デブ士官、少女兵を率いる

桜好き

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改稿 少女兵

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家をぐるりと案内されて、ようやく隊長室に着いた。中は殺風景で必要最低限の調度品のみが各所に存在している。地味に初めての個室だ。いや、なんなら家持ちになってしまった。そんな場所に少女達が先に入っていく。私はその後をゆっくりと続いた。

「少尉殿、御荷物はどこに置きましょう?」

「机の横で構わない」

「了解しました」

荷物を持っていた少女が机の横に荷物を置く。そして、自身も机の横に立つと直立不動になって待機した。私はそれに少し首を傾げつつ、席に座る。中々座りの良い椅子だった。そしてふと、まだ前に立つ少女に尋ねる。純粋な疑問を彼女にぶつけた。

「それで…単刀直入に聞きたい。ここはいつ発足された部隊だ?」

「はっ!僭越ながら申し上げますと、一週間前となっております」

「…訓練は?」

「二日前からです」

私は頭を抱えた。もしかしなくても素人だ。軍部はこれをゆくゆくは師団規模になんてほざいていたが、かなり遠い話になるんじゃなかろうか?少女達が老婆になる頃にようやくなりそうな勢いだ。無論、それではこの戦争には間に合わない。殲滅戦争は、そこまで待ってはくれない。

となると私がここに配属になったのは、どうにかしてこのど素人の少女達を使い物にしなければならない事という事だ。正直とても骨が折れる仕事だ。もっと別の奴にやらせろとすら思ってしまう。例えばダンディーな男前溢れる高級将校とかな。

まぁ、いい。過ぎた事は忘れよう。今は現状を聞くべきだ。

「分かった、では先ず下士官を…あぁいや、全員を広場に集合させろ。そこで自己紹介だ」

「分かりました、少尉殿!!」

元気発剌、荒い敬礼をして少女は部屋を飛び出した。もう1人の少女は、そのまま机の横で待機している。顔が緊張に緊張を重ねていて、見ていて可哀想になってしまった。

故に、取り敢えず名前を聞いてみることにした。

「あぁ…君、名前は?」

「は?…はっ!!自分の名はマリーであります少尉殿!!」

「階級は?」

「二等兵であります!」

「歳は?」

「14であります!!」

「生まれは?」

「分かりません!!育った場所はウィンター教会であります!!」

「成る程」

つまり孤児だ。今のご時世珍しくも何ともない。だが軍隊に来るまでに追い詰められてしまったのは不憫に思えた。

「よく分かったマリー二等兵。少し休め」

「は、はい!」

マリー二等兵は返事をすると、へなへなと座り込んでしまった。そういう休め、では無いのだが…まぁ良いとしよう。男の兵士と同じ規律を求めても、まだ訓練も碌に受けていない身では厳しいものだ。ゆっくりと、慣らしていくしかないな。

ーーー

暫くそのまま手持ち無沙汰で待っていると、全員が集まったことを知らされた。そして、私はお立ち台に立っていた。そこには多くの少女達がいた。全部で100人。部隊規模としては小隊二つ分だ。

「何か急に召集掛けられたから何かと思ったけど…へぇ」

「あの人が隊長かぁ…」

「良い人だといいなぁ…」

「優しそう…」

…随分と、小さい娘達ばかりだ。時折大きい者もいるが、それにしたって私よりも背丈がないものばかり。少女達が持っているライフル銃よりかは背丈はあるが、私よりも頭ひとつ以上小さい。

私が率いてきた荒くれどもとは全く持って違うな。彼奴等は基本命令には忠実だが理不尽な命令は簡単に反抗してきた。何度教えても銃口を除く馬鹿もいたし、何度矯正しても敵前逃亡するアホもいた。前者は自らの誤射で死に、後者は手ずからその場で処刑した。

そんな清濁を散々飲んだ私に、こんな純真無垢と言っていい少女達を指揮出来るんだろうか?そう頭の中でボヤく。だが、もう任命されてしまった。なら、後は必死こいて頑張るしかない。なる様にしかならんのだから。

「敬礼!!!」

横にいた、まだ名前も知らない少女が叫ぶ。すると、つい先程まで姦しく会話をしていた少女達がピタリとやめ、綺麗な敬礼をした。どうやらそこら辺は指導されているみたいだ。少しだけ安堵した。

「下ろしていい」

「下せ!!」

「…今日から諸君等の上官になる、ワイヤット・スレイだ。階級は少尉。つい先日まで上級軍曹をやっていた。あまり厳しくするつもりはないが、命に関わる事だけは厳しくやるつもりだ。そのつもりでいてくれると嬉しい。何か質問はあるか?」

そうして辺りを見渡すと赤毛の少女かピシッと手を上げていた。

「はい!質問良いですか!!」

「構わない」

「隊長は異性の恋人がいますか!?」

一瞬思考が停止した。ここは学校か?と錯覚してしまった。これが野郎の発言なら怒鳴って黙らせるが、相手は少女。それでは萎縮してしまうだろう。和やかに微笑むことにした。

「………いや、いないな。なにぶんこんな身体だからね、てんでモテた事がない」

「ほほー!ありがとうございます隊長!!」

「構わないよ。それで他に質問は?………居ないか。では以上だ」

「ワイヤット少尉に、敬礼!!」

返礼し、私はお立ち台を降りた。戻る途中、少女達はまた姦しくなったが、悪い印象は抱かれなかった様だった。

ーーー

マリーと一緒に部屋に戻った私は、早速とばかりに行動を開始した。先ずはここの資料だ。何が配備されていて何があるのか、それを確認しない事には何も始まらない。

「マリー二等兵、ここの隊の資料はあるかい?」

「えーっと…あった気がします!たいちょ…じゃなくて副隊長達に聞いてきましょうか?」

「あぁ、頼むよ」

「分かりました!」

たたたっとマリーが部屋を退出した。ふぅ…と溜息を吐いて、背もたれに背中を預ける。なんだかんだ言ってあんなに大勢に見つめられたのは初めてだ。ちょっと冷や汗が出た。

「で、どうしようか…正直少女達の扱いなんてさっぱりだぞ…普通の軍隊みたいに育てるなんて無理だろうしなぁ…今のうちに軽くプランを立てるか」

ということで机を漁ったが、中は空っぽであった。今日来たんだから、ある筈も無かった。ので、鞄からペンと紙を出して軽くさらさらと書いていく。

「取り敢えず…先ずは行軍訓練だろ?その間に銃のーー」

そんな感じでプランを立てていく。予定表とも言えるそれを書いていき、頭の中で整理していく。そうして暫くしていると、マリー二等兵が他にも数名少女達を連れて資料を大量に持ってきた。

「隊長~、頼まれていた資料持ってきました~」

…まだ出来て日が経っていない筈なんだが、なんだその山。関係無いものまでありそうだ。内心ふぅと溜息を吐きつつ、受け取った。

「あぁ、ありがとう。机に乗らないのはその辺に綺麗に積んでくれ」

「分かりました~」

「おっとっと…危なかった~」

「この資料ここに置きますね~」

3人よれば姦しいと言うが、確かにそうだった。何が楽しいのかニコニコした顔で資料を置き、猫みたいに好奇心旺盛な表情でこちらを見てくる。

「猫みたいだな…」

「?何か言いましたか?」

「いや、何でもない」

そのまま少女達に見られながら、私は資料を確認したのだった。
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