぱいのバケツをはこ姿すがたかびました。
(ウソばかりついてたブンちゃんは、なんでみんなに告白こくはくしたんだろう)
きながらみんなにあやまったブンちゃんの姿すがたおもい出しました。
わたし、あのとき、すごいかおしてたんだろうな)
こうた君のせいにしたブンちゃんをにらけたこともおもい出しました。
(でも、もとはとえば、あいつがいけないのよ)
ミカちゃんはそばにあった小石こいしをポーンとげます。
(でも、あんなにずかしいおもいをしてまでみんなに告白こくはくするなんて、なんかすごいなぁ。ボロボロいて、自分じぶんから悪者わるものになるって、きっと勇気ゆうきがいるんだろうな)
ミカちゃんはとおくの空を見詰みつめます。
わたしはどう? われる? わらなきゃいけない? どうなふうわる・・・)

「パンッ!」

小さな男の子のバットにボールがたったおとが、ミカちゃんを現実げんじつ世界せかいもどしました。
かあさんがいそいでボールをりにはしります。
男の子はバットをちながら「キャッキャ」とはしまわります。
(なんか男の子って不思議ふしぎ・・・)
ながれるくもいかけるように、川向かわむこうの煙突えんとつからみじかけむりが出ています。
なにをする場所ばしょなのか、最近さいきんまでミカちゃんはりませんでした。

滅多めったくところじゃないのよ」

かあさんがばんはん準備じゅんびをしながら、そうっていたのをおもい出しました。
本をみながらいていたおばあちゃんがニヤッとして、

「もうすぐけるかもよ」

うと、おかあさんがいきなり

「おばあちゃん!」

と、怒鳴どなったことをおもい出しました。
そのときは、なんでおかあさんがおこったのかかりませんでしたが、いまかります。

「人はわってくんだよ」

おばあちゃんが本に目をもどし、さびしそうにボソッとつぶやいた記憶きおくが、ミカちゃんのむねをギュッとけました。
(そう、みんなわっていくんだ。きっとわけがあるんだ。こうた君にはこうた君のわけが。リキヤ君にはリキヤ君のわけが。ブンちゃんにはブンちゃんのわけが。でもわたしわっていない。わたしなにかんがえずにいたいことだけってる。わたしだけがわっていない)
スッと立ち上がると、ミカちゃんはとおくの空をながめました。
(なんで? なんで?)
その言葉ことばだけがあたまの中をグルグルとめぐります。
ミカちゃんはまた散歩さんぽコースをあるしました。

 山の上のしろ風車ふうしゃがゆっくりとまわっています。
電気でんきつくっているんです」とっていた沙織先生さおりせんせいはなしおもい出しました。
 小さな子がたこあげをしています。
まえを見たり、うしろを見たりしながら、サッカー場をはしまわっています。
すぐそばでは男の人もたこあげをしています。
右手みぎてからびるいとは空の途中とちゅうで見えなくなっています。
小さくなって模様もようが見えない三角形さんかくけいたこは、男の人が手をくたびにかすかにうごいているように見えます。
ミカちゃんはしばらくたこを見ていました。
どのくらい見ていたかはおぼえていません。
たここうがわにあるあおい空は、見れば見るほどまれていくような気がします。
(空ってずっと青いのかな? くもおおわれていても、わらずに、こうがわも青いのかな?)
普段ふだんかんがえもしなかったことが、あたまかんできます。
わらないからいいの? わるからいいの?)

「グーーー」

おなかがなさけないおとてました。

わたし気持きもちとおなか気持きもちはべつなのね」

そうって、ミカちゃんはおなかをさすりました。
 
 太陽たいようたかところにあります。
気がくと、もう煙突えんとつちかくに見えるはしのそばまであるいていました。
ミカちゃんはあたりを見回みまわして、すわれる場所ばしょさがします。
はしのそばの斜面しゃめんは、くさではなくコンクリートのブロックがいてありました。
(ちょうどいいかも!)
ミカちゃんははしからすこはなれたブロックの上にすわりました。
カバンからおにぎりを出します。
かあさんはいつもより大き目のおにぎりをふたにぎってくれました。
なんのおにぎりだろう)
マスクをはずしてパクッと口に入れると、中からシャケがあらわれました。
ミカちゃんの大好物だいこうぶつです。
ミカちゃんはパクっと頬張ほおばります。
なかいていたので、口いっぱいに頬張ほおばります。
(おいしい!)
パクパク、モグモグ頬張ほおばります。
そして最後さいご一口ひとくちを入れようとおもったときでした。
はしの上をくろくるまとおりました。
ミカちゃんはおにぎりをったまま、いそいで親指おやゆびかくします。
霊柩車れいきゅうしゃです。
キラキラひか屋根やねったくるまはじめて見たときは、きれいだなとおもいました。
でもくなった人がっているとったときは、ショックだったのをおぼえています。
親指おやゆびかくすのは、クラスの男の子におしえてもらいました。

霊柩車れいきゅうしゃを見たとき親指おやゆびかくさないと、おとうさんにわるいことがこるんだぞ」

かくわすれたときには、いそいでいえかえって、おとうさんのかえりをちました。
ねむたい目をこすってちましたが、それでもねむってしまって、翌朝よくあさ、お父さんのかおを見たときに、ボロボロとなみだながしたことをおもしました。
かあさんは「そんなの迷信めいしんよ」といます。
ミカちゃんもかっています。
それでもミカちゃんは、いまでも親指おやゆびかくしてしまいます。

 霊柩車れいきゅうしゃがミカちゃんのそばをとおぎようとしたときです。
霊柩車れいきゅうしゃっている女の人とミカちゃんの目がいました。
女の人はミカちゃんに微笑ほほえみます。
ドキッとしたミカちゃんはあわてて目をらしました。
ってる人?)
ミカちゃんはドキドキしています。
つづいて小型こがたのバスもとおりました。
まえせきにはまどからすこしだけかおが見える女の子と大人おとなの男の人がっています。
うしろの席には沙織先生さおりせんせいた人がいて、そのうしろのせきには男の子がっていました。
(あれっ・・・)
男の子はブンちゃんにています。
小型こがたのバスには四人よにんほか人影ひとかげは見えません。
ハッとしたミカちゃんはあわててバスにけます。
そしてのこったおにぎりを口に入れると、マスクをけ、帽子ぼうしつばかおかくしました。
(見られたかな・・・)
またドキドキしてきたミカちゃんは、スッと立ち上がって、そのからはなれます。
まちほうかって、いそいで土手どてりると、早足はやあしあるき出しました。
どこにかっているのかは、自分じぶんでもかりません。
どんどん、どんどんあるくだけです。
 とおってはいけないとおもっていた商店街しょうてんがいけました。
なんとなくっている人と目がったような気がしましたが、そんなことは気にしていられません。
 病院びょういんのイチョウ並木なみきけました。
おばあちゃんにいにこうかと一瞬いっしゅんおもいましたが、こんな時間じかんったらなにわれるか想像そうぞうができます。
 病院びょういんにして、ミカちゃんはどんどんあるきます。
どこをどうあるいたのかは、よくおぼえていません。
たくさんあるきました。
気がくとブランコ山のそばまでていました。
うえまでこう)
あるつかれていたミカちゃんでしたが、ブランコ山の坂道さかみちをゆっくりとのぼってきます。
木々きぎ隙間すきまから小学校しょうがっこう校舎こうしゃが見えます。
なにわりはありません。
授業中じゅぎょうちゅうのはず、沙織先生さおりせんせいもブンちゃんもきっと見間違みまちがいだ)
ミカちゃんはこころの中でそうつぶやきながら公園こうえんの中に入っていきました。
 
 ブランコ山では小さな子が元気げんきよくあそんでいます。
大イチョウの木が子供こどもたちをしずかに見守みまもっています。
(あっ、沙織先生さおりせんせい?)
沙織先生さおりせんせいた人が、男の子と公園こうえんから出てきます。
(なんか沙織先生さおりせんせいてる人ばかり見かけるなぁ・・・。きっと、見つかったらいけないとおもっているから、みんな沙織先生さおりせんせいに見えちゃうんだな・・・)

「ハーーー」

小さくためいきをつくと、ミカちゃんはベンチにすわって学校がっこうながめました。
(みんなどうしているんだろう)
クラスの友達ともだちかおかんできます。
こうた君のかおかびます。
(あ、わすれてる・・・)
あんなにんでいたのに、こうた君のことをわすれていたことに気がきました。
ミカちゃんはうつむいてしまいました。
(ひどいことしたのに、もうわすれてる。あんなにいたのに、あんなにつらかったのに・・・)
ミカちゃんの目がなみだうるみます。
わたしってひどい。おばあちゃんは人はわるものだってってたけど、ひどいよ。こうた君にあやまれなかったのに、もうあやまれないのに、それさえわすれちゃってる)
ミカちゃんの目からポロポロとなみだこぼちました。
(あっ)
フッとかおりがしました。
昨日きのうよるおなじ、あのかおりです。
ミカちゃんはハンカチでなみだぬぐうと、かおを上げて、スーッと大きくかおりをみました。
目をじて、なんのかおりなのかおもい出そうとしますが、やっぱりおもい出せません。
でもかなしい気持きもちをいやしてくれるような、やさしい気持きもちでこころたされていくような、そんなかんじがしました。

すわってもいい?」

(えっ)
ミカちゃんが目をひらくと、そこには女の人が立っていました。
(あれ?)
さっきまで元気げんきあそんでいた小さい子たちがいません。

「あ、すみません。どうぞ・・・」

ミカちゃんはハンカチをポンポンと目にてると、ベンチのはしすわなおしました。
女の人はうす緑色みどりいろのコートをやさしそうな人でした。
(どこかで見たような・・・)
どこかでったことがあるようなかんじがしましたが、ミカちゃんはおもい出せません。
女の人は学校がっこうほうを見ながらはなはじめました。

「ブランコ山からのながめっていいわよね。まちえるし、学校がっこう子供こどもたちが元気げんきはしまわっているのも見える」

女の人はむかしから見慣みなれた風景ふうけいとのわかれをしむように、どことなくさびしそうです。
ミカちゃんは不思議ふしぎそうに女の人を見詰みつめます。
女の人のきれいなながかみかぜれ、太陽たいようひかり反射はんしゃしてキラキラとひかっています。

わたし、おわかれしてきたの。だからすこしだけかなしいの。それに、たくさんの人ともおわかれしなくてはいけないかもしれないの」

(え?おわかれ?、すこしだけかなしい?)
おどろいたミカちゃんは、女の人のかお見詰みつめます。
女の人がすこ微笑ほほえんだように見えました。
かなしいとっているのに、そんなにかなしそうには見えません。
女の人の言葉ことばが気になったミカちゃんは、女の人のかおのぞむようにたずねました。

すこしだけ、ですか?」

女の人はミカちゃんを見て、今度こんどはしっかり微笑ほほえみながらいました。

「ええ、すこしね」

女の人はどこかスッキリしたような表情ひょうじょうをしています。

「おわかれとってもしばらくのあいだだけ。またえるの。れたりすることは出来できなくなるけど、まれたところにもどって見守みまもることはできるの」

女の人はそうつづけました。
でも、ミカちゃんには女の人のっている意味いみかりません。
(しばらくのあいだだけおわかれ? 生まれたところにもどる?)
女の人がミカちゃんを見詰みつめていました。

「あなたもかなしいの?」

(えっ、なんで・・・)
ミカちゃんはドキッとしました。
女の人の目はとおるようにきれいで、ホッとするようなやさしさにちた目です。
ミカちゃんはなぜかはなおくがジンとして、目になみだまっていくのがかりました。
はじめてはなす人なのに、まえからっているようななつかしさとやさしい笑顔えがおが、いまつら気持きもちをやわらげてくれるような気がしました。
はなしいてもらいたい・・・)
そうおもったミカちゃんは、うつむくと、あの日の教室きょうしつでの出来事できごとしずかにはなはじめました。

わたし・・・、わたしひどいんです。友達ともだちをかばって悪者わるものになった子を、犯人はんにんだとおもってめちゃったんです。『自分じぶんから悪者わるものになったんだ。その子がそうなるようにのぞんだんだ。だから仕方しかたないんだ』って、そうおもったけど、それだけじゃないんです。いつもそう。よくかんがえずに口にしちゃう。よくかんがえずにおこっちゃう。いつもそうなんです。ったあとに『ぎちゃったな』っておもってあやまるんだけど、今度こんどあやまれなかった。わたし間違まちがってめたことを、キチンとあやままえに、その子がいなくなっちゃったんです」

ミカちゃんの目からなみだ一筋ひとすじこぼちます。
女の人はやさしくミカちゃんを見詰みつめて言葉ことばかえしました。

「そうね。あやまれなかったのは残念ざんねんね。でもわたしはあなたのような子がきよ。いたいことがしっかりとえて、それが間違まちがいだとおもったらちゃんとあやまることができる。そうう子を『素直すなおな子』ってうのよ。あなたはとても素敵すてきな女の子よ」

女の人の「素敵すてき」という言葉ことばにミカちゃんはハッとしました。
わたし素敵すてき?)
すこおどろいたミカちゃんの表情ひょうじょうが、またくもりました。

「でも、もっとひどいのは、キチンとあやまれなかったのに、かなしくてたくさんいたのに、それなのにもうわすれそうになってる。絶対ぜったいわすれないとおもうくらいいたのに、つらかったのに、その気持きもちだってすぐにわすれそうになってる。これじゃきっと全部ぜんぶわすれちゃう。ひどいことしてもすぐに平気へいきでいられる人になっちゃう」

ミカちゃんの目からまたなみだながちました。
女の人がミカちゃんのかたせます。
あのかおりがします。

「ううう」

大粒おおつぶなみだが、ミカちゃんのほおつたいます。

大丈夫だいじょぶ心配しんぱいすることはないわ。人はわすれてしまう。それは仕方しかたないことよ。みんなわってくのだから。そうして大きくなっていくのだから」

ミカちゃんはうつむきながらくびよこります。

「でも、でも・・・」

女の人はやさしくかたりかけます。

「いつもおもうことはないの。たまにおもい出せばいいの。そうすればわすれたことにはならないわ。きっとその子もそうのぞんでいるわ」

女の人はミカちゃんの背中せなかをポンポンとやさしくたたきます。

「ううう、わすれない、絶対ぜったいわすれない」

うつむいたミカちゃんの目からポタポタとなみだこぼちます。

「あなたはとても気持きもちのやさしい子。これからは相手あいておもいやってはなせるわ。きっとその男の子もうれしくおもっているわ。あなたがこんなにやさしいこころった素敵すてきな女の子になるやくてたんだから、きっとよろこんでいるわ。あなたの気持きもちは、きっとその子にとどいている。きっとよ」

女の人の言葉ことばにミカちゃんは気持きもちをおさえることができません。

「う、う、ううう」

ミカちゃんは両手りょうてかおおおいます。

わたしも、わたしやくに立てるかな。だれかのやくに立てるかな」

ミカちゃんがこえしぼします。
また、女の人の手がポンポンとミカちゃんの背中せなかやさしくたたきます。
そのルビでした。
ベンチのうしろからだれかのこえこえました。

「もうやくってるわよ。おねえちゃん」

(えっ)
ミカちゃんはかおを上げ、ゆっくりとかえります。
だれ?)
そこには女の子が立っていました。
黄緑きみどりいろのポンチョコートと黄色きいろのニットぼうがとても可愛かわいらしい、目がクリッとした小学校1年生くらいの女の子が、男の人と手をつないで立っています。
(あれ? どこかで・・・)
そうおもったのですが、ミカちゃんはおもせません。

「おねえちゃん、わたし大切たいせつとどけてくれたのよ。おねえちゃんがとどけてくれて、おにいちゃん、とーーってもよろこんでいたわ。だからおにいちゃんもおれいしたいってっていたの。だけど・・・、だけどね、おにいちゃん・・・」

女の子の表情ひょうじょうくもります。

「でもね、おとおさんとおかあさんがおにいちゃんのわりにおれいするってってくれたの。それでね、もうしておいたよ。ね、おとおさん」

男の人はミカちゃんを見てやさしく微笑ほほえんでいます。

「ありがとう、おねえちゃん」

女の子はペコッとお辞儀じぎをすると、ニッコリ微笑ほほえんで大イチョウのほうはしってきました。
ミカちゃんにはなんのことだかかりません。
わたしなにかした? 大切たいせつって? おにいちゃんてだれ? おれいしたってどういうこと?)
ミカちゃんは女の人のかお不思議ふしぎそうに見詰みつめます。
女の人は微笑ほほえんで、ちいさくうなずきました。
女の人の表情ひょうじょうは「大丈夫だいじょうぶよ」とっているようでした。
その笑顔えがおを見ていると、ミカちゃんはくもったこころが、スーッとれてくようながしました。
後悔こうかいしていることがあらながされていく、そんなかんじがしていました。
 
 やさしいかぜがミカちゃんをつつみます。
(あっ、かおり・・・)
またかすかにあのかおりがします。
女の人にかたかれたときにもかんじた、いつもおもい出せないあのかおりです。
ミカちゃんはベンチから立ち上がると、目をじて、ゆっくりとおおきく、かおりをんでいました。

「なんだか、おはなしたら、気持きもちがらくになりました。わたしわすれません。きっとわってくだろうけどわすれません」

ミカちゃんは一歩いっぽまえに出て、学校がっこう見詰みつめながら「うーーーん」とって、大きく背伸せのびをしました。

「ミカ!」

突然とつぜんおぼえのあるこえひびきました。
ハッとこえのしたほうを見ると、おかあさんがさかしたから「ハアハア」いながら、ミカちゃんに近寄ちかよってきました。

「おかあさん!」

ミカちゃんはあわてておかあさんにります。
おどろいているような、おこっているような、どちらともえない口調くちょうで、おかあさんがミカちゃんをただします。

「あんたなにやってるの、こんなところで」

ミカちゃんはすこれくさそうにわけをしました。

「ごめん。なんかいえにいられなくなっちゃって。色々いろいろかんがえながら散歩さんぽしてたらここにちゃったの」

今度こんど心配しんぱいそうにおかあさんがたずねました。

「あんたなにしてたの一人ひとりで」

「はぁ?」とかおで、ミカちゃんがこたえました。

なにって、おはなしていたの」

ミカちゃんの答えに、おかあさんが眉間みけんにしわをせます。
かあさんはうたがうような目で、たしかめるようにいました。

ひとごと?」

ミカちゃんはすこあきれたように、

なにっているのよ。ひとごとじゃないよ」

そううと、ミカちゃんはベンチのほうかえりました。
(えっ? えっ?)
ベンチにはだれもいません。

「あれ?」

ミカちゃんはあたりをキョロキョロ見回みまわします。
(え?え?)
ミカちゃんはおかあさんにたしかめるようにいました。

「だって、女の人いたでしょ? 男の人も・・・」

ミカちゃんはハッとして大イチョウのほうを見ました。
女の子もいません。
(え?え?)
ミカちゃんはまたキョロキョロとあたりを見回みまわします。

「あれー?」

ミカちゃんはおどろいた表情ひょうじょうでおかあさんを見詰みつめます。

なにってんだろうね、この子は。あんたを見つけたときから一人ひとりだったよ」

かあさんはあきれた表情ひょうじょうでミカちゃんを見詰みつめました。

「えーーー」

(たったいま、ここではなしていたのに)
かたには、まだ女の人の手の感覚かんかくのこっています。
(あっ、いつのに・・・)
また、小さい子たちが元気げんきあそんでいます。
はなしているときはあんなにしずかだったのに・・・)
小さい子たちのおかあさんたちもいますが、その中にはなしをした女の人はいません。
女の人も、男の人も、女の子も公園こうえんからいなくなっていました。
なにがなんだかからなくなったミカちゃんは、両手りょうてほおさえます。

「だって、だって」

ミカちゃんは「しんじてよ」とうように、おかあさんのかお見詰みつめます。
かあさんはうつむいて「ハーーー」となが溜息ためいきをつくと、なにかをおもしたように、あわててかおを上げていました。

「あっ、それより大変たいへんだよ。おばあちゃんが」

おどろいたミカちゃんは、お母さんにります。

「え、おばあちゃんがどうかしたの?」

かあさんは興奮こうふんたようにいました。

あるいたんだよ、おばあちゃんが。ベッドから立ち上がって、あるいたんだよ」

ミカちゃんはみみうたがいました。

「えーーーーー」

医者いしゃさんからは「あるくのはむずかしいかも」とわれていました。
それに日曜日にちようびったときには、あるけそうな素振そぶりりはまったく見せませんでした。
(うそ・・・)
ミカちゃんはビックリしておかあさんを見詰みつめます。

「ホント? ホントなの?」

かあさんのうでつかんで、ミカちゃんはおかあさんにかお近付ちかづけました。

「いいからくわよ。かったわホント。おとなりのおばあちゃんが商店街しょうてんがいであんたを見かけててくれて。どこにいるのかさっぱりわからなかったから、どうしようかとおもっていたのよ」

そううと、おかあさんはミカちゃんの手をグイッとってあるき出しました。
かあさんがミカちゃんを見てニヤッとわらいます。
ミカちゃんをからかうようにおかあさんはいました。

「ベンチでゆめでも見てたんじゃないの?」

ミカちゃんはおかあさんに手をかれながらうつむいてつぶやきました。

絶対ぜったいいた。絶対ぜったいはなしたもん」

ミカちゃんのかおが、すこしむくれたようになっています。
でも、おかあさんへのわけは、どうでもくなってきました。
かあさんがなんおうと、女の人の手のぬくもりはわすれません。
やさしいかおりも、やさしい言葉ことばも、そしてなにより「素敵すてき」とってくれたことも。
ミカちゃんはれやかな気持きもちになっていました。
(こうた君はそばにいる。わたしわるい子になりそうになったら、きっとこうた君がてくれる)
 
 太陽たいようは空と山のさかいまでちてきています。
西にしの空はきれいな夕焼ゆうやけぐもひろがっています。
(みんなわるんだ。わたしわっていいんだ。わってもおもい出せばいいんだ。女の人がっていたみたいに素敵すてきになる。もっと、もっと素敵すてきになる)
ミカちゃんはしずかにつぶやきます。

「こうた君、ありがとう」

かあさんがかえります。

なんか言った?」

ミカちゃんはしたくと「フフフ」とわらっていました。

「ううん、なんでもない」

(でも、あの子・・・)
きゅうに女の子の言葉ことばになりました。
ってなんだろう。おにいちゃんにとどけたって、そんなことあったかな・・・。それにおれいって・・・)
ミカちゃんにはまった見当けんとうきません。
かあさんはミカちゃんの手をはなし、すこさきあるいてきます。
(なんだかからないけど、やくてたのかな? だとしたらそれでいい。自分じぶんじゃ気付きづかなくても、わたしがしたことでだれかがよろこんでくれたのならそれでいい)
ミカちゃんはまえ見詰みつめました。
 
 夕日ゆうひがミカちゃんをらします。
かあさんがまってミカちゃんを見ています。

「あんた、なんだかかんじがわったわね」

かあさんはおどろいたような、うれしいようなかおをしています。

「そう? フフフ、まだまだよ」

そうって、ミカちゃんはおかあさんを見詰みつめました。

「おやおや」

そううと、おかあさんは「ハハハ」とわらいました。
ミカちゃんはうつむいて微笑ほほえむと、かえって、ブランコ山を見上みあげました。
 
 もうすぐ病院びょういんです。
病院びょういんのイチョウ並木なみきは、夕日ゆうひらされているくもかさなって、あか色付いろづいて見えます。
中庭なかにわに入るとミカちゃんはなにかにきました。
ミカちゃんはきゅうはしします。
看護師かんごしさんと一緒いっしょだれっています。
もうおもなかでしか見られないとおもっていた姿すがたです。

「おばあちゃーん!」

ミカちゃんはおばあちゃんのむねんで、うれしそうにこえを上げました。

「ホントだった。ホントにホントだった」

ミカちゃんは笑顔えがおでおばあちゃんを見詰みつめます。
おばあちゃんもうれしそうにこたえました。

「うんうん、ホントだとも。ビックリしたろう。でも、あたしなんかもっとビックリしたよ」

おばあちゃんはミカちゃんのほお両手りょうてはさんでグニュグニュします。

「でも、おばあちゃん、きゅうにどうして?」

ミカちゃんが不思議ふしぎそうにたずねました。

「あたしもわけかんないけど、これのおかげかもね・・・」

そううと、おばあちゃんはポケットからなにかをり出して、ミカちゃんに見せました。
おばあちゃんがっていたのはイチョウのでした。
あの日、ミカちゃんが病室びょうしつからってきたおなじようなイチョウのです。

「これって・・・」

こうた君の姿すがたかびます。

「そう、あの子からもらったイチョウのだよ。二枚にまいくれたんだけど、しに一枚いちまいしまったままになっていたんだよ」

おばあちゃんは手にったイチョウのをジッと見詰みつめていました。

「お昼時ひるどきにウトウトしちゃってね。ゆめを見たんだ。大イチョウのあるおかだった。そう、いまはブランコ山ってうのかい、そこだったよ。車椅子くるまいすすわって学校がっこうながめていたら可愛かわいい女の子がてね。
『おれいなの、しのイチョウのあしいてみて』ってね。そうったんだよ」

(ブランコ山? 女の子? お礼? あっ!)
ミカちゃんはドキッとしました。
おばあちゃんは目をつむって、見たゆめおもい出しながらはなしつづけました。

一年生いちねんせいくらいだったかね。目のクリッとした可愛かわいい子だったよ。男の人と女の人もいたねぇ。三人でニッコリわらってたねぇ」

そううと、おばあちゃんは目をけて、また手にったイチョウの見詰みつめました。

「目がめるとなん不思議ふしぎかんじでね。ゆめだとはおもったけど、このとしになるとゆめしんじたくなってね。女の子がったとおり、イチョウのしてね、あしうえいたんだよ」

しずかにはなしていたおばあちゃんでしたが、突然とつぜん、目を見開みひらいてミカちゃんを見詰みつめていました。

「そしたらどうだい、きゅうからだかるくなってね、あしちかられたらうごいたんだよ。あたしゃもうビックリしちゃってね」

おばあちゃんは興奮気味こうふんぎみに、ポンと足をたたきました。
となり看護師かんごしさんもビックリしています。
「どうだい」とうれしそうなかおをして、おばあちゃんはまたミカちゃんのかおをまたグニュグニュしました。

かった、おばあちゃん、ホントかったね」

ミカちゃんはおばあちゃんにきつきます。

「ありがとうね」

そううと、おばあちゃんはミカちゃんの背中せなかをポンポンとやさしくたたきました。
 
 おばあちゃんは看護師かんごしさんにささえられて、おかあさんのほうあるいて行きます。
今度こんどはおかあさんにはなしをしはじめました。
ミカちゃんは、おばあちゃんのはなしおもしました。
一年生いちねんせいくらいの目のクリッとした女の子って、まさか・・・)
ミカちゃんはブルブルとくびよこって、「ありえない」といった表情ひょうじょうです。
でも、こころ片隅かたすみでは「もしかしたら」と気持きもちもありました。
(もし、これがおれいだとしたら、こんなにすごいおれいなんてしんじられない)
そうおもった瞬間しゅんかん、ミカちゃんの目から一筋ひとすじなみだこぼちました。
ミカちゃんは手でなみだぬぐいます。
(そうだとするとってなに? とどけたってなにを?)
かんがえてもおもいつきません。
を男の子にとどけた記憶きおくなどないのです。
(そうだとすると、おにいちゃんて、こうた君?)
フッとこうた君のかおかびます。
(ありえない・・・だってこうた君になんかとどけてないもん・・・)
かんがえてもかんがえても、ミカちゃんは混乱こんらんするばかりでした。
 
 興奮こうふんしたおばあちゃんはお世話せわになったお医者いしゃさんにもおなじことをっています。
よこでは看護師かんごしさんがだまっておばあちゃんのはなしいています。
(ああ!かんがえるのはちょっとおやすみ。うれしい、ホントうれしい。もしかしたらおばあちゃんと山にけるかもれない)
ミカちゃんのかおには笑顔えがおもどっていました。
 
 西にしそら太陽たいようちて、あたりは薄暗うすぐらくなりはじめました。
ブランコ山を見ると、大イチョウの木のそばに黄色きいろひかほしが出ています。
ほしよこに女の人と男の人、そして女の子のかおかびます。

「ありがとう」

ミカちゃんはちいさなこえでおれいうと、三人の姿すがたはゆっくりとえてきました。

 やさしいかぜがミカちゃんをつつみます。
フッとあのかおりがしました。
(あっ、また・・・)
かおりをたしかめるようにミカちゃんが目をじると、

とどいているよ」

と、だれかのこえがしました。
(えっ?)
男の子のこえです。
れないこえでしたが、ミカちゃんにはすぐにかりました。
ミカちゃんは目をけて、ほし見上みあげると、ほしかってたずねました。

「やっぱりほしになったの?」

こうた君の姿すがたほしならんでかびました。
こうた君がニッコリと微笑ほほえんでこたえました。

「ううん、もどっただけ、まれるまえもどっただけ」

ミカちゃんはすこしもおどろきません。
今日きょう不思議ふしぎなことばかりきたからです。

かった。ほしじゃ昼間ひるまえないし、とおすぎていにもけないものね」

ミカちゃんもこうた君に微笑ほほえかえします。

「こうた君、ありがとう。わたしのこと見ていてね」

ミカちゃんはこうた君を見詰みつめます。
こうた君が、またニッコリと微笑ほほえんでこたえました。

「うん、いいよ」
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