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29.王宮のパーティー①
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王宮でレオナルド様の手を借り馬車から降りた瞬間、ざわりと空気が揺れた。
周囲からの視線が痛いくらいだ。
それを何も感じていないかのように、レオナルド様にエスコートされて歩き出す。
興奮のあまり鼻血が出ないように、気をつけながら。
こんな時は王子妃教育が役立つ。
どんな時もアルカイックスマイルを浮かべ感情を悟らせない。
レオナルド様のエスコートに、どれだけ内心お祭り騒ぎだったとしても優雅に歩いているように見せる。
わたくしたちが通るとそこから騒めきが広がっていく。
きっと、ギルバート殿下に婚約破棄された可哀想な傷物令嬢だとか言われているのだろうなと思うけれど、元々婚約破棄は望むところだったし、何より今のわたくしにはレオナルド様がいる。
ちらっとこちらを見るレオナルド様は少し心配そうな顔をしている。
寧ろ、婚約破棄したくて、ギルバートの浮気が盛り上がるように仕向けたって知ったらどう思うかしら?
そんなことを考えたら可笑しくなって、自然と笑みが浮かぶ。
そんなわたくしを見て、ふっと優しく目を細めた。
「あれは…珍しい。コルストル辺境伯ところのレオナルド様じゃないか。あの綺麗な女性はどこの令嬢だ?」
「あの髪の色にあの瞳の色はもしかしてモントレート侯爵令嬢では?」
「え?あのギルバート殿下に婚約破棄された?」
「いや、あれはギルバート殿下の浮気が原因だっていう噂だぞ」
「それにしても、あんなに美しい令嬢だったか?」
「なぜレオナルド様が彼女をエスコートしているんだ」
「レオナルド様ってあんなに優しそうな方だったかしら?もっと恐ろしい方かと思っていたわ」
「思っていたより素敵な男性ね」
「まだ婚約者はいらっしゃらなかったわよね。立候補しようかしら」
小声で話されるので、全部を聞き取ることはできないし、する気もないのだが…
婚約者、立候補という単語が女の声で聞こえた瞬間、眉がぴくりと動く。
レオナルド様はわたくしの婚約者だから!
前までならもっと相応しい令嬢がいるって諦めていたけど、レオナルド様はわたくしを選んでくれた。
だからもう誰にも譲りませんよ!
それにそんな軽い気持ちでわたくしと張り合えるなどと思わないでいただきたいわ!
思わずムッとしてレオナルド様の腕に掛けている手に力が入った。
レオナルド様が大丈夫だとあやすように掛けている手をぽんぽんと叩くと、少しだけ歩みを速めた。
会場には爵位が低い者から入っていくので、わたくしたちは最後の方となる。
待っている間に、友人であるのマリア・フラーシス公爵令嬢とクララ・シシリア侯爵令嬢が話しかけてきた。
「ジュリア。元気そうでよかったわ。あれから連絡が取れなくて心配してたのよ」
そう言えば、卒業パーティーの翌日の早朝にはコルストル辺境伯領に向けて出発してしまったし、ギルバートに見つからないように誰とも連絡を取ってなかった。
「心配かけてごめんね」
「うん、まあ、大体事情は分かってるから」
マリアとクララは顔を見合わせて苦笑いをする。
「ところで」
二人はわたくしの隣に立つレオナルド様が気になって仕方ないのか、チラチラと見ている。
「こちらはコルストル辺境伯の嫡男でいらっしゃるレオナルド様よ。そして彼女たちはわたくしの友人のマリア・フラーシス公爵令嬢とクララ・シシリア侯爵令嬢です」
婚約のことはこのパーティーが終わるまで大っぴらにしないようにお父様に言われているので、そのことを伝えることはできない。
でも、レオナルド様の紹介する時に声が弾むのは抑えられない。
「実は卒業パーティーの後、ずっとコルストル辺境伯領でお世話になっていたの」
少し声を抑えて言うと
「まあ!」
何かを察知したらしい二人の目が輝いた。
「よかったわね」
「心配してたけど、顔色もすっかり良くなって幸せそうでよかったわ」
二人とも自分のことのように喜んでくれた。
「ありがとう。レオナルド様のおかげで毎日幸せよ」
レオナルド様を見ると優しく微笑んでくれる。
旧交を温めている間に、お父様たちも到着して、会場入りする。
わたくしがレオナルド様と一緒に入場すると、会場は驚きに騒めく。
滅多に社交の場に現れることのないレオナルド様とギルバートに婚約破棄されたわたくしの組み合わせは予想外だったのだろう。
チラチラと見られて噂話をされているようだが、遠巻きにされて話しかけられることもなく、王族の入場を迎えた。
ギルバート、本日の主役のベルナルド王太子殿下が婚約者の隣国の王女様をエスコートして出てきたのに続き、最後に国王陛下夫妻が入場した。
王女様は美しいブランドの髪とアイスブルーの大きな瞳の可愛らしい容姿の中にも、王族らしい凛とした雰囲気のある方だった。
王女様が十八歳になるのを待って、今年王太子殿下と結婚することになっている。
このパーティーはつい最近この国に入られた王女様のお披露目も兼ねていたのかもしれない。
紛うことなき政略結婚だが、二人の仲はまずまずのように見える。
ベルナルド王太子殿下が自身の生誕を祝うパーティーに集まってくれた礼を述べた後、隣国の王女カトリーナ様を婚約者として紹介して、パーティーは開始された。
ベルナルド王太子殿下の婚約は随分前から決まっていて、皆知っていたことなので混乱も起きることはない。
始めて見るカトリーナ様がどのような方なのか、気になるものの、概ね好意的な雰囲気だ。
王族への挨拶も爵位順となるので、筆頭公爵家からとなる。
モントレート侯爵家やコルストル辺境伯家は公爵家の後なので、それほどの時間を経ずに順番が回ってくる。
「ジュリア嬢、この度は申し訳なかったな」
「いえ、もう過ぎたことですから、気になさらないでくださいませ」
陛下の言葉に慌てる。
皆んなの前で国王陛下が謝るなんてとんでもないことだ。
陛下はわたくしの隣に立つレオナルド様に視線を向けると、納得したように頷いた。
「そうか、そうだな。よろしく頼む」
最後はレオナルド様に向けてそう言った。
陛下はそう悪いお人ではない。
治世も安定してしているし、世間の評判も悪くない。
ギルバートの教育に失敗して、それを臣下に丸投げしようとしたことを除いては。
あんな男を押し付けてきた陛下のことをわたくしは恨んでたけどね!
周囲からの視線が痛いくらいだ。
それを何も感じていないかのように、レオナルド様にエスコートされて歩き出す。
興奮のあまり鼻血が出ないように、気をつけながら。
こんな時は王子妃教育が役立つ。
どんな時もアルカイックスマイルを浮かべ感情を悟らせない。
レオナルド様のエスコートに、どれだけ内心お祭り騒ぎだったとしても優雅に歩いているように見せる。
わたくしたちが通るとそこから騒めきが広がっていく。
きっと、ギルバート殿下に婚約破棄された可哀想な傷物令嬢だとか言われているのだろうなと思うけれど、元々婚約破棄は望むところだったし、何より今のわたくしにはレオナルド様がいる。
ちらっとこちらを見るレオナルド様は少し心配そうな顔をしている。
寧ろ、婚約破棄したくて、ギルバートの浮気が盛り上がるように仕向けたって知ったらどう思うかしら?
そんなことを考えたら可笑しくなって、自然と笑みが浮かぶ。
そんなわたくしを見て、ふっと優しく目を細めた。
「あれは…珍しい。コルストル辺境伯ところのレオナルド様じゃないか。あの綺麗な女性はどこの令嬢だ?」
「あの髪の色にあの瞳の色はもしかしてモントレート侯爵令嬢では?」
「え?あのギルバート殿下に婚約破棄された?」
「いや、あれはギルバート殿下の浮気が原因だっていう噂だぞ」
「それにしても、あんなに美しい令嬢だったか?」
「なぜレオナルド様が彼女をエスコートしているんだ」
「レオナルド様ってあんなに優しそうな方だったかしら?もっと恐ろしい方かと思っていたわ」
「思っていたより素敵な男性ね」
「まだ婚約者はいらっしゃらなかったわよね。立候補しようかしら」
小声で話されるので、全部を聞き取ることはできないし、する気もないのだが…
婚約者、立候補という単語が女の声で聞こえた瞬間、眉がぴくりと動く。
レオナルド様はわたくしの婚約者だから!
前までならもっと相応しい令嬢がいるって諦めていたけど、レオナルド様はわたくしを選んでくれた。
だからもう誰にも譲りませんよ!
それにそんな軽い気持ちでわたくしと張り合えるなどと思わないでいただきたいわ!
思わずムッとしてレオナルド様の腕に掛けている手に力が入った。
レオナルド様が大丈夫だとあやすように掛けている手をぽんぽんと叩くと、少しだけ歩みを速めた。
会場には爵位が低い者から入っていくので、わたくしたちは最後の方となる。
待っている間に、友人であるのマリア・フラーシス公爵令嬢とクララ・シシリア侯爵令嬢が話しかけてきた。
「ジュリア。元気そうでよかったわ。あれから連絡が取れなくて心配してたのよ」
そう言えば、卒業パーティーの翌日の早朝にはコルストル辺境伯領に向けて出発してしまったし、ギルバートに見つからないように誰とも連絡を取ってなかった。
「心配かけてごめんね」
「うん、まあ、大体事情は分かってるから」
マリアとクララは顔を見合わせて苦笑いをする。
「ところで」
二人はわたくしの隣に立つレオナルド様が気になって仕方ないのか、チラチラと見ている。
「こちらはコルストル辺境伯の嫡男でいらっしゃるレオナルド様よ。そして彼女たちはわたくしの友人のマリア・フラーシス公爵令嬢とクララ・シシリア侯爵令嬢です」
婚約のことはこのパーティーが終わるまで大っぴらにしないようにお父様に言われているので、そのことを伝えることはできない。
でも、レオナルド様の紹介する時に声が弾むのは抑えられない。
「実は卒業パーティーの後、ずっとコルストル辺境伯領でお世話になっていたの」
少し声を抑えて言うと
「まあ!」
何かを察知したらしい二人の目が輝いた。
「よかったわね」
「心配してたけど、顔色もすっかり良くなって幸せそうでよかったわ」
二人とも自分のことのように喜んでくれた。
「ありがとう。レオナルド様のおかげで毎日幸せよ」
レオナルド様を見ると優しく微笑んでくれる。
旧交を温めている間に、お父様たちも到着して、会場入りする。
わたくしがレオナルド様と一緒に入場すると、会場は驚きに騒めく。
滅多に社交の場に現れることのないレオナルド様とギルバートに婚約破棄されたわたくしの組み合わせは予想外だったのだろう。
チラチラと見られて噂話をされているようだが、遠巻きにされて話しかけられることもなく、王族の入場を迎えた。
ギルバート、本日の主役のベルナルド王太子殿下が婚約者の隣国の王女様をエスコートして出てきたのに続き、最後に国王陛下夫妻が入場した。
王女様は美しいブランドの髪とアイスブルーの大きな瞳の可愛らしい容姿の中にも、王族らしい凛とした雰囲気のある方だった。
王女様が十八歳になるのを待って、今年王太子殿下と結婚することになっている。
このパーティーはつい最近この国に入られた王女様のお披露目も兼ねていたのかもしれない。
紛うことなき政略結婚だが、二人の仲はまずまずのように見える。
ベルナルド王太子殿下が自身の生誕を祝うパーティーに集まってくれた礼を述べた後、隣国の王女カトリーナ様を婚約者として紹介して、パーティーは開始された。
ベルナルド王太子殿下の婚約は随分前から決まっていて、皆知っていたことなので混乱も起きることはない。
始めて見るカトリーナ様がどのような方なのか、気になるものの、概ね好意的な雰囲気だ。
王族への挨拶も爵位順となるので、筆頭公爵家からとなる。
モントレート侯爵家やコルストル辺境伯家は公爵家の後なので、それほどの時間を経ずに順番が回ってくる。
「ジュリア嬢、この度は申し訳なかったな」
「いえ、もう過ぎたことですから、気になさらないでくださいませ」
陛下の言葉に慌てる。
皆んなの前で国王陛下が謝るなんてとんでもないことだ。
陛下はわたくしの隣に立つレオナルド様に視線を向けると、納得したように頷いた。
「そうか、そうだな。よろしく頼む」
最後はレオナルド様に向けてそう言った。
陛下はそう悪いお人ではない。
治世も安定してしているし、世間の評判も悪くない。
ギルバートの教育に失敗して、それを臣下に丸投げしようとしたことを除いては。
あんな男を押し付けてきた陛下のことをわたくしは恨んでたけどね!
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