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24.プレゼント
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エメラルドグリーン色のハンカチにスイスイと刺繍糸を通していく。
剣と盾を組み合わせたコルストル辺境伯家の家紋の図柄だ。
最後に糸を留めて、パチンと糸を切る。
うん。なかなか良い出来なんじゃないかしら。
今まで刺繍なんてできなくても困ることないなんて思ってだけど、淑女の嗜みだとか言って練習させられていたことに初めて感謝する。
今日このハンカチに刺繍するためだったに違いない。
「お嬢様は器用ですよね。売り物みたいです」
ミリーは仕上がったハンカチをしげしげと見つめる。
「刺繍は散々やらされたからね。婚約者だったギルバートはわたくしの手作りなんて全く求めてないっていうのに」
本当に王城の王子妃教育は無駄が多すぎる。
教育係の言われるがままハンカチに王家の紋章の刺繍をしてギルバートに渡したら、こんなしょぼい物はいらないと突っ返された。
今思い返しても気分が悪い。
ほんと嫌な思い出しかないな。
ラベンダー色のハンカチには花祭りの時にレオナルド様に頂いたお花の刺繍をした。
白と黄色のその花はわたくしの大切な思い出の花だ。
「これはシュリーベルのお花、花祭りの時にお嬢様が髪に挿してもらったものですね」
ミリーがラベンダー色のハンカチに刺した刺繍を見て言った。
「この花、シュリーベルっていうのね。お花もかわいいけど、名前もかわいいわね。わたくし、このお花ここに来て初めて見たのよ。ミリーはよく名前まで知ってたわね」
ミリーが花の名前に詳しいとは思わなかった。
「わたしもこの間教えてもらったばっかりですよ。この地方では普通に育つんですけど、他の地方ではうまく育たないんですって」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ、ここにいる時しか見れないのね」
王都の屋敷の庭にも植えたかったのに、残念。
「それで、二枚共プレゼントするんですか?」
「ラベンダー色のハンカチはお花の刺繍だし、自分用よ」
「ラベンダー色のハンカチも素敵だから残念ですけど、男の人には確かに向かないかもしれませんね」
ミリーは残念そうにラベンダー色のハンカチを見つめた。
ミリーに準備してもらったかわいい柄の袋に入れて口に緑色のリボンを結んでプレゼントを完成させた。
プレゼントのハンカチを持って、久しぶりに訓練場を訪れた。
兵士たちに訓練をつけている真剣な表情のレオナルド様は今日もカッコいい。
受け取ってもらえるのか、ドキドキしながら訓練が終わるのを訓練場の出入口で待つ。
「本日の訓練は終了」
レオナルド様がその一言を発すると
「ありがとうございました!」
と呼応する兵士たちの声が響き渡る。
「あっジュリアさん。こんにちは」
「訓練場に何か用ですか?」
レオナルド様が訓練場から出てくるのをじっと待っているとあちこちから声が掛かる。
治療院で働いているから、顔見知りの兵士が大分増えたのだ。
彼らに手を振りながら、ガヤガヤと移動する兵士たちの中にレオナルド様の姿を探す。
「ジュリア嬢、何かあったのか」
タオルで汗を拭きながらやって来たレオナルド様の方がわたくしを見つけてくれた。
「あの、えっと、これを…」
ハンカチを差し出しながらも、ギルバートに突っ返された時を思い出して、今更ながら迷惑なんじゃないかと不安になる。
差し出してしまった後だけど、やっぱり止めようかと逡巡してしまう。
「俺に?もらってもいいのか?」
少し驚いたような顔をしているが、嫌がっている様子はない。
そのことにほっとして、レオナルド様にハンカチを手渡した。
「この間、部屋まで運んで頂いたお礼です。大した物じゃなくて申し訳ないんですけど…」
レオナルド様に運んでもらったお礼なのにハンカチ一枚は少な過ぎるけど。
「開けても?」
「あっ、はい。どうぞ」
リボンを解いて袋からハンカチを出すと、刺繍の部分を撫でた。
自分が撫でられているみたいで照れ臭い。
「これはうちの家紋だな。ありがとう。大切に使わせてもらうよ」
レオナルド様のちょっと照れたような笑顔が眩しい!
決してバックに夕日があるだけじゃないはず!
「これはまた見事だな」
突然横からクルード様が覗き込んだ。
「俺にはないんですか?」
「ありませんよ。これはお礼なんですから」
「冷たいなぁ」
「お前は図々しいんだよ。行くぞ」
レオナルド様がクルード様の首根っこを掴んだ。
「ジュリア嬢、ありがとう。大切にするから」
去っていく二人を見送る。
夕日をバックにふざけ合う親友の二人。
尊い…
絵にしなくては!
今度は他人に見られないように、置きっ放しにはしないと心に誓っている。
剣と盾を組み合わせたコルストル辺境伯家の家紋の図柄だ。
最後に糸を留めて、パチンと糸を切る。
うん。なかなか良い出来なんじゃないかしら。
今まで刺繍なんてできなくても困ることないなんて思ってだけど、淑女の嗜みだとか言って練習させられていたことに初めて感謝する。
今日このハンカチに刺繍するためだったに違いない。
「お嬢様は器用ですよね。売り物みたいです」
ミリーは仕上がったハンカチをしげしげと見つめる。
「刺繍は散々やらされたからね。婚約者だったギルバートはわたくしの手作りなんて全く求めてないっていうのに」
本当に王城の王子妃教育は無駄が多すぎる。
教育係の言われるがままハンカチに王家の紋章の刺繍をしてギルバートに渡したら、こんなしょぼい物はいらないと突っ返された。
今思い返しても気分が悪い。
ほんと嫌な思い出しかないな。
ラベンダー色のハンカチには花祭りの時にレオナルド様に頂いたお花の刺繍をした。
白と黄色のその花はわたくしの大切な思い出の花だ。
「これはシュリーベルのお花、花祭りの時にお嬢様が髪に挿してもらったものですね」
ミリーがラベンダー色のハンカチに刺した刺繍を見て言った。
「この花、シュリーベルっていうのね。お花もかわいいけど、名前もかわいいわね。わたくし、このお花ここに来て初めて見たのよ。ミリーはよく名前まで知ってたわね」
ミリーが花の名前に詳しいとは思わなかった。
「わたしもこの間教えてもらったばっかりですよ。この地方では普通に育つんですけど、他の地方ではうまく育たないんですって」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ、ここにいる時しか見れないのね」
王都の屋敷の庭にも植えたかったのに、残念。
「それで、二枚共プレゼントするんですか?」
「ラベンダー色のハンカチはお花の刺繍だし、自分用よ」
「ラベンダー色のハンカチも素敵だから残念ですけど、男の人には確かに向かないかもしれませんね」
ミリーは残念そうにラベンダー色のハンカチを見つめた。
ミリーに準備してもらったかわいい柄の袋に入れて口に緑色のリボンを結んでプレゼントを完成させた。
プレゼントのハンカチを持って、久しぶりに訓練場を訪れた。
兵士たちに訓練をつけている真剣な表情のレオナルド様は今日もカッコいい。
受け取ってもらえるのか、ドキドキしながら訓練が終わるのを訓練場の出入口で待つ。
「本日の訓練は終了」
レオナルド様がその一言を発すると
「ありがとうございました!」
と呼応する兵士たちの声が響き渡る。
「あっジュリアさん。こんにちは」
「訓練場に何か用ですか?」
レオナルド様が訓練場から出てくるのをじっと待っているとあちこちから声が掛かる。
治療院で働いているから、顔見知りの兵士が大分増えたのだ。
彼らに手を振りながら、ガヤガヤと移動する兵士たちの中にレオナルド様の姿を探す。
「ジュリア嬢、何かあったのか」
タオルで汗を拭きながらやって来たレオナルド様の方がわたくしを見つけてくれた。
「あの、えっと、これを…」
ハンカチを差し出しながらも、ギルバートに突っ返された時を思い出して、今更ながら迷惑なんじゃないかと不安になる。
差し出してしまった後だけど、やっぱり止めようかと逡巡してしまう。
「俺に?もらってもいいのか?」
少し驚いたような顔をしているが、嫌がっている様子はない。
そのことにほっとして、レオナルド様にハンカチを手渡した。
「この間、部屋まで運んで頂いたお礼です。大した物じゃなくて申し訳ないんですけど…」
レオナルド様に運んでもらったお礼なのにハンカチ一枚は少な過ぎるけど。
「開けても?」
「あっ、はい。どうぞ」
リボンを解いて袋からハンカチを出すと、刺繍の部分を撫でた。
自分が撫でられているみたいで照れ臭い。
「これはうちの家紋だな。ありがとう。大切に使わせてもらうよ」
レオナルド様のちょっと照れたような笑顔が眩しい!
決してバックに夕日があるだけじゃないはず!
「これはまた見事だな」
突然横からクルード様が覗き込んだ。
「俺にはないんですか?」
「ありませんよ。これはお礼なんですから」
「冷たいなぁ」
「お前は図々しいんだよ。行くぞ」
レオナルド様がクルード様の首根っこを掴んだ。
「ジュリア嬢、ありがとう。大切にするから」
去っていく二人を見送る。
夕日をバックにふざけ合う親友の二人。
尊い…
絵にしなくては!
今度は他人に見られないように、置きっ放しにはしないと心に誓っている。
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